今回は、オリジナル展開を用意しました。フェイトにわずかにちなんだ力の内容を取り入れようと思った結果、作られた能力です。まあ、正直な話こうすれば面白いんじゃないのと思って自分で勝手に作りました。はい!
「はぁ、はぁ、どうだ?」
「……うまく撒けたようですね。キャスターは追ってきていません。もっともそちらの少女がいる限り、時間の問題でしょうが…」
来た道を見返しながらライダーは答える。その返答に一応の区切りを見た古城はへたりこむようにして座ってしまった。
「そ、そうか。はぁーー、しんど!マジで心臓が潰れるかと思った。」
未だに耳に心臓でもできたかのようにバクバクと聞こえてくる心音。それは長距離を走って来た影響もあるが、何より自らの背後から感じられた強烈な殺気による疲労の方が理由としては大きい。
ヴァトラーとはまともに戦ったわけではないが、それでもあの男の力については理解はできているつもりだ。
自分と比較しても遜色ないほどの濃密な魔力。その魔力による眷獣の圧倒的な暴威。戦闘経験の浅い古城ではまずもって今のヴァトラーには勝ち目がないだろう。だが、そんな強敵をあの怪物は吹き飛ばした。どう考えても、勝ち目は薄い。
しかも……
すっと、古城は手を頭上へと上げる。
「
怒号を上げて召喚の呪文を叫ぶ。シン、と辺りが静まり返る。古城の正体を知っているものならば、その瞬間、腕から赤いちけむりが立ち上り、雷光を纏った黄金の獅子が召喚されるだろうと思うだろう。だがいつまで経っても獅子は召喚されず、ただ、そこには間抜けに立ち尽くす一人の怠惰な吸血鬼がいるだけだった。
「っ!?はぁ、はぁ!!くそっ!!やっぱり無理か!!うぐっ!?」
「先輩!?」
「暁古城!!」
「マスター!!」
突然、糸が切れた人形のように古城は道路へとへたりこむ。今までの無理による負債もそうだが、それ以前に古城の胸には大きな傷が残っており、それはまだ治っていない。おまけに古城たちは預かり知らないことであるが、現在進行形で異能を無効化する闇誓書が発動されている。そんな状況下では当然、身体は保たず力を失ってしまう。
へたり込んでしまった古城の元に雪菜と煌坂、そしてライダーは駆け寄る。
「…ハァ、ハァ、ハァ……」
「先輩!大丈夫ですか!?」
「ちょっと暁古城!しっかりしなさいよ!」
息は荒く一刻を争う事態という現在の様相から考えて、状態は最悪と考えていい。そんな状態に対し、ライダーは冷静になるように頭に言い聞かせ、今後の対処を考えようとする。
(まずいですね。いつキャスターが来るとも分かっていない状態でこれでは…もちろん、逃げるとき私とベイヤードが彼らを抱えても構いません。ですが、どのみち、あの怪物相手では長くは逃げ切れないはず…)
と、ここでライダーはあることに気がつく。自分たちが連れて来たあの南宮那月に似た少女(浅葱命名:サナちゃん)が妙に静かであることに気がつく。
サナは先ほどライダーが向いている方角とは逆の方角をむつかしい表情をしながら睨んでいる。
「どうしたのですか?サナさん?」
「…魔女の気配が…します。なんだか、苦しそうですけど……」
「……?」
そう言われて、ライダーは那月が向いている方に神経を集中させる。
すると、遠くからトボトボと遅くはあるが確実にこちらへと向かって歩いて来ている足音が聞こえて来る。最初は警戒したが、その足音の状況から足音の主には自分たちを倒しうるだけの力はないだろうと判断し、警戒はするものの様子見程度で済ませようと考え、待ち構える。
数分後、わずかに見覚えがある姿をした少女がこちらへと歩み寄ってくることが伺えて、ライダーは目を細める。
「アレは…まさか、仙都木優麻…ですか?」
そう。人影の正体とは自分のマスターの幼馴染でありつい先ほどまで、古城たちに敵対していた少女仙都木優麻だった。
ーーーーーーー
「アーチャー…だと?」
不可思議な呼び名に眉を寄せて顔を曇らせる阿夜。一方、そんなことは知ったことではないとでもいうかのように剣を握っている指を開閉しながら、自分の身体の感覚を確かめる。
(ちっ……やはりか。叶音の天使化のときほどではないが、体に鈍りがある。おまけに、先ほど危機感を感じて投影した干将、莫耶以外は投影も不可能になっている。現状、俺がここまで動けている理由は魔力のほとんどを現界の方に回しているからだ。それ以外の異能の行使は不可能ということだろう。さて……)
つまり、彼は今現在手元に存在する一対の双剣のみで目の前の魔女を相手にしなければならないということ。しかも、闇誓書はもっと恐ろしいことをしでかしてしまっている。この絃神島は実質、魔術で全てを賄っている。医療も、警備も、そして
(はぁ、まったく…なんだって、昔から全力を出して早急に終わらせたいと思う戦いほど上手くいかないんだ。マスター運が良すぎて、ほとんどの運値がそこらで消費でもされたか?)
そんなことはないと分かっているが、これまで自分が表立って動いた戦いの中には一つとして自分が全力を出すことができる機会は存在しなかった。狙っているわけでもないのにこれでは、さすがに嫌になってくるというものだ。
一方の阿夜はアーチャーの鷹のような鋭い双眸を前にしても、なお射殺さんとするほどの目つきで睨め付けながら、彼と同じように思考を頭の中で反芻させる。
先ほどまで彼女はこの力の塊のような怪物どもに対して警戒心を抱いていた。だからこそ、どういう存在なのか確かめるためにも情報を得ようとしたのだ。だが、結果は“分からない”の一言しか浮かばなかった。なので、多少、強引にでも自らの目的を推し進めようと考えた。引いてはそれが彼らの正体を知るきっかけになるのではないのかと考えて……だが、結果はこうして目の前に相対させても同じことだった。
やはり、自分の目の前に存在するこの男は依然、不明なまま
(アーチャー…先ほど出会ったあの男はライダーと呼ばれていたな。何かのコードネームか?いや、そんなことよりこの男どうやって私に気付かれずに私の世界に入り込んだ?)
闇誓書で作り出した学校を媒介にしたこの魔術による結界はもはや、一種の固有の世界と化している。彼女はこの力により、世界とは誰かによって作られているのではないかという仮説を世界を作り変えることで為そうとした。つまり、この世界の主人である阿夜に全く気付かれずに結界内に入ることは不可能なのだ。
当然、これには理由がある。言ってしまえば彼は霊体化することによりあらゆる物理事象、魔術を無効、透過することで結界内に入ったのだ。
だが、そもそもとして、彼が霊体だということも知らない彼女にとってそんなことはあずかり知らぬことだ。なので、彼女はその不明に対する苛立ちを言葉に乗せて質問するしかなかった。
「先に聞くが…いや、聞くまでもないかもしれぬが、貴様は
「ああ、その通りだ。さっきも言っただろう?君を止めるものだ…とな。」
「そうか、ならば覚悟せよ。この状況では貴様は自らの術も使えまい。その中でどうやって
彼女の背後にある闇色の炎が燃え上がり、中にいる顔のない騎士がゆっくりと動き出す。それに伴い、アーチャーは逆手に持った双剣をゆっくりと前に構える。
まず動いたのは
しかし、阿夜はその姿を今度は紫色の霧と共に虚空へと消す。それを確認したアーチャーは足を止める。
辺りを見回すも、影も形も見当たらず、わずかな間アーチャーを起点にした辺り一帯は静寂に包まれていた。
数秒後、その静寂を打ち破るように強烈な殺気とゴウッという風切り音が耳元に響いた。
音を聞いたアーチャーは極めて冷静に剣の側面を頭の右上に移動させる。ギィンという金属音が鳴り響き、空気が破裂する音が辺りに響き渡る。
凄まじい衝撃だ。並みのサーヴァントならばこの衝撃に対し、わずかに苦悶の表情を浮かべ、体を止めてしまっていただろう。だが、衝撃を受けたアーチャーはわずかに眉をしかめると……
「はぁっ!!」
そのまま、一気にその衝撃を腕力だけで押し返した。押し返された
降り立った後、彼女はすぐに攻撃に移ろうとするが、その足を止める。じくっ、と突然腕が痛み出したのだ。何事かと腕を見ると、そこにはいつの間に反撃されたのかわずかな切り傷があった。浅いがそれは問題ではない。問題はその傷が一体いつつけられたのかわからないということだった。
「……バカな!タイミングも完璧だった。だというのに、今のを防ぎ、更に反撃してきただと!?」
「あぁ、まったくその通りだ。なかなか、どうしていい攻撃だった。だが、これで分かったろう?
君では俺には勝てない。降参を勧める。」
慈悲の意味も含めた誠実な返答。だが、阿夜にしてみればそれは事実上の死刑宣告に近かった。この日この時のためだけに十年も彼女は待った。待って、待って、待ち続けたのだ。そうして、ようやく掴んだこのチャンス、おそらくもう二度とこんなチャンスが訪れることはないだろう。それを強力な存在だとはいえ、どこの誰とも知れぬ輩に潰される。しかも、単独で……それはまるで、自分の努力全ては無駄だったというかのようだった。
「ふざけるな……」
なんのためにここまで辛酸を舐め続けたと思っている。
「ふざけるなぁぁあぁあ!!」
瞳が闇色の炎で燃え上がる。それとともに、彼女の背後にいた騎士も闇色の炎に包まれ炎の嵐を巻き上げ、闇誓書も世界を新たに作り出すため勢いよく光りだす。
騎士を包んだ炎はやがてアーチャーの周りの空間をも包んでいく。しばらくして闇色の炎は監獄を想起させる燭台を何もない空間に作り出した。その一つ作られた燭台は二つ、三つと増えていき、ついには無限回廊という言葉が合致する雰囲気とともにアーチャーの両側を敷き詰めていった。
燭台は均等に置かれている柱につながれ、地面は黒い水で覆われ、空はどこまでも暗く、まるで底なし沼を思わせるほど深い闇がどこまでも続いていた。
「これは…固有結界……か?」
彼の知識の中にある最も酷似した性質を持つ魔術が頭に浮かびその言葉を口に出す。だが、何かが違う。とすぐに思い直す。
(性質、役割などを鑑みればそこまで乖離しているわけではないが…これは何か別の法則を感じる。世界の感じ方そのものが違うというべきか…)
こと世界に対する干渉事に関してはアーチャーは人並み以上に敏感であり、理解できる。なぜなら、彼の宝具もまた世界に干渉する類のものだからである。だからこそ、彼はこの固有結界もどきは何かが決定的に違うと感じたのである。
『ここは私が貴様を倒すためだけに作った空間。外界から決して干渉できず、私と貴様だけがいる世界だ。』
どこからともなく声が聞こえる。おそらく自らの魔術に認識阻害を付与することでこちらに居所を掴ませないようにしているのだろうと、アーチャーは予想した。
闇から草が生えるように剣が数本出てくる。先ほど闇色の騎士が装備していた剣に酷似しているその剣は一斉に360度全体から襲いかかってくる。
剣同士がぶつかり合うことによる鈍い金属音が鳴り響く。だが、そこに肉を突き刺したような水音は聞こえなかった。
そして、そこからわずか2mほど離れた位置で水溜りを踏むような水音が聞こえる。それはアーチャーが跳躍し、避けた後に地面に着地した音である。
「厄介だな。だが、どうあれ、これが魔術だというのならば、核があるはずだ。そこを突かせてもらおうか。」
『ふん!やれるものならな!!』
ーーーーーーー
戦いの第二幕が切って落とされる数分ほど前、予想外の来客に驚きはしたものの近くのガレージハウスにてとりあえず一息つくことを思い付いた古城たちは室内で現状の確認をし始めた。
確認するため、最初に口を開けたのは紗矢華だった。
「それで、あなたは一体何をしにきたの?仙都木優麻。」
それはひたすらに冷ややかな口調だった。彼女は今まで優麻の身に何があったのかということは知っていても、現在進行形で自分たちに災いをもたらしているのが優麻の母親である阿夜であることを忘れていない。たとえ、どれだけ古城と密な関係であることは聞かされていてもそのラインが彼女の精神を急速に冷やしていっているのだ。
「そうだね…先に用件だけ話しておくと、古城を助けにきたんだよ。」
その言葉を聞いた古城は再び痛み出した傷を手で抑え、ソファに座りながらも声を荒げる。
「はぁ!?何言ってんだ!?お前、さっきまで致命傷でろくに体も動かさなかったはずだろう!」
「そうは言うけど、古城。出せてないんじゃないのかい。眷獣。」
「っ!?」
そう言われてしまっては古城としては黙らざるを得ず、沈黙してしまう。だが、その口調から雪菜は感じ取り質問を返す。
「待ってください。その言い振りですと、優麻さんあなたはできるんですか?先輩の眷獣を召喚させることを…」
「ん、まあね。」
「なっ!?マジかよ」
驚いたのは古城だけではなかった。その場にいる全員が驚愕で目を見開く。
「とは言っても、正確には補助だけどね。さて…」
「あの、なんで白衣に手をかけてるんですか?」
疑惑の視線とともに、雪菜が質問する。そして、この時点でずっと黙っていたライダーの決断は早かった。
「サナさん。我々は外に出て待っていましょう。」
「?なんで?」
「なんでもです。さっ、行きましょう。」
若干の不満の色を見せつつもサナは仕方なくと言った表情でガレージハウスのドアに手をかけて、ゆっくりと開いていく。そして、ライダーもそれに続くように外に出て、今度はサナ以上に静かに丁寧に誰も気づかぬようドアを閉めていった。
「母は自分が闇誓書を使うために敢えて自分の魔力だけは無力化しなかった。いや、できなかったと言った方が正しいのかな?だから、当然、仙都木阿夜の模写とでも言うべき僕の魔力もお母様は消すことができなかったんだ。だから、古城が僕の血を吸えば…」
「再び第四真祖の眷獣が使えるかもしれないってこと?でも、そんな確率低いんじゃ…」
「ううん、確かに普通の吸血鬼だったのならそこまで効果は得られないと思うけど、古城の場合は違う。古城の正体は……」
「この世に存在するはずのない四番目の真祖、もし、力が本来の形で戻れば、その理論でいくと確かに先輩は力を取り戻すかもしれません。でも…」
わずかにどもってしまう雪菜。その意味を正確に察知した優麻は朗らかに笑いながら、慰める。
「大丈夫。僕の吸血行為は所詮眠っていた力を目覚めさせるきつけのようなもの。だから、その後にも力を戻すためには姫柊さんと煌坂さんの血も吸ってもらわなきゃならなくなるわけだし!」
「いや、おい…」
「は、はぁ!!私はー別にそこの変態真祖のことなんてどうとも思ってないんですけど、勘違いしないでくれる!?」
「あの〜、ちょっと?」
「そうです。私はあくまで先輩の監視役。先輩がどのような女性と懇意になろうと私には関係ありません。ええ、関係ありませんとも!!」
「お〜い…」
そんな言葉とは裏腹に頰を染めていれば説得力はないんじゃないかな?と優麻は思いもしたが、その頃には白衣のボタンを取り、既にソファに座っている古城の足に馬乗りになって座った。
「さ、古城…吸って…」
「だから、ちょっと待てーー!!」
勢いに押されそうになるもののなんとか理性を保った古城は大声を上げる。振り払わなかったのは優麻の傷が深いだろうということを気遣い、乱暴はできないと判断したためである。
「お前ら、俺の意見は丸っきり無視か!?さっきから、ズバズバ進めて行きやがって…」
「しょうがないだろう?古城。緊急事態なわけだし何よりこれ以上伸ばせばさらに厄介なことに…っ!?」
言葉を途中で止めてしまった優麻はもたれ掛かるようにして倒れこむ。
「ゆ、優麻!?大丈夫か、おい!」
「どうやら、お母様が大分無茶しているみたいだね。僕にもフィードバックが来ちゃったみたいだ。」
そこで古城はようやく優麻がどんな想いでここまで来たのか思い知った。身体は貫かれ、既に致命に至るだろう傷を受けてもなお自らの残った魔力で治癒魔術を使い、ギリギリの線を保ち歩き続けて来た。本当は立つのだってやっとのはずなのだ。それを体に鞭打ち無理矢理にでも自分の元に来て力になろうとしてくれた。それに答えずして、何が幼馴染だろう。
「わかった優麻。安心しろよ。俺がお前のパスを無駄にしたことなんて今まで一度もねえだろう?」
そう言って彼女の柔肌を食い入るように見つめる。不謹慎ではあるものの、汗ばんだシミひとつない皮膚と、白衣の下から見え隠れしている下着の部分は古城の性欲を十分に高めてくれた。
「ーーーーー!!」
口を開け、伸びた犬歯を首元に突き立てる。そして、静かに歯を立てたを吸い出す。その様子を紗矢華は手で目を隠しながら(ただし、ところどころ隙間が余分に空いている。)、雪菜は若干不満げに口を尖らせて見つめ続けた。
「あんがとな。優麻。」
吸い終わり、立ち上がる古城。だが、まだ足りない。古城の傷はまだ癒えずに残っている。ならば、まだ血が足りず、力が足りていないということである。
「え、えーと…」
だが、ここでどうすればいいのか戸惑い、困惑してしまう。
そう。この場には霊血として相応しい力を持った巫女が二人いるのだ。その二人の中からどちらかを選ばなければならない。正直な話、かなりな難行である。
だが、そこで一人の少女がそっぽを向き出す。
「え?姫柊?」
「私は先に外でお待ちします。先輩はどうぞごゆっくり。」
雪菜はそう言うと笑みを浮かべながらも扉の方に早足で駆け寄り、バンと勢いよく扉を閉めて外へと出て行ったのであった。
ーーーーーーー
「はぁ……。」
意地を張って部屋を出てきてしまった雪菜に渦巻く感情は後悔と若干の憤りだった。なぜ、彼女が血を与えるのを拒否したのかそれはどうしようもない独占欲から来るものだった。どうあれ、吸血行為をするときは自分が一番じゃないと嫌だ。そうでないときは二番目という気がしてどうしても身体が拒否してしまうのだ。どうあっても古城の一番でいたい。そんな感情が彼女の中に生まれたから、彼女は部屋を出た。
「もぅ…いやらしいですね。先輩は…」
自分にも非があることは頭の中で分かってはいるが、それでもこの後悔の狭間に憤りを古城にぶつける以外雪菜には手がなかったのであった。
ーーーーーーー
一言で言うと、先ほどの雪菜は極上の笑みだった。女神の笑みといってもそこまで大差はないだろうと言えるほどの整った顔立ちから放たれる極上の笑み…のはずなのに、なぜだか背筋が冷たくなるのを感じる古城。
だが、そのことに対し、一考の余地を与えられるほどの余裕は既にない。と思い直し、紗矢華の方へと向き直る。
「え、えーと、そんじゃ頼んでもいいか?煌坂?」
「……いつか背中を刺されないように気をつけることね。暁古城。」
「へっ?」
間抜けな返答に力が抜ける紗矢華ではあるが、そういいながらも、制服のボタンを異様にスラスラと取り始める。そして、10秒も経たぬうちに紗矢華はあられもない姿となった。具体的に言うと、制服のボタンがとられたことで中の下着が露わになり、スカートのジッパーを中途半端に外すことでパンツがチラチラどころか完璧に見えるくらい…
理性がある古城ならば、その状態に対し、一言ツッコミそうなものだが、今の古城は優麻との吸血行為により興奮状態にある。なので、そのあられもない姿に突っ込むことはしなかった。逆に獣のように襲いかかり、ソファへと一気に押し倒す。
あっ、という甘い声が紗矢華の口から漏れる。だが、それに構わず古城は犬歯を伸ばし首筋へと辿っていく。
首筋に犬歯がたどり着き、血が古城の口元から流れ出す。それとともに煽情的な嗚咽がガレージハウスに溢れ出していった。紗矢華の頰は紅潮し、わずかな笑みも浮かんでおり、その様子を見れば、彼女が古城に対しどのような感情を抱いているのかすぐに理解できるだろう。
少しして、古城の牙が首筋から離れると、彼女は名残惜しそうに目を細めた。そんな様子には全く気づかず古城は窓の向こう側を見やる。
そして、わずかに深呼吸する。
そして、その瞬間、理解した。自分の傷がなぜ今まで修復しなかったのかを…
「そうか。そういうことだったのかアヴローラ。」
「何がでしょうか?暁古城先輩?」
部屋の外に出ていた雪菜は事務的に古城に聞き返す。その妙に仰々しい言い方に思わず顔が引きつってしまったが、古城は言葉を続ける。
「今起きた眷獣、四番目の眷獣についてだ。俺の傷は今までずっと雪霞狼によって修復の力を阻害されたから傷が修復しなかったのかと思ったけど、そうじゃねえ。四番目の眷獣は既に起きていたんだ。ただ、俺がそれを認識できなかっただけで」
「……なるほど、傷を受けていた部分は修復しなかったのではなく、霧から戻らなかったというだけ…雪霞狼が傷をつけようとした時点で暁古城先輩は一部を霧化させていた。ですが、吸血鬼としては不完全な先輩は霧化した自分の肉体を戻すことは今までできなかった。と、そういうわけですね。暁古城先輩?」
「あの〜、姫柊…さん?」
「はい?何でしょうか?暁古城先輩?」
「……。」
仰々しい呼び方がなおも続いているところを見ると、相当にご立腹なようである。そんな様子に、古城は勘弁してくれ、と泣き言を言って、優麻と紗矢華はため息を漏らすのだった。
最近、英霊たちも結構なラインナップとなった影響か段々と重なることも多くなっていった。しかも、なぜだか知らないが、今の所!ライダーに一局集中。まあ、他にも色々いるけど、これは喜んでいいことなのだろうか?
まあ、当たるのもあったんですけどね。今回だと、新宿のアヴェンジャーとアルトリア・オルタが当たりました。まあ、その間にちょくちょく重なったけど、いっか!うん、気にしない、気にしない!