ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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観測者たちの宴 II

「…来ましたか。」

 

蹄の音共に感じるこの熱、これはあの太陽神の息子の炎だろう。ジリジリと肌が焦がされている感覚が強くなり、ラ・フォリアはゴクリと唾を飲む。政治的都合上、今まで幾度となくクセモノとの商談・会談を行い続けて来たこの身だが、今回ばかりはそれらを確実に凌駕すると言い切れる。今この場にやってくるモノはクセモノというわけではない。だが、その存在は英雄と呼ばれる人々の伝説となった者なのだ。

英雄の精神性というものがいかほどのものか?それはラ・フォリアにはまだわからない。だが、少なくとも、これだけは分かる。

 

今この場に向かって来ている英雄は確実に怒っている。

 

空中から鳴り響かないはずの蹄音が耳で聞き取れるほどになった。肌を焦がすどころかこのまま放置していれば焼け死ぬのではないのだろうかと直感したラ・フォリアは即座に冷却魔術をその身にかける。

あの時、自分たちのことなど歯牙にもかけていなかったのだろう。彼はあくまでこの炎熱をあの赤と黒を基調とした服を着ていた英雄にだけ向けていたのか、もしくは彼自身が自分達を守ってくれたのだろう。正直言って参っている。自らの指輪にあるこの冷却魔術は強力なもので、並の人間ならば即座に冷却するだけの力を秘めている。もちろん指輪だけの力ではなく、この王女自身の潜在能力の高さにも起因した出力の高さなのだが、その出力を最大にして尚…分かりやすく言うと冷凍睡眠をさせるレベルまでの冷却を行っているのに、自分の常温は保たれているのである。

 

(初めてですね。このような感覚…これが小説でいうところの『今にも逃げ出したい衝動』というものですか…)

 

怖い。会談の中で真祖と相対したこともあった。彼らの力とここに向かって来ている英雄の力。正直、どちらが上なのかなどということはわからない。だが、今のラ・フォリアはその時にすら感じなかった怖れを今感じている。

力が真祖に匹敵するかもしれないからか?おそらく…いや、それは絶対に違う。力が理由で恐れるのならば、このような感覚は真祖の時にも感じているはず…これは力による恐怖ではない。では、何か?

 

(これは…畏怖…)

 

そう。彼ら真祖とは違い、今この場に来るものは人の身(・・・)で常人ではいけない極地へとのし上がった者なのだ。そんな彼らに対する敬意とは似て非なる畏怖の念…それが今、ラ・フォリアが感じてる怖れなのだ。そのことを正確に理解したあとのラ・フォリアは至って自然な調子で頭の中をクールダウンしていく。そして…

 

「では行きましょうか!」

 

そう言ってラ・フォリアが見た先には、真っ赤な焔の光輪で身を包むようにした戦車から悠々と降り、紅い槍の穂先を地面に向けながらも凄まじい殺気を顔に貼り付け、ラ・フォリアの元まで近づいてくる野獣のような男が近づいてきた。

 

「ほう…一人で俺を待つとは殊勝な心構えだ。それともただ単に馬鹿なだけか?」

 

すでに紗矢華は古城たちの元に行かせている。かなりうるさく護衛すると言ってきたのだが、そこは強引に押し通した。彼女がいたのでは話にならない。これはシロウにも話したのだが、なぜなら…

 

「いいえ…もしもここで護衛や他の者たちに頼ってしまえばあなたは一生、こちらの言葉に耳を傾けてくれないでしょう。

 

どうあれ話し合いとは対等な立場でなければ成り立たちません。護衛がいない者に対して私だけ護衛をつけてしまえば、こちらは対等とは言えません。」

 

その言葉に面食らったのか、しばしランサーは、目を見開いた。その後…

 

「ぷっ、がははははは!おいおい、そりゃまじかよ?あくまで今の俺たちが対等だっていうのか?嬢ちゃんは?」

「はい。それとまだ、自己紹介をしてませんでしたね。私はアルディギア王国皇女ラ・フォリア・リハヴァインと申します。」

 

自己紹介をしながらも、彼女の冷や汗は未だ尽きることはなかった。なにせ、笑ってはいるもののこの男、未だに殺気が衰えていないのである。

 

(なるほど、シェロの言っていたこと…どうやらあれは本当のようですね…好きであろうが敵であるならば問答無用で殺す…ですか…)

 

それが何よりも自分の誓約(ゲッシュ)を守ることに重きを置いた英雄の唯一にして絶対の掟。彼の中では未だラ・フォリアは敵なのである。

 

「おう。こっちの方は…まあ、あの野郎に説明されてると思うがよ。ランサーのサーヴァント(・・・・・・)だ。で、だ。俺のマスターから令呪を奪ったのはあんたなんだよな?」

「はい。その通りです。」

 

いよいよ本題に入る。そのことに対し、ラ・フォリアは一段と気を引き締める。

 

「正直な話。出会った瞬間、即刻殺して令呪を奪ってやろうと思ってたんだがよ。気が変わった。あんた、なんだってこの聖杯戦争なんぞに参加したがる。」

 

ランサーを無理矢理従わせるのならば手はいくらでもあった。その一つにまず、ランサーの令呪を奪う手段を腕ごとに切り替えるというものがある。その場合、腕だけとなった令呪は即座に魔力供給が出来なくなり、ランサーがここに残るか否かを聞けばいい。そうすれば少なくとも、自分の命を守れるくらいの余裕はできるはずである。

だが、目の前の彼女は自らの腕にすでに令呪を灯すことでそれを捨ててる。ランサーは人並み以上には人を見る目があると自分のことを思っている。少なくとも彼女が自分と対等と言ったからには彼女は自らの手で令呪を使って命令を聞かせるなどという愚は侵さないだろうとランサーは踏んだ。だからこそ、彼はその意を汲んで彼女に質問したのである。

 

「簡単なことです。私は一国の皇女としてそして一人の家族としてこの儀式を放置しておけないのです。」

「ほう…」

 

関心を持つように呟いたランサーはその後を続けろとばかりに顎を上げて促す。

 

「聖杯戦争…過去の英傑たちの霊魂をこの世に呼び出し、殺し合いをさせた後に最終的な聖杯の所有者を決める巨大な戦争。他国から見てもこれは類を見ない儀式と言えます。

当然ながらそれによる益も膨大なものとなるはず…そうなれば、各国が聖杯戦争の正体を解き明かそうと躍起になり、世界は大混乱となるでしょう。こうして聖杯戦争が起きている以上、止めるという手段は無くなりました。ならば、この聖杯戦争についての謎を一刻も早く究明するために私はサーヴァントと契約し、自ら戦場へ赴く必要があったのです。」

「……。」

 

ランサーは何も語らない。ただ、その王族足らんとする心意気に対しては感じ入るものがあったのだろう。少なくともその話に対する興味はそれだけで消えなかった。

 

「そして、先程言った家族とは、私の叔母である方がすでに聖杯戦争のマスターとして登録されていました。これは由々しき事態です。私は彼女の身を守るためにもサーヴァントと契約する必要があったのです。」

「…そうかよ。だが、突き詰めちまえばそりゃ他のサーヴァントでも良かったことだろうがよ?なんだって、俺を選んだ?」

 

それは暗になぜ自分の誇りを踏みにじったのかという問いでもあった。この問いを間違えればおそらくラ・フォリアの命はないだろう。

慎重に考えなければならない。

 

「そうですね。」

 

だが、ラ・フォリアは考え込む様子もなく、すぐに言葉を出す。

 

「正直に言いますとですね。クーフーリン(・・・・・・)。理由はそこまでないのです。ただ、理由があるとしたら、私は歴史に…そして神話に名を残すほどの英雄…それは様々いますが、シェロから話を聞いた時、私はあなたと

 

直接話してみたい(・・・・・・)と思ったのです。」

 

それではダメでしょうか?と柔和な笑みを浮かべて尋ねてくるラ・フォリアに対し、今度こそ今までにないほどの衝撃を受けたようにランサーは立ち尽くしてしまった。

 

まるで、下手なナンパ師の口説き文句のようなセリフだ。正直な話、これほどまでに衝撃を受けたのは本当に久しぶりだと思った。嘘だとも思ったのだが、彼女の目を見てみると…

 

(ありゃ、本気だな…)

 

つまり、一国の皇女や家族などのお題目(もちろんそれらも本心なのだろうが)を並べていたが、結局のところ彼女は単純に自分に興味を持ち、おそらくあの表情からして、話すと面白そうだからという理由で令呪を無理矢理奪ったというのだ。

通常なら怒りを覚えるところだろう。お世辞にも今、目の前にいるこの皇女は自分と相性が良い人物とは言えない。ただ、今までの会話で彼女がたとえふざけていようと、何事にも本気で捉える女なのだろうという予想はついた。つまり、これは彼女の偽らざる本心。なんともまあ…

 

(こりゃ、また痛快な奴が出てきたな。)

 

もしも、こんな女に召喚されたのなら、中々スリルある毎日を送れそうだ。短い間のだが、彼も彼女に対してそんな感想を抱けるくらいには好感が抱けた。もっとも、面白いとも楽しいとも言わず、スリルあると言っている部分から未だ彼が彼女に警戒をしていることは明白ではあるが…だが、それとこれとは話が別だ。

ランサーは話は終わったという風に槍を構えようとする。

 

「ええ、もっとも、ここまで話したとしてもあなたは裏切ろうとは思わないのでしょう。ですが、ランサー…私にどうかチャンスをくださいませんか?」

 

すると、やはりまだ説得は出来ていないだろうことを瞬時に感じ取ったラ・フォリアは言葉を続ける。

 

「チャンス…だと?」

「はい。単刀直入に申しますと、ランサー、私を見ててくださいませんか?」

「は?」

「私は未だあなたのマスターとして認められていないのでしょう。それは感じ取れます。ですが、どうか一度だけ私をマスターとして認めるための猶予をくださいませんか?」

「猶予だと?」

「私はあなたの誇りを踏みにじり、そして、今この場で言葉を交わしている。どのように取り繕ったところでそれは変わらないでしょう。ですが、同時に私はあなたに言葉を、そして、礼儀を示したと思います。ならば、今現在あなたの令呪を持つ私を見て、その後私をマスターと認めるか否かを決めるだけの猶予を一人この場で戦った者(・・・・)として認めてくださいませんか?」

「……。」

 

おそらく、これも口から出任せではなく本気で言っているのだろう。あくまで対等であり続け、言葉を交わしてあなたと戦った者ならば少なくとも乗除酌量の余地があるだろう、という戦士としての通告。それを堂々とランサーの前でこの戦女神はやってのける。

 

これも下手をしたら、ランサーから殺されかねない危険な賭けだった。だが、今まで積み上げてきた好感がプラスに働いたのだろう。

 

「…いいだろう。ただし、条件がある。」

「はい。なんでしょう?」

 

ようやく、ここまで来たことに胸を撫で下ろしラ・フォリアはその重要事項を聞き出そうと耳をぞば立てる。

 

「一つ、俺はまだあんたをマスターとして認めてねえ。だからあんたがいくら危機的状況に陥ろうがあんたを認めねえ限り、助けたりしねえ。」

 

彼にとって例え、魔力提供がなくとも未だマスターは彼女たちだ。だからこそ、彼女たち以上の何か(・・)をこの皇女から見つけられるまで、自分の誇りを踏みにじった者に令呪で縛られずに命令を聞くなど英雄の誇りが許さなかった。

 

「一つ、俺はこの島にいる間は元マスターの命令に従う。」

 

どうあれ、サーヴァントの危機が消えない以上、マスターの身の危険というものはまだ完全に抑制されてるとはいいがたい。それが、元だろうがマスターに対する義侠心というものだ。

 

「一つ、悪事を働いたろうが、少なくともあのマスターたちの命だけは保証する。

 

これら三つを今この場で誓約(ゲッシュ)として誓え。それが俺の条件だ。」

 

不利というよりもほとんど自分を自由にしろとまでいうほどの条件。いっそワガママと言っていいだろう。だが、これが条件。少なくともここまで来た以上、信頼関係を築くのに令呪を使うというのはこの場合、愚策だろう。

 

「…分かりました。では、こちらも約束してくださいませんか?ランサー。もしも、あなたが私をマスターとして認めた時、その時は改めて私のサーヴァントとして仕えてくれる、と」

「…おう。一度した誓いは俺はぜってえに裏切らねえ。あんたが俺のマスターに相応しいと認めた時は俺はこの体をあんたの槍となって仕えていこう。んじゃ、俺はとりあえず、戦場に戻るぜ。これからまた戦場が荒れそうなんでな。」

 

そう言って、ランサーは自分の戦車に乗り、手綱を握りパシンと勢いよく音を立てた後、まやかしの太陽に向けて走りさるように飛んでいった。それを確認したラ・フォリアはふぅ、と大きく肩で息をした。

 

「とりあえず、なんとかなりましたね。」

 

実際は説得などとは程遠いものだったが仕方があるまい。彼女から見て、彼はテコでも動かないタイプだろうと予想がついた。それはそれで好感が持てる。つまり、もしも彼が自分を主と認めてくれた暁には彼は絶対に少なくとも自分が生きている限り裏切ることのない忠臣にもなってくれる現われでもあるのだから。

 

真祖とはまた別種の怖れの念。それを肌身に感じたラ・フォリアはらしくもなく、その場の瓦礫にへたり込みそうになったが、何とか足に力を込めて踏みとどまった。あれが英雄。人間であったときがありながら、人間以上の存在へと登り詰めた者たち。

我々人間の極地たる者たちが放つ独特の畏怖の念。それを噛み締めながら、ラ・フォリアはもう誰もいないコンテナ港からよろめきそうになりながらも決してぐらつかずに歩いて去っていった。

 

ーーーーーーー

 

両者の中央に立つその男はあくまで静かに、そして交互に自分のマスターとその向かい側にいる敵に注目した。

そして…

 

「ふむ…どうやら、これはナイスタイミングと言ったところでしょうか?カメラなどがあれば決定的シャッターチャンスだったのかもしれませんね。」

 

などと拍子抜けにもほどがあるような言葉を不意に吐きかけた。そこで、先ほど、言葉に詰まってしまった頭がようやく回転するようになり、古城は慌てた調子で口を開く。

 

「ラ、ライダー!あんたどうしてここに?あのキャスターってヤツはどうしたんだよ?」

「いえ、先ほど、なぜだか知りませんがキャスターはいきなり苦しがりましてね…一体何が原因なのかわからなかったのですが、その間に何やら騒がしいこちらの様子を見ようと思ったのです。」

 

言いながら、ライダーは周りの様子を確認するように首を回す。

 

「…ですが、なるほどこの状況を見るに、推測ですが、彼女のマスターは今先ほど消えてしまった南宮那月ということになりますね。」

「は、はあ…って、え?」

 

今とんでもないことを聞いたような気がした。マスターが南宮那月?

 

「ちょ、ちょっと待て!それって一体どういう…」

「申し訳ありませんがその話は後です。今はこちらの方をどうにかしなければなりませんので…」

 

そう言うと、ライダーは今度は古城の向かい側に立つ脱獄囚の方へと目を向ける。

 

「…なんだ?貴様は?見たところ私と似たような力を身に纏っているが…」

 

ドラゴンスレイヤーとして名を馳せたブルード・ダンブルグラフは元々細かった目を怪しい者を見るように更に目を細める。

 

「何者か…ですか。そうですね。この場はライダーとお呼びください。」

「ふざけてるのか?そのようなもの、偽名に決まっていよう。」

「申し訳ありませんが、こちらも色々とございまして、人々はすべからく(・・・・・)どのような者であれ信用したいのですが、今回は(・・・)こちらが信が置ける人間でない限り、我が主以外に名は知られたくないのですよ。」

「そうか。ならば、死ね!」

 

ブルードが前に出ると同時に、ブルードの左右にいたインド僧のような印象を持たせる服装と格好のキリガ・ギリカ、男は挑発するように胸を全面的へとはだけさせた服を着たジリオラ・ギラルティの二人もライダーに向かって突進していく。

 

「ふん!」

 

まず、ブルードはその身の丈以上はある大剣をライダーに叩き込むようにして振る。常人ならばその衝撃を受けただけで、確実に骨が悲鳴を上げ、下手をすると折ることにもつながるだろう。だが、ライダーはその一撃を身の丈半分ほどしかない聖剣でことも無げに受ける。

 

「燃えろ!」

 

その横でキリガ・ギリカは身体の中に炎の精霊を宿し、それを攻撃に運用することに成功した者である。その炎は並の魔術を軽く凌駕する。

その炎をライダーに向けて容赦なく、一切の加減なく放つ。そのことを予見したブルードは離れ、ライダーは気づいてはいたものの、動きはしなかった。ゴウっという音共に、その炎が容赦なく浴びせられる。

 

「さあ、踊りなさい!」

 

締めにジリオラ・ギラルティが鞭をパシンと高らかに鳴らす。その瞬間、彼女の足元から何か根のような枝のようなものが伸び、それらは枝分かれしながら現在、炎で充満されている空間へと伸びていく。そして、その炎が当たらないギリギリのところで待機する。完璧だ。客観的に見ても中々の連携だと言っていいだろう。

だが、それは偶然からなるものではない。彼らは直感したのだ。この男はまずい。この男だけはこの場で始末しておかなければならない。と

 

「ラ、ライダー!!」

 

主人である古城の声は今なお燃え続けている炎に虚しく響く。だが、その炎が空気を燃やす凄まじい音がそもそもとして、彼の声を届けようともしない。声をかけて無駄だろう。

 

『ご心配なく、マスター。私は大丈夫です。』

 

だが、その炎の中からその男、ライダーの声は聞いた。その声を聞いた瞬間、古城はもちろんのこと、攻撃をした本人である脱獄囚たちも驚きで目を見開いた。

 

『…惜しい。実に惜しい。あなた方の力、磨けば必ず人々の役にも立てるでしょうに…聖人である私ならば、ここはあなた方に説教を差し上げるべきなのでしょうが、残念ながら今の私は聖人である前にサーヴァント。あなた方を止めるために手段を選んでもいられませんので…』

 

言いかけるように言葉を終わらせたライダーは炎の中で剣を振る。するとその瞬間、今まで彼を燃やしていた炎はまるで火の粉のように辺りに吹き散っていった。そうして現れたライダーの姿は完璧な無傷だった。

精霊からの直接的な魔弾攻撃のような意味合いもあったので、対魔力Aを保有する彼でも打ち消し切れない特殊な魔術であった。だが、それでも、彼の体は全くと言っていいほどの無傷だったのだ。

 

「な、馬鹿な!」

 

キリガは叫ぶ。あの攻撃は間違いなく自分の全力だった。それをあの男はまるで火遊びでいたずらでもされたかのような傷しか追わなかったのだ。絶叫するのは当然だ。

 

当然のことながらこれには理由がある。ライダーには対魔力Aの他に数々のスキルがあるがその中のうちの一つ守護騎士A+が発動したのだ。このスキルは守ってくれることを期待された彼にこそ与えられたスキルで、対象を守ると決めた時点で防御力を一時的に吊り上げ、無限の防御力を与えるというもの。

最も、これもさすがに絶対というわけではないのである程度強力な攻撃を受ければその守りは崩れてしまう。具体的に言うと、神秘のレベルで言って、Bランク以上の攻撃はさすがのライダーでも守りきれない、といったところである。

 

「さて…では…」

 

彼がそう呟いた瞬間、彼の姿が陽炎のように消えていく。そして次の瞬間…

 

「ぐふ!」

「まず一人。」

 

グシャというひしゃげたような音が辺りに響き渡る。

キリガに対してリバブローを食らわせるライダー。鎧があるからか…否、断じてそれだけではない。その一撃は彼の膂力とともに繰り出された文字どおりの鉄槌であり、キリガの肋骨をまるでビスケットのように砕き割れる音が辺りに響き渡るのはある意味で当然のことなのだ。

 

「同じドラゴンスレイヤーとしてのよしみです。あなたは私の聖剣で仕留めましょう。」

「っ!?」

 

おとなしいながらもその凄まじい殺気に怖気が走り、ブルードは即座にその大剣を構えた。が、そんなものは意味をなさない。真の竜殺し、真の騎士の前で悪逆をなす同業者などチリに等しい。

ライダーは力屠る祝福の剣(アスカロン)を上段から容赦なく振り抜く。その一撃にブルードは…天からの雷を見た。

 

「ーーーーーー」

 

絶句。その文字が合っているだろう。かの断罪の雷は一筋の光となり、次に剣の姿となり、自分の真下に刃先が向いたときには、ブルードは確信した。

 

ああ、自分は斬られたのだ。と

 

ブシャァという決して少なくない血が噴き出す音。鉄臭いその液体を傷つけられた鎧とそして前方に構えていたいつの間に斬られたのか刃渡りが半分となった剣に満たしながら、彼は静かにまるで糸が切れたマリオネットのように倒れた。

 

「さて、あとはあなたですね。」

「っ!?」

 

ジリオラがまたも鞭を鳴らす。その大地を斬りつけまいとするほどの激しい鞭音とともに、先ほどまで炎があった場所から枝分かれして待機していた何かはこちらへと移動してきた。そして、一瞬の内にその枝は触手のように身体に巻き付いた。

 

勝った、とジリオラは確信した。ジリオラは精神支配系の能力を持つ眷獣の持ち主だ。ジリオラが眷獣を使い、そしてその攻撃を受けた瞬間あらゆる意思あるものはその精神を支配され、彼女の操り人形となるのだ。

おそらく、これは並のサーヴァントであったとしても例外ではないだろう。

 

「なるほど、それがあなたの能力ですか?」

「なっ!?」

 

だがしかし、この目の前の男は並にあらず。こと防御という概念に関しては無敵を誇るというのは伊達ではない。彼のスキルの内には殉教者の魂というものがある。これはいかなる精神支配であれ無効化する能力であり、精神支配系の能力に対して天敵と言っても良いスキルなのである。

最も、この能力が派生したのは如何なる拷問、責め苦にも耐えた彼の精神性を讃えたものでもあるため、たとえ彼以外のサーヴァントであったとしてもジリオラの能力をとてつもない意思の力で弾いたものも…まあ、いたかもしれない。

 

ジリと後ずさりするジリオラ。だが、後ずさりしたところにはライダーがすでに立っており、ジリオラは悲鳴をあげそうになったが…

 

「申し訳ありませんが、眠っていてください。生前から、私は女性が苦しむ姿などはもう飽きるほど見せられているので…」

 

首筋に手を当てたライダーはそこに強烈な魔力を押し込む。すると、ジリオラはその衝撃に耐えきれなくなり、眠るように目を閉じたのち、ゆっくりと身体を地面に着かせた。

 

「す、すごい。」

「ああ。」

 

地面に倒れた音ともに静寂が舞い降りるかと誰もが予想したその時に…

 

「ああああ!!」

 

痛々しいまでの少女の悲鳴が響き渡る。ライダーとそしてライダーの姿に見惚れていた古城と雪菜はその悲鳴の発信元へと目を向ける。それは古城の古き幼馴染・優麻からの悲鳴だった。彼女は今、正に自らの守護者との契約の糸を自らの母親である仙都木阿夜から抜き取られている真っ最中だった。

そして、その糸が最後の一本まで完全に切れたとき、優麻は今度こそガクリと気を失った。

 

「優麻!!」

「なんてことを!?魔女にとって守護者は生命線でもあるというのに!」

「ふっ!!」

 

即座に危険だと判断したライダーは古城たちが話している間に、一瞬の内に優麻たちのところへと移動し、剣を横合に振り抜いた。だが、遅かった。ひらりとその攻撃を避けた阿夜は空間魔術でその場から転移する。

 

「逃げるのですか!」

『貴様に敵対すると、ロクなことになりそうにないのでな、(ワレ)には(ワレ)の目的がある。斯様に瑣末な諍いなどにいちいち熱を上げてはおられん。ここらで失礼させてもらう。』

 

阿夜が言い終わると同時に阿夜の気配は完全に消え、辺りはまたも陰惨とした空気が満ちる沈黙した空間となった。

 

「どうだ?姫柊?」

「辛うじて意識を繋いではいますが、このままでは…」

「くそ!しっかりしろ!優麻!」

 

嘆き、悲しむ古城たちは自分たちを責めた。闘いに美しさなどは感じないし、感じたくもないが、そんな彼らからしてもあのワンサイドゲームは実に見事で見惚れるものがあった。もし、他の者がここにいたとしてもその意見は変わることはないだろう。だが、その影響で自らの注意がおろそかになり、守ろうとした者も守れないのでは本末転倒も良いところだ。

 

「今、ここで嘆いていても仕方ありません。古城。とりあえず、彼女を安静に治療できるだけのスペースを確保するため、移動しましょう。」

「ライダー…分かった。」

 

那月のこともあるが、今は優麻のこと先決だ。古城は無理矢理にでもそう意識を切り替え、優麻の身体を抱きかかえ、雪菜もそれに追従するように遅れて立つ。

 

「ちょ、何よ!?これ!」

 

立ち上がると同時に聞き慣れた声が前方から響いてくる。その正体は…

 

「煌坂…」

「紗矢華さん!」

 

無理矢理護衛を解任され、とりあえず古城の元までたどり着いた煌坂紗矢華その人だった。




英霊抽選参加いただき誠にありがとうございます。
今のところの抽選の結果ですと、まずすでに出そうと思っていた英霊が5騎。新規で出そうと考えさせていただいたのを6騎選ばせてもらい、現在のところ11騎のサーヴァントを追加しようかなと考えています。
最も、予想なのでこれから減ったり変えたりするかもしれませんが、その辺は平にご容赦を…では、まだまだ続けていきますのでよろしくお願い致します。

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