(どうにも妙だな…)
キーストーンゲートの頂上。ランサーは自らのマスターであるエマとオクタヴィアのすぐ後ろで霊体化して立っていた。
先ほど、攻撃をマスターが受けたにもかかわらず彼はずっとこのままだった。それはマスターたるエマ=メイヤーが言いつけたことで、よほどのことでない限り、自分は出てこないようにとのことだった。それはさらなる力を得ようという彼女たちにとって、彼が一々助太刀してしまえば、戦闘の感覚などに鈍りが出て、魔術の方にも影響が出るだろうと考えた上での命令である。先ほどの言葉から理解できるだろうが、つい先ほど、ここには二人の客がマスターの他に来た。
一人は第四真祖などと呼ばれている少年の…おそらくは体を則った何者かと…ディミトリエ・ヴァトラーと呼ばれる自分のマスターを眷獣なるもので先ほど言ったように攻撃してきた吸血鬼である。
どうも、この世界の吸血鬼は自分の知る吸血鬼とは大分違うらしく、眷獣と呼ばれる召喚獣を使い、戦闘を行うようだ。それ自体は別に構わない。歴史の流れとはいろいろなものがあり、ランサー自身がすでに知っていることなどあてにならないことなど、学習済みだ。だが、だからこそ、おかしいと考えしてしまうことがある。
これはライダーやアーチャーなど、なまじ普通じゃない召喚から、普通じゃないとすでに認識してしまっているからこそ許容できてしまう不明であるため、彼らはさほど気にしなかったことではあるのだが…
(…なんで俺に…いや、聖杯からの知識にそれがねえ?)
いくら知らないとは言え、自分たちサーヴァントは聖杯からの知識を必ず得るはずである。ならば、眷獣という存在についても、認識の齟齬だけならまだしも、全く知らないなどということは
そう考えると、今までのことでも、変な部分がある。まず、魔術のことである。これについては時代の移り変わりによって、変質してしまったとアーチャーたるシロウは認識した。だが、ランサーは違う。ランサーはすでに聖杯から得た知識として『根源』と同様の魔術のルールが頭に流れ込んできたのだ。
にもかかわらず、この世界でのルールは全くもって違うと来ている。
これもこの部分に注目したランサーだからこそ気づいたことである。正統に召喚されたランサーだからこそ、気づいたのだ。
(なんで、こんなことが起こる?根源が世界を認識しなかったとでもいうのか?根源とは違う何かが根源の代わりを果たそうとも、世界の情勢くらいは考えられるはず、ならば、その違う何かがこの世界を認識して、聖杯に情報を寄越すはずだ。だが、この世界はまるで
ランサーは黙考しながら、1つのありえない結論に至り、そして、驚愕する。
(まさか…
だが、そんな時、ランサーの後ろからある強大な気配が2つ発せられる。
「来た…か。」
(仕方がねえ。このことについては後で考えなきゃなんねえな。)
ランサーは霊体化を解かずにマスターたちの前に立つ。自らのマスターを守るために…
ーーーーーーー
「優麻!!」
古城は現在、自分の身体を操作している仙都木優麻に向けて言葉を投げかける。優麻は一瞬驚いた表情をするや否やすぐに元どおりの微笑を浮かべ、
「…やっぱり来たね。古城。君はいつもそうだ。本当は何にも理解していないくせに一番大切な時にやってくる。」
と優麻は呟いた。
ーーーーーーー
優麻が呟いた次の瞬間、シェロたちは到着した。
「到着…と」
「雪菜!!」
到着と同時に叫びだしたのは紗矢華だった。紗矢華は雪菜の方へと詰め寄った後、辺りを確認して怪訝な様子になった。
「ね、ねえ、雪菜。なんだか、状況が読み込めないんだけど、なんだって暁古城が敵みたいな位置に陣取っていて、そこの見知らぬ女があなたの側にいるのかしら?」
「そ、それは、その…」
雪菜はわずかに口籠った後、決心したように振り向いて、
「すみません。分からないと思うのですが、今はそこにいる女の人が先輩です。」
「な…!?」
シェロはわずかに驚いた調子で目を見開き、ラ・フォリアはまぁと口を覆い、絶句した紗矢華は一呼吸置くとそこから一気に…
「なんじゃ、そりゃ〜!?」
そう叫んだ。だが、彼女が叫んでいる間にシェロは僅かに間をおき、自分の中の5年間で蓄積されていった知識と照らし合わせていく。
「なるほど…おそらく、そこの女性、仙都木優麻が己の感覚と古城の感覚の空間を繋げることで古城の体の感覚を彼女の体の感覚だと錯覚させていると言ったところか…随分と緻密な魔術だ。」
「困りましたね。紗矢華これでは私が世継ぎが残せません…」
「そうですね…って、今とんでもないこと言いませんでしたか!?」
…スルーされた。いや、まあ、別に誰かに説明しているというわけでもなく、ただ単純に自分が解析した結果を口頭で述べただけなのだが…
「…まあいい。それにしても驚きだな。まさか、君が魔女だったなど…」
「僕としても驚きだよ。まさか、この前知り合った君もこちら側の人間だったなんて…シェロ。」
その言葉に対し、僅かに目を閉じるような仕草で返した後、シェロは彼女の前にある魔導書に目を廻す。
「それが今回の騒動の元凶か。見たところ魔導書のようだが…」
そう言って、彼の規格外と呼んでも間違いない解析の魔術が目から自動発動する。すると、あっと言う間に彼はその魔導書の用途を理解した。
「なるほど…そういうことか。」
呟いた後、シェロは再び優麻の方へと目を向ける。
「先ほどはこの魔術は随分と緻密だと思ったが、どうやらこの魔術は正反対のようだな。」
「?どういうことだよ?」
「そのままの意味だ。古城。この術式は…俺は最初誰かを逃さないための術式なのかとタカを括っていたが、その実、これは単なる副作用だ。これは
その言葉に対し、優麻は僅かに驚きを見せたように目を見開く。
「驚いたな。一瞬でそこまで理解できたのかい?」
「生憎と解析に関して言うのならば、他の者たちに負ける自信はないのでな。」
「探すって、一体何をだよ?」
「それは今から見せてあげるよ。古城。」
言った瞬間、ビリっとあたりの空間が弾けていくような音がした。
「先輩。アレは…」
雪菜が叫び見た先の海岸ではまるで蹴破られたかのように亀裂を入れられた空間が存在していた。
亀裂を入れられた空間は紫電を帯びながらも徐々にその全貌を明らかにしていく。その正体は黒い建物だ。まるで西洋の難攻不落の砦と監獄を融合したかのようなその建物はまるで幽鬼のようにその姿を顕現させていく。
「アレは…「アレは監獄結界だヨ。古城。」っ!ヴァトラー!?」
「やあ、古城。これはまた随分と可愛らしい姿になったものだネ。」
ヴァトラーは本当に楽しみだというような満面の笑みで古城を迎える。その笑みに怖気が立つものの先ほどの言葉は聞き逃せなかった古城は聞き返す。
「監獄結界…だと!?」
「そう。世界中のあらゆる魔導犯罪者たちを収監した伝説の監獄だヨ。楽しみだネ。古城。あそこから一体どんな凶悪で強大な犯罪者が出てくるのか。」
そう言いながら、彼は僅かに名残惜しそうな表情でシェロを見返した後、金の霧となって去って行った。
「んなわけあるか!って、おい!」
古城はその狂気の帯びた言葉に反応して追おうとしたが、すぐに足を止めて振り返る。そこには今にも空間魔術によってこの場を離脱しようとしていた優麻の姿があった。
「待て!優麻!!」
その言葉に優麻は立ち止まる。
「なんだい。古城。」
「あそこに行って、お前は何をする気なんだよ!?」
「そうか。まだ言ってなかったね。古城。僕の目的はね、あそこに捕まっている僕のお母様。仙都木阿夜を救い出すことなのさ。そう…そのためだけに僕は生み出されたんだ。」
哀愁漂う瞳でどこか遠くを見つめていた優麻に対し、古城はどうしても聞きたかったことを聞いた。
「そのためだけって…じゃあ、俺に近づいて幼馴染の友達になることもその計画のうちだったっていうのかよ!」
「違うよ。古城。それだけは違う。結果的に利用することになっちゃったから説得力がないと思うけど、あの時、古城たちに出会ったこと。それだけはお母様の計画の中にもなかった僕の意思でしたことだ。」
そしてまた、寂しげな表情で古城の方を見やり、
「でもね。古城、僕にはこれしかないんだ。これしか僕の取るべき道は…」
そう言って、優麻は古城の前から姿を消していった。
「っ!待て!優麻!」
「行かせると思って?行きなさい!ランサー!!」
エマ・メイヤーが指を突き出し、命令する。
瞬間、突如として何もない虚空から青い装束を身に纏った男が目の前に出てくる。
「え?」
そのランサーと呼ばれた男は古城が呆気にとられている隙に一気に間合いを詰める。そして、その現在は古城が操っている優麻の体に対し、蹴りを入れようとする。
だが、それを足のすねを弾き飛ばす要領で突き出した別の蹴りが防ぐ。その蹴りの主とは、シェロ=アーチャーだった。
「「……。」」
お互いの蹴りの後に彼らはまるで値踏みするかのような眼で相手の眼差しを見る。
「あ、危ねえ。ありがとうな。シェロ。」
「気にするな。そんなことより、お前にはやるべきことがあるのだろう?古城?こちらのことはいいからさっさと行くがいい。」
「わ、分かった。」
「行かせないと申し上げているでしょう!!」
苛立ちを含めた口調と共にオクタヴィア・メイヤーが古城たちに対し、またも攻撃を仕掛ける。
だが、今度はそれを
「アーチャー。よろしいのですか?ここを任せてしまって?」
「ああ。構わん。それに先ほど、あの監獄結界というものが出てきた瞬間から妙な気配が漂ってきている。この場に君が残ることは決定的な悪手だろう。早く行け!」
「!了解しました。お気をつけて!行きましょう!マスター!」
「あ、ああ、分かった。って、どうやれば…」
「賢生さんが一緒に来ている。彼に連れて行ってもらえ!賢生さん、よろしく頼む。」
「…ああ、了解した。」
少しして、背後から人の気配が消えていく感覚がする。だが、まだ、人の気配が2つ残っている。
「あの方が…クーフーリンですか?シェロ?」
青い髪と禍々しい赤槍を見ながらラ・フォリアは尋ねる。
「その通りだ。さて、久しいな?ランサー。何年ぶり…というのも我々が言うのはおかしいものだな。こうして会うのは何度目だろうな。」
「…ケッ、テメエは相変わらずみてえだな。…いや、よく分からねえが、何か変わったか?」
怪訝そうに眉を上げながら、ランサーは最早腐れ縁と言っても過言ではない男に対し、尋ねる。ランサー自身にもよく分からないが、目の前の男は今まで会ってきた
「どうかな?いずれにせよ、君の敵だということには変わりないだろう?」
だが、そんなランサーの質問を誤魔化すような態度にやはり気にくわないものを感じ、
「いや、やっぱ気のせいだわ。相変わらず、気にくわねえ野郎だ。まあ、テメエと戦うのは決定事項だとは思ってたが、その前に…だ。」
ランサーはコンと自分が上にいる塔の鉄板を叩く。すると、その叩いた場所に炎が灯る。その炎はゴオッという音共に一気にランサーとそのマスターを守るように直径6メートルほどの円を描く。
「きゃっ!」
「ちっ!」
シェロたちはその円の中に入らないようにわずかに距離を取る。
そして、シェロの方はそれだけでは足りないことを瞬時に判断し、紗矢華とラ・フォリアのために魔力の防壁を張る。その判断は正しかったようで、ランサーが発生させた炎は塔の周りの鉄板を見る見るうちに焼いていく。
そう。溶かすのではなく、まるで鉄板は
(この熱量…間違いなく魔術などでは再現不可能だ。となると、この炎は…宝具か!しかし、このような効果、あの男の槍にはなかったはずだ。)
たとえ、投擲であれ、刺突であれ、かの槍の効果は【因果逆転】であり、このような直接的な宝具はなかったはずだ。
(いや、待てよ…)
そこである1つの言葉を思い出す。ほんの些細な言葉ではあったものの僅かに違和感を感じた言葉。
『その…日本でもよく聞く名前なんだけど、クーフーリンって一体どういう英雄なの?』
そうだ。彼女は紗矢華はそう言っていた。『クーフーリン』をよく聞く名だと…更に、この地はすでに魔術が変質し、魔術の認識もあるということは当然、ケルト神話についての理解も豊富になるはず…更にこの今の世は神秘に溢れすぎている。そんな世界でこの男が召喚された。それは何を表すか?
そう。それは英雄クーフーリンの真の実力を出せる場が整ったということに他ならない。
(今までの戦闘経験はなかったものだと思え!今この場にいるランサーは間違いなく…)
キッと目の前の太陽の如き炎の嵐を見ながらも干将、莫耶を投影し、構える。
(ケルト神話最大最強の英雄。クーフーリンだ!)
しばらくして、炎の嵐は止み、その奥に影が浮かぶ。
「っ!?」
その光景にアーチャーは絶句する。そこには1つの戦車があった。
一頭は灰色の、もう一頭は黒の体毛をした身の丈2メートルの馬が全身に画鋲を装備させ、まるで幽鬼のように立ちつくし、御者を引く二本の長い
「【ルーの光輪】…か」
その陽光の車輪はクーフーリンさえ阻んだ影の国の底無し沼すらたちまち干上がらせ、
呟いたつもりでも聞こえていたようでランサーはその御者にマスターを乗せながらもアーチャーの方を振り向く。
「ほう。流石に気づくか。そうだ。こいつは俺の親父殿が俺を導くためにくれた車輪【ルーの光輪】。そして、この我が戦車の真名は…」
ランサーが手綱を力強く握りしめる。そして、思い切り引き上げ…
「【
瞬間、二頭の馬は嘶き、二頭とも両前脚を天高く上げる。そして、再びその蹄がが鉄板に着いた時、またも熱風と共に炎が吹き上がる。
「ぬっ!」
アーチャーが目を細め、手を前に出して防御する。そして、次の瞬間、またもアーチャーたちは絶句する。
「なっ!?」
「こ、これは!?」
「嘘でしょ!?」
波朧院フェスタとはハロウィンを文字っていることから分かる通り、夜に開かれる祭りである。間違っても、昼などに開催されるものではない。
だが、それならば、どういうことだ!今、一面に広がっているまばゆいばかりの蒼天は!?
だが、シロウは持ち前の洞察力と経験からこのあまりの事態に対し、即座に冷静さを取り戻し、自前の理論を構築する。
「…そうか。【ルーの光輪】自体にそのような効果があるわけではなく、その【ルーの光輪】が外に出ている時は
「「なっ!?」」
ルーの光輪は先ほども言った通り、影の国に行こうとしたクーフーリンはその途中で底無し沼に阻まれてしまった。全知全能の太陽神ルーはそんなクーフーリンを
これは逆に言ってしまえば、こうも言える。ルーの光輪が世に放たれた時、『太陽神ルーはいつもクーフーリンを見ている』と…
無茶苦茶なようだが、一応の筋は通っているのだ。
だからこそ、今、夜になっているこの時間帯でありながら、太陽が燦々とこの絃神島を照らし続けているのだ。
「その通りだ。アーチャー。この戦場、この時にて今、この島は我が父太陽神ルーの庇護下になった。覚悟しろよ。テメエ…」
一際、猛犬を思わせるような鋭い瞳でアーチャーを睨めつけ、ランサーは宣言する。
「…本物の戦ってモンを見せてやる!!」
魔槍を構え、その背後から後光のように
対するアーチャーはまるで、矮小な影のようだ。この日輪を相手するにはあまりに弱くか細い影にしか見えない…だが、そんな状況下にありながら、この男は全く焦らず、むしろ余裕すらある笑顔を相手に見せる。
「いいだろう…」
すると、少しして彼自身もまた炎に包まれていった。太陽の炎に比べ、その脆弱さは見るにも値しないと言っていいのかもしれない。だが、クーフーリンはその炎から一瞬たりとも目を逸らさなかった。
少しして、炎が収まっていく。そこには先ほどの少年はもう立っていなかった。立っていたのは黒いプレートアーマーと黒いパンツそして、赤い外套を下の部分だけ身に纏い、髪を下ろした男が立っていた。男の身長は180以上。それだけでも驚くべき変化と言えようが、問題は纏っている力だ。
その身体に満ち満ちている魔力。それは最早、先ほどの少年などとは比べものにならないほどにまで高められている。その場にいる全ての者たちが悟った。この男もまた、目の前の太陽神の息子と同様、別格の存在なのだと…
「来るがいい。ランサー。俺の全力も君にぶつけるとしよう。」
一際低い声となった男は宣言する。
人智を超えた天地を揺るがす神域の戦いが今、始まる。
な、長え。予想以上に長え。自分で書いといてなんだけど、この回でランサーとアーチャー戦う予定だったのに、あまりに長かったから、流石にここで切るべきだろうと考えてしまった。
…まずいな。皆さんにバッシング受けなければいいけど…次の話こそ!今度こそ!ランサーvsアーチャーにしてみせます。
っていうか、自分的にヘラクレスとアーサー王に並ぶ大英雄っていうことを考えると、どうしてもこれぐらい強くなるんじゃないか?という結果になっちゃったんですけど…みんなこれくらいでいいですかね?
なんか、もう、ギルガメッシュとも対等以上に戦えそうな感じになっちゃったけど…
それと、戦車の宝具についてなにか文句がある方は違う名前と共に提供お願いします。っていうか、こうなると、城壁の宝具も考えなきゃいけないんだけど、全くもって思いつかん。誰か、そこらへんの伝承に詳しい人。プリーズギブミー!!