ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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天使炎上 VI

「はぁ…くっ!」

 

今日1日雪菜たちの目の前では大丈夫なフリをしていたが、魔力の供給量がすでに限界に達していたシロウは木を背に座り込む。体が何か地面に縛り付けられてるかのように動作一つ一つを取るごとに文字通り魂がすり減るようだ。それもそうである。今尚、シロウと夏音のリンクは薄れ続け、かなりの霊格の劣化、弱体化が加速度的に進んでいるのである。

食事を取り、その中でも生肝は残らず自分の体内へと打ち込んだはずだが、そんなものは現在最強クラスと言っても過言ではない状態で召喚された彼にとってスズメの涙と言っても足りないほど極微小な魔力に過ぎない。

 

「まずい…な。コレは想像以上に…」

 

身体が動かないワケではなくてもここまで劣化されている状況で果たして、成長し続け、天使へと至ろうとしている彼女のことを戦うないし、助けられるなどという芸当ができるのだろうか?

 

「正直言って、無茶が過ぎるな。万全でなかろうが、劣化しなければ普通に問題なかった相手だったというのにな…だが、」

 

やらねばならない。このまま、古城たちに全てを任せるなど、英雄としてのプライドというものが今は(・・)存在しているシロウにとって、譲れないものであった。

 

「とはいえ、このままでは…ん?」

 

とそこである事柄に気がついた。シェルターの方に存在していた古城の魔力が移動を始めている。元々、雪菜が出て行ったことを確認した後、シロウはシェルターを出たので雪菜が居なくなるのは分かるが、古城が出て行く意味は分からない。というよりも、古城とは自分と同じ匂いを感じるため女性が移動しているときは移動しないのが賢明だと考えるのだが…

 

「やれやれ、仕方ない。」

 

とりあえず、古城が移動しようとしている先に向かい、そこから考えよう。そこからでも間に合うはずだ。

 

ーーーーーーー

 

「っ!?ぐっ!」

(ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイ!)

 

半裸の美しい女性の憂い顔など見せられた暁にはさすがに欲情しないほうがおかしい。鼻を押さえ、古城は悶えながら下を見る。

 

「ふぅ、と、そうだ。さっきの女は?」

 

自分の鼻血を飲み込んでなんとか吸血衝動を抑えまた、湖の方を見つめ直す。だが…

 

「いねえ…」

 

すでにそこには人の影一つ落ちておらず、ただ湖の表面が意味ありげに波紋を揺らすだけだった。

 

「一体、どこ、に!!?」

「動かないでください!」

 

最後の方の声が引きつったのは古城の顔の横に銀色の刃が当てがわれたからである。その銀刃はもう飽きるほど見ている上に、その声を聞き間違えるはずなどないので、それを持っているのが誰なのかすぐにわかった。

そして、その刃先と足元に見える足を見てどういう状況なのか大体理解できる。振り返りながら言葉を紡ぐ。

 

「ひ、姫柊?なんだ?もしかして姫柊も水浴びしてたのか?」

「今、振り返らないでください!振り返ったら本気で怒ります!…というか、も?まあ、はい。汗を流してしまったのでちょっと洗い流したいなと思って…」

「だったら、言ってくれればよかったのに…」

 

そうすれば、別に詮索する必要などなく自分はシェルターの方で待っていただろうにと、古城の方は思っていたのに対して、姫柊の認識は違った。

 

「いえば、確実に覗きに来るじゃないですか!?現にこうして…」

「別に姫柊の身体なんて覗きに行かねえよ!」

 

ここにシェロがいたのならばなんて失言を…とあきれ返るだろう。

 

「私の身体なんて(・・・・・)ですか?…そうですか。」

「ひ、姫柊?」

 

わずかに感じる怒気に背中の方から寒気を感じ、足が棒になるような感触を感じる。

だが、一方の雪菜は古城の手にある血の跡を見て、また疑いの目を強くし、今度は質問の切り口を変える。

 

「では、先輩は一体何をしていたんですか?まさか、誰もいなかったのに欲情してしまったなんて言いませんよね?」

「い、いや、それはその…」

 

その鋭い質問に対して言葉を詰まらせる古城だがやがて諦めたように嘆息し、湖の方を指しながら説明する。

 

「実はさっきまでそこにその…叶瀬がいた気がしたんだ。」

「叶瀬さんが?」

「あ、叶瀬って言ってもなんていうか、その…成長してたっていうか…」

 

それが失言だとも気づかずに言葉を続ける古城。そして、そんな失言を聞いてますます目を冷たく細める雪菜は少しすると嘆息する。

 

「はあ、先輩。そのパーカーをこっちに渡してください。ゆっくりコッチを振り向かないように…」

「ど、どうぞ…」

 

何に使うのか?などという野暮なことは聞かずに自分のパーカーを差し出す古城。数分後、それを股の位置まで伸ばすように着た雪菜が出てきてまたも、欲情しそうになるも槍を突きつけられてそんな気は完璧に失せた。

 

「では、そこに人が通れそうな獣道があります。そこを通って探しに行きましょう。」

 

探しに行くとは、先ほど自分が言った女性のことだろう。その言葉を聞いて古城は驚きを露わにする。

 

「…信じてくれるのか?」

「確かにいやらしい人ですけど、意味のない嘘はつかないって信じてますから!」

 

苦笑と取れなくもない笑顔だったが、古城にはその笑顔がなんだか無性に嬉しくて、わずかに目を背ける。

だからだろうか?徐々に自分の方へと近づいて来ているモーター音を古城はいち早く気づき、その次に雪菜の方も気づき、音のする海岸の方へと近づいて様子を確認する。

鬱蒼と茂っていた木々たちが邪魔するものの、それらを避け、海を見る。見ると、白い小々波をわずかに立てながらこちらに近づいてくるモーターボートがこちらに着岸してきた。

 

「助けに来てくれたのか?」

「いえ!待ってください!先輩…あれは…」

 

その期待を胸に飛び出そうとする古城を手で制する雪菜。

雪菜の視線の先を追い、古城はその通りモーターボートの側面を見つめる。そこには…

 

「メイガスクラフト…!!」

 

どうやら、こちらの島の中を確認。できることなら自分たちを確保する意味合いで兵隊を送り込んだのだろうということは、ガシャガシャと装備品の音を立てながらこちらに近づいてくる集団を見て理解できた。

 

「先輩はここに隠れていてください!」

 

近づいて来たのを確認した雪菜の行動は迅速だった。シュッと兵隊の前に出てきたかと思うと瞬時に間合いを詰め、掌を兵隊に突き出す。

 

(ゆらぎ)よ!」

 

雪菜の祝詞は確実に相手の骨を砕くとは行かずとも、意識は奪うほどのものだった。だが…

 

「え…?」

 

ギギギと妙な音を鳴らしながら兵隊は立ち上がり、再び襲い掛かってくる。その光景を見て、今度は古城の方が飛び出す。

 

「姫柊!!」

 

飛び出した古城の拳は真っ直ぐにその兵隊の内角を抉りこむように顔面にめり込む。だが、またしても兵隊は立ち上がる。

 

「嘘だろう…手加減しなかったぞ!」

 

驚きを隠せず、古城は叫ぶ。だが、そんな時、

 

「せい!!」

 

掛け声とともに勢いよくその兵隊の首を跳び蹴りで飛ばす男がいた。

 

「シ、シェロ!!」

「無事か!」

 

着くと同時にとんでもないことをしたシェロの方は冷静に淡々とこちらの状態の確認をしてきた。

 

「あ、ああ、でもお前今、人を…」

 

そんなシェロの様子に若干の恐怖を抱き、あとずさってしまう古城と雪菜。そして、なぜそんな態度なのか瞬時に理解できたシェロは

 

「戯け!その兵隊の首元をよく見てみろ!」

「「え?」」

 

見ると、その死体?は人間ならば絶対にないであろう火花を散らせながらこちらに首元を晒している。

 

「これって…」

機械人形(オートマタ)です。先輩。」

「そういうことだ。つまり、手加減しなくてもいいというわけだ。では…!待て!!」

 

再度目の前の軍団を前に構え直そうとする二人を手で制するシェロ。一体どうしたのかと疑問に思う両者だったが、すぐにその疑問はつゆと消える。突如として巨大な光が目の前の機械人形(オートマタ)の軍団が文字通り一掃された。

その攻撃が来たであろう方角を見つめる三者。岩でできている谷の頂上に位置するそこには銀色の髪とエメラルド色の眼を携えて社交服とでもいうべきなのだろうかそんな仰々しくも不思議と周りを安心させるような服を身に付けてその女性はこちらに語りかける。

 

「こちらへ!早く!」

 

そう言うと彼女は岩影へと隠れるように去っていく。その後ろ姿を見つめながら古城は

 

「あれは…」

 

見覚えがあるその人影に多少の驚きを滲ませて呆気に取られるばかりだった。

 

ーーーーーーー

 

「はじめまして、私はラフォリア=リハヴァイン。はじめまして。暁古城。」

「え?」

「暁古城なのでしょう。日本に生まれた世界最強の真祖・第四真祖の…」

 

違いましたか?と小首を傾げるラフォリアと名乗った女性を古城はまたも呆気に取られるように見つめるのとは、対照的にシェロはその双眸を鋭くした。

 

「…その名前…なるほど、古城の実態を知っているのも頷けるな。で、そんな君がこんなところにいて、夏音とそこまで似た顔立ちを見る限り、どうやら夏音と君は何かしら深い繋がりがあると予想するがどうなんだ?」

 

シェロのそんな言葉に対し、今度はラフォリアの方が驚愕する番となってしまい、呆気に取られる。

 

「その通りですが、あの…」

「おっと、失礼した。俺の名前はシェロ=アーチャー。そこの二人の付き添いで…そうだな。夏音とは5年ほどの付き合いになるものだ。」

「って、ちょっと待て!色々驚きすぎて聞き逃しちまったけど、夏音とそのラフォリアって人に深い繋がりがあるって…」

 

慌てた調子で質問をしようとする古城の口元にシェロはシッと人差し指を突き出し、静かにするように促す。

 

「増援部隊のようだな。全く、面倒な…」

「えっ?」

 

シェロが見ている海岸の先を見ながら、移動し海岸の近くの草むらに身を隠す形で様子を窺うとそこには先程と同じように着岸してくる一つの軍用モーターボートがあった。今度もまた機械人形(オートマタ)なんだろうが、それにしては何か人間くさい動きを連想させるものがいくつもあった。

 

「ふむ、では撃破してこい!古城。」

「は?なんで、俺が!?」

「どうせ、その無駄に有り余った魔力使い所が無かったのだろう?ここで一気に発散させておけ!どの道、ここに留まろうが、留まるまいが戦うことになるのはほぼ確実なわけだしな。」

「いや、それは確かにそうなのかもだけどよ…」

 

まだちょっと不満が募っているのだろう。古城は言葉を濁らせる。

 

「グダグダ言うな!行ってこい!」

 

ドカッと草むらからシェロが古城を蹴りだす。

 

「ちょ、待っ!?」

 

動体反応を捉えた機械人形(オートマタ)が古城の方へと振り向く。

そして、彼らが携えた機関銃を一斉に自分の方に向けてくる。

 

「やべっ!」

 

すぐさま雷壁を自分の目の前に展開し、その銃弾を防ぐ。

 

「っ!シェロのヤツ後で覚えてろよ!疾く在れ(きやがれ)獅子の黄金(レグルス アウルム)!!」

 

雷そのものである黄金の獅子が中空に召喚される。獅子は召喚主の呼びかけとともに機械人形(オートマタ)の軍隊へと顔を向け、そこへと突進する。たった、それだけの行動で機械人形(オートマタ)たちはまるで紙細工のように吹き飛んで行き、再び夜の海岸を静寂が覆う。

 

「ふぅ…」

 

一息ついたところで先程の友人の行為を思い返して、怒りがぶり返し、思い切りシェロの方へと振り返る。

だが、そんな怒りの感情を遮るような返しをするように賞賛の声が響く。

 

「見事です。暁古城。今のは獅子の黄金(レグルス アウルム)。アヴローラ=フロレスティーナの5番目の眷獣ですね。」

「そうだった。あんたとの話が途中だったな。えっと、確か…」

「アルディギア王国ルーカス=リハヴァインが長女。ラ・フォリア=リハヴァイン。アルディギア王国で王女の立場にあるものです。」

 

どこまでも透き通るような瞳から繰り出される笑顔を見て、ようやく、ハッとしたように雪菜はその顔を強張らせた。

 

ーーーーーーー

 

「それで、えーと…一応、この場合だと姫様とかつけたほうがいいのか?」

 

一応、当然の返しをしたはずの古城だが、そんな古城の反応を見てラ・フォリアはわずかにムッとした表情を浮かばせる。

 

「いいえ、ラフォリアと。姫様や殿下、ラ・フォリア様などもう飽き飽きでせめて異国の友人くらいには名前で呼んでもらいたいのです。あなたたちもですよ?雪菜、シェロ。」

「ですが、立場というものがございます。ラ・フォリア殿下。私は第四真祖の監視役を担っている姫柊雪菜と申します。それで…」

「ですから、ラフォリアと!もう…あ、そうです。ここは日本らしいあだ名ならどうでしょうか?例えば、そうです。フォリりんと…どうです?私、日本の文化にも詳しいんですよ!」

 

何故だか胸を張りながら答えてくる某王女の様子を見てこれはだめだ、と悟った雪菜は心の中で手を挙げ

 

「…失礼ながら、御名で呼ばせていただきます。では、ラ・フォリア。」

「やれやれ、では、俺もそう呼ばせてもらおう。ラ・フォリア。」

 

シェロの方はどこか懐かしいようなものを感じるような感慨にふけるような眼差しをした後、肩を竦めながら返した。

 

『止めてくれないかしら。私、そういうのは配下の者に聞かせられ慣れてるの。』

 

かつて、ある古城で出会った黒い髪の女吸血鬼であり実質的な死徒の王とその姿がわずかに被ったのはあの娘と似た雰囲気のあるお転婆さ故か…まあ、そんなことを置いておくとして、

 

「それで、君がメイガスクラフトに襲われたというのは事実か?ラ・フォリア?」

「ええ。本当です。」

「そりゃ、なんでまた?」

 

古城のその質問に対し、ラ・フォリアはわずかに顔を背ける。

 

「彼らの目的はアルディギア王家の体…血筋です。」

「血筋?」

「なるほど。そういうことか…」

 

古城とは対照的にシェロはどこか得心がいったように頷く。

 

「シェロさん。あの、アレだけでわかったんですか?」

「まあな。元々、おかしいとは思ってたからな。人間があれほどの神秘を纏うためには何かしらの儀式とそして優れた才能がなければまず無理だ。

まあ、それ以外でも不可能でないことはないが…ともかく、俺はアレが元々、霊的進化を自発的に促すための儀式だと予想していた。その予想であっているのかな?」

「…驚きました。そこまで理解されているとは…その通りです。」

 

見開いた目でマジマジとシェロを観察した後、話を続けていくラ・フォリア。

 

「叶瀬夏音の父である叶瀬賢正はその昔、アルディギア王国にて宮廷魔道技師を務めるほどの者でした。彼はアルディギア王国を出るとき、一つのアルディギアに伝わる禁忌を持ち出した。名を…模造天使(エンジェル フォウ)。」

「模造天使…とはよく言ったものだ。ま、アレを見させられれば、嫌でも信じられると言うものだが…その前に聞いておきたいことがある。」

「そうだ。叶瀬とあんたに深い繋がりがあるというのはどういう訳なんだ?なんで、そこまで、似てる?」

 

その言葉に対し、今度は一拍子呼吸をして、間を置きながら言葉を紡ぐ。

 

「彼女の本当の父親は私の祖父です。20年前、祖父がアルディギア王家に仕える日本人と道ならぬ関係になりその末に産まれたのが叶瀬夏音なのです。」

「ほう。つまり、夏音は君の…」

「叔母ということになりますね。血縁上は…」

 

クスリっと笑いながら返すラ・フォリアを見て、ずいぶん立派な皇女様だとシェロは内心感心した。生前、王国の危機とやらにも何度か直面したことがあるシェロは色々な姫を見てきた。ラ・フォリアのように常に立ち振る舞いを疎かにしない姫もいれば、権力などをやたらと大事に思い、周りの敵を全員仕留めなければ気が済まないような飛んだ狸姫もいたものだ。

だからこそ、そういうモノを見てきたシェロは、ラ・フォリアの立ち振る舞いに嘘がないことを理解し、非常に感心した訳である。

 

「最近になって彼女の存在が明らかになり、王国はパニックに陥りました。特に彼女が叶瀬賢正の養子になったということが明らかになり、事態は急を要する事態となりました。」

「だろうな。模造天使(エンジェル フォウ)とやらが霊格的に別次元に進化させるほどの儀式となれば、宮廷魔道技師ほどの技術力を持つ者がもしもそのような禁忌を持ち出して出て行ったとしたら確実にそれを行うだろうということは容易に想像できる訳だしな。」

「まさか…自分の娘をそんな実験に利用したっていうのかよ?」

「いえ、先輩。この場合、おそらくは逆です。」

 

逆?と問い返してくる古城を見ながら、雪菜は深い息を吐き残酷なことを告げるように目を半目にし、

 

「養子にした後、その儀式に利用しようと考えたのではなく、」

「儀式に利用するために養子にしたって言うのかよ…」

 

その言葉を聞き、古城は怒りを露わにする。当然だ。つまり、利用するためだけに人の娘をさらい、実験台にしようとしていると言うのだから…

だが、そんな言葉をたった一人の男は否定する。

 

「さて、それはどうだろうな。」

 

そんなことを言い出した男シェロに一斉に三者三様の視線が届く。

 

「それはどういう意味ですか?」

 

雪菜の質問に対し、瞑目しながらシェロは答える。

 

「俺は少なくとも人よりかは人を見る目があるつもりだ。あの男と夏音とは長い付き合いだったおかげでよく会うことがあったからな。そのおかげで為人を見ることができた。だから、正直な話、あの男が利用するために夏音を養子に取るような人間には見えなかった。」

「でも、実際、こんな事態になってんじゃねえか!」

 

声を荒げる古城に対してもただ、ただ諭すように語りかけるように返すシェロ。

 

「ああいうタイプの男はな古城。精神的な幸せよりも、理論的な幸せを優先する傾向にあるものだ。」

「?どういう意味ですか?」

「例えば、姫柊、お前は今、何か美味しいものを食べたとする。すると、少なからず、幸せだと思うはずだ。だが、あの男はそういう食べてから美味しいと感じれるのが重要だとは思わず、例えば、栄養値、旨味、そういった理論的なものが揃いに揃ったところでこれは美味しいだろう(・・・・・・・・・・)と勝手に考えて、客に出して満足する。いわば、自己陶酔で満足する料理人のようなものだ。それがどんな味がするかなど食べてみなければ分からないというのにな…」

「なるほど…」

「確かに、それならば説明がつきます。でも…それはどの道…」

「えっと、それって結局どういう意味なんだよ?」

 

一人だけ理解が遅れている古城を見て、雪菜はフォローするように耳に口を近づけ

 

「つまり、叶瀬賢正は夏音さんを天使にすることこそが娘の幸せだと、そう考えていると言いたい訳です。」

「なっ!?」

 

絶句するのも無理はない。そんなものが幸せかどうかなんて本人が感じてみるまで分からないというのに…

 

「まあ、あくまで予想だ。後は本人に聞いた方が早いだろう。ちょうど、この島に来たようだからな。」

「えっ?」

 

シェロの言葉に驚きの声をわずかに上げる雪菜。だが、耳を澄ませれば聞こえてくる。あのモーターボートの音が…

 

「さて、では行こうか。真実とやらを知るためにな。」

 


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