ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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ちょっと早足にしました。いやだって、この回結構楽しみにしてた分なんだか早くクライマックスに行きたいなという一念もありましたが、なんというかそこまで伸ばさなくてもいいところだろうとも思いましたので…


天使炎上 III

「悪いな。ありがとう。」

 

同級生の男に頼んでいた猫の引き取りを行ってもらい、最後の猫を引き取ってもらい、古城は後ろの方にいる雪菜たちの方へと振り返った。

 

「お疲れだな。古城。」

「ああ。これで全部だよな?」

「はい。あとは、この最後の子を渡せば…」

「最後!?」

「しっ!先輩静かにしてください!」

 

叱責されながらも、驚いて夏音の手元を見る。見ると、先ほどまでいなかったはずの子猫が彼女の腕の中で眠っていた。

そのことに気づいた古城は軽く嘆息し、尋ねる。

 

「また拾ってきたのかよ」

「すまないな。夏音はどうしてもこういうことが許せないタチでな…もう十分手伝ってもらったし、別に帰ってもらって構わないが…」

 

なぜだろう?人間こう言われたときこそ逆に残らなきゃダメだ。みたいな空気になるのは…

 

「冗談。ここまで付き合ったんだ。最後まで付き合うさ。」

「そうか。」

「ありがとうございます。お兄さん。」

「お、おう…」

 

まだ彼女の美貌と仕草になれない点があるのか古城は圧倒されたようにわずかに後ずさりする。すると、背中に何か曲がった鋼のような感触が突き刺さる。

 

「と、悪い…って、那月ちゃん!?」

 

と古城が入った瞬間、幼い容貌ながら威厳を感じさせる立ち振る舞いで古城の頭を扇子の先で撃ち抜く那月。

 

「いて!」

「担任教師をちゃん付けで呼ぶな!ところで、知っているか暁古城?校舎内は原則動物を連れ運ぶのは禁止だ。」

 

うぐっとそれを聞いた瞬間、古城の喉が詰まる。

そして、那月はその反応を待っていたとでも言わんばかりに顔に嫌な笑みを貼り付け、

 

「黙認してやってもいいが、そのためには一つ条件がある。」

「条件?」

 

首をかしげる古城に対して、その背後にいたシェロは目を鋭くする。

 

(そろそろ来るだろうと思っていたが、まさかこんなに早くとはな…いや、むしろ遅いか…どちらにしろ、今日動き出すのならば早いうちに行動しておくことに越したことはないな)

 

古城が那月に連れられながら密談をしているのを横目に密かに今日どう行動すべきか考えるシェロだった。

 

ーーーーーーー

 

「やれやれ、随分派手なことをする。」

 

夜、古城たちを追跡しながら、古城から2キロほど離れた位置で観察をしているシロウはやけに賑やかな下の街の風景を見る。

街中では祭りが開催されているようで、大勢の人間で賑わっている。だが、シロウはそもそも今日(・・)、祭りが開催されるなど聞いたことがない。

 

「おそらく、賑やかであるぶんならばそこまで騒音が気にならないだろうという配慮からなのだろうが、しかし、ここまでするとはな…」

 

呆れ半分であったシロウではあったが、そんな言葉とは裏腹にその表情は厳しいものとなっている。なぜなら、この賑やかさは裏を返せば、ここまでしなければならないほど今回の事件が結構な騒動となっていることを如実に示している。

そして少しすると、ことが起きた。

いきなり花火が上がり爆音が辺りに木霊する。

その瞬間、何か二つの光が衝突しあってるような光景が鉄骨だけで出来上がった電波塔を中央に繰り広げられている。

そして、今まで否定したかった予想が絶望的なまでに的中したような背筋が凍るような感覚が彼を襲った。

 

(…やはりそうなのか。)

 

その光から確かに感じる自分とのリンク(・・・・・・・)。それはいつも彼女が感じるかどうか分からないほどに薄くしていたはずなのにこんな時だけハッキリ感じてしまう。本当に残酷なほどにハッキリと…

古城たちが那月の瞬間移動で電波塔に移動したことを確認したシロウはビルからその身を投げ出すように跳躍する。

そして、また電波塔から今度は300メートルほど離れた位置から観察する。

一挙手一投足まで隅々と…

 

 

しばらく古城とその光…厳密には二人の羽が生えたなにか(・・・)の戦闘を眺めていると、やや押され気味になっているのが感じられた。

 

(なるほどな…俺たちが現世の科学的な攻撃や干渉を受けないように…彼女たちは現世のあらゆる事象から外れた存在になることで攻撃を無効化しているわけか。)

 

つまり、実質上攻撃の無力化という点においてだけ言うのであれば英霊を超えているということ。普通の攻撃で彼女たちを攻撃することは不可能。

 

「攻撃する手段がないわけではないが、今はすべきではない。待つんだ。彼女たちの戦闘が終わりここから離脱するまで」

 

辛抱強く待ち続けること数分、ようやく一方の天使が戦闘を終わらせる。もう一方は激しく暴れて抵抗するが我関せずとばかりに人の腎臓辺りの位置を取る部位に歯を立てる。

バチュルッという水っぽい、いやな音ともに咀嚼するその彼女の顔は見覚えがありすぎるものだった。

 

「…っ!?夏音!?」

 

予想はしていても驚愕を隠しきれるようなものではないその光景を前にし、さしものシロウも絶句する。電波塔の方では何やら古城たちが叫んでいるが聞こえない。それほどの衝撃が彼の元には来ていた。

そして、彼女が役目を終えそこから離脱しようした時、

 

「待て!!」

 

シロウはそう叫んでビルから飛び出そうとする。だが…

 

「ぐっ!?」

 

突如としてまた襲ってきた不快な浮遊感。地面に足をつけることすら難しいような状況に追い込まれたシロウはその場に座り込んでしまう。

 

(なん…だ?これは?一体何がどうなって…まさか!)

 

そこでようやく答えに至る。

今自分が見た彼女の姿。あれは世辞でもなんでもなく天使そのものだったろう。天使とは神の御使として天界から常時力が譲渡されるような状態になることで下界において活動している。

そう。そのあり方はまるでマスターとつながることで現界するサーヴァントのように…

今までは夏音が霊的な進化を進めるたびに不定期で不調が起こった。

だが、今回のものはおそらく決定的なものだったのだろう。確実な霊的な進化は彼女を確実に英霊に近い存在に押し上げている。それも天界から力を譲渡され続け、それをフルに使って力を体現し、戦闘を行っていた。

そんな彼女に自分に魔力を回すような許容があっただろうか?

見たところ無意識化というよりも理性をなくしている彼女にそんなことができるような配慮があるとは思えない。

 

つまるところ何が言いたいかというと、今の状態はサーヴァントがサーヴァントを召喚しているようなものなのである。

そんな状態で夏音の魔力を使って現界しているシロウが上手く力を出せるかと言えば答えは否だ。

 

「か…夏音!」

 

鉄のような感情を窺わせない表情をした彼女は後ろで兄とも呼べる男が悲痛な面持ちで見つめていることに気づく様子はなく、ただただ機械的に元いた場所へと戻るのだった。

 

ーーーーーーー

 

「っ!まずいな…」

 

朝、ベッドから起きて、改めて自分の状態を確認するシロウ。その悲惨な状態に思わず喉を唸らせてしまう。端的に言ってしまうと著しい魔力不足によって今にも現界が解けそうなほど彼は弱っていた。

先ほど彼はベッドから身体を起こした、と言ったがそもそも彼にとって睡眠とは今では興味半分でする趣味のようなものであった。だが、今回の彼は違う。睡眠を取らなければとてもじゃないが身体を起こし続けられるような状態ではなかった。

本来、彼が持っている単独行動のスキルも、今までずっと夏音とのリンクを薄くするために併用し続けたために今の彼は他のサーヴァントと同様の現界能力しか持ち合わせていない。

 

「こんなところでその弊害が出てくるとはな…これだったらもう少し夏音とのリンクを強めるべきだったか?」

 

息切れをしながらも思考を繰り返すシロウ。

 

「しかし、こういう経験はそこまでなかったから新鮮だと思っていたが、感じてみると相当苦痛だな…これは…つまり、こんな思いを彼女にずっとさせ続けていたということか…あの時の俺は」

 

そう言って、考えるのはかつての自分の相棒であり、自分の愛する女性でもある彼女(・・)だ。生前、自分を守るために彼女は聖剣を無理矢理解放したがためにとてつもなく不安定な状態に陥り、現界が不可能かもしれないという状況にまで追い詰められていた。

その時のことを思い出して、改めてあの時の自分の未熟さに自己嫌悪気味の感情を窺わせるが、今はそんなことを考えるべきではない。何よりも自分のマスターのことを考え、そして、救出することこそ彼の今の使命である。

 

なぜなら、今から彼女が行こうとしている場所に彼は絶対に行かせたくないと考えたために…

 

そう考え、自分の手がわずかに薄くなったような光景を目にした気がしたがそれをごまかすかのようにグッと手を握る。

 

ーーーーーーー

 

「やはり彼らも気づいていたか。」

 

学校についた彼はまず、昨日あの現場にいた雪菜たちの追跡だ。

詳しくは聞けなかっもののあの時、古城が叫んだのは何か気づいたものであるような気がしたからであるというのが理由のうちの一つ。

そして、もう一つはあんな事件を見た後で彼らがおとなしく引っ込むような玉にも思えなかったというのが二つ目の理由だ。

 

学校を抜け出した彼らの後を追い、シロウも学校を抜け出す。そうして、彼らがたどり着いたのは機械人形(オートマタ)の製造で有名な企業ともなっている場所でそこは…

 

「夏音の実家か。妥当ではあるが、ここまで堂々とはな…」

 

キナ臭い話には大抵侵入という手段を使ってきたシロウにとって考えられないことではあったが、そこはまあ、いい。

今回のことは他人に任せていい案件ではないし、どうせ遅かれ早かれだと考えたシロウ。だからシロウは

 

「何をしているんだ。二人とも」

 

ついにその二つの背中に声をかけたのである。


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