ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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ようやく、天使炎上篇だ。
いや、本当になんか長かった。
ではどうぞ!
あと、すみません!夏音の天使化について色々意見がございましたが、結局、気づかなかったということにした方が後々のためになると考えたので、そうさせていただきました!
ごめんなさい!


天使炎上
天使炎上 I


「ハァ…だる…」

 

そう呟いて、D種である彼女はある王国の専用機【ランバルディア】を歩いていく。その歩く間には、剣を抱えながら、わずかに息を続けている男たちがいた。誰も彼もが虫の息と言っていいほど衰弱し、今にも事切れそうになっていた。

だが、そんな悲惨な状況を目にしても、彼女はただひたすら、疲れたようにつぶやき、飛行船の開かれた天蓋から覗かれる夜空を眺めた。

 

「貴様!この飛空船が我らアルディギア王国専用機【ランバルディア】と知っての狼藉か!!」

 

だが、そんな彼女の背後から声をかけてくる一人の男の声に対しても彼女はまた非常に怠そうにため息を一つし、向き合う。

 

「だから、あんたらが後生大事に護送している腐れビッチの小娘を引き渡せっつってんでしょ?そうすれば、ラクーに…殺してあげるから!!」

 

瞬間、彼女の手元に槍が突如として現れ、その槍の穂先が分かれ、男を攻撃していく。その高速に分かれていく穂先による攻撃を彼が構えた剣が突如ととして光りだすと、それを全て弾く。

予想外というわけではないが、仕留められなかったことに対して軽く舌打ちすると、軽く半歩下がりながら再度構え直す。

 

「へぇ…それがアルディギア王国の疑似聖剣。大したもんね」

 

舌なめずりするように男を睥睨した後、彼女はまた攻撃を再開しようとしたが、そこに後ろからある一人の獣人種が出てくる。

 

「BBダメだ。どうやら逃げられたみたいだ。脱出艇が一つ空だ。」

「ちっ!逃げられたか。逃げ足の速い雌ブタだこと…」

 

そう言うと、もはやこの船には用はないという風に自分に対してにらみを利かせていた男から完璧に興味を失い、踵を返す。だが、それを騎士が許すわけがない。

 

「貴様らに!あの方を追わせはしない!はあああ!!」

 

気合い一閃で振り抜き、聖剣の光は魔族の生存を許さず、確実に断罪するはずだった。だが、その攻撃を彼らは軽々と避け、男の背後に着地した。

 

「ソレ、威力は大した物だわ。…けど、残念だったわね。」

 

彼女は何かリモコンらしきものを手に取り、わずかに操作する。すると、そのリモコンがどこかに命令を届かせたのだろう。突如として夜空の闇は太陽のような光に包まれる。

 

「この聖光は…まさか!」

「あんたの相手は魔族じゃない…」

 

魔族の女が告げた言葉に果たして男は気づいたのか…だが、彼はどのみち自分の中で答えを得た。

 

「天使!?」

 

そう呟くとと同時に、彼の姿はこの世ならざる光に包まれた。

そして、その光が終わるとそこには何も残らず、ただ兵士が苦悶の声を漏らしながらかしずくように跪き、倒れていた。

 

ーーーーーーー

 

「んん、ふぁぁあ…」

 

第四真祖である古城にとって朝早起きするということは正に至難の技である。彼は起きはしたものの、中々自分のベッドから抜け出せずにいた。

 

「古城くん先行くからね!遅れないでよ!!」

「おぅ…」

 

部屋越しから聞こえてくる自分の妹の声も何処か気だる気にに受け流し、なんとか身体を起こそうとする。だが、身体は重力に逆らえずそのままベッドから墜落した。

 

「ぐおっ!?」

 

軽く悶絶した後、完璧に目が覚めた古城はようやく頭を覚醒させる。その際に、左手で目をこすると、妙な紋章が目に入った。

 

(…結局、これはなんなんだろうな?)

 

基本、面倒ごとお断りのこの男はほとんどの場合、まずポジティブな思考である程度のことはごまかす悪癖がある。だから、この左手にある龍の牙のような紋章も最初は初めて眷獣を扱うことができた証明なのかと思い、特に意識しなかった。だが、だんだんそうじゃない気がしてきた。

はっきりそう感じたのはあの戦闘狂『ディミトリエ=ヴァトラー』と出会った際だった。そのとき、古城はヴァトラーの左手と右手両方を見たが、そんな紋章はなかった。それに後で古城も考えたが、そもそもの前提条件として何かおかしい。もしも、眷獣を初めて扱った証明だというのなら、それこそ今の教科書にでも確実に書かれていそうなものである。

だが、そんな事実はない…それはおかしい。なぜなら、人間にとって魔族は敵。この価値観は近年ではそこまで意識されないものだが、彼ら人類にとってはそれは根強いものとなっている。

ならば、彼らと人間を見分ける方法はそれこそ多い方が絶対にいい。

つまり、もし古城の推察が正しければ、絶対に教科書に書かれているはずなのである。だが、ない。

 

「はぁ…なんつーか。絶対にまた面倒ごとのような気がするな…」

 

勘弁してほしいぜ、と独りごちながら、朝食をかきこむように平らげ古城は制服を着始める。いつものように日除けのために厚ぼったいパーカーを着て部屋を出ようとし

 

「おはようございます!マスター!今朝はなんともいい天気ですね!!」

 

そして、即座に閉めた。それはもう、バン、と扉が壊れかねないような衝撃で思い切り…

待て。待て待て待て待て!何だこの状況は!?

一旦冷静になろう…まず、俺はいつものように凪沙の作ってくれた朝飯を即平らげて、制服を着てそして家に出ようとした。そう。もしも、姫柊が待っているというのならばわかる。自分は彼女の監視対象なワケだし…

なら!一体全体どうして!?俺の目の前に鎧を着た男が朝の挨拶を自分の家の前で爽やかに、そう実に爽やかにしてくる、などという珍事態に巻き込まれなければならないのだろうか!

恐る恐る、また扉を開け確認してみる。すると、やっぱりそこには鎧の男が突っ立ってニコニコと聖者のような笑みを浮かべている。

その笑みは不思議と見るものを安心させ、心を安らがせる。だから、古城もフリーズしかけた思考を即座に戻すことができた。

 

「あの…あんた、誰だ?」

 

聞いてみる。男はやはりという表情をして古城の目を確認した後、思考するように頭を俯かせる。

 

「やはり、知りませんでしたか…私の存在を…コレはやはり接触するのは避けた方がよろしかったかもしれませんね。いえ、ですが、この前のように争いごとに巻き込まれていくようなマスターに私の存在を知らせず…というのは…」

 

ライダーはブツブツと何ごとか呟く。実は、この男がアーチャーに協定を持ちかけたとき言ったように、この男に当初はマスターと接触しようという気は起こっていなかった。

だが、この男、遠目ながら一応マスターの身辺を観察していたのである。それがサーヴァントとしてやるべき責務だと考えるため。

すると、どうだろう?自分のマスターには何か特異点染みた悪運でも存在しているのではなかろうかというほどにみるみるうちに何だか厄介な事件にこのマスターは巻き込まれていくではないか!

そんなワケで急遽路線を変更。自分の正体を明かし、彼の身辺を警護することこそがサーヴァントとしてすべきことなのではないのかと考えたワケである。

 

「実は…」

 

ライダーが口を開こうとした瞬間、古城の第六感が叫び出す!

まずい。今から言うことは絶対に面倒ごとだ!

 

「悪い!俺、今から学校なんだ!そんじゃ!!」

 

正に疾風。そう呼ぶのがふさわしい(まあ、ライダーにはえらくスローに見えたが)スピードで即座に走り、彼はすぐにエレベーターの中に入ると一階のボタンを押す。

ライダーはしばらく呆気にとられていたが、すぐに思考を正す。

 

(やれやれ、思い切って朝から行動に移そうと思ったのは悪手だったようですね。さて、どうしたものか…)

 

帰ってから説明しようにも、あの様子ではかなり嫌がることまちがいないだろう。確かにマスターであることは間違い無いのだが…アレでは説明したとしても余計な心労を増やすことになるだろう。

 

(いや、思い切って放置した方がいいのかもしれませんね。おそらく、近々、彼の方も存在がバレるでしょうしね。)

 

そう考えたライダーはやはり、遠くから観察することを選ぶこととして、身体を霊体化して姿を消した。

 

ーーーーーーー

 

「はぁ、はあ、はぁ…」

 

古城は肩で必死に息継ぎをしながら、後ろを見る。どうやら追ってきてはいないみたいである。別に人柄を見抜く能力が長けているとかそんなことは全く無い古城ではあるが、そんな古城でも彼はいい人に入る部類なのではないかと思える気配をしていた。そんな彼に対してあんな態度をとったことに対して罪悪感がないワケではないが、それでも厄介ごとは真っ平である。

自分が戦わなければならないなどといった理由があるか、何か訳アリの者がこちらに来て匿わざるをえない状況になったとかならまだしも…そういう類の経験が豊富な古城だからこそ瞬時に理解できた。

アレはそういうの(・・・・・)とは別のヤバさだ。絶対に関わってはいけない。遅いか早いかの違いであったにしても、今関わるのは勘弁だ。ただでさえ監視役が送られたりテロリストと戦ったりで忙しい人生を送っているというのにそれに加えてまたとんでもないものが加わったら冗談でも何でもなくパンクする。

 

「あの人には悪りーけど。やっぱりオレは普通に暮らしたいんだよ…」

 

そうごちながら通学路を歩いていると、見慣れた後輩が後ろから声をかけてきた。その声の主を待って近づいたとき、足並みを揃えて学校へと向かうのだった。

 

ーーーーーーー

 

「っ!…何だ?」

 

グラッと突然体が不快を煽るような浮遊感を感じる。いきなりの異常事態に混乱する頭を何とか立て直そうとする。少しして、彼の頭の謎の浮遊感は消え去る。

シロウはそれに対して頭に疑問符を浮かべる。

 

「おかしい。最近このようなことが多発しているような気がする…」

 

学校の廊下を歩きながら、誰もいないのを見計らってそう呟く。どうも最近、英霊ならば絶対に感じない体調不良らしき現象が多発している。それはおかしい。彼らはそもそも完成された存在なので、絶対にその手の不祥事が起きるなどということはないのだ。

もし起きるとしたら、それはサーヴァントによる攻撃か、或いは…

 

「マスターの体調そのものが著しく変化し、魔力供給そのものが不安定になってきているか…」

 

それはつまり、彼女の身に何かが起きているということに他ならない。

まずいと感じたシロウは教室へ行こうとする足を中学棟の方へと向ける。

 

中学棟についた彼に向けられる視線はひたすらに奇異の目だった。彼が高校生だということもそうだが、それ以上に彼がある一定の分野で有名だったことが影響しているだろう。

ここでの彼の別名は『彩海学園のオカン』。ブラウニーから今度は何だか妙に年齢を喰っていそうなあだ名である。正直勘弁願いたいというのが本音だが…いや、まあ、実際あのときより年齢を喰っているのは事実なのだが(そもそも英霊に年齢なんてあるのか知らないが…)

 

「そんなことを今気にしても仕方がないか。夏音のクラスの方へ急ごう。」

 

そう言ってたどり着いた彼女には暁古城の妹の暁凪沙が夏音の方に話しかけていた。世間ばなしでもしているのだろうと考え、しばらく待っていようと考えていたのだが、こちらに気づいた夏音はすぐにてってッと走りこちらに寄ってくる。

 

「何だ?話はいいのか?夏音。」

「はい。というより、ちょうどシェロさんにも協力してもらおうと思っていた、でした。」

「俺に?何をだ?」

 

首をかしげて尋ねると、彼女はその行為にクスッと微笑を滲ませ諭すように説く。

 

「以前、お話しました。あの猫ちゃんたちのこと、でした。そのことで凪沙ちゃんが協力してくれるということになりまして…」

「ああ、そうか。」

 

そういえば、そんなこともあったと考えたシェロ。

 

「すると、その様子だといくらか目処が立ったのか?」

「はい。凪沙ちゃんが動物好きの友達をいっぱい探して来てくれるって言ってました。」

「そうか、分かった。俺も手伝おう。ところで夏音。」

「はい?」

 

今度は夏音の方が首をかしげる番だ。そういえば、何でシェロさんがこんなところにいるんだろう、と当たり前の疑問を今更ながら浮かべたのである。

 

「その、体の方は大丈夫か?」

 

こんなことを言ったところで、多分きっと本当に悪かったとしても彼女が何と答えるのか分かっている。それでもあくまで正攻法。自分のマスターに対して嘘を吐くというのはもはや、二度と犯したくない禁忌だ。

 

そして、そんなシェロの予想通りの言葉が返ってくる。

 

「はい。大丈夫ですよ。」

 

太陽のような微笑を人間離れした美貌から放つ彼女の顔は何の憂いもなかった。だが、そんな表情を前にしてもシェロはどことなく不憫なものを見るような目で彼女のことを見つめていた。


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