今回でなんと40話目となります!
これも皆様のおかげ。最近全然触れていませんが、お気に入り数も55越えと感謝の極みです。(語彙力)
さて、そんなこんなで続いてきましたが、第四章『犬人の冒険』も今話で最後となります。
他と比べて少ないのですが、そこはご了承をば。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は就活を終わらせてから本文へお進みください。
「霊夢さん、遅いねー……」
「た、確かに………」
博麗神社の縁側、姉弟の二人は博麗神社の主である博麗霊夢をただ待っていた。
魔理沙は「紅魔館から本借りてくるぜ!」と言って颯爽と去っていった。どうせなら自分も一緒に連れて行ってほしかったと姿が見えなくなってしまったころにユウは呟くように思ったのだった。
理沙が淹れた少しぬるくなったお茶を飲み、二人してただ茫然と空を眺めていた。
「……ねえ、ゆう君?」
「なに?」
唐突に理沙が口を開いた。
その様子は、どこか戸惑っているようでなかなか内容を話さない。
やがて、一種の覚悟ができたのか、ぬるいお茶を一気に飲み干した。
「ここに来るまでのこと………本当に、何も覚えてないの?」
「……うん」
「そっか……」
理沙は寂しそうに呟いた。
あの楽しかった日々を、相手が全く覚えていないとなると、それなりにショックが大きいものだ。あの時に笑いあったことや、二人一緒に走り回ったこと、そしてやりすぎて一緒に猛烈な勢いで怒られたこと。それを、ユウは覚えていない。
理沙はあの時、自分を覚えていない事実に驚愕し、絶望した。それでも折れなかったのは、落ち込んでも仕方ない、と自分の中で強制的に、そして暴力的なまでに割り切ったからだった。
だが、完全に無くなるわけじゃなかった。むしろ、それは自分の心の底で強く大きくなっていく。
無理やり割り切った多大すぎるショックは消えることなく理沙を蝕もうとしていた。
それに、その原因が自分だと思っているならば、なおさら。
だって、ユウが里の人に追われることになったのは―――
「でも、ね」
「…でも?」
「今は、すっごく楽しいよ?」
ユウはにっこりと微笑みながら、ゆっくりと理沙のほうを向いた。
その顔に、理沙はひどく安心した。理沙が好きだったこの笑顔が、心に眠るショックと罪悪感を浄化するように払拭した。
「(ああ、そうか)」
理沙は自然に笑っていた。
そして、いつものようにユウに抱き着いた。
「うわぁ!? ちょ、姉ちゃん!?」
「えへへ~、このかわいい弟めっ!」
ユウに頬ずりしながら理沙は思う。
今までのことを、ユウが忘れていたとしても。この、『今』には関係ない。
罪悪感は忘れない。それは、『過去』の失敗に目を背ける間違った行為だ。
だけど、それに囚われるのは、もっと違う。
「(これからんだ。私たちの思い出は)」
だから今はこの愛しい存在を思いっきり抱きしめてやろうと、理沙はユウの悲鳴を無視して言った。
「ねえゆう君」
「……何?」
「明日、遊びに行こっか」
「僕、この耳と尻尾取ってもらわなきゃなんだけど…」
「じゃあ、紅魔館に行こ?」
「え、でも……」
「ええい、つべこべ言わない! 文句言うんだったらこうしちゃうぞ!」
「ひゃッ!? や、やめ、尻尾いじらないでぇ!」
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その頃。
霊夢と紫は幻想郷をドーム状に囲み守っている『博麗大結界』の見直しを完了させていた。
「…やっぱり、異常なんてないじゃない。紫」
「霊夢、何度言わせるの? これは結界に異常ないことを確認する作業なのよ?」
博麗大結界は幻想郷をそのままかっぽりと覆っている。
その面積量や術式の量はやはりバカにならず、霊夢は疲労しきっているようだった。
「……で? なんで異常ないことを確認するのよ。ふつう逆でしょ?」
「結界は前に強化したばかりでしょう? それに、鬱病異変の時に私が確認してたじゃない」
「じゃあ私必要なかったじゃない」
「再確認よ」
「………はぁ。で? なんで異常ないことを確認するの」
霊夢は頭が痛いのか、手を額にやり盛大にため息をつきながら尋ねた。
しかし、謎に溜める紫に目だけで、言え、と脅迫する。
紫は扇子を取り出し、口元にあてる。そして、言い放った。
「ゆう君、理沙、そしてあの黒いコートを着た男……この三人がグルだってことを確認するためよ」
「……」
やはりか、と霊夢は思う。
紫はこの幻想郷の創造者。ゆえに、この世界を誰よりも愛し、誰よりも気にかけている。
だから紫は幻想郷に仇なす者を見逃したりなどしない。不可解なことが起これば、それを解明しなければどうしようもない程の不安に駆られる。
そして、今起こっているのは謎の幻想入り。今までにない入り方で来た三人は、はっきり言って謎の塊だった。
「さらに言うと、ゆう君は要注意ね」
「…あの、ユウが?」
「ええ。なにせ、あんな訳のわからない仮面を持ち込んだんだもの。記憶を失ってるのは確かだけど、警戒は怠れないわ」
霊夢は、初めて仮面をつけるユウを見た晩を思い出していた。
あの時のユウは、自我を失い暴走した。そして霊夢は、もう二度と仮面をつけるなと、ユウに強く強く言いつけた。
それ以降、ユウはその仮面をつけていない。フランドールと会ったときにつけていることを知らない霊夢は、ユウがその仮面で何かをすることはないと思っている。
そのことを紫に言ってみるが、紫は姿勢を崩すことはなかった。
「見方によれば、温存している、ともとれるわ。あれ、使うときに代償があるのでしょう? 永琳はあと何回つけられると言っていたかしら? そのくらい聞いているんでしょう?」
「……二回くらいよ。三回だと、もう自我が残る可能性は無いらしいわ」
「そう……ともかく、目を離さないでちょうだ――」
その時、紫の脳内に式である藍の声が響いた。
『紫様! あの男が、消えました!』
「ッ! 霊夢、頼んだわよ!」
「あ、ちょっと!」
紫は即座にスキマを開き、その場からいなくなった。
霊夢は深くため息をつきながら博麗神社に戻っていったのであった。
そして、霊夢は博麗神社に戻った瞬間に呆れ返ることになる。
なぜなら霊夢の目の前には、顔をほんのりと赤くし息を荒くしているユウと、そんなユウをどこかツヤツヤした顔で膝枕している理沙がいたからだ。理沙は愛おしげにユウの頭を撫でており、時折犬耳をつまんではユウが小さい悲鳴をあげている。
「あ、おかえりなさい」
理沙は霊夢に気がついてもその手を緩めることはしなかった。
それに霊夢は呆れるとともに、こう思った。
「(……紫には悪いけど、こいつらが何か悪いことをするようには到底思えないわね。というより、できないでしょうけど)」
嘘を吐くのが苦手そうな二人を見て、自然と微笑みがこぼれた。
霊夢は二人に近づき、まだ残っているユウのお茶をグイッと飲み干した。
「ほら、いつまでそうやってんのよ。境内が散らかってるじゃない。さっさと掃除しなさい」
「えー、たまには手伝ってくださいよー。霊夢さん私たちが掃除してる中見てるだけじゃないですかー」
「うるさい、さっさとしなさい。じゃないと、追い出すわよ。ほら、さっさと立ってちゃっちゃと済ませなさい」
そう言って霊夢は本堂に足を進める。
すぐ後ろから聞こえる「鬼! 鬼畜! 脇巫女!」という元気そうな声に少々苛立ちながらも、やはりあの二人に悪巧みなど不可能だ、と感じるのだった。
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「ようやく……見つけた」
とある場所、ある妖怪が呟いた。
よたよたと歩くその姿は、とても知性あるものには見えず、何かに囚われるように歩いていた。
そして、次の瞬間には。
その妖怪はにんまりと口を赤い三日月のようにして笑い、計画を実行に移したのだった。
はい、いかがでしたでしょうか。
ユウ君の仮面の事、忘れてる人が多いんじゃないかな?
まぁ、出番が少なかったし、仕方ないことなんですけどね。
それでは、また次回会いましょう。
ではでは。