かなりお待たせしてしまいました。一か月もスイマセン。
今回は皆さんの気になっている(であろう)あの黒コートさんの主観です。そんなに多くは語れないので、2700字以内と短めです。遅れたのに申し訳ありません。
そして、もうそろそろ最終章が近いと思います。
なんだかんだでプロローグ含め40話目。ありがたいことです。
では、今回はいろいろ想像しながら、予想しながら読むことをお勧めします。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は、推理小説の感想文を書いてから本文に進んでください。
この村が排他的になったのは、まだ俺の生まれていない程遠い昔のことだ。
百年前だったか五百年前だったか、この村は移住を繰り返し何物にも見つかることのない場所に住み着いた。ただ、今の場所を見つけたのはたったの五年前。どうせまた暫くすれば新しく住み場所を探すことになるのだろう。
こうなったのは誰しもが、異能のせいだ、と言った。だが、村が異能を拒む前はその異能に頼ってきたと、俺の祖母は言った。
その祖母はというと、もうこの世にはいない。一人静かに、誰に知られることもなく、いっそ寂しいほどに息を引き取った。
俺の祖母は異能を持っていた。詳しくは聞いたことないが、とにかく異能をもっているといった。そのことを初めて俺に打ち明けた祖母は、不安そうな顔をしていたことをよく覚えている。そして、それを拒むことなく受け入れた俺に、安心したような、ほっとしたような笑みも鮮明に思い出すことができる。
だが、しばらくして祖母は病気にかかる。寿命だって近づく彼女には辛く重い病気だった。祖母は異能持ちだったから、医者に見せるなんてことは絶対にできなかった。
もはや、諦めるしかなかった。
『仙次郎、私は、もうすぐ死ぬでしょう』
『………はい』
『貴方のことだから心配はないでしょうけど、しっかりね』
その、しっかりね、の意味は聞かなかった。なんとなく分かっていたからだ。
目から涙が零れ落ちそうだった。
でも、泣いている顔は見せなかった。ぐっと堪えて涙を抑え込んだ。
『……これ、あずけるわ。壊れたものだけど…』
『いえ……一生、大事にします』
『……それじゃあ、眠いから寝るわ』
『…ええ、お休みなさい…』
それから祖母は目を覚まさなかった。
それでも俺は泣かなかった。だって、祖母が消えたわけじゃないから。
弱気になんてなれない。むしろ、強く前を向かなければ。
俺は立ち上がり、祖母の顔を見た。
しばらく祖母の眠った顔を見て、おもむろに手を伸ばし、祖母の傍に置いてあったもう一つの形見を手に取った。
その後、俺は大きな決意とともに村に馴染みはじめた。
貧相な自警団に入り、結婚もし、子を産んだ。人前では真面目な好青年、夜になれば一人で修業に明け暮れていた。
そして子も育った頃、俺は誰にも何も言わずに村を出た。
絶望しか残っていない村の外に出て、俺は大きく息を吸った。そして、ゆっくりと吐き出してポケットから銀色に光るナイフを取り出した。
ナイフを頭上高く上げて、目を閉じる。
「………必ず」
心を決め、俺の『能力』を使う。
次の瞬間には、俺の右腕は綺麗になくなっていた。
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涼しい森の中を、彼は黒いコートを揺らしながら歩いていた。
かれこれ一時間も彼はこの森の中をさまよっている。
ふと、彼は立ち止る。そして、木漏れ日が眩しい緑の天井を見上げた。
「………………迷った」
黒いコートの隙間から見える彼の表情は、泣きそうな顔をしていた。
これを紫や藍が見ていたとしたら不思議に思うことだろう。
「ま、待つんだ、俺。この程度で躓いてしまっていたら今後が思いやられる。これは、冷静に現状を把握するんだ」
あのボロくさい自警団のハゲ団長もいっていただろう、冷静かつ正確に周りを観察する。
まずは上、森。
次に前、森。
もちろん後ろも、森。
当然のごとく左右も、森。
そして、一番肝心で重要な、位置。
「……まいったな。さっぱり分からない」
彼は頭を抱え、呻くようにつぶやいた。
黒いコートの中では、嫌な汗がツーと流れていた。
「(ともかく、このままではまずい。あの妖怪もいつ戻ってくるのかわからない……次あったら問答無用で襲われそうだ。目を離したらいなくなっているのだから)」
そんなことを考えながら、彼は歩きはじめる。
迷っているのは確かだが、立ち止ってしまってては何も変わらない。むしろ、状況が悪化するばかりだ。
そして、しばらく歩いていると、彼の耳に水が跳ねる音が入ってくる。
彼は、お、と言ってその音がした方向へと進み始めた。状況が一転したことに喜びが隠せないのか、速足である。
その水の音の正体は、大きな池だった。霧が濃くて遠くまで見通すことはできないが、かなり大きいことは、想像に難しくない。
彼は、その池を覗き込み、ある物を持ち上げる。どうやらそれが池に落ちたことで音がしたようだった。
しかし、彼はそれを珍しそうに見ていた。
「……氷蛙?」
それもそのはず、彼が手にしているのは氷漬けにされた蛙だったのだから。
これも妖怪なのだろうか、と考える彼はその氷蛙を注意深く見ていた。
だから、彼は後ろから近づく、いたずら好きな妖精に気付けなかった。
「……ッ! 誰だ――」
「えいっっ!」
次の瞬間、彼は氷漬けにされてしまっていた。
少なくとも、その妖精―――チルノにはそう見えていた。
だが。
「危ないじゃないか」
「えっ!?」
彼は、氷漬けになどされていなかった。
どんな攻撃が来るのかわかっていたかのように、容易く避けてしまったのだ。
目の前には、ただ大きな氷の塊があるだけだった。
「な、なんで!? 今、確かに――」
「見間違えじゃないかい? それより、聞きたいことがあるのだが……」
「問答無用よ! 凍符『パーフェクトフリーズ』ッ!」
彼の言葉になど耳を貸すつもりのないチルノは、後ろに飛んで間合いを取り、スペルカードを取り出した。
彼の眼前には色とりどりの大粒の弾幕が散りばめられている。
「――やれやれ」
彼はナイフを取り出し、構える。
そして
「―――『突震槍』」
そのナイフを投げた。
そして、そのナイフは一直線にチルノの方へと飛んでいく。
それに気付いたチルノは慌てて弾幕のうちの一つを真正面に放った。飛んできたものは弾幕で撃ち落とせることくらいは、チルノは知っている。
しかし、これがいけなかった。
ナイフは、あろうことか弾幕を突き抜けた。
実はこのナイフは細かく振動していた。ナイフに霊力を注ぎ込み、細かく振動させることで、本来突き抜けることのないナイフは強引に弾幕を切り裂いたのだ。
そして、ナイフはそのまま飛んでいき―――チルノの額に直撃した。
「うぎゃう!?」
チルノはそのまま落下し、気を失った。額にはナイフの柄が当たった、赤い跡が残っている。
彼はチルノの傍に落ちているナイフを拾い、すまない、と呟いてまた歩き始めたのだった。
はい、いかがでしたでしょうか。
そういえば、もう夏ですね。
虫たちも珍しくなくなってきまして、どこかにリグル隠れてないかなと日々妄想中です。
……なんか言ってはいけないこと言った気がする。まあいいか。
では、また次回お会いしましょう。