どうやら今回と次で第三章も終わりそうです。
今回はゆかりん目線。そして、あの最強のラスボスさんも出てきます。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は……え?前書きがいつもより短い?気にした人は腕立て十回してから本文に進んでください。
大体、宴会というものは異変が起こりそして解決された後に行われることが多いものだ。
もちろん、レミリアのように誰かの突然の思い付きで始まることもあるし、中には異変中に宴会が―――というよりその異変のせいで宴会が連続で行われていたのだが、そういうこともあった。
そして今回の過去に例を見ないほどの大きな宴会は『鬱病異変』という過去最大級の異変が解決された後に行われていて、まあいつも通りだ。
だが、それは他の人たちにとってはだ。
恐らく、ここにいる大多数が「今回の異変はまぁ危なかったけど解決したんだし、これで一安心」くらいにしか思っていないのだろう。
もちろんそれは何もおかしくはない。なぜなら、他でもないこの私、八雲紫が情報を規制しているのだから。むしろ知られていたら少し自信を無くす。
思うところは沢山あった。
まず、日照優人が幻想入りした時だ。幻想入りしたであろう時、私はそのことに気付けなかった。この幻想郷には私と博麗が共同作業で作った『博麗大結界』なるものがあり、ここを守っている。そして最近外来人が急増したことを受けて結界を強化した。それこそ、人一人入ってくることの無いように。だから、誰かが入ってきたならばさすがに分かる。通れない壁を無理やり入ってくるのだ、むしろ入ってくる前に分かる。だから、彼を見たときは驚いた。しかもそれを知ったのは異変が完全に表沙汰になる前日。異変の解決は霊夢に任せ、急いで結界の確認しに行った。結局、どうやって幻想入りしたのかは謎のままだ。
そして、神橋理沙の幻想入り。これも同じように気付くことができなかった。宴会の前、あのときに初めて会ったぐらいだ。あそこで動揺を表情に出さずに済んだのは、少し自分を褒めたものだ。
そして大きな問題。それが………
「あんた、誰よ」
「……やぁ、博麗の巫女さん。博麗レムさんで合ってるかな?」
彼の存在だ。幻想入りしたのはわかる。これで三人目。これは明らかにおかしい。黒いローブを羽織った片腕の男が去った時にはあらかじめ待機させていた藍に尾行させた。
そして霊夢と今後のことを話し宴会場に戻る。
さて、そろそろそっちのほうも確認しないと……
わたしは、すっかり一人になっている古明地さとりのところへと赴いた。
「こんばんは、古明地さとり」
「ええ、こんばんは、八雲紫」
お互い、うっすらと笑みを浮かべる。もちろん社交辞令である。
「ゆう君はどうしたの?」
「ユウなら少しからかったら悶えてしまって、そのまま寝てしまいましたよ」
「(ああ……そういう………)」
「………………ふふっ」
「…それで、何かわかったかしら?」
「……そうね」
彼女には、ゆう君について調べてもらっていた。
彼女の『心を読む程度の能力』は発展がきくのだ。能力の発展というよりは、覚妖怪としての必殺技(?)のようなものだが。
それは、過去の覗き見だ。覚妖怪というのは、相手のトラウマを過去の記憶から見つけ出して、それを利用して相手の心を崩壊させる。いつ聞いても恐ろしい。まぁ、私は境界を弄って読めないようにはしているが。
これにも、ある程度近づかなけらないことや時間がかかることなどの弱点があるのだが、まぁそこは大丈夫だろう。
「まず、ユウの記憶はここに来る少し前のところで終わっています」
「少し前ね……それで、内容は?」
「………」
「ここにきて黙秘は無しよ」
「……分かりました」
さとりは諦めたようにため息をついた。
「ユウは外ではたいそう嫌われていたらしいですよ。一番の初めの記憶では、訳も分からないまま逃げ回っていたようです」
「逃げ回ってた、ねぇ……誰にかしら?」
「そこまではわかりません。大人であることぐらいしか」
「そう。じゃあ、あの仮面も?」
「ええ。あまりわかりませんでした。ただ、あれをつけている間は意識がなくなることくらいしか。それと、かなり身体能力が上がることが推測できる程度でしょうか」
私はすこし唇を噛んだ。
やはりそう一筋縄ではいかないようだ。
「そう……身体能力が上がるって、どれくらい?」
「これも推測ですが……フランドール・スカーレットと互角になるくらいでしょうか」
「…! それはまた……」
「これ以上、あの白仮面についての情報はありませんが」
「ええ。もう十分よ。それと……幻想入りの件は?」
さとりは、今起こっている以上を把握している数少ないうちの一人だ。
この、謎の幻想入りのことを知っているのは私と藍、さとり、そして霊夢。おそらくはそれくらいだ。
「それがですね……これが少し不可解なんですよ」
「不可解?」
「ええ。どうやらユウは……あなたのスキマを通ってきたようなのです」
「私の? どういうこと? 確かに、ゆう君に通った跡みたいなのはあったけど……」
「すみません、あなたのものかは分かりませんが……スキマに落ちたことは確かでしょう」
「…………そう、ありがとう」
「では、私はこれで」
「あ、待って頂戴」
「…なんでしょうか」
「ゆう君はどこかしら?」
「ユウならば、隣の布団で寝ています。では」
そういって、さとりは宴会の渦の中に戻っていく。
私はそれに背を向け、さとりに教えられた隣の部屋へと向かった。
襖を開けて、中をのぞき込む。
そこには、静かに、安心したように眠っているゆう君の姿があった。
「……ふふっ」
おもわず優しい笑みがこぼれる。
私は隣に座り、ゆう君の髪を優しく撫でた。
彼はそれがくすぐったかったのか、寝返りを打ち、こちら側に顔を向けるように横向きになった。
私は、それがすこし愛おしくて彼の髪を撫で続けた。
「ゆう……」
私は、気が付いたら呟いていた。
「……あなたは、何者なの?」
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小鳥の囀りで目を覚ます。開けっ放しの襖から日の光が差し込んできて、丁度私の目元を照らしている。
私は、目を閉じて二度寝しようとするも日光が眩しく眠れないので、襖を閉じようと立ったところで、おかしなことに気が付いた。
「ん……ぅん………」
「……」
ゆう君が私に抱きつきながら寝ているのだ。
……えーっと。何があったの、だろうか。
とりあえず、落ち着け。そして寝る前の事をゆっくり思い出そうではないか。
たしか。宴会があったはず。私は…ゆう君が何故か気になって部屋を訪れ、そして戻ろうとして……あ、いや、戻ってない? えっとなんで………あ
「服、掴まれちゃったんだっけ……」
そうだ。離れようとして、でもユウに服をいつの間にか掴まれて離れられなかったのだ。そして私まで眠くなって、そのまま布団に……
阿保じゃないのか。なんでよ。手をほどいてから別のところで寝なさいよ。というよりこの子警戒心なさすぎでしょ。大妖怪よ? 私、大妖怪よ? 寝てても警戒するのが生物じゃないの? あれ、もしかして違うの? というよりこの子私の胸に顔うずめてやだなにこの子かわいい。コスプレの効果なのか分からないけど犬耳が付いてることによって余計かわいい。あちょっと長年未使用で朽ち果てたはずの母性本能が目覚めうんちょっと落ち着こうか私。ちょっと動揺しすぎよ。
改めて、ゆう君を見る。その寝顔には警戒心なんてものはちっともなく、安心しきった顔で規則正しい寝息をたてていた。
「……ふふっ。こういうのも、たまにはいいかもね…」
明日から博麗神社に通い詰めてみようかしら。そんなことを思いながら、未だ差し込む日光を首を曲げて躱し、彼を抱きしめて二度寝をしたのであった。
はい。いかがでしたでしょうか。
やっぱり最強のラスボスこと眠気さんは強敵ですね。
霊夢、フラン、紫ですら勝てないってもうこれ誰も勝てないんじゃなかろうか。
え? 僕? カフェインシールドで一発ですが?
次回は姉編になるんじゃないかと思います。
ではでは、次回お会いしましょう。