何かと揃えたくなってしまうお年頃なのです。
今回はあのお方が来ます。そうです、やたらとファンが多いあの方です。
では、さくっと物語を進めましょうか。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は心を無にしてから本文へお進みください。
ユウの挨拶巡りの目付け役としてユウと共に行動している妖夢。
そんな彼女の前には、異様と言えなくもない光景が広がっていた。
白狼天狗である犬走椛の膝の上にユウは座っている。これだけでも挨拶巡りという主題から遠ざかっているが、それだけならまだいい方。だが、椛はユウをがっちりホールドして犬耳やら頭やらを名で繰り回していて、更に天狗である射命丸文はその光景に目を輝かせながらペンを走らせていた。一言でいえば、犬人コスプレをした人間に妖怪が二匹くっついているのだ。
そして、その光景を見て妖夢はたまらず声に出す。
「………どうしてこうなった…」
「? なにがですか?」
「なにがですか、じゃないですよ! これユウ君の挨拶巡りのはずでしたよね!?」
はて、と首をかしげる妖怪二匹。
その様子に妖夢は思わず声を荒げてしまう。
「いやいやいや! ずっとこれだとユウ君が動けないじゃないですか! それに何故お二人はユウ君を軽く拘束しているんですか!?」
「そこにネタがあるから」
「我が弟を愛でるため」
「すっごい不純な理由!? それと弟って誰のことですか!?」
「ユウ」
「絶ッッ対違いますよね!?」
「いえ、弟だと私が認めれば弟なんです」
「なにその暴論!? 今日なんか椛さんおかしいですよ!?」
ゼェーッハァーッ、と珍しく声を荒げ始める妖夢。
これには二人とも観念したのか、顔を見合わせ仕方ないというふうにユウを解放した。
椛がユウのわきに手を入れて持ち上げてユウを立たせる。
「まぁ、確かにこのままだとちょっとあれね」
「ふぇ……?」
「ほら、解放してあげたんだからさっさと行きましょう。それとも、もう一回妖怪たる私たちに捕まってみます? 自慢じゃないですが私はねちっこいですよ?」
「あ……い、行きます! 行かせてください!」
「……! そうですねっ! 行きましょうユウ君!」
「その必要はないですよ」
「ふぇ?」
妖夢が謎の義務感でユウの腕をつかみ、さぁいざ旅へ――というところで、背後から声がした。
振り向くとそこには、一人の幼女がいた。ピンク色の髪をしており、少し青っぽい服を身に着けていた。そして何より目立っているのは幼女に絡みつくように存在している紐状のものと、それに繋がっている一つの大きな眼である。その眼は半開きになっていて、ユウたちの方をじっと見つめている。
「え……さとり、さん?」
「ええ。私も少し暇だったので来てしまいました」
彼女は古明地さとり。地底に住む妖怪である。
彼女は普段地底にある地霊殿という館から一歩も出ない、言ってしまえば引きこもり妖怪なのである。もちろんそれにも理由があるが、妖夢はさとりがこの宴会に来ていることに少し驚いていた。
「おぉっと! ここでまさかのさとりん登場ですか! これはペンが捗りま―――」
「自重してくださいねッ!」
「ぎゃふん!」
再度降ろされる椛の鉄剣。
一応峰打ちではあるが効果は絶大。再び文は床に倒れ伏してしまった。
「ふぅ、スッキリしました」
「ってコレ、ストレス発散のためだったんですか!?」
「最近発散する場所も少なくなっちゃって」
「やっぱり椛さん今日おかしいです!」
再び始まる妖夢と暴走椛の口論。
しかしさとりは我関せずという態度でユウに近づき、話しかけた。
「貴方がユウですね?」
「え、あ、はい。ユウといいます」
「ふふふ、そんなに緊張しなくていいのよ?」
「す、すみません……」
背丈のあまり変わらない二人、いつも相手の事は見上げて話していたユウにとっては新鮮な感覚だった。
「(優しい人っぽいなぁ……それに、綺麗な人だし……ってそうじゃなくて! いや綺麗だけど!)」
さとりの胸の前で浮いている眼に見つめられそんなことを考えるユウ。
「私は古明地さとりといいます。地底に住む、覚妖怪です」
「さ、覚妖怪……?」
聞いたことのない妖怪の名前に首をかしげるユウ。
「(いや、そもそもそんなに妖怪の種類知らないんだけども)」
「覚妖怪というのは、端的に言ってしまえばこの『第三の眼』を通して人の心を読むことができるんです」
「えっと……つまり…?」
「考えていることがわかるんです。ユウさん、妖怪の種類を余り知らないのでしたら教えて差し上げましょうか?」
「え!? え、あ、あ、あぁ、そういうことなんですか」
そこでようやく合点するユウ。
心を読める妖怪がいるなんて思ってもいなかった。妖怪のことをよく知らないことがバレたのは少しだけ恥ずかしいものの、そういうさとりは優しい笑みを浮かべて……
「(あれ?ちょっと待って?)」
ユウが何かに気づきかける。
ユウは少しうつむき手を顎に添える。霊夢がよくやっている考えるポーズだ。
――優しいひとっぽいなぁ……
「(あ)」
ユウがギギッと壊れた機械のように視線を上げる。
そこには、美しく優しい笑みを浮かべるさとりがいた。
「褒めても何も出ませんよ? 綺麗と言われたのは嬉しいですけどね」
「うわああああああああああああああああああああああああああ!?」
うずくまって悶え始めるユウ。
その様子をさとりの第三の眼はしっかり見つめていた。
「(そうじゃん! そうことじゃん! 僕なに考えてるの!? 筒抜けだよ! いや綺麗な人であることには嘘はないから余計に恥ずかしいというか、なんかマズイというか――)」
「だから何も出ませんってば」
「うわああああああああああああああああああああああああああ!!??」
そして、ユウは数分たっぷり悶えた後、絞り出すような声で言った。
「もう……勘弁してください…」
「えー?でもこの眼は閉じれませんし……」
「でしたら、どこかに視線逸らせばよいのでは………」
「結構疲れるんですよ。恥ずかしくてどうにかなりそうなところ申し訳ありませんが、我慢してください」
「……グフッ」
「(うわぁ……さとりさんイイ顔してるなぁ……)」
「聞こえてますよ妖夢さん?」
「スイマセンッ!?」
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辺りから心の声が聞こえていた。
普段は嫌気がさすその五月蠅さも、今のこの宴会の中ではそう鬱陶しくは感じられない。
こういうのもたまにはいいわね、と私は私の膝の上で羞恥心により息絶えそうになっているユウの髪を撫でた。彼の心は今何も考えていない。恐らく羞恥心で頭が真っ白になったのだろう。
これでこそ覚妖怪の醍醐味である。久しく味わっていなかったこの感覚も気持ちがいい。
「あの……さとりさん?」
「こいしですか?こいしは恐らくまたどこかを散歩しているんだと思いますよ」
古明地こいし、それは私の妹だ。要するにこいしも覚妖怪なのだが、今はとある事情で第三の目を閉じており、心が読めなくなってしまった代わりに無意識を操れるようになった。それにより、彼女の正確な場所は誰にも分からないのである。
それは姉である私も例外ではなく、私でさえも憶測でしかこいしの場所が言えないのだ。
「うっ……相変わらず…」
「会話の先読みが得意ですね、ですか?これは心を読んでそれに答えているだけなので先読みとは少し違いますよ?」
「それでも……」
「ええ、私にとってはです。なのであまり気にしないでください」
「………」
「よろしい」
傍から見ると不思議な会話であるが、私と妖夢の中では成り立っている。
この会話の先読みをする癖も少しは直した方がいいかしら、ユウの犬耳を撫でていると、背後から気配がした。
私が振り向くと、そこには苦笑しながらこっちを見ている霊夢と紫がいた。
私は彼女たちに微笑むとユウの頭に視線を戻したのだった。
はい、いかがでしたでしょうか。
僕のさとりんのイメージってちょいSなんですよね。
「おいコラCAKE俺の嫁をなんてキャラにしやがったぁぁぁ!!」という方は私の代わりに早苗が土下座します。申し訳ありません。
では、また次回お会いしましょう。