東方少年呪   作:CAKE

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はい、どうも。CAKEです。
今回は戦闘編というより種明かしというかなんというか。
まぁ、そんなところです。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は、小動物と戯れてから本文へお進みください。


EP,22 【戦闘開始】

「ぐらああぁぁぁぁッ!」

「くッ」

 

シャリ―が真っ直ぐに霊夢に向かって突撃する。

霊夢はその弾道から逃れようと位置を素早く変えるもすれ違い様に五発の打撃をもらってしまった。

数十秒前、突然シャリ―の体内から今までの比ではない量の妖力が漏れ出した。

戦いにおいてのルール、通称『スペルカードルール』では、力をセーブするよう明記されている。

もともとスペルカードルールというのは、人間と妖怪の力の差を埋めるために作られたものであるので、ルール内容のほぼ全てが力の制限に関することだ。

例えば『スペルには必ず逃げ道を用意すること』や『殺意ある攻撃などはしないこと』など。

勿論死ぬことだってあるものの、そんな例は今までになく、いつしか戦闘遊戯、『弾幕ごっこ』と呼ばれるようになっていた。

 

「ぐるあぁぁッ!」

 

しかし、今のシャリ―と霊夢の戦いはもはや『ごっこ』だとか『遊び』なんかではなかった。

正真正銘の殺し合い。『戦い』だった。

先ほどもらった五発なんかも、なんとかお祓い棒で防いだものの、直撃すれば人間の霊夢など一瞬でひき肉になっているだろう。

明らかに範囲を超越した破壊力。シャリ―の目は真っ蒼に染まりいままで妖力以外で見せてこなかった妖怪の鱗片を見せていた。

霊夢はまさかの戦法、『規約無視』に一瞬驚くものの、すぐにその両眼を鋭くした。

規約無視とはすなわち、この幻想郷のルールに逆らうというもの。

つまり、この異変はもはや『異変』などではなく、『戦争』と化していた。

戦争にルールなど必要ない。不意打ち、罠、嘘、人質、なんでもありだ。

それは、霊夢も同じ。

 

「(後悔しても知らないわよッ!)」

 

すぐさま霊夢は『能力』を発動させる。

霊夢の能力は全ての理から浮上、つまりは無視することができる。

重力、風圧、攻撃、ダメージ、能力。あらゆるものの制約を受けない。

幻想郷最強の能力。それが彼女の持つ『浮く程度の能力』だ。

だが、しかし。

 

「うるがぁ!」

「痛ッ……!」

 

なぜか、発動しない。

ここで初めてパニックに陥る霊夢。

能力が発動しないという異例の事態に、さすがの霊夢も動揺を隠せない。

今までこんなことなかったのに。

今まで能力が発動しなかったことなど一度も―――

 

「ッ!」

 

あった。

たった一度だけ、発動しなかったことが。

しかし、なぜだ。こんなことあり得ない。

あの時、確かにあいつは死んだはずだ。

 

そして思い出し、理解する。

『うつす』ことの、本当の恐ろしさを。

 

「ゲギャギャギャギャギャ!」

 

シャリ―の目は相変わらず、ネズミ特有の真っ黒な目のような、真っ蒼な目をしていた。

 

 

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突然盛り上がってきた地面から、火山のような噴火が起こり、一つの巨大な火柱を作った。

裡沙は、恐る恐るその噴火口を見やると、大体6m下に小さな空間が見えた。

よく見ると、緑色の髪をした女の人が見える。

先ほどのレーザーを放ったことで疲労したのか、はたまた感染症に侵されているのか壁にもたれかかっていた。

 

「(よかった、能力持ちも大丈夫そうね)」

 

と、別のところで安心しつつ、助けなきゃと壁の石の突起を利用してそろりそろりと降りてゆき、ある程度の高さになると、えいっ、と飛び降りた。

そして、それと同時に見えた、ある存在に目を奪われる。

あの時と変わらない、ベージュのズボンに少し長い髪の毛。

私はたまらず叫んでしまった。

 

「ゆう君!」

「うわっ!?」

 

勿論抱き着く。

私にとって弟みたいな存在なのだ。

そして長らく会っていなくて、今、ここで、ようやく会えたのだ。

昔のことが懐かしい。よく大人たちから頼まれた仕事を二人で適度に怠けながらこなしていた時の記憶が鮮明に蘇る。

そして私はゆう君がもがいていることには気付かず、これでもかと抱きしめていた。

現在私の調子は鰻上りだった。

しかし、それは突然にして凍り付くことになる。

ゆう君が私の束縛から脱出し、一言。

 

「え、えっと、誰、ですか?」

 

 

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「くッ……」

「ゲギャギャギャ! その程度かぁ?」

 

霊夢がシャリ―を睨む。

シャリ―がしたことは、ルールを破ることなどではなかった。

彼の能力、『うつす程度の能力』は遥かに厄介なものだったのだ。

だが、結果的にはルールを破ったも同然の馬鹿力。

そのことはシャリーも承知しているようだった。

 

「この喋り方は好きじゃないんだがなぁ。ま、副作用としては仕方ないんだがな」

「あんた『能力』まで……」

 

少し前、慧音の依頼によって妖怪退治をしたとき。

忘れるわけがない。なぜならユウの能力が明らかになった依頼だったのだから。

その時に出会った巨大なネズミの形をした妖怪。あの姿がフラッシュバックする。

 

 

 

 

 

―――依頼時

 

「僕の友達なんだ!おーい!」

「あ、待ちなさい!」

 

誰にだって見間違いはある。

友達ができて間もないころはしばしば後姿が似ていて話しかけてしまったり、遠目で見て似ているので手を振ってしまったり。

このときユウはある人物と見間違えていた。

 

「(やばッ!?)」

 

その人物は慌てて木の陰へと姿を隠す。

なぜなら、遠目だがはっきりと紅白の巫女が見えたからだ。

しかしそのあと。ある妖怪が出現した。

その妖怪は能力を持っていて、自分の能力とは比べ物にならない位強力なものだった。

 

「(あぁ……これはくわばらだなぁ……)」

 

そして遠ざかろうとしたとき、はたと足を止める。

ある仮説が浮かんだのだ。もしかしたら―――という一つの希望。

そしてあの妖怪は倒され、ただの肉塊と化した頃。

その人物は、誰にも知られることなく近づきその妖怪に触る。

結果は大成功。この瞬間、彼は自分の能力の本当の力に気付いたのだった。

 

 

 

 

 

「君には感謝してるぜぇ? だってきっかけを与えてくれたんだからなぁ」

 

霊夢は唇を噛み締めた。

まさか、あの時彼がいたとは思わなかったのだ。

さすがにあの場面で『察知して退治する』なんてことは不可能だが、それでもやはり悔しかった。

 

「まぁ、取り込めたのはこれだけなんだがなぁ。能力持ちっていうのはなかなかいねぇもんでよぉ」

 

シャリ―は尚も饒舌にしゃべり続ける。

 

「だがさすがに丸々ぜーんぶ能力を『写す』なーんてことはできなくてよ? 今の俺の能力はせいぜい『抑える程度の能力』だ。しかも対象は一つにしかできねぇ」

 

霊夢は今の自分の状態を確認する。

――大丈夫。身体能力に異常はあまりない。

霊夢は目の前にいる強敵を見る。

本気の妖怪に、はたして浮けない人間が勝てるのか。

それは分からないが、やるしかない。私がやらないと。

 

「ほんと厄介な能力ねぇ……」

 

しかも、今ここで負けたら、十中八九私の能力も写されてしまうことだろう。

そして何より、ユウ。

無事でいるのだろうか、心配でならない。

だからこそ、負けられなかった。

 

「いいわ、上等よ。全力でやったろうじゃないの!」

 

赤い人間と蒼い妖怪の、命を懸けた一騎打ちが、今、幕を挙げた。




はい、いかがでしたでしょうか。
『うつす程度の能力』って結構チートだなって再確認した今日この頃です。
今回は戦闘なんかじゃなかったですね。
おかげで文字数が2900文字だよ!
あれ?もしかしなくてもこれって僕に戦闘シーン書くなってお告げじゃ(自主規制)
はい、ではまた次回お会いしましょう!

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