踏み出す一歩   作:カシム0

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 間もなく八月が終わりますが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。
 学生の皆さんは宿題を終わらせましたか?
 社会人の皆さんは台風に負けずに頑張ってますか?
 私は通勤でバイクに乗っているのですが、ここのところ雨に降られる確率が高くなっています。
 悪天候の中バイクで走るのも中々乙ではあるのですが、ずぶ濡れになります。
 
 それはさておき、後編をお送りします。
 じゃあどうぞ。


やっと鶴見留美は迷路から抜け出せる(後)

 

 

 

 

 

 私と真希ちゃんは学校から帰宅する際の道が途中まで同じだ。いつも別れる交差点の近くに公園があり、八幡と別れた私は道すがらメールを送り、そこに真希ちゃんに来てもらおうと思っていた。

 返事はすぐに来た。真希ちゃんも時間を見計らって準備を整えていたようで、もう家を出たとのことだった。ある程度公園に近づいてからメールをしたけど、真希ちゃんの方が先に着いてしまうだろう。

 一歩一歩公園に近づくたびに得体のしれない不安感がこみ上げてくる。真希ちゃんに会うのが怖い。と、今朝までだったらそう思っていたかもしれない。

 だけど、八幡に相談し、勇気をもらった私は大丈夫だ。怖いは怖い。けど、それに立ち向かう気合は入っている。

 公園が見えてきた。ベンチに真希ちゃんが座っているのが見える。どこを見るでもなく、何となしに空を見ているような真希ちゃんは、何を考えているのか。私と同じことだと、すごく嬉しいんだけど。

 小走りに真希ちゃんに近づく。真希ちゃんも私に気づき、手を振ってくれた。

 さあ、このモヤモヤした気持ちを終わらせよう。

 

 

 

 

 

 真希ちゃんの格好は薄手のシャツに短パンの、外に出て恥ずかしい格好ではないけどすごくリラックスした格好だった。真希ちゃんはこういう体の線がはっきりする服を着るとスタイルの良さが際立つ。

 ベンチに座っている真希ちゃんのところに走っていくと、真希ちゃんが立ち上がろうと前かがみになった。真希ちゃんはどこか隙が多いというか、うかつというか、見ているこちらがハラハラする時がある。今だって見えそうになってたし。

 

「お待たせ、真希ちゃん」

「ううん、今来たところだよ、ってデートの待ち合わせみたいだね」

「今日はなかったけど、似たようなこと八幡に言ったことあるかも」

「ふふ、そうなんだ」

 

 それはさておき、真希ちゃんとベンチに座る。

 もう夕方と言ってもいい時間で、いつも下校時に通りかかるのと同じくらいだ。遊んでいる子供も付き添いの親御さんもいない。数日前に真希ちゃんに連れられてここに来たのが結構昔のように感じる。

 

「それで、どうだった?」

「デートはすごく楽しかったし、思いがけず開成くんの方もどうにかなりそうな感じ、かな?」

「開成くん? まさか、開成くん留美ちゃんを付け回したりしてたの?」

「ううん、たまたまみたい。開成くんと綾瀬さんがデートをしていたみたいで、偶然出くわしちゃったんだ」

「へ? 留美ちゃんを悩ませるトップ2がデートしてるところに? すごい確率だね」

「開成くんは否定してたけどね。で、八幡が開成くんと話つけてくれたんだ。最終的にどうなるかは、まだわかんないけど」

「おお! ひょっとして八幡さん、俺の女に手を出すな、とか言っちゃったり!?」

「え、ええと……うん。そんな感じのこと、言ってた」

「おー、言うねえ八幡さんも」

 

 スラスラといつも通りのように話せている。真希ちゃんの探りを入れてくる顔、からかうような顔、驚いた顔、今までと一緒に見える。私も言葉に詰まることなく(恥ずかしかったところは除くけど)話すことはできる。

 けれど、どこか探り探りな感がある。けん制しあっているようだ。こんな付き合い方をしたいんじゃない。もっと普通に話がしたい。そうするためにはどうするか。

 

「ところで、すごく楽しかった、っていう内容聞いてもいい?」

「うん。テニスするって話はしたと思うんだけど、最初は簡単に打ち合いをして、そのあとサーブの練習をして、最後に試合形式でやりあったよ」

「へー、なんか普通にテニスの練習、って感じだね」

「今日の部活より疲れたかな」

「八幡さんスパルタだった?」

「ううん。結構気を使ってもらったと思う。初めてやったから余計に疲れちゃったのかな」

「そういえば、八幡さんってテニス上手いの? あんまりイメージ湧かないんだけど」

「私もイメージ無かったよ。上手いとか強いとか何とも言えないけど、少なくとも今日初めてラケットに触れた私が敵う相手じゃなかったのは確か」

「へぇー、やっぱり想像つかないや」

 

 一通り話をして区切りができた。どこかの国では天使が通った、とか言うんだっけ。

 真希ちゃんとはそれほど長い付き合いではないけど、ほとんど毎日話をしていれば天使が通ることは何度かあった。けれどそれを苦に思ったことはなかった。何か話をしなくちゃなんて思わず、沈黙すら楽しめた。

 今、私がそわそわしているのは、つまりはそういうことなんだ。

 真希ちゃんも何かを話そうとして躊躇っているように見える。

 どうすればいいのかはわからない。けれど、何をすべきか、何をしたいのか、何をしなければならないかはわかっている。

 

「そっか……楽しかったんだね」

「うん。楽しかったし、今日八幡と会えてよかった」

「ん? ああ、開成くんのこと?」

「それもあるけど、それだけじゃなくって……」

「留美ちゃん?」

 

 一息ついて自問する。さあ、私はどうしたい?

 自答する。私は真希ちゃんと胸を張って友達と言える関係でいたい。

 

「真希ちゃん。私をここに呼んだのって、八幡とのデートのことを聞きたかったから、って言っていたよね」

「う、うん。そう、だけど」

「だったら、もう真希ちゃんの用事は終わったってことで、いいのかな?」

「あー、えーと……まあ、そうかな」

「じゃあ、私がお話ししていい?」

「……うん」

 

 真希ちゃんの様子から、何か言いたいことがあるのはわかる。だけど、言わないのだったら私からいかせてもらう。

 覚悟してもらおうか真希ちゃん。今日の私はしつこいよ。

 

「まずは、ごめん。この間、真希ちゃんに変なこと聞いちゃって」

「どうして留美ちゃんが謝るの?」

「真希ちゃんの言う通りだった。私が何をどうしたいのかもわからないのに、聞くことじゃなかった。だから……」

 

 問い直す。私が聞きたかったこと、知りたかったことは何だった?

 

「真希ちゃん。八幡のこと、どう思ってるの?」

「……それを聞いて、留美ちゃんはどうするの?」

 

 私の前回と同じ質問に、真希ちゃんは前回と同じ答えを返した。あの時は返す言葉が、私の中にはなかった。でも、今回は、

 

「どうもしないよ」

「はい?」

「どうもしない。私は、ただ聞きたいだけなの」

 

 ただ聞きたい、知りたいだけ。言葉通り、事実確認をしたかっただけなんだ。

 真希ちゃんが好きだと言ったとして、諦めてだなんて言うつもりは無い。もしくは好きになれない否定的な答えを聞いたとして、よかったと安堵することもない。

 ただ真希ちゃんがどう思っているのかを知りたかった。

 私の質問に、真希ちゃんはしばらく目を閉じ、軽く息をついて口を開いた。

 

「よくわかんない。正直なところ好きか嫌いかで言えば好き、と思う。でも……わかんない」

 

 俯き、膝の上に置いた手をギュッと握りしめ、真希ちゃんは吐き出すように言った。

 ふと、これが八幡が私に感じている感覚なのか、と気づく。相手が心苦しく思っていることを無理に話させる。例えこれが相手を思ってのことだとして、必要なことだとして、上手く事が運んでも胸を張ることなどできそうにない。

 それでも、やはり必要なことは聞きださなければならなかった。

 

「そうだと思った」

「え?」

「私も、よくわかんなかったよ。八幡と知り合って、お話しして、ドン引きして、ほっとして、落ち着かなくて……ドキドキして」

「なんか、恋してるって感じだね。ドン引きしたのはどうかと思うけど」

「真希ちゃんは、どう?」

「……やっぱり、わかんない、かな」

 

 私が、八幡に対する気持ちを恋だと気づいたのはいつのことだったか。そもそも、八幡に恋心を抱いたのはいつのことか。そうと気づくまで、八幡をどう思っていたのだろう。

 今となってはわからない。当時の私は今よりわからなくて混乱していた。

 

「真希ちゃんって、これが初恋、って言いきれる状況になったことないでしょ?」

「うぇっ! な、なにいきなり!? そうだけどさ……」

「だったら当然だと思うよ。初めての感情なんだし。私も偉そうなこと言えないけどね」

 

 知らなかったことに初めて気づくのは難しい。これが恋だと気づいた、なんて歌にありそうな話だけど、きっかけがなく恋することだってありそうなものだし。

 

「実はね、私なりに結構考えたんだ」

「うん」

「八幡さんのことが好きなのか、留美ちゃんを大事にしている男の人だから気に入っているのか、とか」

「八幡のことを好意的に見ている、っていう前提?」

「それは……うん。そこは間違いないし、誤魔化さないよ。自分の経験じゃ参考にできることなんてないから、漫画とかドラマで見た色んな状況に当てはめようとしてみたけど……結局わかんなかった」

「そっか」

「ただ……」

 

 真希ちゃんは軽く息を吸い、私の方を見て言った。

 

「八幡さんのこと気になってるのは、間違いないと思う」

 

 そう言った真希ちゃんの目は潤んでいた。多分、このことを私に伝えることが怖かったんじゃないかと思う。

 気にすることは全くないというのに。

 

「ごめんね、留美ちゃん」

「どうして謝るの?」

「だって……留美ちゃんの好きな人を後から、その、好きかどうかよくわかってないけど……」

「やっぱり、そこなんだよね」

「え?」

 

 いわゆる女子ルールでは、誰かが好きだと言った人を後から好きだというのはタブーとされている。誰々が好きなんだ、という台詞には、私が先に好きだと言ったんだから邪魔しないでよね、という副音声があるのが常だ。実にめんどくさいし、くだらない。

 いつもの真希ちゃんなら、女子ルールなんか知ったことかと考えていただろうに、どうしてか今回は縛られている。多分だけど、私への申し訳なさとか、そういうのが原因なのではないかと思う。

 だから、私は女子ルールなんて知ったことかと真希ちゃんに教えてあげなければならない。

 

「誰かを好きだってことに、順番とか関係ないでしょ。早く好きになったからって、その分思いが伝わるわけじゃないし」

「そりゃ、そうだけど。何と言うか、留美ちゃんに申し訳ないというか」

「真希ちゃんと八幡が付き合うってことになったら、私も心中穏やかではいられないとは思うけどね。まだ気になってるって段階でそう思うのは相当気が早いんじゃない?」

「え、えーと……言われてみれば、そうかな」

「そもそも、私自身が結構な後発組だよ? 八幡と同じ部活に二人、後輩に一人、八幡の妹さんに聞いた限りではまだ何人かいるみたいだし」

「……やっぱり八幡さんって結構もてるんだ?」

「そうみたい。普段の八幡見てると信じられないとも思えるし、こういうところに他の人も惹かれたんだなって思える時もある、かな」

 

 わかってはいたことだけど、改めて確認すると不安になってしまう。だけど、ある種自爆してでも、私はまったく気にしていないと真希ちゃんにはわかってもらいたかった。

 真希ちゃんは眉根を寄せて何やら考えている様子だ。私の言った言葉か、八幡がもてることについてかはわからないけど。

 だけど、真希ちゃんには考える暇を与えてあげない。考えるのは私が言いたいことを言いきってからにしてもらう。

 

「私ね、真希ちゃんのこと大好きだよ」

「うぇっ!? ど、どうしたの急に!?」

「私が男の子だったら、真希ちゃんに告白してふられてると思う」

「本当にどうしちゃったの留美ちゃん!? しかもふられる前提!?」

 

 真希ちゃんは可愛くて優しくて気遣い上手だ。こんな子が同じクラスにいたら、そりゃあ好きになってしまうというもの。

 真希ちゃんは私が錯乱したとでも思っているのか、肩に手をやって揺らしてきた。安心してほしい。私は正気で本気だから。

 

「だって、私が男子だったら、真希ちゃんの好きなタイプではないと思うんだ」

「えー……」

 

 とうとう真希ちゃんは頭を抱えてしまった。

 

「髪の短い留美ちゃんが学ラン着てる姿しか想像できないんだけど」

「性格はどんな感じだと思う?」

「うーん……物静かで芯が強くてちょっと斜に構えてる、とか?」

「根暗でガンコで周りの子は馬鹿ばっかって思ってる痛い子?」

「そんなこと思ってないよ!?」

 

 私だって自分の性格くらいわかっている。だけど、長所も短所も好意的に見るか否定的に見るかで変わってくるし、近しい人かそうでないかで変わる。

 

「だいたい合ってそうじゃない?」

「言い方。言い方が極端すぎるよ。こじれた人になってる」

「真希ちゃんの好みのタイプじゃないよね」

「好みのタイプって言われても考えたことないしなぁ……外見はイケメンってより可愛い感じなんだろうけど」

 

 真希ちゃんはまたもや眉根を寄せて考え出した。私が男の子だった時のシミュレーションをしているのかな。

 

「……ああ、身近にいたらお尻蹴っ飛ばしちゃうかも」

「でしょ?」

「かもしれないけどさぁ。っていうか話が見えないんだけど」

 

 真希ちゃんはジトっとした目で私を見てくる。だけど答えてあげない。

 

「逆に、真希ちゃんが男の子だったらどうかな?」

「留美ちゃんが無視する……えーっと、私が男の子だったら?」

 

 真希ちゃんはショートカットだから髪型は今とあんまり変わらないかな。背は高くて優しくて気遣い上手なところも変わらないか。

 

「えーっと、騒がしくて図々しくて肝心な時にヘタレちゃう、とか?」

「んー……明るくて物怖じしなくて肝心な時にヘタレちゃう?」

「最後! そこはフォローしてよ!」

「うーん……色々考えすぎちゃって動けなくなっちゃう、とか?」

「それって、結局ヘタレだよね」

「ふふ、そうだね」

「うう……留美ちゃんにそう思われてたなんて」

 

 真希ちゃんは手で顔を覆ってうなだれてしまった。

 

「真希ちゃんが実はヘタレだったなんて、つい最近知ったよ」

「私も留美ちゃんがこんなに毒舌だったなんて今初めて知ったよ」

「私たち。お互いのことまだまだ知らないことがたくさんあるみたいだね」

「綺麗にまとめようとしてるけど、知りたくなかったというか、知らなくてもよかったというか……。まあ、そういえば八幡さんにも結構毒舌だったね、留美ちゃん」

 

 私は真希ちゃんのことをもっと知れてうれしいけどね。真希ちゃんは嫌かな? 私の、自分で言うのもなんだけど、いいところだけを知っていて、それだけでいいのかな?

 心なしか、げっそりした顔で真希ちゃんは顔を上げた。どことなく疲れているように見える。

 

「それで、そんな実はヘタレな真希ちゃんが男の子だったとして」

「そんなにヘタレ連呼しないでよぅ、気にしてるんだから。えーと、私が男の子だったとして……ああ、留美ちゃんを好きになって告白したくてもウジウジして、できたとしてもふられちゃうかな」

 

 真希ちゃんが男の子だったら、素敵な男の子だろう。女子に人気が出るだろう。だけど、告白されたとしてもやっぱり私はふってしまうと思う。

 

「どうしてそう思う?」

「だって、留美ちゃんは八幡さんが好きだろうし、留美ちゃんの好きなタイプじゃないだろうし」

「八幡って結構ヘタレだとは思うけど」

「とりあえずヘタレから離れよう?」

「うん。とりあえず、男の子な真希ちゃんは素敵な子だとは思うけど、タイプかどうかっていうと、違うかな」

「だろうね。で、さ。結局、どうしてこんな話をしたの?」

 

 色々といじったせいか、どこか元気がなかったように見えた真希ちゃんが復調しているように見える。方法はともあれ、元気になったのはいいことだ。

 

「その質問に答える前に真希ちゃんに聞いておきたいことがあるんだ」

「……わかった。何でも答えるよ。もう、大抵なことじゃ驚かないだろうし」

「男の子じゃない女の子の真希ちゃんは、私のこと好き?」

「このタイミングでそれ聞く!?」

 

 真希ちゃんに会って一時間も経ってないのに、真希ちゃんの叫びを何回も聞いている気がする。

 真希ちゃんは頬を引きつらせ、顔を真っ赤にしてちょっとのけ反った。

 

「私は真希ちゃんのこと大好きだって言ったよね。真希ちゃんはどうなの?」

「……そんなの、言わなくてもわかるじゃない?」

「うん、わかる。けど、真希ちゃんの口から聞きたいな」

「えー……何この羞恥プレイ。何で私友達に辱められてるの?」

 

 言われなくてもわかる。けど、口に出すことが重要とも思う。私は口に出した。だから真希ちゃんにもちゃんと言ってほしい。

 ごまかしは許さないとばかりにじっと真希ちゃんを見ると、目に見えて狼狽えだす。

 ……好きな子をいじめたくなる心境って、こういうものなのかもしれない。

 口をパクパクさせていた真希ちゃんは、ぐっと唇を引き締め、口を開いた。

 

「うぅ……あーっ、もう! 好き! 大好き! 留美ちゃんと会えて仲良くなれて嬉しいし、ずっと友達でいたいって思ってる!」

 

 そこまでは求めてなかったけど、真希ちゃんは大声で宣言してくれた。自然と口端が笑みを形作っていく。

 体勢に無理がなければ真希ちゃんに抱き着いていたところだけど、難しいので真希ちゃんの肩に頭を寄せる。

 

「る、留美ちゃん?」

「真希ちゃん、私も同じ気持ちだよ。真希ちゃんと友達になれて嬉しい」

「……うん」

 

 真希ちゃんも私の方に頭を寄せてきてくれて、しばらくそのままでいた。

 言葉は思いを伝える手段だ。言わなくてもわかるとか、話しても伝わらないとか、私も真希ちゃんも言葉が足りなかったのだと思う。それはただの言葉ではなくて、想いを込めた言葉だ。本気の言葉だ。

 大事なことをぼやかして取り繕うことも、人間関係を保つのに必要なことなのは知っている。だけどお互いに嫌われてしまうかもしれない、との想いが本音を伝える言葉を、言うべき時期を逸していた。だからこそ私と真希ちゃんはギクシャクしてしまった。

 本音だけを言い合える仲は理想的なのかもしれない。建前だけでできている関係も上手くいくことはあるのかもしれない。

 私と真希ちゃんはどう付き合っていくのが正解なのか。そもそも正解なんてあるのかわからないけど。

 

「ねえ真希ちゃん」

「うん」

「私と真希ちゃんって、女の子同士だから仲良くなれたんだと思うんだ」

「……それは、さっきの男の子だったら、って話の続き?」

「続き、というより踏まえて、かな。ひょっとしたら男の子同士でも仲良くなれていたかもしれないけど」

「さすがにそれは何とも……。でも女の子同士だからっていうのはわかるよ。もちろん、それだけで仲良くなったわけじゃないけど」

「うん」

 

 寄せ合った頭を離して目を合わせる。真希ちゃんの目がちょっと潤んでいる。私も多分、そうだ。

 

「だから、女の子な理由で真希ちゃんと仲良くいられないのはイヤ」

「女子ルールの話?」

「うん。そもそも、真希ちゃんが八幡と話がしたいって言ったときに、私が変な声出したのがいけなかったんだよね」

「あー……まあ、それはちょっと、あるかも」

「あの時、私二人に嫉妬してたんだと思う」

「二人って、私と八幡さん?」

「うん。八幡のことを気にする真希ちゃんに、真希ちゃんに気に入られた八幡に」

 

 八幡ははっきり言って第一印象は悪い。目は腐っているし、態度も斜に構えているし素気ない。だけど、真希ちゃんは会ってすぐに八幡が見た目通りの人ではないと気づいていた。私が懐いている人だから、というフィルターがあったとしてもそれはすごいことだ。

 私が初めて八幡に会った時はどうだったかを考えて、色々と状況が違うことをわかりつつ、真希ちゃんの人を見る目に嫉妬してしまった。

 

「あ、いや、それは……」

「うん、わかってる。開成くんとのこと、伝えてくれようとしてたんでしょ?」

「あー、うん。でも、直接は言ってないよ? 留美ちゃんが嫌な思いしたからデートで楽しませてあげてくださいって、それだけだよ」

「その時の電話で八幡のこと、気に入っちゃったんだよね」

「う……まあ、うん」

 

 頬を染めた真希ちゃんが目を逸らし、頬をかく。可愛い。

 八幡のことだから無意識に私や小町さんにする対応を真希ちゃんにもしたのだろう。そうなれば、悪感情を抱いていない真希ちゃんが八幡へ好意を抱くのは想像できる。

 正直なところ不満がないわけじゃないけど、そんな八幡じゃなきゃ好きになってないし、真希ちゃんが気に入るのもわかる。

 だから、私は言う。

 

「私は真希ちゃんが好き。だから、それでいいんだって思う」

「それでいいんだ?」

「うん。好きだから仲良くしたい。近くにいたい。ただそれだけ」

 

 簡単なこと。難しく考える必要なんてない単純なことだった。

 もし真希ちゃんが八幡のことを本気で好きになったとしたら、気になるし気にすると思う。

 もし真希ちゃんが八幡と付き合うことになったら、辛いしへこたれると思う。

 でも、そうなったらその時に考えればいい。もしを考えて、今真希ちゃんと険悪になる必要なんてない。

 

「真希ちゃんは、私のこと嫌い?」

「大好き」

「私が近くにいるの嫌?」

「落ち着くし楽しい」

「だったら、いいんじゃないかな?」

「……」

 

 私が真希ちゃんのことを好きになったきっかけの言葉。今度は私から真希ちゃんへ送る。

 私の問いかけに即答する真希ちゃんの声は少し潤んでいるようで、私も段々感極まってきている気がする。

 でも、それは後だ。話が終わるまで堪えなきゃ。

 

「いいの、留美ちゃん? 私、留美ちゃんと一緒にいて」

「私は真希ちゃんと一緒にいたい」

「これまで通り、仲良くしてくれるの?」

「それは、嫌だな」

「え……?」

 

 真希ちゃんが泣きそうな目で私を見る。ちょっと罪悪感が湧いてしまう。

 けれどぐっと堪え、私は真希ちゃんの手を取り、目を見て言う。

 

「今まで以上に仲良くしてくれなきゃ、嫌だよ」

「~~っ、留美ちゃん!」

 

 もう真希ちゃんも私も限界だった。

 真希ちゃんが号泣しながら抱きついてきて、私も真希ちゃんを抱き返す。目からは涙かポロポロと流れ落ちてきた。

 

「ごめんね、留美ちゃん。ごめんねぇ」

「私こそ、悩ませちゃって、ごめん」

 

 涙が止めどなく溢れてくる。止めるつもりは無い。

 声が掠れる。真希ちゃんに伝わればいい。

 抱きしめる。力いっぱい。

 顔と一緒に頭の中もぐちゃぐちゃだ。今は何も考えたくない。

 今はただ、真希ちゃんをぎゅっと抱きしめていたい。

 それから、日が暮れるまで公園にいた私たちだった。

 

 

 

 




 エピローグは数日後に。

 友人とケンカをしたこと、仲直りをしたこと、経験ある方からどう見えるかわかりませんが、いかがでしたか?
 私は友人自体が少なく、ケンカしたことも仲直りしたこともありません。小学生くらいならあったかもしれませんが。
 無理なく書けているか不安です。
 留美らしさが出ているかもよくわかりません。
 わかりませんが、このまま突っ走っていく所存。これからもお付き合いください。

 じゃあまた。

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