踏み出す一歩   作:カシム0

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 当初の予定であったゲームの発売日からかなり遅れての更新。しかも長くなったので分割する。
 まあ、予定は未定ということで、はい。

 そんなわけで留美のお悩み解決前編。あんまりしてないかも?
 次回がメインのお悩み解決。になるでしょう。多分。
 書いているともっていきたい展開とキャラらしさがぶつかりあって筆が進まなくなったりします。
 とはいえ、下書きは終わっているのでお盆までにはお届けできるかと(だって忙しいんだもの)。

 グダグダ言い訳かましましたが、どうぞ。


やっと鶴見留美は迷路から抜け出せる(前)

 

 

 

『そか。それじゃまたな』

「うん」

 

 スマートフォンの切断ボタンを押す。これだけ長い時間使ったの初めてかも。

 ほうと息をつく。

 初めてスピーカー機能を使ったけど、結構聞こえる範囲は広いみたい。時々聞こえづらい箇所はあったけど、八幡と開成くんの会話はだいたい聞こえていた。

 

「……あうぅ」

 

 そう、聞こえていたのだ。思い返して顔が熱くなっていくのが分かるほどに。

 

 

 

 

 

「ごめん、お待たせ」

『いや、今電話大丈夫か?』

「まだ裸なんだけど、それでもいい?」

『いや、いいから服着ろ。っつーか、なんで俺に聞くんだよ』

 

 シャワー室から出て髪を乾かし、自分のロッカーへ戻った時に携帯電話が着信していることに気づいた。

 その相手が八幡であると気づき、私は小町さんに言われた『妹のように思っていたのに、ふとした拍子に女の子を感じてドッキドキ』作戦を決行することに決めた。うん、ネーミングセンスはともかく、八幡には結構効きそうな気はする。

 以前から時々実施しているのだけど、今日なんか時々だけど、八幡に抱き着いたときに八幡の動きが鈍ることがある。多分、私にドキドキしてくれているのだと思う。というか思いたい。これだけ頑張っているのだから少しは効果があってくれないと困る。私も恥ずかしいのを我慢して抱き着いているのだし。

 ともあれ、わざわざ八幡が電話をしてくるのだから、どういう要件なのかと思ったのだけど。

 

『ああ。さっき、留美と話してたやつ、開成大誠ってのが俺に話があるらしくてな、ちょっと時間をもらえるか?』

 

 この八幡の言葉で頭を抱えたくなった。まさか八幡の方に絡みに行くとは。

 いったい開成くんは何がしたいのか。今まで私に告白してきた人たちと、開成くんはどうにも様子が違う。自意識過剰な言い方になってしまうけど、おそらく開成くんは私のことが好きなのだと思う。だけど、私に告白してくることもなく、私や八幡にただ絡んでくるだけ。

 開成くんがよくわからない。

 

「……八幡、ちょっとお願いがあるんだけど」

『ん、何だ?』

「電話私からかけなおすから、スピーカーにして開成くんとの話、私にも聞かせて」

 

 お父さんたちにお金を払ってもらっている身で長電話をするのを承知でお願いする。どんな話をするのかも気になる。私のことで八幡に負担を掛けたくはないし。

 だけど、

 

『留美』

「うん」

『ごめんなさいより、ありがとうの方がいいな』

「……」

『……』

「八幡」

『お、おう……』

「恥ずかしくない?」

『……かなり』

 

 八幡に気を使われているのが分かってしまった。ただ、八幡の気の使い方があまりにもアレだったのでちょっと笑ってしまったけど。

 それでも、八幡の心遣いが嬉しく、

 

「ふふっ。でも、ありがとう。任せるね?」

『ああ。それじゃあな』

「うん。よろしく」

 

 八幡に任せることにした。女の子相手じゃなければ、八幡に任せておけば大丈夫だと思える。

 

『待たせたな』

『ああ。全くだ。イチャイチャしやがって』

『恋人なんだからいいだろ、別に。それで話の続きなんだが、留美が昔お前のことが好きで、俺に横入りされたから別れろ、だったっけか?』

『そうだ』

『仮にお前の言う通り留美が昔お前のことが好きだったとしても、今は俺の恋人なんだから関係なくねえか?』

『ぐっ……』

 

 うん、結構聞こえるみたい。

 イチャイチャ……傍から見たらそう見えるのかな。まあ、恋人役をお願いしているのだし、そう見える様に会話をしていれば当然、かな? 結構素で話していたと思うけど。

 八幡に恋人って言ってもらえるのが、嘘でも嬉しい。顔がにやけてしまいそうになる。

 けれど、開成くんの言っている意味が相変わらず分からない。どうして私が開成くんを好きだと、そこまで信じ込めるのか。あんまり話したことなかったはずだけど。

 

『あ、あんたが鶴見を騙しているからだ』

『騙すとは人聞き悪いな。どういうことだ?』

『さっき、一緒に来た鶴見と同じクラスの女子に聞いたんだ。あんたみたいな目をした奴が優しそうで爽やかとか、言われるわけねえだろ』

 

 さっき綾瀬さんと出くわした時のことか。爽やかさとは無縁の八幡が綾瀬さんには好評な雰囲気を与えていた。

 でも……ふふっ、私を騙しているとか。八幡の目の腐り具合は本当にいい印象を与えないんだ。眼鏡はやっぱり必須なのかな。

 

『やっぱり、その変装で鶴見を騙したんだな』

『これ留美には不評なんだがな。そもそも留美と知り合ったころから裸眼だったし』

『鶴見が何か悩んでいるときに、爽やかを装ってつけ込んだんだろ』

 

 眼鏡を掛けてない方が八幡っぽいから好きなんだけどな。爽やかだったら八幡のことを好きになってなかっただろうし。

 

『留美のこと気にしてたんなら、去年留美がどういう状況だったのか知ってたんじゃないか?』

『あれだろ? 誰かをハブるっていう遊びの』

『何でそん時、留美を助けようとしなかった?』

『ああいうのは外から口出ししたら逆に揉めるんだよ。黙ってちょっと我慢してればすぐに収まるんだ。実際にそうだったし』

『ふーん……』

 

 知ってたんだ。というか、去年のクラスメイトならみんな知っているはずか。

 みんなが知っていて放っておいた。放っておかれた。助けてくれた(と言っていいのか判別が難しいけど)のは八幡と奉仕部のみんなと、金髪の人たち。

 別に怒っても恨んでもいない。普通なら開成くんのような対応をするのだろうし。

 でも、だからこそ開成くんに対して全く特別な感情を抱きようがないのだけど。

 

『まあ、なんにせよだ。昔はどうあれ、留美は今俺と付き合っているんだから、諦めて他の子探せよ。こういうとこに一緒に来るくらい仲いい子いるんだろ?』

『別に、仲がいいからって付き合うわけじゃないだろ。友達ってだけだし、鶴見は俺のことが』

『しつこいと嫌われるぞ。それと素直に言いたいこと言えよ』

『俺のどこが素直じゃないってんだよ』

 

 留美は俺と付き合ってるんだ。たったそれだけの言葉で胸が踊る。私って本当に簡単だ。

 まあそれはともかく。綾瀬さんはデートのつもりだったような雰囲気なんだけど、なんとも勝手な感じがする。ある意味素直で、素直じゃないかな。

 

『周りの目を気にして様子見したり、留美からの告白を待ったりしてるあたりだな。留美と付き合いたきゃ自分から動くべきだったんだよ。そうすりゃ、今留美と付き合ってるのはお前だったのかもしれないのに。もったいないことしたもんだ』

 

 浮かれていた気持ちが一気に冷える。

 もしも開成くんが去年私を助けてくれていたら? ひょっとしたら、八幡や雪乃さん達と知り合えなかったのかもしれない?

 助けてくれたからと言って私が開成くんを好きになるとは思わない。だけど、すでに八幡を好きだと自覚している私が、好きな人に出会えなかったなんてこと、想像するだけで恐ろしい。

 八幡は、どう思っているんだろう。もし、林間学校で八幡や雪乃さんの目に留まらなかったら、私を気にかけることなく、知り合うことなく、世話をした小学生のうちの一人とだけ認識していたとしたら。

 ……考えたくはない。

 

『俺は留美に好かれるために行動したつもりはない』

『じゃあ、なんであんたみたいのが鶴見と付き合ってるんだよ。おかしいじゃねえか』

『俺だってよく分からんけど、それが人の心ってもんなんじゃねえの?』

 

 確かに八幡は私に好かれようとする行動をとっているつもりはないだろう。本人も俺は留美にひどいことばかりしている、なんて言っていたし。私自身が八幡が何のために動いているのかを理解しているからそんなことはないのだけど。その気持ちが言葉からも行動からも伝わってきて、気づいたら八幡のことを好きになっていたんだった。

 本当に、人の心というものは難しい。特に八幡みたいな捻くれた人は理解するのに非常に手間がかかる。だからこそ、八幡のことを理解できるたびに嬉しくなる。難問を解いたような爽快感がある。

 どれだけ八幡と過ごしても、八幡に近づいても、理解し切れることはないんだろう。それは多分、誰が相手でも一緒で。

 

『聞いたこともないし聞くまでもないことだが、留美は俺のことが好きだぞ』

『っ……!』

 

 ちょっとしんみり考えていたところに、八幡の爆弾発言が聞こえてきた。顔が一気に赤くなる。

 私は八幡のことを好きだと言ったことないし、それに聞くまでもないって!?

 そんなにわかりやすいかな、私。でも、あのニブチン八幡が、ヘタレで捻くれてる八幡が気づけちゃうのかな。

 混乱する私の耳に、もう一発の爆弾が放り込まれる。

 

『それに、これまた言うまでもないことだが俺は留美が好きだし大事にしたいと思っている。相思相愛のカップルの間に入ってくるんじゃねえよ、邪魔者。横入りしようとしてんのはお前だ』

 

 頭の中が!?で埋め尽くされそうになった。

 好きって、私のことを好きって言ったよね、今。大事にしたいって……相思相愛って……。

 頭がグルグルして悶えそうになる私だけど、頭の中に冷静な部分がまだ残っていたようで、ふと気づく。

 八幡が今話しているのは開成くんだ。ほとんど八幡の声しか聴こえていなかったから忘れかけていたけど。そんな状況で言うってことは……開成くんに釘を刺しているのか。ちょっと暴走した頭を落ち着かせる。

 八幡は冗談は言うし、ごまかしたりはするけど、嘘はつかない。性格的につけないと言った方がいいのかな。

 だから、そんな八幡が好きと言ってくれたのは素直に嬉しい。

 でも、妹として、とか余計な枕詞がついているんだろうなと簡単に予想できるから腹も立つ。

 

『優しくされたいのか?』

『いや……どうなんだろ』

 

 少し落ち着いてきたので、電話向こうに耳を傾ける。開成くんの勢いが鎮まったというか大人しくなったというか。八幡のあのセリフで撃沈したのだろうか。

 私に彼氏がいるという噂が学校で流れて、告白してくる人を遠ざけるのが今回の作戦目標である。開成くんも無闇に絡んでくることが無くなればよりよいのだけど、どうだろう。

 

『なあ開成』

『……なんだよ』

『留美に告白してこい』

『はぁっ!?』

 

 とか考えていたら、八幡が変なことを言い出した。私もはぁっ!? とか、言いそうになってしまった。

 え、なんでそういう話になるの?

 

『留美が了承すればだけど、今から留美と話す時間を作ってやる。そこで告白しろ』

『な、何だよ。どういうつもりだ?』

『お前が諦めつかないのは、留美に断られてないからだ。だから、うじうじしてないで男らしく告白して、振られてこい』

『振られる前提かよ!』

『当たり前だ。俺がいるんだから、お前に勝ち目があるとでも思ってんのか?』

 

 ああ、そういうことか。開成くんを確実に諦めさせるために、私に振らせようってことか。

 開成くんのように何も言ってこない人に、私のこと好きなら諦めて、とか言うのも変だし言いたくない。正面から告白してくるなら正面から振ることができる。

 それにしても、強気な八幡って新鮮かも。いつも雪乃さん達にたじたじになっている八幡しか見ていないから。俺様系とは違うけど、こういう八幡もたまにはいいかな。

 あ、雪乃さん達が眼鏡を掛けた八幡を気に入ってるのもそういう理由? 新鮮と言えば新鮮なのかもしれない。

 その後、開成くんが電話から離れたからか、声が聞こえなくなった。何か話している気配はするのだけど、ボソボソ呟いているかのようで全く聞こえない。

 そして、

 

『~~っ、俺が告白して、鶴見がオッケーだしても恨むなよ!』

『恨みゃしねえよ。ありえねえから』

『余裕かよ』

『まあな』

 

 開成くんが大きな声を出し、去っていったようだった。捨て台詞を言っていたようだけど、八幡の言う通りありえないことだ。私が開成くんの、もっと言えば誰からの告白に応えることはない。

 ただ、現段階ではありえないと言ってしまえるのが残念だけど……八幡から告白してくれたら、どうだろう?

 すぐにうんって言っちゃうかな。それとも、感極まって何も言えなくなっちゃうかな。どちらにしても、幸せな気分になるのは間違いないんだろうけど。

 

『留美、聞こえてたか?』

「……」

『留美?』

「あ、うん……聞こえてた」

 

 いけないいけない。ちょっと浸ってしまっていた。今はまだありえない未来に思いをはせている場合じゃない。何せライバルはいっぱいいるんだから。

 というところで、冒頭に戻る。

 

 

 

 

 

 赤面した顔を収めようと、顔を洗ってから更衣室を出る。うん、大丈夫。私は落ち着いている。鏡を見た時、まだちょっと赤くなっていたような気がするけど、気のせいだ。

 

「お、留美。悪かったな、待たせちまって」

「……ううん、大丈夫」

 

 そう、大丈夫。八幡の顔を見ても私は落ち着いている。更衣室の入り口で八幡とばったり出くわしても慌てたりしない。

 

「ん、顔が赤いぞ? 本当に大丈夫か?」

「っ!?」

 

 だけど、八幡が私の額に手を当ててきたからダメだった。目が腐っていると表現されがちな八幡が私をいたわるように見てくる。その目はいつもより優し気で、また顔に血が上ってくるのを感じた。

 

「だ、大丈夫だってば」

「そうか? だったらいいけど、無理すんなよ」

「うん」

「とりあえず一息つこうと思うんだが、喫茶店でいいか?」

「わかった」

 

 八幡の横に並んで歩く。これなら顔を見られないで済むかな。

 頭の中に電話で聞いた八幡の言葉が思い浮かんでくるのを、今はいったん置いておく。というか、置いておかないと、まともに八幡の顔が見られそうにない。違った。当分八幡の顔は見ることができない。

 意識して顔に力を入れてまっすぐに前を見る。そうしないと顔がにやけそうだし、八幡の顔を見たら蕩けてしまいそうだ。

 私たちが遊んだスポーツセンターは駅前にある。だから、少し歩けば喫茶店はすぐに見つかった。八幡が指さし、私が無言で頷く。

 以前八幡と行ったお爺さんがマスターをしていたお店とも、小町さんと行ったお洒落なお店とも違う雰囲気のお店だ。

 店員さんに案内され席に着く。もう夕方に近いからかお客さんの数は少なく、私たちの席の周りに他のお客さんはいなかった。ゆっくりお話しできそうだ。

 

「いらっしゃいませ。ご注文お決まりの頃に伺います」

「俺は決まってるけど、留美は?」

「ん、と。アイスカフェラテで」

「じゃあ、アイスカフェラテとアイスコーヒーでお願いします」

「はい、かしこまりました」

 

 お冷を一口。腰を落ち着けたこともあって、やっと冷静になれた気がする。

 

「あー、留美?」

「何、八幡?」

「機嫌治ったか?」

「は?」

 

 冷静になったとたんちょっとイラッとしてしまった。

 え、何? 喫茶店に来るまで何も話さなかったのって、私の機嫌が悪いと思われていたの?

 

「いや、スポーツセンター出てからずっと顔強張ってたし、俺の方見なかったし、手も繋ごうとしなかったしな」

 

 ……私のせいだったか。だってそうしてないと顔は多分思い出し笑いを浮かべていただろうし、だから八幡の方を見ないようにしていたのだし、手を繋いだら手汗かきそうだったし。乙女として人様にお見せできない状態は避けたいところ。

 

「別に、機嫌悪いわけじゃないよ」

「そうか。ならいいんだが」

 

 八幡は、微妙に納得いっていなさそうな顔でお冷を口にした。そのままそこは曖昧にしておきたい。

 私もお冷を飲んで、八幡に気づかれないように軽く深呼吸。心を落ち着かせて、八幡に話さなくてはいけないことがある。

 

「ねえ八幡」

「ん?」

「無理聞いてもらって、ありがとう」

「無理したつもりはないけど、何がだ?」

「作戦。考えていたよりいい結果になったと思う」

 

 今日の八幡とのデートは作戦の一部だ。当初は誰かに見られて噂になってくれればいいな、という他力本願な内容だったけど、色々とあったから噂が補強され、懸念事項が減ったのではないかと思う。結果としては万々歳、なのだけど。

 

「お待たせしました。アイスカフェラテとアイスコーヒーお持ちしました」

 

 ちょうど店員さんが注文したものを持ってきてくれた。前から思ってたんだけど、どこの喫茶店の店員さんもちょうどいいタイミングで来るのは、やっぱり様子を見ているからなのかな。

 カフェラテに何も入れずに一口。色々なメニューを試して辿りついたアイスカフェラテは私の好物の一つだけど、いつもはガムシロップを入れて飲んでいる。ただ、今は苦いものを口にしたかった。

 

「留美に頼まれた作戦はこれで完了ってことでいいわけか?」

「……うん。後は自分で何とかするから」

「ああ、頑張れよ」

 

 そう。作戦だったんだ、今日のデートって。すごい楽しかったから頭から抜けそうになっていた。

 ちょっと、いやかなり、残念だ。自分からお願いしておいて、八幡が義理でデートしてくれたような気がしてしまう。

 八幡のことだから、今日のデートには本気で取り組んでくれたと思う。私を楽しませようとデートプランを考えてくれたし、絡んできた開成くんに誠実に対処してくれた。だけど、そう考えてしまう。

 ああ、もう……嫌だな。八幡といい真希ちゃんといい、私の好きな人たちに変なことを考えてしまう自分がすごく嫌だ。

 どうにも、今日の私は気分の浮き沈みが激しい。

 私が自己嫌悪に陥っていると、アイスコーヒーにガムシロップを混ぜていた八幡がこちらの気も知らずに口を開いた。

 

「そんで、次はいつにするんだ? 受験生だから、あんまり頻繁にってわけにはいかないんだが」

「……え?」

「なんだ、リベンジする気はないのか? やる気満々だったからすぐにも次の約束取り付けるもんだと思ってたんだけど」

 

 ポカンとしてしまった。私が深刻に考えていただけに、八幡が軽く言ってくる内容が理解できなかった。

 

「いいの? 何もないのに遊んでもらっても」

「いいもなにも、俺と留美が遊ぶのに大層な理由はいらんだろ。今回が特別だっただけで」

 

 そっか。いいんだ。

 ああ、もう……ずるいなぁ、八幡は。普段は絶望的に察しが悪いのに、本人は全く意識していないだろうに、こっちが欲しい言葉をくれる。

 まあ、私と八幡が、というあたりに、雪乃さんや結衣さんだったら大層な理由とやらが必要なのだろうと察しは付く。女の子として見られていないと嘆くべきか、他の人よりハードルが低いと喜ぶべきか、わからないけど。

 さておき、こういうときなんていうんだっけ。あ、そっか。

 

「八幡、あざとい」

「……なんで今の会話の流れでその答えが返ってくるんだ? なんか最近一色にもよく言われるし」

「今の実力じゃ、また八幡に返り討ちにされるだけだから、もっと練習してからにしたいかな」

「会話をしような?」

 

 実際、今日は全く歯が立たなかったわけだし、最後のあれだって、八幡に勝ちを譲ってもらったようなものだ。実力で八幡からポイントを取るには、どれだけ練習する必要があるのかな。

 

「留美の学校って、休み時間とかに別の部活の道具とかコートとか、使えるのか?」

「やってる人見たことない。禁止されてるとも聞いたことないけど」

「んじゃ、またあそこに行くのか?」

 

 言われて考える。帰り際、受付のお姉さんに今度友達と来るとも、会員登録はまたにするとも答えている。

 今の私がそれを実行できるのか。簡単なことだけど、簡単な質問だけど、答えに窮してしまう。

 

「うん。そうなる、と思う」

「そっか。あの子、山北さんだっけ? 誘ってみりゃいいんじゃねえの」

 

 これはどう判断すればいいんだろう。八幡は素で言っているのか、それともいい加減に話せと急かされているのか。

 私は八幡に直接相談はしていないけど、真希ちゃんのことを口に出さないようにしていたし、怪しげな態度をとっていたと思う。

 ひょっとして、今までの私は心配してと態度で八幡に伝えている状態なんじゃないだろうか。いけない、そんなかまってちゃんなんて以ての外だ。

 

「そのことだけど……八幡、真希ちゃんとのことで相談に乗ってもらいたいんだけど、いい?」

「おう、本当に喧嘩でもしたか?」

 

 やっぱり八幡なりの催促だったのか、いきなりの私の言葉にもすぐに答えてくれた。心配させていたのかな。

 八幡には本当にお世話になりっぱなしだ。迷惑も心配もかけている。その上、相談にまで乗ってもらおうとしている。

 だけど、今の私には解決の糸口すら見えない現状なのは確か。八幡に借りを返す方法は後で考えよう。

 とは言え、私が八幡にできることって特に思いつかないのが悔しいところ。私にできることなら何でもするとか言っておけば、八幡がしてほしいこと言ってくれるかな。

 

「実は……」

 

 

 

 

 




 いきなりですが、入れたかったけどできなかった場面を紹介。

「俺と勝負しろ! 俺が勝ったら、鶴見と別れろ!」
「あ? やだよ。俺にメリット無いだろ。なんでんなことしなくちゃならねえんだよ」

「鶴見さんの彼氏? へー、付き合ってるなら証拠見せてよ」
「証拠?」
「そうだなー、キスとかしてみせてよ」
「俺と留美は人前ではしたないことするような付き合いしてねえんでな。そもそも君に証拠見せる必要とかねえだろ」

 漫画とかでありがちな展開を八幡がぶったぎるのをやってみたかったのですが、話がつながらないのでカット。
 全く触れないのももったいないのでご紹介。

 次回は八幡との会話、真希ちゃんとの会話をお送りします。
 はい、早めにお届けできるように誠意努力します。
 それじゃあまた。

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