黒雪のコモリオム  --What a beautiful Fakes --   作:ジンネマン

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初めまして。私はハーメルンスチパン支部の末席を汚す者、ジンネマンと申すものです。

なおこの拙作は、このハーメルンの海にあるとある作品と時代と地域が非常に近いので関連せいはあるようで、ないようで、というような作品です。
気になる方は原作のところで検索するとそれが見つかります。

そちらは素晴らしい作品なので見てみる価値は大いにあります。

では皆様お楽しみください。

追記
7月20日(木)設定変更に伴い、地文などを書き足しました。


第一章 白を忘れた雪
1-1


 白い風景。

 白い空間。

 白い世界。

 

 ここは何もかも白いところ。けれどもある一点、そこだけに灯る灰色の炎(・・・・)

 そこにいるのは、そこにあるのは、そこには■■■■■■■がいる。

 それはプラスをマイナスにするもの。

 

 それはありとあらゆるものを凍らせた。

 それは国を、星を凍りつかせた。

 

 そんなモノのいる此処を誰も訪れることはない。

 そんなモノのいる此処を誰も訪れることは出来ない。

 しかし、

 

「やあ久しぶりだね■■■■■■■。しかし相変わらずここは寒い」

 

 誰かいる。いや、誰かというの人を指す言葉だが、かのものは本当に人なのか?

 

「そして君は未だにあれ(・・)地上(ここ)に降りてくるのを待っているのかい?」

 

 そして、かのものは気軽に、気さくに、気安く灰色の炎に話しかける。

 

「僕かい? 僕は別になにも、憤怒王は白い彼がなんとかしてくれるだろうだし」

 

 かのものは、そのものは着古した黄色とも緑ともとれる外套をし、深くフードを被って灰色にはなしかける。

 

「それはともかく、あれ(・・)はもう降りてこない。この灰色の空の下ではね」

 

 その時。灰色の炎がまるで心臓が脈打つように鳴動した。

 

「なるほどね。待っているつもりは無いと言うのかい」

 

 灰色の炎はさらに鳴動する。まるで臨月を待つ胎児のように。

 

「解放者がいるというのかい。しかし君が解放されたかたといってどうにも」

 

 いま、ひときわ、おおきく鳴動した灰色の炎。

 

「なるほどね。たしかに今の君自身は何もできないけど、人間たちを使ってどうにかするんだね」

 

 一応の納得をしたかのもに呼応する灰色の炎。

 

「しかし律儀だね。そんなに時計人間(チクタクマン)が気に入らないのかい?」

 

 一瞬、爆発音がした。それは鳴動などと形容できるものではなかった。

 

「わかったよ。全く■■■■■の敵は自分の敵かい。本当に律儀だ」

 

「でもね。僕は君の復活もあれの復活も許容しない」

 

 灰色の炎は変わらず鳴動を続ける。

 

「だって僕は人間が好きだからね」

 

 静かになる。

 誰もいなくなる。

 ここにあるのは灰色の炎だけ。

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 チクタク。

 チクタク。

 チクタク。

 

 カチッ、チリンチリン。チリンチリン。

 目覚まし時計が鳴る。チリンチリンときれいな鈴の音のような機械音が部屋に響き渡る。静かでおとなしい音だが起きるには十分な音量だ。友人……親友曰く『よくこんな小さな音で起きれるね』とよく言われる。

 縫いつけられたように重いまぶたを薄っすらと開ける。外はまだ暗いが時計を見るといつもの起床時間だ。暖かなシーツをどけてひどく、冷たく、冷えた、凍るような外気に身を晒して眠気を払う。

 暖房機関(ジャラー・ドヴィーガチリ)はつけない、だってつけてしまうと行動が鈍る。というより動きたくなくなる。だからつけない。

 

 私は洗面所に足を運んで蛇口を捻り水を出し顔を洗う、痛みを伴うほど冷たい水はほんの少し残っていた眠気を洗い落としてくる。

 しゃっきりした意識で鏡を見る。鏡に映るのは肩甲骨あたりまであり、ところどころ寝癖のある私の髪、かつてこの国で、いや世界中で見ることのできた雪のような白い髪の毛。

 そして金色の(・・・)双眸。いつも見ている瞳。今まで私と同じ瞳をした人は見たことはない、友人はもとより、家族、親戚、学校や街の人たちの中でさえ見たことがない。家族や親戚に聞いてみたが二代三代遡っても私と同じ瞳をした人はいなかったらしい。

他にも胸に炎の形をした灰色の痣がある。これも生まれた時からあるもので、生まれつき白い肌をしているからあまり目立たない。これも家族や親戚にないらしい。

 

 私は寝癖を直し、髪を櫛でとく、最後に問題がないかを確認して洗面所を出て寝間着代わりの肌着を脱ぐ、下着以外になにも身に着けていないからすごく寒い。

 私は歯がカタカタと鳴らしながらもいそいそと服を出す、今日は一段と寒いから厚手の服を着こみ、最後に大事なアレ(・・)を鞄の中に居れて準備万端。

 そして外套(パリトー)とカバンを携えて私アンナ・パヴロワは食堂に向かう。

 

 今日の朝食はサンドイッチと卵、ヨーグルト、カッテージチーズにコーヒーだ。ロシア……というかこの近くの国は酷農の国が多いのでの朝食は基本的に少食である。そのぶん乳製品などが豊富でいろいろな料理に使われる。

 私がトレイに朝食を載せて適当な席に着くと向かいの席が引きつられる音がした。

 

「おはようアンナ。今日も寒いね」

 

 朝の挨拶をしてくれた癖のある茶髪の少女はタマーラ・カルサヴィナ、同じ帝室マリインスキー劇場附属舞踊学校の私の先輩、私の親友、私のライバル。

 

 ――私の大切な人。

 

 彼女は帝室バレエのダンサーであったお父さんの影響からバレエを始めて、最初は知り合いにコーチしてもらい、次に現役引退したお父さんにコーチしてもらい帝室マリインスキー劇場附属舞踊学校に入ったらしい。

 彼女は哲学者の兄がいるそうで、その影響なのかちょっとした会話でも知性あふれていて社交界では人気があるらしい。

 さっきから『らしい』『らしい』『らしい』と連呼しているのは私が彼女の会話に出てくる人物達に会ったことがないからだ。

 

 だって私は貧しい家庭に生まれで、戸籍上は退役兵と洗濯婦との間の娘となっているが、実の父親は二歳のころに亡くなっていると二人から聞かされた。でも他にも私の父親という人物がいるらしく私自身誰が本当の親なのかわからない。

 ――でも私の生まれがどうのと彼女は言ったことも、気にする素振りも見たことがない。彼女は気さくに、明る笑顔で私に接してくれる。

 ――古い本でいうところの『太陽のような優しい笑顔』というものだろう。

 

「おほようタマーラ。今日もたくさん食べるね」

 

 彼女のトレイにはスィルニキ、ソバのカーシャ、ビーツのサラダ、キノコのピクルス、ジャムと紅茶と種類も量も多い。

 

「だって私は育ち盛りだもの。それに今日一日学校の後には厳しいレッスンが鎌首をもたげて待っているのよ。

 そんな場所に空腹のまま赴いては身が持ちません」

 

 そう言う彼女を私は微笑む。

 ――ああ、今日という暖かい一日が始まる。

 ――ああ、日常という演目が始まる。

 ――ああ、こんな優しい日々がいつまでも続いてほしい。

 

「さあ食べましょうか、いただきます」

 

 食事の祈りを終えて私たちは食べ始める。

 食事中はおしゃべりはせずに静かに、黙々と食事を進めていく。

 食事が終わるとトレイを返却口に置いて、再度部屋に戻る人と戻らずに学校へ行く人の二通りいる。

 私たちは後者でそのまま学校へ行く。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 私たちの住む街はサンクトペテルブルク。ここはロシア機関帝国の首都にして、西欧諸国の国境線に近い最前線の都市。都市の名は『聖ペテロの街』を意味する。これは、建都を命じたピョートル大帝が自分と同名の聖人ペテロの名にちなんで付けたもの。

 このサンクトペテルブルク西欧諸国に倣って作られた人口の都市。サンクトペテルブルクのネヴァ川は、古くはバルト海からヴォルガ川、ドニエプル川といった内陸水路を通じて黒海へと向かう交易ルートに位置し、この川はフィンランド湾最深部に流れ込む。サンクトペテルブルクの街はネヴァ川河口の三角州を中心に発達した。

 

 しかし機関文明の流入によりネヴァ川かつての姿から大きく変貌している。川は(くろつち)のように黒く染まり、冬の今頃になると黒く大きな流氷が川の表面に張った氷を『キュキュッキュ』っと音を立てながら逆流してくる、川に泊めてある船も押し流しながら来るその光景はまるで黒く大きな怪物(モンスター)が川そのものを噛み砕きながら進んでいるようにも見える。

 周りの人は『すごい』とか言っていたけど私は初めてその光景を見た日は怖くって夜にトイレにも行けなかったくらいだ。

 もちろん今は一人でトイレにだって行けるし、おねしょなんかもしない。

 

 でも、積極的に見たいとは思わない。

 だって、怖いことには変わらないから。

 やっぱり、不気味にしか見えないから。

 

しかし、それ以上に怖いことがあった。

そう。今から一週間前にあったあの惨事。低賃金労働者の抗議活動から発展した事件、ロシア機関帝国軍の一兵卒が暴走して守るべき一般市民に銃火を浴びせた悲劇の日。

未だにそこかしらに残る生々しい血痕や建物の残骸、歴史に残るであろう残虐な傷跡。死者は千人以下とも四千人以上とも言われているが、精確な数は不明であることがその凄惨さを物語っている。

 

この帝都には惨事の首謀者が潜んでいるとの噂がある。みんな噂している。

いや、今でも、そこかしかで新聞に載るようなものからそうでないものまで毎日事件が起きている。とても恐くって怖い。

 

そんな私をタマーラは優しく手を包み込んで、

 

 ――タマーラには『まったく、子鳥ちゃん(プチーツァ)いつまで子供みたいなこと言ってるの』といわれた。

 ――子鳥ちゃん(プチーツァ)、以前寝起きの頭を見て彼女が『翼羽ばたかせてる鳥みたい』と言ってそれ以降二人きりの時に私をそう呼ぶ。

 ――他にも雪ちゃん(スニェーク)とも呼ばれる。理由は前に美術館に行った時に観た絵画が、降りしきる雪の絵画、そして、『アンナ、あなたの髪の毛、この絵の雪みたいね。ううん雪よりきれい』そう言って頭を撫でながら褒められた。

 

 ――あれは少し恥ずかしかったけど、でも、お母さんみたいに撫でてもらってうれしかった。

 ――でも雪ちゃん(スニェーク)はちょっと複雑だ。排煙の少ない日は灰色の雪だが、そうでない日は黒くなる。

 ――昔は白かったかもしれないが、今は違う。

 

 ――滑らないように足元に注意しながら歩いていても目に付く、すべてを覆い尽くす雪。

 ――灰色の、白と黒の間にある色。

 ――けれども決して白ではない色。

 

 指で髪を摘み弄る。

 自分で言うのもなんだが白くってきれいな自慢の髪。

 だからこそ、尚更複雑な思いになってしまう。美術館で観たいくつもの雪を題材にした絵はどれもきれいだったが、いま目の前にある光景を見て同じものとは思えないから。

いや、この灰色雪はすべてを覆い隠す。生々しい血痕も残骸も、事件の痕跡と人々の嘆きも覆い隠した。

 

まるで、誰かが意図的に隠し去ろうとしているように思えて、人の、街の、すべての影が黒から《赫》に染まっていくと錯覚してしまう。

そんな不安から先程よりも深く足元を見詰めてしまって、それをタマーラが心配してくれてもう一度強く握ってくれた。

 

「アンナ、足元に気を付けるのはいいけど前も見ようね。もう着いたよ」

 

「え?」

 

 横からタマーラの声が聞こえる。いつの間に私たちの学び舎についていたらしい。

 そう私たちの学び舎。

 

 帝国サンクトペテルブルグ碩学アカデミー。




第一話はちょっと短め、でも自分的には平均的かな? 

そして今更後悔、なぜなら連載作品がなろうも含めて三本……どうしよう。やりきれるかなと思っている。
けれども悔いはない(支離滅裂)だって書きたくなったんだから。

というわけで(どういうわけ?)雪原のコモリオムです。

あと自分はあまりクトゥルフ神話は詳しくないのでなにか変でもあまりツッコまないでください。お願いします。

では親愛なるハーメルン読者の皆様、良き青空を。

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