黒雪のコモリオム  --What a beautiful Fakes --   作:ジンネマン

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 二月二十七日。

 旅順近郊二○三(にいまるさん)高地周辺。

 

「ドっせいっ!」

 

 獣の咆哮と号砲を思わせる豪声と同時に重機関砲でなければ傷つけるどころか破壊さえ困難な重装甲戦車が一瞬僅に金属が擦れる音と共に穿たれる。

 穿ったのは槍だ。だがただの槍ではない。石突きから刃の尖端まで十四尺(約4.2㍍)の雷電を纏った槍だ。

 刃の部分もただの刃ではない。螺旋だ。尖端の部分は長さ四尺(約1.2㍍)、横幅が二尺(約60センチメートル)の大きな螺旋の刃。小さな子供がすっぽりと入りそうな巨槍を振り回すのは一人の老人。

 

 後ろで一つに纏めた長い白髪と無造作に伸びた髭、顔は僅に皺があるものの精悍で歳を感じさせない生命力に満ちており、そしてこの寒空の中半裸で、実際の年齢からは想像できないほど浅黒く焼けた肌(・・・・・・・)の背丈が七尺程の筋骨隆々とした遠目から見れば大柄の異国の青年と見間違える老人が大人数人がかりで運ぶ槍を使いこなしていた。

 

 そう。浅黒く日焼けをした肌だ(・・・・・・・・・・・)

 

 嘗てこの空が灰色に覆い隠される前にはいたとされる肌。黒人の黒い肌とは違った色合いの肌。その肌を視ただけでこの男は相当な年齢なの想像に難くない。故に周りからは『怪物ジジイ』『妖怪ジジイ』『化け物ジジイ』等々名誉なのか不名誉なのか判断つかない名称で絶えない。

 ただ、《超人》《英雄》《豪傑》《老黄忠(古代中国に活躍した老将に因んだ言葉。老いて益々盛んの意)》などと、前向きなのを聞かないのはその豪胆というにはあまりにも粗雑な性格が大きいからであろう。

 

「ふん。この辺りは片付いたな。まったく、露助には骨のある奴はいないのか?」

 

 その老人の周りには幾つもの巨大な鉄の残骸と夥しいロシア兵の死体が散乱していた。しかし、老人の槍にはほとんど血は付いていなかった。

 瞬間、老人の背後に一人の影が現れた。

 

「やれやれ。サノさんは相変わらず大雑把ですな。こんなにも伏兵がたくさんいたのに全無視とか馬鹿なんですか?

 それにそろそろ潮時ですからあんまり突っ込まないで下さいね。乃木さんに怒られるのは私なんですから」

 

『サノさん』さんと呼ばれた老人の背後にもう一人、筋骨隆々な先の老人とは正反対の老人が一人そこにいた。

 文字通りの正反対、日本人の平均より小さい体を防寒着で完全武装した老人。髪の毛はサノよりも少なく、むしろ禿頭(とくとう)一歩手前という薄さと防寒着越しでもわかる線の細さはまるで女性のようとも言われている。あえて数少ない共通点と言えばサノ程ではないにしても浅黒焼けた肌と長く伸ばした髭だが、この老人の場合はちゃんと手入れをしており今世紀に蔓延なる公害灰と戦場という荒れ果てた環境による汚れや痛みを除けば綺麗なものだ。

 

「ん? 別にいいだろお前がいるんだら”新八”」

 

「やれやれ私をその名で呼ばないでくださいよ。今の私の名前は『杉村治備』なんですからね。それにね私もいつまでもあなたの側にいるわけじゃないんですよ。だからですね、もう少し周りをよく見て欲しいんですよ。

 わかります? わかってますか? わかってるのサノさん?」

 

「あーあー小言は聞きたくない! てかな、俺はいつまでお前の小言を聞かなきゃならんのだ。もうかれこれ半世紀近くは聞いているぞ。いい加減にしろよ!」

 

「そう思うのなら文字通りいい加減に(・・・・・)してくださいよね。本当に嫌ならそうならないようにしてくださいよ。

 全く」

 

 大きなため息を吐く新八の言に、サノは両手で耳を押さえて喚く。まるでここが死山血河の戦場ではなく実家の居間で親に叱られている子供の反応だ。傍から見たら巫山戯ているようにしか見えないが、その瞬間にも遠くは近くと砲弾銃弾機関砲が飛び交い刃が交わる戦場において当の本人たちはいたく真面目にやっているのだから質が悪い。

 当事者たる二人にもその数多の凶刃が文字通り殺到している。が、互いに意に介すことなく説教してされている。

 

 わずかでも擦れ接触すれば人を粉砕する砲弾と圧縮砲をサノは螺旋槍で逆に粉砕し霧散させる。飛び交う銃弾にたいしては頭部を護るのみで他は無視している。対極に矮躯の新八と呼ばれた老人はその一切を躱し、接近してくる敵兵をその一切を視認することなく薙いでいく。

 互いに異質、互いに異様、互いに鬼神とも呼べる心技体の顕現。

 

「にしてもな。乃木の小僧はなんでこんな無謀な特攻ばがりしかけんだ。馬鹿なのか?

てかな、あちこちに散発的に攻撃しかけて何がしたいんだあの小僧は。やっぱりアホなのか?」

 

「そんなわけ無いでしょうに。あの人はあの人でちゃんと考えているんですよ。少なくとも無謀なことはしないでしょう(・・・・・・・・・・・・・・)。ならこれも作戦の内、旅順攻略のた――!」

 

「新八! ッ!」

 

 突如発生した斬撃と衝撃。余波によって巻き上げられた粉塵。新八とサノの会話が途切れた。否、遮られた。(・・・・)。剣山銃雨においてでさえ世間話をするように平常だった新八が途切れた。それは、つまり、彼らの言葉を遮るほどの一撃が打ち込まれたと言うこと。

 大型機関砲(エンジンカノン)や徹甲弾でさえ途絶えることなかった彼らの会話を止める程の危機が、

 

「ほお。あの攻撃で倒れぬとは」

 

「ねえ~ご主人」

 

「わかっている。久しぶりに骨のある獲物だ。せいぜい楽しむさ。

 あと、『ご主人』はやめろと何度何年言わせれば気がすむんだ」

 

「え~。だってご主人は私の命の恩人で、雇い主で、生涯の相棒で、生涯の反応伴侶なんですからね」

 

「…………」

 

 

晴れる粉塵と共に現れた。

 

 戦場と言う場からあまりにもかけ離れたふざけた会話。されどその間二人に隙はなく、無闇に動くのを憚られる程の威圧を伴っていた。

 両者ともにロシア機関帝国陸軍の碧色の軍服を惑い、自分達を岡の上から好奇心と僅かにだ友好的な感情が折り混ぜこちらを睥睨(へいげい)している。"主"と呼ばれたサノより頭一つ分小さな男。ザックリとりした短い白髪と分厚い防寒服からもわかる鍛え上げられた肉体を持つ男の持つ剣は形状や装飾のみ(・・・・・・)を大まかにで言えばシャシュカと呼ばれる主に騎乗兵が用いるサーベルの一種でである。しかし、その大きさが以上で通常刃渡り二尺四寸(約七十センチメートル)なのに対して男のシャシュカは約三倍の六尺七寸(約二㍍)の太剣であり、他にも刀身や日本刀で言うところの鍔の部分に機関を装着した異形のシャシュカだ。

 片や"主"と呼んだ方は私よりも頭一つ分大きな女。男と同じく碧色の軍服の上から全身を大蛇のようなカートリッジを巻き向け、顔を幾つものレンズが嵌め込まれた仮面で覆い隠し、その手には先程新八を襲った武器。尖端が奇妙な形状をした六尺以上の長さの巨大な鉄砲(・・・・・・・・・・・・・)を肩に載せて不気味な笑みを浮かべる女。

 

 ――このままでは埒があかない。ここはひとつ話し合いで情報を引き出すか。

 

「あなた方は?」

 

「ん。ああ。すまんな最近は名乗る間もなく終わってばかりで忘れていた。いやなに貴様等程の相手は久しぶりでついな。

 俺はロシア機関帝国陸軍旅順要塞司令官コンスタンティン・ニコラエヴィチ・スミルノフ中将だ。まあ司令官っと言っても野戦担当というなんともみょうで締まらん肩書きが付くがな。

 それでこいつが部下のロマン・イシドロヴィチ・コンドラチェンコだ。何と呼ぶかはそちらの好きにするがいい。どうせ今回限りの出会いだ」

 

「ほう。それはどういう意味でしょうかな」

 

 途端。それまで本の僅かであるが友好的なそれが獰猛で歓喜に満ちた野獣のモノへとに変わった。

 ――しくじったか。

 

「そんなもん簡単な話だ。お前ら二人とも今日、ここで死ぬからだよ」

 

「そうだよそうだよおじいちゃんたちは今日ここで死ぬんだよ。ね~ご主人」

 

 何言っているんだ? と言えんばかりの口調。否、二人はこの戦いをすでに勝ったと思っているし疑ってないし疑ってない。この周囲の惨状を見ても彼我の戦力差を疑っていないのだ。

 常人では再現不可能なこの惨状を見て尚だ。周囲に散乱している重火器を使わねば破壊することが困難なロシア製の重装甲戦車の残骸、夥しい数のロシア人兵士の死体。その光景に反して傷一つついていない老人が二人。その現状でもロシア人の二人は不遜にも勝つと宣言している。

 

「…ぷ」「――」

 

「あん」「ん?」

 

 そのロシア人二人を見て当の日本人二人は、サノは少し吹き出し新八は『やれやれ』と首を横に振り笑みを浮かべている。日本人二人はかつての友人を思い出した。もっともその友人とは似ても似つかないのだが。

 

「何がおかしい」

 

「いえね。その厚顔不遜なところが昔の友人を彷彿させましてね。いや、お二人を馬鹿にしているつもりは微塵もありませんよ」

 

「おう。悪かったな露助ども」

 

「ふん。まあいい。どうせ今日限りの相手だ、多少の無礼は許そう」

 

「ほう。気前がいいですねスミルノフ中将殿は」

 

 スミルノフは『ふん。』っと、鼻で笑う。

 

「言っただろ。『今日限りの相手だ』とな。さて、世間話そろそろ終わりとしよう。こいつも早く殺りたくってウズウズしているかな」

 

 スミルノフが隣のコンドラチェンコを指差す。コンドラチェンコは爛々と瞳を輝かせて、笑顔で待ちきれないと長銃を握り締めてそわそわとしている。

 そう言うスミルノフも剣の柄に強く握り締めて腰を落としている。

 

「ええ。そうしましょう。

 もとよりここは戦場。私たちとあなた方は敵同士。なら答えは自ずと見えてくもの」

 

「そうさな。お互いもう語り合うこともないからな」

 

 かく言う新八とサノも二人と対峙してから一切の戦闘態勢を解いていない。むしろ先程よりも鋭く相手を観察していた。

 

「「「「……………………」」」」

 

 そして、互いに無言。

 交差する敵意と殺意の視線。

 

 唐突に、自然と、同時に動く四人。

 互いが互いの敵に向かって、言葉よりも過激な意思表示。

 ここに、老練なる日本武士と新鋭のロシア軍人。後にこの旅順の戦を左右するピースの一つである四人が、今ここで、初めて激突する。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 3月5日。

 カレリア地峡。

 

「かーー。やっぱ極寒の機関量産製の不味いウォッカは身に染みるねーーやーー寒い!」

 

 カレリア地峡は今、絶賛猛吹雪の真っ只中。そんな人類を容易に殺す自然の猛威に対し、ウォッカを飲んだくれている男がいた。短く切り揃えた髪とキリッとした顔立ちは知性と勇猛さを醸し出す男、髪は薄こけた茶色で肌は少しくすんだ白色の男は大した防寒着も着けずに熱帯地帯に赴くような軽装でいた。

 その頓珍漢な言動をとる男の左後ろに完璧な防寒着を着た黒髪で青い瞳の女性軍人が大きなため息を吐いた。

 

「アホなことやってないでちゃんと指揮してください隊長殿。てゆーか寒いんで早く幕舎に戻ってください。それともこれはパワハラですか? それともセクハラですか? もしくは両方ですか?

 どうなんですかラーヴル・ゲオールギエヴィチ・コルニーロフ隊長殿?

 …………はあ。なんで私の周りの男はこう、禄でもない男ばかりなんですかね。真面目で勤勉って聞いていたのに、実際には――はあ。」

 

 ため息と一緒に辛辣な言葉を容赦なく叩きつける女性軍人。マリア・レオンチエヴナ・ボチカリョーワは言うほど寒そうにはせずに、目を瞑り直立不動でコルニーロフを上官にも関わらず物理的精神的な意味で見下している。

 厳格な規律があっての軍隊にしてこの態度は異様で奇妙だが、見下されている上官はそんなことを気にする風もなく鼻歌交じりに、ニヤニヤしながら見上げている。

 

 ラーヴル・ゲオールギエヴィチ・コルニーロフ。ドン・コサックの指揮官にして探検家、少年期に僅かしか教育を受けていなかったにも関わらず軍学校を優秀な成績で卒業。言語学に明るく五カ国語を習得し外交官の経験を持つ秀才。なのだが、

 

「それにね。僕はいまでも勤勉で真面目だよ。ほら、こうやって前線近くで敵情視察しているし、そこで戦っている兵と同じ状況に身を置くことで状況理解を深めようとしてるしね。うん。勤勉勤勉。それにね探検しているとある程度はおおらかにならないと大変なんだよ。

 あと君の恋愛遍歴の話だけどさ、そりゃね。簡単話だよ。それは君のその性格のせい以外にないよ。うん」

 

「はあ゛。何言っているんですか隊長殿。不味いウォッカ飲みすぎて脳まで逝ったんですか」

 

 マリア・レオンチエヴナ・ボチカリョーワ。彼女は農家の生まれでそれまでの人生で幾人かの男と結ばれるもどの相手からも長続きせず、彼女自身は相手のことを献身的なのにも関わらず相手は暴力やギャンブル。しまいには相手が犯罪で捕まり最低気温が-50℃にもなるロシアにおいても極寒と言われる流刑地に送られた。が、普通ならここで諦めるか家で待つのだが彼女は送られたあと彼を追いかけた。しかも彼女は免許もなければお金もないと言いって遠く離れた流刑地まで着の身着のままで踏破したのだ。

 その後その男とは別れるも、そんな流刑地にたいした就職先があるわけもなく故郷でもつまはじきされ困窮したので仕方なく男社会の軍隊に入隊した。が、そこで彼女は生来の気概の強さと勇猛果敢さでメキメキと頭角を現す。その後も様々な戦地を巡り、そのすべてで結果を出してきた女傑……なのだが、

 

「いやね。マリアちゃんが恋愛に熱心なのはわかるけどね。君の思いはすごく重いんだと思うよ。想いが重いんだよ。

 だからもう少し気軽でふんわりと接した方が良いよ。愛はもっと広く浅くが良いんだよ」

 

「はあ? 愛する人を愛するのに重いも軽いもありませんよ。広く浅く? 相手のことは狭く深く深く愛するものですよ。身を焦がすほどの愛? なんですかそれ? そんなの一夜の火遊びと何が違うんですか? そんなの愛じゃありません。狂おしいほどの愛? なんで狂わないんですか? そんなの子供のママゴトと何ら変わりませんよ。そんなこともわからないんですか上官殿。何言っているんですか上官殿? やっぱり脳髄がもう手遅れなんですか?

 ……ああ。なんでみんな私から逃げるんかね。私はこんなにも愛していたのに、みんな運命の人だと思ったのに違うし、世の中なにか間違っていますね。絶対。

 それとマリアちゃんとか気安く呼ばないでください。ボチカリョーワか階級で呼んでください」

 

「いやね。それが重いって言うんだよ。それに相変わらずワタシに手厳しいな”ヤーシカちゃ」

 

「死にたいんですか”ラーヴル・ゲオールギエヴィチ・コルニーロフ”」

 

 突然の銃声。未だにウォッカを飲んでいる上官に向かって頬を掠める銃弾を放ち、後頭部に銃口を突きつけるボチカリョーワ。しかし、コルニーロフはウォッカを飲む手を止めず平然。むしろ上機嫌に楽しげでもある。

 

「やっぱこれがないといつもの調子にならないね」

 

「私を肴にしないでください。

 それで、どうしますか?」

 

「ん。ああ、それで確認取れた? 敵の全容」

 

 瞬間。コルニーロフは未だにウォッカを飲みんでいるが、顔つきも変わらないのだが、その声色も変わらないのだが、その瞬間から彼の声から温度が無くなっていた。

 ボチカリョーワもいつの間にか銃口を下ろして直立不動に戻っていた。

 

「はい。っと言いたいですが、初めにあった『フィンランドを中心とした北欧諸国連合』とのことでしたが諜報部並びに偵察部隊からの報告ではフィンランド以外に敵影なし、その事について上層部に問い合わせてみましたがそのあの宣戦布告後すぐにフィンランド以外の北欧諸国から『そのような事実はない。我々は無関係』だと宣言があったとの報告もあり、しかし物資や資金の一部がフィンランドに流入した形跡との報告もありますがその痕跡は確認できず、否定形ばかりで恐縮ですが、敵の全容はわからずじまいです。

 わかっていることと言えば――」

 

「敵がまともに戦う気がないということくらいか」

 

「はい」

 

 開戦から今日までまとも衝突したのは初日のみで、それも双方に被害が出ていないと言っていいほどの小規模だ。いや、フィンランドからすれば痛手かもしれないが、少なくともロシア側からすれば衝突と言ってもいいのかと思うほどの小ささで、それ以降フィンランドは徹底的なゲリラ戦を展開。こちらの物資を奪いながら戦線を維持している。

 中にはロシア側の軍服に扮して見方撃ちや奇襲に使われる始末で、そのため攻撃にすらためらわれる。しかし敵からしてみればそんなものは関係なしに襲ってくる。唯一敵はごく少数なので被害も軽微なのが幸いだがそれも長期化すれば話は別だ。

 

「何が目的なんだが、オスマンと日本と繋がっているのは確かだろうからどちらが勝つための時間稼ぎなのは確かだけども、そんなことの為にロシア(うち)喧嘩しかけるのもリスクが大きすぎる。なら他にも何かあるんだろうけども何のためか。

 敵の通信の傍受は?」

 

「全くできてません。もとよりこの地は前世紀後半から豪雪や吹雪が多くなり通信するには」

 

「そうなんだよね。こちらも味方との通信状況は芳しくない。でも、それは敵も同じなのになんでこんなに動けているんだろね。おかしいよね。

 うーーんまあ、それはこれからわかるからいいや。んで、他の方面はどう?」

 

旅順(ポルト=アルトゥル)は両司令官ともに善戦しいまだに要塞には一兵たりとも接触できていません。オスマンはニコラエヴィチ大将が直々向かわれましたが、少々手こずっているようですね」

 

「なるほどね。まあ旅順の日本はともかくオスマンは強敵だからしょうがない。でも、この分だとワタシの立場が危うい?」

 

「そうですね。あの極貧国のフィンランドに手こずっていると知れれば――言わなくってもわかります。が、ニコラエヴィチ大将も話が分からない人ではありませんから、ちゃんとした理由を言えば問題ないでしょう」

 

「そうだね。あの人は物事がわかる人だから問題ないよね。それにしても今日のマリアちゃ『バン』痛い!」

 

「頭と心臓を撃たなかったのは慈悲です。次はありませんよ」

 

 突然の銃声。コルニーロフは左肩を撃ち抜かれた。

 撃ったボチカリョーワは上官を撃ったというのに平然どころか、周囲の気温よりも冷たい視線でコルニーロフを見抜いていた。

 

「あ、あああああ。流石はワタシの愛しいマリアち……ボチカリョーワ副官の愛は痛いね。ああ冗談だからもう撃たないで」

 

 しかし、コルニーロフは懲りたという表情ではなく、むしろ嬉しげで悶絶している。

 

「はあ。バカなことやってないで今後のことを考えてください」

 

 コルニーロフはいつの間にか座り直しウォッカをまた飲み始めている。

 

「ハイハイ。まあもう暫くは様子見だ。それで、終わらせるよ」

 

 ほくそ笑むコルニーロフ。態度と言動が一致しない上官を見るボチカリョーワもまたため息を一息して。

 

「すごむのもかっこつけるのもいいですけど、寒いから幕舎に帰りましょう。さもないと引き攣っていきますよ」

 

「…………君は本当にしそうだから怖いよね本当に」




こんには。こんばんは。
遅れまして更新です。今回から架空戦記が始まります。な・ぜ・か!?
うん。本当になんでこうなった! まあ始まってしまったのはしょうがない。やるしかない。ちなみ今回からタグが少し増えます。
あと、もう今月中上げるのは難しいかな? できればあと一本はしたいけど無理かな。うん。

では、今回はこれくらいにして、親愛なる皆様方良き青空を。

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