黒雪のコモリオム  --What a beautiful Fakes --   作:ジンネマン

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三国戦争
3-1


 二月二十五日

 冬宮殿

 

 この国を支配する皇帝一族の宮殿にして、心臓であり頭脳。

 いや、ロシアそのもの。

 そうであるはずの場所、冬宮殿。

 

 されど、その姿は(灰色)に覆われる。

 

 外観の美麗さとは裏腹に、

 エカテリー大帝が愛したであろうロココ建築の表層とは違い、

 その内側()はには機関による黒煙と(すう)で満ち溢れていた。

 

 数。それは欧州よりも果て地からもたらされた科学(ちから)

 数。それは碩学協会からもたらされた数式(ちから)

 数。それはこの国を、世界を灰色に染めた元凶(ちから)

 

 その王宮のもっとも深き場所にある玉座の間。

 正常なる者は誰一人として入ることの出来ぬ広間。

 複雑にして優美、繊細にして豪奢なロココ建築を黒く染め、健常なる者を蝕む黒煙の空間。

 

 その数と黒煙の最奥の玉座に座す男。

 (すう)はもとより、数多の(くだ)が集積する玉座に繋がれた男。

 大きなマスクと玉座、それらと一体となった男。

 闇がもっとも暗い玉座のような男。

 

 皇帝(ツァーリ)と呼ばれる男。アレクサンドル三世。アレクサンドル・アレクサンドロヴィチ・ロマノフの座す玉座の間にはひとつの区切りがある。

 それは謁見をするための措置、玉座から離れ、入り口から20ヤードほどの距離に黒煙を遮る強化ガラスに守られた一区画。冬宮殿において唯一健常者がいられる空間、謁見を赦された空間。

 

 その隔絶された広間には二人の人間がいる。拘束されている男と、そのそばでまぶたを閉じて直立不動の男。その二人のいる空間に突如、大音量の音が響く。玉座と一体となった皇帝たるアレクサンドル三世は体の一切を、指やまぶたどころか声帯すら動かすことなく、途切れ途切れの合成音声が部屋全体に響き渡る。

 

「ガポ ンよ。なぜ ここにい るか わ かってい るか」

 

「はい。委細承知しています皇帝陛下」

 

 両手両足を拘束され祈るように(こうべ)をたれる男。リヤサ(カトリックのカソックに相当するもの)の上から八端《はったん》十字架をかけた男。ゲオルギー・アポロノヴィチ・ガポン。ガポンは未だに顔を上げることなく深々と頭を垂れて答える。罪人のように拘束されていながらその声は平静で、目の前にいるロシア皇帝たるアレクサンドル三世を言葉の上では敬っているがその声には自分と対等なものと話すような声色だ。それでいて信徒に神の教えを諭すように優しい声でもあった。

 通称ガポン神父と呼ばれるこの男は正教会の司祭にして、先の『血の安息日事件』と24日(・・・)の事件で市民を扇動した容疑で拘束された聖職者。罪状は国家反逆罪。極刑は免れないほどの重罪。

 

 それでもなお平静だ(・・・・・・・・・)。とても罪人には見えず、まるで自分にはなんの罪科もなく、悪行ではなく善行をしたと言わん平静さ。いっそう厳かさえ漂わすほど静かにいる。

 

「……では聞 こ うガポン。正教会の司祭にして、帝 国の治安 維持の 要たるオフ ラーナに籍を 置くお 前がな ぜあの ような 事を した」

 

「この国の為に――いえ世界の為に」

 

「こ の世界 の為だ と」

 

「はい。私はこの国の、いえ衆生すべてを救済したいと思っています。同時に衆生すべてを救済できないことも知っています。

 人は誰しもが平等にあれず、その差異が争いを生みます。ではどうすればいいでしょうか? 簡単な事です。平等にすればいいのです。しかしそのためには力が必要であり、その邪魔をする者たちを排除しなければならない。そのための行動が先の答えです。

 もちろん労働条件など改正もして頂ければ幸いですがね。無論市民を鎮静するための手はぬかりません、私も暴徒を市民とは呼びたくありませんからね。まあ、この件の前に修道士(モナーフ)ニコライが極東に渡ってしまったのは残念ですが、私一人でもどうにか出来るでしょう」

 

 ガポン神父はなおも顔を上げず、先程と同じ声色で語る。『この国の為』だと。しかしアレクサンドル三世も訝しむこともなく未だに目を閉じたままと言葉をかける。わかっり切った答えだと、予め想定されていた答えを確認するように。

 

「まずはこの国の害悪を一掃してすべてを(なら)します。国内が終われば周辺諸国を、それが終われば世界全てを均します。そうすることにより衆生すべては救済されます。

 そのためにはまず第一歩が革命家を名乗る者たちの一掃。奴らはこの国に、いえ世界の害悪です。彼らがいては世界が平和に、すべての衆生を救済できない。故に一般人を扇動して、それに乗じて出てきた奴らを一網打尽にする。これであとは少しの労力ですみます。後は皇帝陛下さえいればすべて成ったも同然。

 お分かりいただけましたでしょうか皇帝陛下?」

 

「ああ。わか った。とこ ろでガポ ン、それにつ いて幾つ か 聞きたい こと が ある答え よ」

 

「はい喜んで」

 

「何の為 に」

 

「衆生の為に」

 

「ど この為に」

 

「この国、ひいては世界の為に」

 

「――誰の為 に」

 

「それは閣下(・・)の為に」

 

「……閣下(・・)と は 誰のこ とだ?」

 

「はい皇帝陛下。閣下とは…………閣下とは誰だ?」

 

 瞬間。それまで平静であったガポンが乱れた。伏せたままで顔は見えないが、その身は震え床には汗が滴っている。目に見えて動揺しているガポンが初めて顔を上げた。

 

「皇帝陛下、閣下(・・)とは誰のことですか? いや、そもそも私はなんのためにあのような惨事を引き起こしてしまったんだ! 冷静に考えれば必要のないことなのに、いやいやいヤイヤそもそもやるにしても他にもやり方があったはず。違う! 考える価値すらなかったはずなのになぜ!

 教えてください皇帝陛下! 閣下とは誰のことですか! 私は何をやっていたのですか!? 私は何がしたかったのですか!?

 

教えてください陛――

 

 アレクサンドル三世がまぶたを少し上げ、玉座の手すりを人差し指で小さく叩く。

 瞬間。ガポンの側に立つ軍服の男。ニコライ・ニコラエヴィチが腰に携えた軍刀を一閃。ガポンの首をはねた。

 苦悶と懇願。後悔と悔恨。嘆きと悦び。様々な感情が混沌とした表情のガポンの首には見向きもせず。ニコラエヴァチは血の付いた軍刀を一度払い鞘に収る。

 

「死因はどのように?」

 

「革 命家ども の内輪 揉めとして おけ、奴等 はその手の 闘争を好 いてい るかな。それより もどう思 うニコ ラーシャ」

 

「はい。皇帝陛下まず間違いなく奴等(・・)の仕業かと」

 

「そう か。奴等は オフ ラーナの中枢 近くま で手を 伸ばしてい たか」

 

「残念ながらそのようです」

 

「して、アレは 誰の仕 業だ? 赫い 女か? それと も奴か(・・)?」

 

「はい。十中八九赤鉄の男の方かと。あやつの業はメスメルとは全く別物です。あれは洗脳の類いと言うよりは染め上げていると言った方が的確です。

 本人の意思も思考も一方的に、一方向のみに向かうように染められる。どれ程思案しようとも最終的には同じところに行き着くようになる。恐ろしいものです」

 

「過ぎた こと よい。そ ちらに 関し ては別 の者に任 せ る。

 して 本題だ。お前を呼 んだ理由 はわかる なニコラ ーシャ」

 

 ニコラエヴァチがガラス越しに皇帝を見る。まるで東洋の御簾(みす)のように、いや顔はおろか姿形の輪郭さえ覆い隠す黒煙。

 その黒煙の帳越しに互いの意志が通じ会っているのを確認するかのように一秒、二秒の沈黙。

 

「昨日同時に宣戦布告並びに侵攻を開始したオスマン機関帝国。大日本帝国。独立を主張するフィンランドを中心とした北欧諸国連合との事案についてですか?」

 

「そう だ。お前の意  身を聞きた いニコ ラーシャ」

 

「オスマンについては私が行きましょう。あれらの戦い方は熟知しています。

 北欧諸国連合と合流した反逆艦ポチョムキンにはグリゴーリイ・パーヴロヴィチ・チュフニーン海軍中将率いる黒海機関艦隊が鎮圧を向かってます。もっとも、あの中将は少々精神状態が特殊で御しがたいですが、本領を発揮すれば瞬く間に事を成すでしょう。陸地の制圧にはドン・コサック軍が適任かと。

 そして極東日本(ヤポーニャ)。いえ、大日本帝国は旅順(ポルト=アルトゥル)に侵攻するようですが、司令官のアナトーリイ・ステッセリ中将とコンスタンティン・ニコラエヴィチ・スミルノフ中将と司令官二人という異例の配属となりますが、この二人に任せればよいでしょう。ステッセリ中将は自尊心が強いですが軍規に厳しく慎重です。スミルノフ中将は先の露土戦争では『七人の悪魔』と恐れられた勇将で、部下には要塞築城並びに戦術に秀でたロマン・コンドラチェンコ少将がいます。

 しかし日本は極東の島国とは言えあの大国シンを陸海ともに破った強国。侮れません。そこでオスカル・フェルディナント・グリッペンベルク大将率いる騎兵隊。ジノヴィー・ロジェストヴェンスキー少将のバルト機関艦隊を向かわせることを進言します」

 

「よかろ う。軍事はお 前に 一任す る」

 

「では、わたしはこれで失礼します陛下」

 

「ニコ ラーシャ。あ やつを頼 む」

 

「言われるまでもなく存じております皇帝陛下」

 

 ニコラエヴィチはそう言うと真っすぐ部屋を出て行った。そして、静寂が漂うこの場に、あまりに不釣り合いな笑いがこだまする。

 

あーーーーはははハハハハハ。フハハハハハ!

 ご機嫌麗しゅう。皇帝陛下。

 ああ、相も変わらずの皇帝陛下。

 (国内)はとても賑やかだと言うのにここは余りに静かで寂しい。そんな場所にいつも一人いる皇帝陛下は余りに不憫と思い参上つかまるりました親愛なる皇帝陛下。ええ。邪魔もの(ニコラエヴィチ)もいなくなりましたし、これで心置きなく貴方の歓談できますね皇帝陛下」

 

 話す声は、仮面の男だ、薔薇の華の。異形の男だ、黒い僧衣の。周囲を満たす黒よりも尚、色濃い《霧》だ、《闇》だ。否、既にそれは《混沌》だ。

 堂々と、この国の至高たる皇帝陛下を嗤う男。爛々と、喜々と、嬉々と、嘲笑する男。数に満たされ、数に繋がれた男を嘲笑する男はゆらりと黒煙に満ちた部屋に降り立つ。

 

「お 前が関 与し て いるの か」

 

「いえいえ。私は皇帝陛下に忠誠を誓った身です。そのような大それたことはとてもとても」

 

「戯言 は よい。な んの用 だ」

 

 アレクサンドル三世は未だ不動でありながら、その全身で《仮面の男》を警戒する。

 

「おお。そんな剣呑に構えないでくださいよ皇帝陛下。

 ええ。今日ここに来たのはあることがあることが聞きたくって来たのですよ。私にとっての懸案事項をね。

 

 時に皇帝陛下。あの子たちは大丈夫でしょうか?」

 

「なぜ おまえ が その ような ことを 気に する」

 

「それはもちろん。陛下の親族のことが心配だからですよ。この胸が張り裂けそうなほどに――」

 

 《仮面の男》は自分の胸に手をで掴み、その身を捩じり顔を伏せる。あたかも、全身全霊で人のことを心配しているかのように。だが、アレクサンドル三世はそれらに意に介すことなく黒い道化師に問う。

 

「もう 一 度言う。何 の用だ ラス プー チン」

 

「おやおやつれないですね皇帝陛下。ふむ。では本題に、私はね皇帝陛下。

 あの子(・・・)は大丈夫でしょうか? アナスタシア、麗しく愛おしいアナスタシアは大丈夫でしょうか? 私はあの子のことが心配でならない。なぜなら、あの子は私にとって大切な――――」

 

「それ 以上は 口にする なラス プー チン」

 

 静かに、されど重く、硬い声が《仮面の男》の言葉を断つ。それまで泰然自若であったアレクサンドル三世が初めて感情を表に出した。

 それは敵意か、害意か、殺意か、閉じていた瞳を見開いて、《仮面の男》を睥睨する。

 

「ふふふ。やっと私のことを見てくれましたね皇帝陛下。

 ああ、なんとも甘美(凶悪)な視線だ。嗚呼、しかし、私は本当にアナスタシアのことが心配なんですよ皇帝陛下。彼女が誰かにつばまれるかと思うと――」

 

「あの 者た ちにはアレ(・・)が、()が ついてい る。なん ら問題 はない」

 

「アレですか? あの痩せ犬が、あの負け犬が、誰一人守れなかった(・・・・・・・・・)男が! 何の役に立つというのですか皇帝陛下?

 ええ。ええ。貴方が名だけとは言え、皇帝(ツァーリ)を譲ったニコライ・アレクサンドロヴィチ・ロマノフとその一家が大丈夫でしょうか? 何かあれば自分に全責任が来るようにしたから問題ないと――

 たしかに、普通なら問題はないでしょうね。否。仮にあの者たちが彼女に気づいた場合(・・・・・・・・・)は違う。いや、かの者たちなら必ず嗅ぎつけますよ皇帝陛下。それでもなお心配無用と仰るのなら――――」

 

 仮面の底。混沌の奥。闇の最奥。《仮面の男》の顔が歪む。余人には決して見えないその顔は、その口は確かに弧月に歪んでいる。

 アレクサンドル三世の語る狼。かの皇帝は絶大な信頼を置いている男。しかし、《仮面の男》は嗤う。まるで確定しているのを知らずに健気に励む幼子の失敗を待つ悪辣な悪魔のように笑う。

 

「なるほど。皇帝陛下は人を見る目がないのですね。それどころか、先見の明さえないとは、嗚呼おいたわしや皇帝陛下。かの男は過去にあの気狂いの王(・・・・・)と契約したのですよ。その意味さえ介さぬというなら、

 そんな憐れな皇帝陛下に私が一つ予言を差し上げましょう」

 

「いらぬ」

 

 アレクサンドル三世の拒絶を聞かなかったように、いや聞いてなお了承と捉えて哄笑とともに告げる(訃げる)

 

「祝福せよ! 祝福せよ!

 おお。おお。悲しきかな。

 偉大にして栄光なりしロシア機関帝国に火が灯る。

 それは《赫く》すべてを侵す炎。

 それはこの国のすべてを染め上げる赤色。

 たとえ強大なる《黒》さえも。

 だが炎が灯るのが一度ならばいい。

 しかし、もしも、二度の目の炎が灯るならば、

 貴方の大切なものが、すべて。失われるだろう」

 

 《仮面の男》その宣告を終えて満足したのか、恭しく頭を下げながら黒煙に溶けてゆく、まるで初めからそうであったかのように。

 

「さて、本日は貴重な皇帝陛下からの寵愛(殺意)賜ることが出来て私は満足しましたのでこの辺りで、

 では、皇帝陛下良き青空を」

 

『――――――――』

 

 黒煙に残響する声に耳朶を震わせながら、かの皇帝は静かに目蓋を落とす。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 二月二十四日 サンクトペテルブルク 裏路地。

 永遠の灰色雲からわずかに指す陽光さえ届かぬ暗いその場所に、一人の若い青年が幾つもの人の形に似た黒塊(・・)を愛おしむように撫でいている。それは路地のあちこちに散乱していた。皆一様に縮こまるように丸まっている。

 そんな彼ら彼女らを、青年は優しく撫でている。愛おしい我が子を愛撫するように、降積った灰色の雪をどけて、まざまざと造られたような笑顔で(・・・・・・・・・・)

 そこに一人の影が降りる。

 

「ここにおられましたか同志ボグダーノフ」

 

 男が口を開く。静かに、深く、深き海の声の。光さえ通さず、届かず、屈折するほど黒のような青いスーツを纏う細身で長身男。

 深き男の呼びかけに、青年は振り返る。先とは違う。まるで親しい友人の一人に遭ったかのような予め用意されていたような笑顔で(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「やあ待っていたよジェルジンスキー」

 

「遅れしまって申し訳ありません同志ボグダーノフ」

 

「いやそんなこと気にすことはないよ。彼らとゆっくりと語り合うことが出来たからむしろ感謝したいくらいだよジェルジンスキー」

 

 朗らかな笑顔を深き男に向ける。青年は顔を深き男に向けながらも路傍に転がる人の残骸を撫で続ける。笑顔のまま、そう。笑顔のまま撫で続ける。以前の彼とは異質な造形の笑顔で。

 ――やはりこのお方は、この男の表情や感情表現はあの方(赤鉄の男)あの人(鋼鉄の男)の硬質的なそれとは違う。この男の感情は動物や虫が擬態するソレ(・・)だ。あくまで条件反射、そうあったからそうする。こうあったからこうする。環境や条件が変わればそれに適した物に変わるだけのソレ(・・)

 ――生物的ではあっても人間的には程遠い。決して人間とは言えない存在。

 ――だが、

 

「先の案件では大変ご迷惑をおかけしました」

 

「そんなこと気にしなくってもいいよジェルジンスキー。彼らは今までに会ったことのないタイプの人たちで、とても実りある時間だったよ。

 ああ。やはり人間は素晴らしい。素敵だよ人間。愛おしいよ人間。だから君たちは愚かだ。けれどもそれを差し引いても興味が尽きないよ人間。

 だから先も言ったが、僕から言わせてくれ。ありがとうジェルジンスキー。

 でも、僕の力のことはみんなに言わないのはなぜだい? みんな知っていた方がいろいろ楽だと思うけど――――これも親友の命令かい?」

 

「はい。閣下は貴方のことをとても大事にしていまし、その力が知れ渡ると様々な弊害が発生します。故に貴方のことは幹部にでさえ秘匿されてます。

 ですかこれからも穏便に――」

 

「ああ。わかっているよ。親友の言うことはどれも正しいことばかりだからね。そう、彼言うなら間違いはない。けれども寂しいものだ。もっと人間と関わりなりたいし、いずれは」

 

「雑談はそれくらいにして、わかったことを教えてください同志ボグダーノフ」

 

 とても柔らかな笑顔をするボグダーノフ。そんなボグダーノフにあくまでも無表情で対応する深き男。それこそ一切の感情さえ捉えられないよう。ボグダーノフを最大限に警戒して。

 

「……ああ。そうだったね。

 わかったことはあの中にはオフラーナはほとんどいなかったよ。いても末端の下級工作員ばかりで大した情報は無かったよ。でも、ガポンはよく働いてくれたよ。そこは親友に報告しておかないとね。おかげで他の革命家たちの大半が死んだよ。

 これで親友の目標にまた一歩近づいたね」

 

「そうですか。それは閣下にご報告いたします。では私はこれにて――」

 

「ああ。ご苦労様ジェルジンスキー。それと僕は君のことも親友と呼びたいんだが、了承してくれないか? 君は僕が理想とする人間に、親友とスターリンにもっとも近い存在だ。そんな君を僕は」

 

「いえ。ご遠慮します。あの方々と同列にしてほしくないですからね

 

 深き男は二人に脊を向け、闇に溶ける。

 深き男を見送ったボグダーノフは一通り残骸を撫でた後、興味を失ったかのように立ち上がり、

 

「さてと、そろそろ帰るか」

 

 進行方向の邪魔になったソレ(残骸)を踏み潰す。潰れて砕かれたソレに一切の反応も見せず立ち去る。




お疲れ様です。
結局間に合わなかった! 本当は三日前に投稿したかったのに! まあしょうがない。間に合わなかったのはしょうがない。
と言うわけで(どういうわけ?)で今回の補足。

まず三国がロシアに戦争吹っ掛けてますが、それぞれ露極戦争(日露戦争1904年) 露土戦争(妄想) 冬戦争(1939年) をモデルにしています。
露土戦争とはオスマン帝国とロシア帝国との戦争のことで、ウィキで調べると約12の欄がありましたが、今回は完全妄想の戦争ですね。
そして冬戦争に関してはだいぶ先……是非もないよね!
そもそも元のライアーのスチームパンクの時点で史実とは違うので、まあない頭で頑張りはしますが、それでもいろいろアレですが、ご了承下さい。

さて、今月も目標で二本投稿できるように頑張ります。
では、親愛なるハーメルン読者の皆様方。良き青空を。

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