黒雪のコモリオム  --What a beautiful Fakes --   作:ジンネマン

13 / 29
2-3

「さあアンナ。今日は思いっきり楽しむわよ! ええ、愉しみ。満悦し。満足いくまでいくわよ!」

 

「ええ、わかったからちょっと落ち着いて」

 

 私たちは今帝都で一番有名な通り、帝都の目抜き通りとしても知られるネフスキー大通りにいる。ネフスキー大通りには国内外に有名な建物が多くあり観光客なども多くみられる。主に有名どころは建築家バルトロメオ・ラストレッリにより建造されたストロガノフ宮殿。アール・ヌーヴォー様式のシンガー書店、別名”本の家”。そこは元々ミシンの製造でロシアでも有名なシンガーのロシア支社ビルであったが2年前に旧・重機関都市(メガ・エンジンシティ)ニューヨークで発生した大消失によって本社と工場、そこにた従業員もみんな他のニューヨーク市民と一緒消えたことによりオーナー不在となり今はその名の通り書店が入っている。

 他にも祖国戦争(ナポレオンのロシア遠征)の戦勝記念施設としても有名なガザン大聖堂。五つ星ホテルのグランド・ホテル・ヨーロッパ、ネフスキー・パレスなど一般庶民がある国は少々肩身の狭い高級な店が立ち並ぶ通りだ。

 

 そんな私とタマーラの目的の場所は帝都一、いや、ロシア一といっても過言ではない百貨店ゴスチーヌィ・ドヴォールだ。

 そもそも、なぜ私たちがここに来ているかと言うと、それには少々時間を遡ることになる。

 

 あれは何日か前のアカデミーでタマーラと四六時中手をつなぎ始めてそろそろ二週間になろうとしていた頃。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 その日の朝もタマーラと手を繋ぎ登校した。そしていつもの通り笑顔の裏で警戒を怠らない辺り本当にスパイではないかと思ってしまう。そして今日も、いや、あの日以来ユーリーさんに会っていない。

 そんなユーリーさんを心配するも、どこかあの人なら心配ないとも思える。そんな矛盾したことを思いながらその日の選択科目の第三文学の時、第一図書室(このアカデミーにはいくつもの図書室があり、それぞれの分野に特化した内容になっているが、この第一図書室は新大陸風に言うとオールマイティ。別の言い方をすると広く浅くといわれる図書室である)に事務の人が来た。

 

「失礼します。ここにウラジミール・ベルナツキーはいるか?」

 

「……私がウラジミール・ベルナツキーですが、どういったご用でしょうか?」

 

「ああ、君がウラジミール・ベルナツキーか。君宛に電報が届いている。送り主はコンスタンチン・エドゥアルドヴィチ・ツィオルコフスキーだ」

 

 ガタン! 

 

「「「!」」」

 

 タマーラが勢いよく立ち上がり椅子が倒れる。タマーラの突然の行動に事務員さんに集まっていた視線がタマーラに向けられた。

 タマーラも自分に集中している視線に気づき、ついさっき自分が何をしたのか思い出し、倒れた椅子を戻して静に座りなおした。しかし、読んでいる本が上下逆なのに気づいていない辺り相当コンスタンチン先輩の電報が気になるようだ。

 

「えーと、コンスタンチン先輩からですね。確かに受け取りました。お仕事ご苦労様です」

 

 ウラジミール先輩が事務員さんから電報を丁寧に受け取ると事務員さんは軽く会釈して出て行った。

 そして、扉が閉まった刹那に、タマーラが凄い速さでコンスタンチン先輩から電報を強奪していた。

 それは、目にも止まらぬ速さで、私の向かいに座っていたにもかかわらずタマーラが、僅かに椅子が動いた音がして視線を向けた時にはもうすでにいなかったくらいだ。

 斯く言うウラジミール先輩も全く反応することなく、違う、反応できずにいた。その証拠にタマーラが通り過ぎた後に電報の紙が気付いて辺りを見渡していた。

 

 そして私はタマーラに失礼な事を、いや、たぶんこの部屋にいる人全員が思ったことだと思う。

 ――本当にタマーラって良家のお嬢様?

 

 それは置いておくとして私もコンスタンチン先輩の電報は気になるのでタマーラに聞いてみる。

 

「あのータマーラ、コンスタンチン先輩はなんだって?」

 

 私がそう言うとタマーラは無言で私に電報を渡す。どうやらあの短時間に全部読んでしまったようだ。

 おずおずとタマーラから電報を受け取り読み始める。ウラジミール先輩も内容が気になるの、少々強引だが頬が触れ合いそうな形だが横から一緒に読む。

 

ダラゴイ(親愛なる)ウラジミール及び可愛い後輩たちへ

 私は今モスクワにいるのは周知だと思いますが、今現在モスクワは厳戒令が出されており、学会の発表どころか外出すらままならない。出かける際にはわざわざ警察に届け出る必要があり、もうこの都市は戦争中のような雰囲気です。というか、それもこれも全部頭のイカレタ奴らの仕業なんだがな。

 アンナはともかく、コンスタンチンとタマーラは知っていると思うが、今モスクワでは十人以上の殺害及び行方衣不明事件が起きていて、その関係で学会はいったん中止、新作飛空艇用の機関(エンジン)や部品、設計図、その他諸々の発表も延期が決定していて、いつ再開されるかわからん。

 

 一応はあと一週間以内に収まらなければまた後日に機会を設ける形になるらしい。

 あと、出席日数とか減らされることはないから心配するな。年齢的にいくらか余裕はあっても流石に俺も後輩たちと一緒に卒業とかしたくないしな。

 ではな皆の衆!

 

 追記

 お土産はちゃんと用意するから楽しみ待っているといい』

 

 以上がコンスタンチン先輩の電報の内容である。

 ――うん。途中から文章が砕けたのは丁寧に書くのが面倒になったからね。でも、この電報でタマーラが不機嫌になるのかしら?

 

 タマーラは私たちが読んでいる間に元の席に戻っており、本を読み進めている。読み進めてはいるが、時折ノートに何やら筆を走らせている。気になって覗いてみるとその中には普段のタマーラからは想像できないほど口汚い言葉が書かれており、その内容はここで割愛するが内容はコンスタンチン先輩にたいするものだった。

 覗いている私にコンスタンチン先輩が肩に優しく手を置いた。私はゆっくり振り返るとコンスタンチン先輩は首を横に振り呟く。

 

(今はそっとしておきなさい)

 

 そう言うコンスタンチン先輩に私はうずくと自分の席に戻って読むのを再開する。因みに今読んでいるのはメアリー・シェリーの作品でタマーラから『偶には違うジャンルの本も読んだら?』と言われて読み始めた。

 メアリー・シェリー。幼いながらも小説家として活躍する少女。敵性国家の小説家の作品がこのアカデミーに置いてあるのは東方の国の故事『敵を知り己を知れば百選危うからず』を実践するためらしい。もっとも、娯楽小説がそれに役立つかは私にはわからない。豆知識だが翻訳は第一文学がしている。

 

 

 

 

 その後、バレエの練習中ずっと不機嫌なタマーラが寮に帰る途中、いきなり、とびっきりの笑顔である提案をしてきた。

 

「ねえアンナ、今度の安息日にゴスチーヌィ・ドヴォールに行かない? 二人で」

 

「え? どうしたのタマーラ急に――」

 

 急な提案、タマーラにしては珍しい提案。

 

「ダメ?」

 

「うーん。今月はちょっと厳しいし」

 

「大丈夫よ見て回るだけだし、それに私いますっごい鬱憤が溜まっていて、どこかで発散しないと暴発しそうなの」

 

 拳を強く握りしめ体全体を小刻みに震わせるタマーラの背後に赤い湯気のようなものが幻視した。理由はまだわからないがコンスタンチン先輩の電報が相当腹に据えかねたらしい。

 ――なにか二人だけがわかる暗号でもあったんだろうか? でもウラジミール先輩はわかったみたいだし……なんなんだろう?

 

「お願いアンナ。私を助けると思って、ご飯くらいは奢るから」

 

 タマーラは両手を合わせて頭を下げる。極東でいう土下座よりも一段軽いが、それでもかなり重大なお願いの仕方、タマーラもかなり参っているようだった。

 ――タマーラも相当参っているみたいね。うーーん。仕方ない今月は厳しいけど親友のためだものね。

 

「わかった。今度の安息日一緒に行きましょ」

 

「アンナ!」

 

 私が返事を言った瞬間、タマーラはおとぎ話で出てくる星のようにとてもキラキラとした笑顔で私に抱き着いてきた。

 

「ありがとうアンナ! 優しくって、可愛くって、私が嫉妬してしまうくらいきれいな演技をする。大切で、大好きなアンナ!」

 

「! ちょっと落ち着いてタマーラ! あと、食事代くらいは自分で払います。その代り安いところにしてね。私のお財布でも大丈夫な所で」

 

「わかったわ! 飛びっきりの所に行きましょ!」

 

 タマーラは、本当に心底嬉しそうに答えた。そして私の話を聞いてくれたか不安だ。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 そんなこんなんで、私たちは目的の場所百貨店ゴスチーヌィ・ドヴォールにたどり着いた。

 相変わらずこの百貨店には富裕層の人たちが多く、周りの人はみんなきらびやかな服やシュッとしたタキシードなど一見しただけで高級とわかる服を着た人たちばかりで、自分みたいなのこの場にいるのは身分不相応な気がしていたたまれなく感じる。

 

 この百貨店は欧州で言うところの『ドレスコード』があり、私とタマーラは普段着ることのない学生服で来ている。タマーラは自分の服を貸すから、むしろあげるからそれを着て行こうと言っていたが私は遠慮した。

 アカデミーには一応学生服が制定されてはいる。が、学生服の着用義務はなく、着用するのは催事や外からの来訪者を招くときのみ着用する。それも礼服での代用してもいいし、特定の生徒以外は休んでも許されるという寛容さだ。

 そもそもの話、この制服を着用したくない人たちの最大の理由は、この制服を着ると言うことはロシア機関帝国に忠誠を誓うと言うことと同義だという認識だからだ。

 私から言えばそんな認識はないのだが周りは違うらしい。

 

 因みに私の近くで真っ先に着ない人を挙げるならコンスタンチン先輩とシューホフ先輩だ。コンスタンチン先輩の場合故郷はその昔ロシア帝国の前身のであるモスクワ大公国(モスクワ・ルーシ)に併合された過去とは別に『この国にはある程度感謝はしているがやっぱり気に入らん!』っと、言って制服は着ないし、シューホフ先輩に至っては明らかな嫌悪感をむき出しにして『あんなものを死んでも着るものか』っと、言い切ってしまう。たぶん故郷に辛い歴史があるのだと思う。

 逆に着る人と言えば帝都出身のウラジミール先輩だ。タマーラ曰く、アカデミーの全体で着る着ないを比率で言うと8:2の割合でこの国の不安定さを実感させられる。

 

 しかし、それならばなぜ学生服の着用義務が無いのに制定されているかと言うと、それはロシア機関帝国の歴史が関わってくる。

 

 この国は昔から周辺国及び地域を武力などで占領と併合を今に至るまで繰り返してきた歴史がある。そして現在のアカデミーには帝国全土の優秀な人材が集められ、その集められた人たちには今の帝国に不満不平を感じている者も多くいる、噂ではその中には犯罪者予備軍といってもおかしくない思想の持ち主もいる。

 いや、もっと不穏な噂でいうなら既にアカデミーには《赫い者》達が潜伏し、着々と賛同者や協力者を増やしているというモノまである。

 

 ――もしも、もしもその噂が本当なら、あの楽園のようなアカデミーが……

 正直、アカデミーがそういった不穏な場所だと思うと気が気でない。なによりもその人たちが私の大切な人たちに危害を加えないかが心配で仕方ない。

 

「アンナ! せっかくゴスチーヌィ・ドヴォールに来たんだからそんな顔しないで楽しみましょ。

 ほら、あそこの服、アンナに似合いそう」

 

 そんな事を考えて気落ちしている私をタマーラは周りに対して気後れと勘違いして励まそうと手を掴んで(と言うよりもここ最近ずっとだが)走り出す。

 アカデミーや街中では楚々としているタマーラからは想像できないはしゃぎよう。なるほど、相当溜まっているものがあったのであろう。

 それとも、未だにコンスタンチン先輩のことを根に持っているのだろうか? その辺りに疎いと(主にウラジミール先輩に)言われる私に出来ることはなく、今はタマーラの気が晴れるように付き合うだけだ。

 

 ――それに、私が落ち込んでいたらタマーラも楽しめないだろうから私も思いっきり楽しもう。予算の限りで!

 私を引っ張るタマーラに、大好きなタマーラと、大切なタマーラ・カルサヴィナと一緒にゴスチーヌィ・ドヴォールを駆けまわる。

 

 ――そうだ。今はこの瞬間を、この刹那を、この代えがたい《きれいなもの》を《うつくしいもの》を、

 

「うん。やっとその気になった、子鳥ちゃん(プチーツァ)

 

「もう。小鳥ちゃんって呼ばないで」

 

 ――久しぶりに聞いたタマーラの小鳥ちゃん。普段は二人きりの時だけ呼ぶ愛称。最近はタマーラ自身が気を張っていたせいか呼んでくれなかった愛称の一つ。

 ――子供っぽいその呼び方は好きじゃないけど、でも、私をそう呼んでくれる時のタマーラは好きだから。

 だから、いつのもタマーラが戻ってきて嬉しい私は頬を緩ませながらタマーラに付いていく。

 

 

 

 その後も私とタマーラは午前にウィンドウショッピングと軽めの昼食、午後からは本屋でこんどやる劇の関連本を物色した後お菓子屋さんで間食してあとは帰るだけと言う時。

 

 彼に会った。

 

「やあご機嫌麗しゅうMs(ガスパジャー)アンナ。Msタマーラ」

 

「げ。この声は……」

 

こんにちは(ドーブライ ビーチェル)ユーリーさん」

 

 ゴスチーヌィ・ドヴォールの出入り口近くで私たちは着古した黄色とも緑ともとれる外套を深々と頭に被った少年と、黄衣の王たるユーリー・ハリトン、ユーリーさんと会った。

 

「ああ。こんにちはMsアンナ。それとMsタマーラ。人の顔を見て開口一番が『げ』は淑女としてどうしたものかと思うよ」

 

「……あらごめんなさいMr(ガスパヂーン)ユーリー・ハリトン。そちらはなぜこのような紳士淑女の場に?」

 

 タマーラは笑顔で応対している。そう、笑顔ではあるが目が、目が笑ってない。

 むしろ、その笑顔よりも背後から黒いオーラが滲み出ていて、周りの人が遠巻きに、あからさまに私たちを避けている。もはや通行妨害しているみたいで申し訳ない。

 タマーラと同様に終始笑顔でいるユーリーさんにはタマーラの背後の”それ”が見えないのか、それとも気にしていないのかタマーラとは対照的に楽しそうに話している。いや、むしろそのタマーラを見て愉しんでいるかもしれい。

 

「なに、私も人の子。たまの気晴らしに買い物の一つもしたくなるのですよ。

 しかし、モスクワであんな凄惨な事件があった後で女性二人だけで出かけるのは感心しないな。ここは不肖ながらこのユーリー・ハリトンが寮までお送りいたしましょうか?」

 

「あら。不肖なら結構です。ええ。たしかにモスクワでの出来事は怖いですがここは天下に名高い帝都サンクトペテルブルクでそうそう荒事は起こるとは思えません。

 しかもここは人が多く行き来するネフスキー大通りです、治安は万全。あったとしてもスリのようなコソ泥くらいでしょう。

 だからこちらには気にせず買い物を続けられてはいかがでしょうか?」

 

 恭しい対応(根は慇懃無礼)なユーリーさんと楚々としながらも黒いオーラを隠そうとしないタマーラを見ていて私はあることを思った。

 ――だれか、たすけて。

 

 ただただ、このいたたまれない空間から離れたいと思いつつも、二人から私が離れようものならまた別の火種が燃え上がりそうで動くに動けず、さりとて口を挟むには二人の雰囲気が圧倒的で出来ず途方に暮れ始めた。

 結局夕暮れ近くまで二人は歓談(に見えなくもない)続き、時間的にこれ以上話し合っても埒が明かないということになり三人で帰ることになった。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 今日、俺は新たな理解者を得た。

 その人も俺の研究に賛同してくれた。

 アンナに続いて二人目の、愛してやまないアンナと同じ女性の理解者。

 

 ほかの奴らがカダス製の機関(エンジン)こそ最高だとうつつを抜かすなか、自分たちで、自分たちだけの機関を創ろうと提唱する俺を排斥しようとする他の奴らとは違う理解者。

 口だけの連中とは違う本当の理解者。

 コンスタンチン先輩たち以外で初めの理解者。

 

 ああ。これもそれもアンナのおかげだ。

 

 今でも鮮明に思い出せる。

 初めてアンナに俺の夢を語った時の彼女。

 

 始まりは灰色の雪が降る夕暮れだった。その時のアンナは一人で校門に立ち尽くしていた。その日のタマーラ・カルサヴィナはバレエ講師との次の劇についての相談や準備で遅くなっていた。

 そして、俺がアンナを通り過ぎようとしていた時、アンナが声をかけてくれた。

 当時の俺は今よりも暗かったと思うし、基本的に誰とも話すことなくいつも自分の理論のことしか考えていなかったか俺に声をかけるアンナを訝しんでいた。

 

 そんな俺に彼女はこう言った。

 

『あの。ウラジーミル・シューホフ先輩ですよね?』

 

『ああ。そうだが、誰だお前? なんで俺の事を知っている?』

 

 その時の俺は本当にぶっきらぼうに、粗忽な対応をしていた。

 しかし、彼女はそんな俺に嫌な顔せずに話を続けてきた。

 

『失礼しました。私はアンナ・パブロワです。私が先輩を知っている理由はコンスタンチン先輩の、コンスタンチン・エドゥアルドヴィチ・ツィオルコフスキー先輩の話の中に出てきて知っていたからです。

 それでですね。コンスタンチン先輩の話が興味を引いたんで声をかけてみたんです』

 

『ふーんコンスタンチンの事だからどんな罵詈雑言を言っていたんだ?』

 

『いえ。コンスタンチン先輩はそんなことを言っていませんでした。

 ただ、シューホフ先輩は周りと交流せず、自分勝手な人と周りがいうけれどアイツは夢の為に真っすぐな男だと言っていました。俺はそんな奴が好きだし友人になりたいとも言っていました。

 それでですね。コンスタンチン先輩がそうまでいう人はそう多くないので興味が出たんです。

 失礼ですよね。そんな理由で声をかけられたら。すいません』

 

 その時の俺は少し浮かれていたのかもしれない。このアカデミーに来てから変人扱いされてきたし、ましてや女の子に声かけられたことなんて連絡事項くらいしかない。

 今の俺はそんな浮かれた自分を褒めてやりたいくらいだ。

 

 初めはアンナも他の奴らと同様の反応をすると思った。

 アカデミーには帝国全土から天才秀才が多く集められており、なまじ学がある分俺の話を否定的な意見ばかりする輩が大半だった。学友だけでなく講師たちもそうだったのだ。

 そんな中、アンナは違った。

 

 俺の建築物と機関に関する理論を語った時の彼女の反応。

 所々専門用語を使ったところは首を傾げていたが、それでも俺の話を笑顔で聞いてくれたアンナ。

 それどころ俺の話を聞き終えて彼女は真剣に応援してくれた。

 

 初めてのことだった。

 誰かから、家族以外でそんな反応をしてくれたのは初めてだった。

 

 そして、そんな俺を応援して、時に笑顔で応えてくれるアンナはその灰色の雪と相まって妖精のように綺麗だった。

 そうしてしばらくするとタマーラ・カルサヴィナと合流して途中まで一緒に帰った。

 もっともタマーラ・カルサヴィナはあまり楽しそうではなかったが。

 

 それからだ。俺が変わったのは、後日にはコンスタンチン先輩に勇を鼓して話してみると学科の違いはあれど驚くほど話が合い、お互いの夢を応援し合って将来俺の機関が完成したら飛空艇に使うことを検討してくれると約束してくれた。

 無論その飛空艇がどんな形になるかわからないから検討の域はでないが、それでもこれだけ反応をしてくれる人も初めてでうれしかった。

 その後はウラジミール・ベルナツキー先輩をはじめコンスタンチン先輩の飛空艇研究会の面々と交流を持つようになり、俺は周りか明るくなったと言われるようになった。

 

 そう。全てが順調になっていた。

 それまでと違い、アカデミーにいるのが苦ではなくなった。

 それもこれも全部アンナのおかげだった。

 

 ああ。だから、アンナ。

 俺は、君の為に、なんでも、どんなことでも――




よっしゃ! 連続投稿四日目突入!

っとわけのわからないテンションで頑張っているジンネマンです。

はい。遅くなりまた。いつもセリフですね。
うん。テンションが、一定しない。

まぁ。そんなこんなんでアンナの知らないところで誰かが狂い始めています。
誰でしょうね?

あと、ユーリーさんがアンナたちと会ったのは偶然です。彼は帝都をいろいろ歩き回って何かを探しているので、その一環で偶然会っただけです。

では、親愛なるハーメルン読者の皆様方。良き青空を。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。