カゲロウ・ストラトス   作:人類種の天敵

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どうも、お久しぶりです。
今回は転校生です、皆さんわかりますね?


転校生

 

 

「おっ、シンタロー!………なんか随分と目が据わってないか?」

 

「………よう、一夏。別に…何でもねえよ」

 

朝、教室に入って来たシンタローを一夏は無邪気に迎え入れる。

対するシンタローは、ボサボサの黒い髪の毛がいつも以上に寝癖が跳ね、目の下の隈は一層に濃く、よろよろと自分の机に辿り着く。

 

「一体どうしたんだよ」

 

「………」

 

『ただの軽い筋肉痛ですよー。ま、年中自宅警備員のご主人にとっては耐え難い苦痛らしいんですけど(笑)』

 

「そうなのか?日頃からちゃんと体を動かさないとな」

 

こいつ……!お前こそカゲロウデイズ攻略作戦時に久しぶりに体を動かして翌日には重度の筋肉痛に泣いてたよな?

しかもその後やっぱりエネちゃんの方が生きやすいだのこれからは電脳世界で生きていきますねだの言ってたくせに、こっちが警備員始めて久しぶりの筋肉痛に悩まされてるとこれかよ!

 

「エネのやつ……」

 

恨めしい目つきでスマホの画面に映るエネを睨んでいたシンタローが、ふと扉に潜む小柄な影に気付いた。

高校生にしてはちんちくりんな身長に色々と改造を施された制服。

極めつけはハードボイルドを気取るカッコつけたポーズだ、ちっこい彼女が纏う雰囲気と身長が本当にマッチしてない。

そして大体こういう手の輩には、マトモな奴が1人としていない。

 

何十年、何百年もの記憶を目に焼き付けたシンタローならではの、経験則……いや、人生則による直感。

シンタローの脳が即座に“回答”と“対策”を弾き出した!!!

 

『こいつはマトモじゃねえ。絶対に目を合わせないようにするぞ』

 

バッと顔を背けて弄り出すのはスマホ。

エネのウザったらしい顔を無視して開くのは有名な某メールアプリーーーLI◯E。

もちろん相手は楯山アヤノである。

それまでのアヤノとの会話を眺めてニマニマニマニマと気味の悪い笑顔を見せるシンタローに周りの女生徒は若干引き気味になるが、セシリア・オルコットと喋っている一夏は気付いていないようだ。

 

また、今日もシンタローのボッチ進行度が彼の知らぬ間に更新されていく。

 

 

ご主人ぼっち度→現在46%

話しかけるな危険ですね!

 

 

『あ、そう言えば。ご主人。今日は二組に転校生が来るって知ってました?』

 

「あ?…そうなのか」

 

「え、二組と言えば、隣のクラスか。へぇ」

 

エネが速報というプラカードと一緒に転校生のプロフィールから顔写真も一緒にスマホの画面に表示していく。

………一応個人のプライベートな情報や各国のIS開発の機密もあり、当IS学園でも最高峰のプロテクトが掛けられているのだが………、シンタローが寝てる間にエネが暇潰しに解いてしまったらしい。

 

「あれ?こいつってもしかして……」

 

「あ〜!知ってる知ってる!それに二組のクラス代表もその転校生に変わったんだよね!」

 

「どこからだっけ?中国?」

 

スマホに映し出された転校生の顔に一夏が首を傾げて思考に耽る。

その周りでは女生徒がこの機会に一夏と仲を深めよう、他の奴に差をつけようと思い思いに転校生について言葉を発している。

そして、その中の1人が、一夏に対して笑いかけた。

 

「でもまあ、誰が相手でも織斑君なら絶対に勝てるよ!目指せ、クラス対抗戦優勝!」

 

「…………………………………え?」

 

 

バカヤロウッ!

シンタローは目の前の女生徒にそう怒鳴ってやりたかった。

だが、今のご時世は女性がヒエラルキーの頂点に立つ女尊男卑だ。

ここで一度怒鳴って仕舞えば一年一組のカースト最下位に属するシンタローの事である、教室の女生徒全員からガン無視を決め込まれる若しくはゴミムシ……いや、ニジオタコミショーヒキニートを見るような(と言っても半分以上事実だが)目に晒され、それらが段々陰湿な虐めや村八分のようなものにエスカレートしていくだろう。

そうなれば万年自宅警備員職に付いていたこの男のガラスのハートが耐えられるはずもなく、数日で寝込み、それが一ヶ月に一度学校を欠席、次いで一週間に一度……結果学校の寮に引きこもり出す事態を招きかねない。

 

またあの頃に戻るのか?そうじゃないだろう?如月シンタロー!お前は変わったのだ!アヤノとの幸せでいて安寧の日々をぶち壊すことはあってはならない!!

 

(考えろ、如月シンタロー!今俺に出来る最善策はなんだ……!)

 

グッと目の前の女生徒を叱りつけたい気持ちを抑え込み、サッと机に突っ伏して寝たフリを決め込む。

それが今のシンタローに出来うる最善策に他ならない!

さあ、一夏!いつでも来るがいい!俺はお前の要求に屈することは………、

 

「お、俺がクラス代表!?どういう事だよ!?シンタロー!」

 

「う、ぐ……お、落ち着け。一夏!」

 

寝たふり作戦失敗。

即座に一夏に肩を揺さぶられて体を起こす。

そして半ば狂乱状態の一夏に一年一組の代表事情について説明してやることにした。

 

「言っとくけどよ。これは(俺も一夏もハブいた)クラスの総意だからな?諦めろ」

 

「そ、そんなぁー……」

 

がっくりと肩を落とした一夏の顔には「クラス代表とか…面倒臭そうな予感しかしない、やりたくない」というのがありありと書かれている。

そんな一夏に心の中で合掌しつつ、またスマホの画面に視線を落とした。

 

「おほほほほ。大丈夫ですわ、一夏さん。これからはわたくしがISのことについて手取り足取り教えて差し上げますのでクラス対抗戦も……」

 

「おいお前、何を言っている。一夏にISについて教えるのはこの私だけで十分だ。お前は同じ遠距離で戦うあのヘタレとやっていろ」

 

どうやらオルコットはクラス対抗戦の一件から一夏に対して好意を抱き、一夏に対してアピールを行なっているが、同じく一夏が好きな篠ノ之が今のように妨害をして互いに牽制しあっているらしい。

篠ノ之はフンと鼻を鳴らして俺を睨み、腕を組んで酷い事をサラッと言ってのけた。

 

「如月さんがヘタレ野郎?あまつさえ如月さんと訓練をやれ?じょ、冗談じゃありませんわッ!!?篠ノ之さん。貴女、あんな戦い方をする如月さんと一緒に訓練しましょうだなんて頭沸いてるんじゃありませんこと!?わたくしは嫌ですわ!絶対に!!そんなに言うのでしたら是非貴女が如月さんとやれば良いのですわ!そうすれば篠ノ之さんも如月さんの異常性がよく分かりますわよ!」

 

「そ、そうか。いや、それは…すまなかった……?」

 

しかし篠ノ之の提案はオルコットが般若のような顔で逆ギレのように言い返した事でクリティカルのカウンターを喰らった。

オルコットの剣幕に顔をサッと青くし、次いで俺を見るや否や後ずさりをする。

 

「あ、じゃあ俺。シンタローと一緒に……」

 

「「それは絶対に(ダメだ!)(ですわ!)」」

 

「お、おう?」

 

猛反発の2人に頭を傾げて曖昧な返事をする一夏。

すると、教室の扉付近から「スパーン」という小気味好い音が聞こえて誰かが廊下を走っていく音が、

 

「廊下を走るな!馬鹿もん!」

 

鶴の一声……いや、この場合は鬼だな、鬼。

 

「何か、言ったか?如月」

 

「っ!い、いいい、いええええ!?な、なな、ななななにににもまもまあばばばばばばばばばば」

 

ギロリと織斑先生の睨みに晒されて無意識にガタガタと全身が震える。

目に涙が溢れ、今まで焼き付けてきた走馬灯が、アヤノとの幸せな日々が過ぎ去っていく。

 

「あ、死んだ………」

 

「誰が殺すか、馬鹿者」

 

「ぐはぇ!?」

 

パコッと頭を叩かれ机に突っ伏す。

どうやら俺を生かしてくれるらしい、良かった。

 

「……はぁ、もう良い。まったく、これがあんな一方的な試合を展開した男とは思えんな」

 

どこか呆れ果てた声で嘆息した織斑先生が周りの生徒に席に着くよう呼びかけ、教壇に立つ。

 

「昨日の試合結果を考え、一年一組のクラス代表生は織斑に決まった。織斑はクラスの代表としてこれから始まるクラス対抗戦を頑張るように。それと小娘共、放課後に織斑の就任パーティーを計画するのは良いが、羽目を外しすぎないようにしろよ。……以上だ」

 

ガクッと一夏の頭が下がる。

どうやら織斑先生の言葉で一夏もようやく諦めたようだ。

 

「それと、急遽転校生受け入れがあってな。今回は………2人だ。おい、入ってこい」

 

ざわ、ざわと教室内が騒がしくなる。

俺も、二組に1人だけじゃなかったのかとエネに聞くと、『まあまあ、誰が来るかは見てのお楽しみですようご主人』と軽く流された。

ガラッと扉が開かれて2人の転校生が入室する。

俺は、自分の目が焼き付けた2人の顔を信じられない目で凝視した。

 

「………………………は?」

 

「いや〜どうもどうも!カーノでぇ〜す」

 

1人目はおちゃらけた口調に長さがバラバラな癖っ毛、猫のような大きなつり目にだらしなく緩んだ口元。

色素が薄く、くすんだ金髪の少年。

 

「おい……………嘘だろ…?カノじゃねえか……」

 

俺が所属するメカクシ団メンバー。

No.3 カノ……鹿野修哉だ。

 

「ふざけてないでちゃんと自己紹介をせんか!馬鹿者」

 

「うわっ!…と。あぁ〜ごめんごめん。そんなに怒らないでよっ織斑センセあだぁ!?」

 

織斑先生に叩かれてニヤニヤと笑いながら改めて自己紹介をするカノを、ぽかんと口を半開きにしたまま見つめる。

 

なんでここにこいつが?他の奴は?

そんな考え方頭に残るが、それもじきに霧散した。

何故なら、

 

「って事で、これから宜しく頼むよ」

 

「……まあ、碌に自己紹介も出来んよりはマシか。次」

 

ニッと笑うカノ、その隣。

白い制服に身を包み、緊張した面持ちで、けれど俺と目をあった途端、ふっと優しく微笑んだ黒髪の少女。

 

「楯山アヤノです。色々な事情でIS学園に在籍することになりました。皆さんよろしくお願いします」

 

メカクシ団初代団長。

No.0 楯山アヤノが、恥じらうように笑いかけた。

 

「あ、アヤry」

「「「「「き、キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!?」」」」」

 

 

アヤノ!

そう言おうとした直後に教室中に轟く嬌声。

女特有の甲高い音が両の鼓膜をぶち破り、脳を揺さぶった。

あ、死んだ。

今日二回目の呟きを残してふらりと机に倒れ臥す。

 

「ぁぁぁぁ……!み、耳が………」

 

ふと横へ視線を向ければ一夏が耳に手を当てていた。

恐らく一夏はこの展開を予想して耳を塞いでいたのかもしれない。

あいつにとっても予想外だったのは、両耳を塞いでも尚嬌声をシャットアウトする事が出来なかった……………………か。

 

そこまで考えたところで視界がブラックアウトした。

 

 

 

 

 

「………………んぁ?」

 

目が覚めた。

思考を動かそうにも鼓膜がズキズキしていて回りそうにない程に痛え。

 

『あ、おはようございますご主人。と言ってももう4時間目が終わって昼食の時間なんですけどね!』

 

「…………」

 

マジか、もうそんなに時間が………。

 

『いやぁ、ご主人!それにしても流石はご主人ですね!女の子の嬌声で気絶するとはwwww凄過ぎ……w凄過ぎますよご主人!!ぷぷぷ』

 

「うるせえよ!?」

 

エネの中傷に俺も若干自分が自分で情けないと感じていたので両手をそっと顔に押し付ける。

 

「あはは。……変わらないなぁ〜シンタローくんは」

 

「……カノ」

 

指の間から見えるへらへらと笑った男、カノ。

 

「やあ、昨日ぶりだねぇ。シンタローくん」

 

いけしゃあしゃあと笑うカノにジト目で返し、その隣に立つ彼女……アヤノに目を向ける。

 

「アヤノ」

 

「ふふ、シンタロー」

 

ああ、生きてて良かった。

こうしてまたアヤノに会えるなんて……。

 

「よっ、俺、織斑一夏!えっと、カノって呼んでいいか?」

 

アヤノとの再会に感動していると一夏がカノに対して爽やかに挨拶していた。

まあ、俺と一夏と、3人目のカノしか男がいないわけだし、特別な事情もなければ仲良くなっとこうとは思うだろう。

 

「どうだ?これから一緒に食堂に行って昼食を取ろうぜ」

 

「な、一夏!今日は私と2人っきりで……」

 

「おっ、良いねぇ〜一夏くん。ほら、姉ちゃんとシンタローくんも一緒に行こうよ」

 

飄々とした受け答えで自然に一夏の肩を叩くカノ。

 

「きゃっ、一×カノ!?」

 

「カノ×一に決まってるでしょ!」

 

「ゆゆゆ、夢の3Pって事も………!!」

 

やめろ!?俺は男好きな趣味はねえ!しかもアヤノという超可愛い彼女持ちなんだぞ!

 

「ほーら、何やってんの?シンタローくん。早く行こうよ」

 

「そうだぜ、シンタロー」

 

「あ、ああ。悪い、今行く」

 

教室の腐女子率に頭を抱えつつカノや一夏達の後を追いかける。

ふと、隣を見ると、アヤノがはにかむような笑顔を浮かべつつ自分の手を差し伸べた。

 

『ヒューーヒューー。お熱いですねぇお二人共!』

 

「うるせえ……。行くか」

 

「うん。シンタロー」

 

エネの言葉に顔がカアっと熱くなる。

それはアヤノにも当てはまるようだ、耳の先っぽまで茜色に染めてニッコリと笑った。

そんな仕草に悶え死ぬと思った俺は、照れ隠しのようにアヤノの手を取った。

 




まんまと騙されてくれたな!
転校生は転校生でもその中身はメカクシ団メンバーだ!
ちんちく鈴?知らない子ですね。
とりあえずカノの口調が不安、アヤノは初対面の時は口調が丁寧だった希ガス。
あとシンタローはアヤノに対して非常にデレてます、まあ仕方ないよね!大天使が相手なんだし!

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