東方先代録   作:パイマン

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バッドエンドです。一部の妖怪が非常に不憫な扱いになっております。ご注意下さい。
このエンドへの到達条件:異変解決に一日以上かかる。(主人公の霊魂を一日以上肉体から分離させる)


Normal End「古明地さとり」

 先代巫女が亡くなって一月が過ぎた。

 季節は少しずつ移り変わり、月は満ち欠け、時は流れる。

 空も大地も変わりなく。

 川は流れ、風が吹き、日が昇り沈む。

 人は日々を生き急ぎ、妖怪は時の流れに緩やかに身を任せる。

 まこと、世は全て事も無し。

 

 

 

 ――未だ、先代巫女の魂は彼岸の向こうでも見つかってはいない。

 

 

 

 いつものように魔理沙が博麗神社の境内に降り立ち、この気だるい朝の時間帯には縁側でダラダラしているだけだろう霊夢の元へ向かうと、やはりそこには予想通りの姿の彼女がいた。

 

「よぉ、相変わらずやる気の無い巫女さんだな」

 

 皮肉を言いながら意地悪く笑って、魔理沙は霊夢に歩み寄った。

 少し前までは、努めて明るく振舞わなくてはこうして彼女に接することが出来なかった。

 霊夢に対しては、初めて出会った時から決して活発な印象は抱かなかったが、母親を亡くしてからは更に物静かになったような気がする。

 悲しみに浸り、無気力になっているわけではない。

 そんな性格の人間ではないし、霊夢があの日冥界で母親と交わした最期の会話が多くのものを残したのだと、魔理沙は知っている。

 落ち着いた――簡単に表現するならばその一言が当て嵌まる。

 ただしそれは、少女から大人への成長というより、何かが欠落し、そこに何かを埋めることで『変化』してしまったかのような、少し歪な成長だった。

 

「遅めの春を満喫してるのよ」

「もう一月過ぎたんだぜ? そろそろ春も終わるだろ」

「季節の変化は異変じゃないしねぇ」

 

 気だるそうな受け答え。

 やはり少しだけのんきさを増したような霊夢の性格に魔理沙は苦笑し、そしてそれ以上言葉が続かずに黙り込んでしまった。

 縁側から見える物干し竿に掛けられた布団を、さっきから意図的に無視しようとしていた。

 布団は『二つ』干されていた。

 

「あれから一月、ね……」

「…………霊夢」

「勘違いしないで欲しいんだけど、本当にうっかり干しちゃったのよ。やっぱり、一月じゃあ意識は切り替えられても、習慣までは切り替えられないみたいだわ」

 

 霊夢は不自然な態度を取るわけでもなく、自分自身に対して本当に呆れたようなため息を一つ吐いた。

 一月に一度、この神社を訪れていた母親はもう二度と来ないのだ。

 その事実に対して、感傷に浸るわけでもなくぼんやりと布団を眺める霊夢に対して、魔理沙は拭いきれない気まずさを黙って味わっていた。

 

「さ、最近……調子はどうだ?」

 

 必死に何か言葉を紡ごうとして、結局魔理沙はそんな間の抜けたことを尋ねた。

 霊夢はそれに対して何か皮肉ってやろうかと思ったが、友人の不器用な気遣いに配慮して、少し考えた後答えた。

 

「良いわよ。能力的には冥界に行く前より向上してるんじゃない?

 弾幕ごっこでは、なんか前以上に勘が冴えてるし。ほら、ちょっと前に鬼が腕試しとか言って尋ねてきたじゃない。あんたも見てたでしょ」

「ああ……すごかったな」

 

 魔理沙はその時のことを思い出して素直に称賛し、言葉の裏にある畏怖の感情を胸の内に隠した。

 理由は分からない。しかし、ある日突然『鬼』を名乗る少女が博麗神社を訪れ、勝負を挑んできた。

 どんな因縁や因果があったものか。その鬼は何も語らず、ただ尋常の勝負を迫力のある笑顔で申し込み、霊夢もまた何も聞かずに受けた。

 結果は、死闘の末に霊夢の勝利で終わった。

 当初は普通の弾幕ごっこから始まったが、後半からは互いに完全な殺意を込めた凄まじい戦闘になっていた。

 鬼は尋常ならざる力の持ち主だった。

 あれほどの実力の妖怪は魔理沙の記憶にも無い。あのレミリアや藍でさえ、及ばぬかもしれない。

 その上で、人間である霊夢は敵を降した。

 満身創痍で、死力を振り絞った後でありながら、苦痛や必死さを表に出さない霊夢の横顔に、魔理沙は恐怖を覚えていた。

 以前も、霊夢に対してこんな感情を抱いた記憶があった。

 あの時は別の気持ちもあったが、今は――。

 鉄のように固まった霊夢の顔を真正面から見つめ返し、ボロボロになった鬼の少女はにっこりと笑った。

 

 ――見事な鬼退治だ。さあ、鬼の首を獲ってくれ。

 

 笑いながら、鬼は介錯を頼んだ。

 興味無さ気に断る霊夢に対して、鬼は言い募る。

 

 ――それで母親を超えたと言えるかな? お前の母も、鬼を退治してのけたけれど、最後の仕上げをやり残してしまったぞ。

 

 霊夢が表情を変えずに、瞳の中だけで激情をあらわにした。

 母親を亡くして以来、魔理沙が初めて目にする霊夢のハッキリとした感情の発露だった。

 

 ――心残りはあったが、お前との戦いはそれに勝る意味があった。さあ、やれ! 博麗の巫女!

 

 その鬼がどういった経緯で霊夢の母を知り、それに対して何を想い、何を考え、そして何を答えとして得たのか。

 何も分からぬまま、聞き出さぬまま、霊夢は厳かに鬼の首を刎ねた。

 長い二本の角を持つその鬼の首は、今も博麗神社の奥に封印されている。

 魔理沙はその日、確信したのだ。

 博麗霊夢は変わった。

 母親を失うことで、大きく成長し、更に強大な力を手に入れた。

 しかし、もし母親が生きていたのなら、この成長を素直に喜んだだろうか?

 そんな前提すら成立しない疑問が、魔理沙の中に残り続けるようになった。

 

「あれから、一月か……」

 

 無意識に呟きが漏れる。

 何度も思い返さずにはいられない。

 全ての切欠となったあの日――冥界の異変を解決し、先代の魂と共に人里へ戻った時のことを。

 その魂を肉体に戻そうとして、原因不明の失敗を起こしたことを。

 

「人里の様子だけどさ、少し落ち着いてきたよ。未だにあの上白沢慧音って奴は、失踪してから見つかってないけど。経営してた寺子屋は、店が金を出し合って続けるってさ」

「あ、そう」

 

 誰もがあらゆる手を尽くしたが、結局先代巫女の蘇生は叶わなかった。

 彼女はそのまま、誰も抗うことの出来ぬまま亡くなった。

 

「そういや、この間チルノに会ったぜ。むちゃくちゃ弾幕ごっこが強くなってやがった。ますます妖精らしくなくなってきたなぁ、アイツ何処まで行くつもりなんだ?」

「へぇ」

 

 嘆きはあった。

 悲しみ、悔い、呪い――しかし、そこに瀬戸際の想いがなかったのは、心の何処かで最後の一線を残していたからだろう。

 人間の死は、完全な終わりではない。

 少なくとも、世界をこの世とあの世の二つの視点で見ることの出来る人外の存在達にはそんな慰めがあったはずだ。

 ――それもすぐに虚しく消え去ったのだが。

 

「紅魔館は相変わらずだ。門番は少し元気になったかな。フランもさ、最近少し食事を摂るようになったってパチュリーが言ってたぜ。出来れば一度、霊夢に会って欲しいとよ。いい刺激になるかもな」

「ま、気が向いたらね」

 

 死んだ人間の魂は、三途の川を渡って、閻魔の裁判を受け、天国と地獄に分けられる。そして輪廻転生する。

 しかし、先代巫女の魂は何処にも見つからなかった。

 やはり原因は分からない。

 先代の魂は、冥界にも彼岸の先にも無く、この世の何処かで彷徨ってもいない。

 知己であった力ある大妖怪達が総出で、持ち得る限りの能力を駆使して幻想郷中を探し回ったが、誰も見つけることが出来なかった。

 やがて、誰もが終わりを悟った。

 

「……昨日、橙っていう猫の妖怪に会ったぜ」

 

 この件に関わった者、事の詳細を知り得た者が、各々の答えを出し、あるいは未だ出せずに悩み。

 

「八雲藍の式だそうだ」

 

 ただ一つ確かなのは、全ての者が変化を得たということだ。

 

「八雲紫は、最近ずっと眠ってばかりいるってさ」

 

 あまりに大きな喪失によって、変わらざるを得なかったのだった。

 

「……そうなんだ」

 

 近況を話し終えた魔理沙が黙って様子を見守る中、霊夢はため息と共に呟く。

 相変わらず気だるい仕草で送られる流し目を見つめ返し、魔理沙は咄嗟に目を背けた。

 冷や汗が吹き出し、背筋が凍りつく。

 

「興味ないわ」

 

 霊夢は淡々と言い切った。

 しかし、その瞳に映る唯一偽りの無い感情は――憎悪。

 

 

 

 

 風見幽香は旧地獄街道を歩いていた。

 自らの足でここを歩くのは、これで『二度目』だ。

 最初にここを訪れた時は、見知らぬ地上の妖怪として当然のように地底の住人達に絡まれた。

 静かに殺気立っていた幽香に対して、それでも喧嘩を売れるような、そこそこ腕と度胸のある妖怪達だった。

 立ち塞がる数匹の妖怪を眺めて、幽香の脳裏に過去の記憶が蘇った。

 

 ――そういえば、アイツもこんな風に絡まれていたっけね。

 

 先代巫女が地底を訪れた時の記憶。それを思い出し、無意識に苦笑を浮かべた次の瞬間、更に思い出した。

 

 ――アレが、アイツとの最期の会話だった。

 

 理解した瞬間、感じていた懐かしさは消し飛んで、怒りと苛立ちとあらゆる存在に対する破壊衝動が心を一瞬で塗り潰した。

 怒号を上げ、唐突に変貌した幽香に対して呆気に取られる目の前の妖怪達を一匹残らず虐殺した。

 胸を掻き毟るような苦しみが、幽香を狂気に掻き立てていた。

 そして現在。幽香は再びここへやって来た。

 地上を追われる程に恐れられた妖怪達の街を、更なる恐怖によって静まり返らせた幽香の再来に対して、街道は彼女を忌避するように静まり返っていた。

 誰もが家の中や屋台の陰、路地裏へと逃げていく。

 幽香は道の中央を黙々と進んでいた。

 歩きながら、ふと視界の片隅に見覚えのある姿を捉える。

 あれは……確か、人里の半人半獣ではないか?

 確信を持てなかったのは幽香がその妖怪に対してほとんど興味を抱かなかったこともあるが、道の片隅でボロ布のように汚れ、疲れきった姿で座り込む姿が記憶の中の彼女と全く一致しなかったせいもあった。

 もしも、あの乞食のような有様が上白沢慧音本人だというのなら、あまりにも変わり果てた姿だ。

 何故こんな所に?

 一体、どんな経緯を経て地底へと堕ちてきたのか――。

 しかし、幽香は歩みを止めず、真偽を確認しようともせず、そうして歩き去るままに彼女のことを忘れ去った。

 どうでもいい。

 先代巫女が唐突にこの世を去ったあの日から、幽香にとってあまりにも多くのものがどうでもよくなっていた。

 

「――また、来たのか。随分早いな」

 

 旧地獄街道の先。幽香の捜していた目的の妖怪は、待ち構えるように佇んでいた。

 星熊勇儀だった。

 その手には盃を持っていない。

 

「また勝負しに来たのかい?」

 

 地底を訪れるのは、これで二度目となる幽香に対して、勇儀は苦笑しながら尋ねた。

 

「私がお前さんを地上に叩き返してから、まだ三日と経っていない。勝負事は大歓迎だが、少し急ぎすぎじゃないかね?」

 

 その敵意と殺意だけは漲るほどに立ち昇らせた幽香は、無言で勇儀を睨んでいる。

 

「以前の負傷を、完全に引き摺ったままに見えるがね」

 

 勇儀は笑みを消し、厳しさを含んだ視線で幽香を睨み返した。

 指摘するように走らせた視線の先には、勇儀との戦いで失った幽香の右目と左腕がある。

 首には血の滲んだ包帯が乱暴に巻かれていた。潰された喉笛がほとんど再生していないので、幽香は思うように言葉が話せないのだ。

 咎める意味を持つ勇儀の視線に対して、幽香は変わらぬ戦意を発して返した。

 

「……退く気はないのか」

 

 言葉ではなく、行動で幽香は答えた。

 一歩、進む。

 

「満身創痍の状態で私を倒すことが、先代を超えたことの証になるとでも思っているのか?」

 

 幽香の顔が無残なまでに歪んだ。

 勇儀の言葉に対して怒り、苛立ち――そして何処か諦めと絶望を宿しているような、苦悶の表情にも見える顔つきだった。

 声を発することが出来るなら、彼女は喚き散らしていたかもしれない。

 意味も無く、ただ己の中にある理解出来ない感情全てを吐き出すように。

 

「私はお前を差し置いて『決着をつけた』立場だ。無碍には出来ん」

 

 幽香は既に駆け出していた。

 勇儀の瞳に映る、自分に対する戒めと憐れみが、いずれも見下すものとしか捉えられなかった。

 立ち止まれなかった。

 立ち止まれば、どうなるか分からなかった。

 脳裏に、路地裏で見かけた慧音らしき妖怪の末路が過ぎった。

 

「その苦しみ、止めてやる」

 

 迎え撃つ勇儀に対して、幽香は潰れた喉を震わせて狂ったように叫んでいた。

 

 

 

 

 言葉として成立していない絶叫のような心の声が聞こえ、さとりは書類から顔を上げた。

 この声は聞き覚えがある。遠く旧都から、本来なら届かないはずの地霊殿まで届くような大きな心の叫びだ。

 

「確か、風見幽香……でしたか」

 

 呟きは僅かな憐れみだけを含み、あとはさして興味も抱かなかった。

 あの妖怪もまた、先代巫女の死に心を囚われてもがき苦しんでいるのだ。

 先代の死を切欠に、あの巫女と関わっていた何人かの人間や妖怪とさとりは顔を合わせていたが、いずれも心の痛みを抱えていた。

 これ以上仕事を進める気にもならず、さとりはペンを置くと几帳面に机の上を整理して、事務に使っている部屋から出た。

 廊下を歩きながら、時折感じる振動やペット達の怯えた様子は、旧都で起こっている戦闘の影響か。

 強大な妖怪がぶつかり合えばこうなる。そこに悲壮や悲惨といったものが加われば、影響も強くなるのだろう。

 途中で台所に寄ってお茶とお菓子を一人分用意し、その足で自室へと向かった。

 中に入ると、念の為鍵を掛ける。

 ここから先は、プライベートな憩いの時間だ。誰にも邪魔されたくなかった。

 さとりは、つい最近追加した二台目のベッドに歩み寄ると、傍の机にお盆を置いた。

 ベッドの傍にはリラックスする為の安楽椅子が配置してある。それに腰掛ける。

 お茶を一口のみ、一息吐くと自然と微笑みが浮かんだ。

 そのベッドに横たわる人物を見下ろす。

 死んだように眠る――いや、『ある意味』本当に死んでいる先代巫女の遺体がそこに横たわっていた。

 腐敗はしていない。冬の妖怪の力によって肉体を凍結させている。

 その処置は、あの異変で行われたまま結局解除されることなく残っていた。

 先代巫女はあの日以来目覚めていない。

 あの日、彼女は亡くなったのだ。

 

「――目が覚めましたか? と、言うのも何だか変な表現ですね」

 

 物言わぬ先代の遺体にさとりは微笑みかけた。

 当然のように言葉は返ってこない。

 しかし、さとりは狂ってはいない。

 彼女にとって、言葉による会話の成立はあまり意味がなかった。

 

「ええ、おはよう。先代」

 

 成立しない会話の中で、さとりはごく自然に挨拶をした。

 その第三の目には、先代の返す目覚めの言葉がしっかりと映っていた。

 

 

 

 

 目が覚めて、さとりんの微笑みが最初に映るって……素敵やん?

 まあ、さとりの言うとおりこの『目が覚める』っていう表現もおかしな感じだけどね。

 私ってば、今は死んじゃってる状態だし。

 

「相変わらずのんきな思考ですね。死んで一月も経ったというのに、全然変化が無い」

 

 うおっ、もう一ヶ月も経ってたの!?

 いやぁ、今の状態の私って何となく感覚がおかしいというか、曖昧な状態のせいか、時間の感覚が明らかに生前より狂ってるわ。

 さとりに言われて思い返せば、確かに一ヶ月経っているような気がするし、逆に一時間も経っていないような気もする。

 昔のことを思い返すと、数年前のことでも数日前のように錯覚してしまう時があるように、私の認識が何処かズレているように感じるのだ。

 はー、この状態になって大分経つけど、相変わらずどういう状態なのか理解不能だな。

 

「それは私にとっても同じことです。

 ここしばらく、貴女と会話をしながら心を読んでいましたが、生前のそれと何ら変わりはありませんし、違和感も感じませんでした。

 正直、こうして生命活動の停止した貴女の肉体が目の前になければ、死んでいるとは到底思えませんね」

 

 さとりが分からないと言うのなら、正直私もお手上げだな。手を上げられないけど。

 今の私の状態を把握出来ているのがさとりしかいないんだから、しょうがないんだどね。他の誰にも相談出来ないし。

 私は今の状態になって、それこそ暇潰しにするほど整理し尽くした記憶を、今再び蘇らせていた。

 そう、あの日――原作で『春雪異変』と呼ばれる異変を霊夢が解決したあの日に、私は死んだ。

 ……らしい。

 正直、あの辺りの記憶は曖昧でハッキリとは覚えていない。

 霊夢と冥界で再会して、親子の絆をガッチリ固め合った後に地上に戻って、それから紫と霊夢の保証付きで再び生き返られるのだと言われて、その為の作業が始まり――。

 気が付いたら、私はこの状態だった。

 意識はあるのに体は動かない。

 加えて、その意識も肉体の感覚が死んでいるせいか、妙に曖昧な感じがする。

 当初は言葉も発せないし、瞼さえ動かせないから目を閉じているはずなのに周囲の状況が分かり、それでいて誰も私に気付かないというチグハグな状況に半ば焦っていたのだが、さとりに会えたことでようやく現状を正確に理解したのだった。

 さとりに説明を受け、私は自分が本格的に死んだことを自覚した。

 まあ、そのことにショックは受けたが、正直死んだことに対する様々な感傷は冥界で目を覚ました時に済ませていたので、インパクトは今ひとつだったね。

 それよりも気になったのが、さとりでも把握し切れていない様々な謎だ。

 まず、紫の能力を用いて行われたはずの蘇生が失敗した原因が不明なのが腑に落ちない。

 紫の実力を知る私としては、単純なミスとはとても思えないんだよなぁ。

 ただ、これに関しては事情を探れるさとりの専門外の話なので、多分この先永遠に分からない謎になるだろう。

 あとは、私の今の状態も謎だね。

 死んだなら死んだで、幻想郷には冥界も三途の川もあるし、閻魔様だっているんだから、魂とかそういうものがそっちへ行くはずなんだよね。

 これは、旧地獄を管理する上で死者の魂に対する知識を持つさとりに言わせてもおかしな状態であるらしい。

 死んだ後でもなお魂が遺体に留まっている状態のようだ。そして、やっぱり原因は不明。

 ちなみに、私がここ地霊殿にいるのは、魂が旧地獄へ向かおうとしたからではなく、ただ単に遺体がここへ物理的に運ばれてきたから。

 どうやら、私の魂は完全に肉体とセットらしく、体を動かさなければ移動も出来ないようだ。

 不便と言えば不便だが、自分に死後の自覚があるせいなのか、不思議と生前とのギャップに苦痛や不満をさほど感じない。

 こうして意思疎通が出来るさとりの傍へ移されたことで、ある程度不便が解消したのも理由かね。

 さとりが心を読んでくれないと意思疎通すら出来ないもんなぁ。

 流石に誰とも意思を交わせぬまま、遺体に収まった状態で意識だけが取り残されてたら、孤独感で発狂していたかも分からんね。やべ、想像しただけでこええ。

 いや、本当にさとりんにはマジ感謝ですよ。

 

「別に構いませんよ。正直、これくらいしか出来ないことに少々申し訳なさも感じていますしね」

 

 さすが、さとりん。

 おお、心の友よぉ~!

 

「うーん……そうですね、今の貴女なら余計なトラブルも起こせませんし、素直に友人と認めましょう」

 

 ひどっ! つまり生前は友人と名乗るのに躊躇う要素があったのね……。

 

「この際正直に言ってしまいますが、貴女自身はともかく友好関係が面倒くさすぎるんですよ。具体的には友人に大物多すぎです。もっと節度を持ってください」

 

 確かに紫とかスゴイ妖怪ばっかりだけどね。

 でも、大物というならさとりだって負けてないと思うけどな。気後れする必要なんてないって。

 

「気軽に言ってくれますね……」

 

 そういえば、友好関係で思い出したけど、他の皆の様子って今はどんな感じ?

 自覚無かったけど、もうあれから一ヶ月も経ってるんだよね。

 地底からじゃ、地上の情報なんて仕入れにくいかもしれないけど、何か分かったらやっぱり随時教えて欲しいな。気になるわ。

 霊夢とかちゃんと体に気を付けて、ご飯とか食べてるかしら?

 いや、この考えはもう古いか。あの冥界でのやりとりで、霊夢の成長はしっかりと確認出来たわけだし。

 ……こうして考えてみると、私ってそれほど生前の心残りないんだよねぇ。

 

「風見幽香のことはどうなんです? あの妖怪は貴女との決着に随分とこだわってましたが」

 

 どぉぉぉっ!? わ、忘れてたぁー!

 決着どころか、ろくに別れの挨拶も出来てねえ!

 やっべ、幽香に殺される……。

 

「もう死んでますけどね。

 実は黙ってましたけど、三日ほど前に地底への結界を破って旧都に殴り込みに来てます。星熊勇儀に撃退されましたが、今日リベンジに来ました」

 

 マジですか!?

 えぇ……ひょっとして、私のこと追ってきてんの?

 

「さあ、そこまでは分かりません。貴女の遺体が地霊殿にあることは知っているみたいですね。今のところは、勇儀さんと戦うことが目的のようですが」

 

 そ、そうか……私と戦えなかった鬱憤を勇儀で晴らしてるのかな?

 ごめんよ、勇儀。動けるもんなら、今からでも土下座に行きたいわい。

 とりあえず、幽香が元気そうで安心したわ。

 

「あと、娘さんですが、博麗の巫女として絶好調のようですね。風の噂で、地上へ出ていった鬼の伊吹萃香を単独で退治したそうです」

 

 おお、その辺は原作通りかー。

 しかし、私自身が鬼を相手に戦ったからこそ分かるが、よく勝てたな霊夢。やっぱり私の娘だからかしら?

 ま、さすがに私みたいにガチンコなんてアホな真似で勝負つけたわけじゃないだろうけどね。

 となると、今の博麗神社には萃香がいるんだなぁ。

 

「……ええ、そうですね。事の顛末は、そのように聞き及んでいます」

 

 いいなぁ、私も一度会ってみたかったなぁ。

 今更言ってもしょうがないか。

 私は傍に居れなくなったけど、霊夢の回りも順調に騒がしくなっていっているようで結構結構。

 あと他に、慧音は今どうしてるかなー。

 私の蘇生が失敗した時、すぐに意識自体は戻って周りの様子が確認出来たんだけど、その中でも慧音はかなり尋常じゃない取り乱し方をしていた。

 さとりに引き合わされるまでの期間、自分の周りの様子を見ることしか出来なかったから断片的にしか見てないんだが、なんだかいつも必死の形相を浮かべていた気がする。

 やっぱり、私の死体発見に加えて、本格的な死亡というショッキングな場面を続けて見せてしまったせいかな。

 

「……彼女に関しては、今は人里を出ているそうです。風見幽香と同じように、この地底へやって来ているのかもしれませんね」

 

 そっかー。会えたら嬉しいな。会話出来んけど。

 それじゃあ、一番気になってる――。

 

「八雲紫に関しては」

 

 それまで何処かワンテンポ会話の遅かったさとりが急に先を制したので、私は思わず驚いてしまった。

 

「私も知りません」

 

 さとりは断言した。

 

 

 

 

 八雲紫は切羽詰っていた。

 先代が目を覚まさない。

 当然だ、彼女の心臓は未だ鼓動を止め、呼吸も無く、肉体は完全に生命活動を停止している。

 死んでいるのだ。

 だから、目を覚まさなくて当然なのだ。

 

 ――そんな筈はない。

 

 しかし、紫はその現実を強く否定していた。

 このまま彼女が死ぬはずがない。

 生き返るのだ。

 少なくとも、そうなる予定だったのだ。

 何故なら、彼女から霊魂を抜き取り、一時的に仮死状態にしたのは自分なのだから。

 その霊魂を冥界にまで導き、亡霊として存在させていたのは自分なのだから。

 そして、その自分が彼女を元に戻すのだと決めたのだから。

 だから、戻るはずなのだ。

 彼女の魂は肉体へと戻り、再び息を吹き返し、人間としての生に戻っていくのだ。

 

 ――なのに、どうして!?

 

 紫の心の中は疑念と焦燥で満ち溢れていた。

 平静を装い続けた顔には限界が来ている。

 目は僅かに血走り、頬は強張り、嫌な汗が滲み出す。

 どれだけ手を尽くしても、先代は目を覚まさない。

 霊魂を肉体に戻すところまでは順調に進んだ。あとは目を覚ますという結果を待つだけなのに、その結果が出てこない。何処かで止まっている。

 何処で止まっているのかが分からない。

 理由さえ分からない。

 紫自身はもちろん、協力を仰いだ他の者達にも、誰にも分からなかった。

 先代が目を覚まさぬまま、時間と解決策だけがどんどん潰れていく。

 一日が過ぎる度に紫は不安と苛立ちを募らせていった。

 先代が死んだままの状態で時間が過ぎれば過ぎるほど、それが『死』として現実に塗り込められ、拭うことが難しくなっていくような気がする。

 もはや、一刻の猶予もない。

 その『猶予』とは一体どういう意味なのか、自分でも理解出来ていない。紫の理性は焦燥によって蝕まれていた。

 万策尽き、いよいよ案が浮かばなくなってきたところで、紫はさとりを頼ることに決めた。

 自分の境界操作を含めたあらゆる能力で試みたが、先代の魂を認識することが出来なかった。

 しかし、さとりの第三の目ならば、自分達では捉えきれない『何か』を見つけることが出来るかもしれない。

 妖怪の賢者と称される八雲紫にしてはあまりにも不確定な要素に頼った――それこそ藁にも縋るような考えだった。

 先代の遺体を地霊殿に運び込み、さとりに事情を全て話して、あとは彼女の要望のまま、二人きりにさせる。

 それほど待たされることはなかった。

 さとりは何事もなく部屋から出てきた。

 逸る気持ちを表に出さぬよう努めて、紫は問いかけた。

 

「それで、どうだったのかしら?」

「貴女の予想通りですね。先代の魂は遺体に宿ってます。意識もハッキリしていて、さっきまで軽く雑談をしてました」

 

 さとりはあっさりと、そう答えた。

 期待と不安で胸が張り裂けそうだった紫にとって、その無造作な返答はあまりに呆気なさすぎた。

 喜びも感動もなく、ただ呆然とさとりのこれ以上解釈しようもない単純明快な言葉を何度も反芻する。

 

「……本当?」

「ええ、普通に心が読めましたよ」

「私には、何も分からなかったわ」

「そうなんですか」

 

 さとりの受け答えは素っ気無かった。

 その自然な態度に、紫はわずかな苛立ちすら感じていた。

 あらゆる手を尽くしたはずだった。

 能力を限界まで使用して、それでも先代の魂を僅かにも感じることが出来なかったのだ。

 彼女が死んだのではなく、魂を見つけられないだけなのだと。その魂は未だ肉体に残っているのだと――その考えにまで至ったのは何らかのヒントがあったわけではなく、半ば以上の希望的観測と縋るような期待があったからなのだ。

 だから、信じられなかった。

 

「本当に、貴女は先代の心を読み取れたの?」

 

 愚かなことだと自覚すら出来ず、紫は同じ質問を繰り返していた。

 さとりは今度は答えなかった。

 瞼を半ばまで閉じた己の両眼と、第三の目を紫に向け、じっと何かを探っている。

 交渉事などで様々な相手と対峙してきた紫だったが、この時初めて緊張を感じた。

 

「……信じられませんか?」

 

 さとりは静かに問い返した。

 

「貴女ほどの大妖怪でさえ、先代の魂を捉えることが出来なかった。

 今、彼女の魂の在り様を証明出来るのは私の言葉のみ。たった一匹の妖怪の、真偽も定かではない薄っぺらな言葉だけ、ということですね」

「……何が言いたいのかしら?」

「まあ、単刀直入に言いましょうか。――貴女、私が何を言っても信じられないのでは?」

 

 目まぐるしく動いていた紫の思考が、凍りつくように停止した。

 

「さっき先代と交わした会話の内容を包み隠さず話すとですね、ようやく話の通じる相手が現れて良かったという安堵から来る軽口だとか、妙な形だけど久しぶりに私と会えて嬉しかったとか、紫には心配ないって伝えておいてくれとか、もし良かったら私の仲介を挟んで話をしたいとか――まあ、そんな感じのことをのんきに話してましたよ」

「……何を、言っているの?」

「ああ、今ちょっとガードが緩みましたね。動揺してますか? 心が読めますよ。

 ふむふむ、何を馬鹿げたことを、ですか。まあ、そうですね。貴女の中の想定とは、先代の対応がまるでかけ離れてますからね。

 当然、責められると思いましたか。本来なら、無事先代が生き返ったあとで処断を受け入れるつもりだったんですね。

 加えて、今回のような事態になって自分は取り返しの付かないほどの溝を先代との間に作ってしまったと恐れているわけですか。だから、先代がそんなことを言うはずがなく、私の話も嘘である、と。

 しかし、その一方で私の話を信じたいという気持ちもありますね。ああ、そうですか。それは都合の良い方に楽観したいだけだ、と自分で戒めているわけですか。なんだか、思考が堂々巡りをしていますね。

 貴女の考えすぎですよ。杞憂です。確かに違和感を感じるかもしれませんが、先代は実際に貴女が思うほど物事を深刻に捉えるような性分ではないのです。意外と軽い性格の人物なんですよ。そう深刻にならないでください」

 

 さとりは軽い口調で言葉を重ねたが、紫にとってはその度に混乱を招くものでしかなかった。

 さとりの話す内容が、全て真実であるのならば、彼女自身の言うとおり自分の杞憂で全て片付くのだろう。

 しかし、信じることなど出来ない。

 そこまで単純になれるわけがない。そうなれるのならば、そもそも杞憂とやらが生まれることもない。

 紫は完全な疑心暗鬼に陥っていた。

 

「……言いなさい」

「はい?」

「本当のことを言いなさい!」

「……いや、さっきから正直なことしか言ってないんですけれどね。

 私は別に、貴女に信じてもらうよう意気込みはしませんが、わざわざ疑われるつもりもありませんよ。言ったでしょう『貴女自身が何を言っても信じられないだろう』って」

 

 さとりは何も変わらない自然体のままで語っていたが、対する紫の仮面は無残にも崩れ始めていた。

 苦悩に歪んだ表情が浮かび上がる。

 その瞳には恐れがあった。

 さとりの言うとおり、一度疑い始めた紫は、もはや言葉だけでは何も信じることが出来なくなっていた。

 しかし、そのさとりの言葉以外に先代に関する物事の真偽を知る術がない。

 さとりの話が全て本当ならば良かった。だが、とても信じられないし、楽観も出来ない。

 さとりの話が全て嘘ならば良かった。だが、その結果突きつけられる最悪の現実など、とても受け入れられない。

 頭が破裂しそうだった。

 無意識に食い縛った歯から呻き声が漏れる。

 紫は酷い吐き気を覚え、口元を押さえた。

 

「――貴女は、自分が先代を殺してしまったのだと考えている」

 

 さとりの声には特にこれといった感情は込められていなかった。

 初めて見る妖怪の賢者の弱りきった姿に対して、翻弄してやろうという悪意などなく、救ってやろうという慈悲もない。

 ただ、他人として僅かな憐れみだけを抱いていた。

 

「その罪を本人に責められるのが怖いと感じながら、自ら罰を受けなればならないという自責の念も強い。

 だから、貴女はどちらの現実も選ぶことが出来ないのですね。それがどれ程厳しいものであっても、突きつけられたのならば受け入れる覚悟はしているが、自ら選べば都合の良い方へ傾いてしまうから、私の話を信じることが出来ない」

 

 とうとうその場に蹲ってしまった紫を見下ろし、さとりは小さくため息を吐いた。

 

「私から言えることは変わりませんよ」

 

 紫はそれが許されることではないと強く戒めながらも、縋るように見上げていた。

 

「先代は、貴女を許しています。信じる信じないはご自由に」

 

 紫は逃げ出した。

 

 

 

 

 さとりは紫と最後に交わした会話を思い出し、ほんの少しだけ後味の悪さを感じていた。

 ほんの少し、だ。

 あの時の会話は本当に悪意も善意もない、事務的なものだった。

 自分は先代と話したままの内容を聞かせたし、それをどう捉えたかは紫の自由だ。

 まあ、先代の外面と内面にギャップがあることは自分くらいしか知らないことだし、その捉え方の差異が今回は要らぬ疑念を生み出してしまった原因なのだろう。

 八雲紫は先代巫女の内面を『勘違い』して捉えている。

 それを訂正する本人はもはや直接話すことも出来ない。

 仮にさとりが仲介することで話をしたとしても、紫が聞くことが出来るものはその『さとりの話』だけだ。

 さとりが正直に話したとしても、紫は自分の認識とのギャップからそれを信じることは出来ない。

 しかし、さとりが紫のイメージに合わせた先代の言葉を騙っても、それは結局嘘として信じられることはないだろう。

 まさに堂々巡りだ。

 さとり自身には、紫を貶めようという魂胆など微塵もなかった。

 まあ、事態の原因はあの妖怪にあるので、多少の悪意は含んでいたかもしれない。しかし、それも消極的なものだ。

 あの追い詰められた八雲紫の怯えた表情を思い出すと気の毒だと感じるが、だからといって相手を説得するほどの情熱や思い入れがないのも事実だった。

 時折、お燐を地上に行かせて先代の気にしている事柄に関する情報をそれとなく探らせているが、さとりはそれらをオブラートに包んで先代に話していた。

 八雲紫は人里どころか人前に姿を現すこともなくなり、妖怪達の間でさえ目撃情報が途切れているという話だ。

 何処かに引き篭もっているのだろうか? あるいは何処かへ去ったのか?

 さとりには分からないし、分からないことを先代に語っても無駄な心配をさせるだけなので、自分は知らないとだけ答えた。

 嘘は言っていない。

 退治された伊吹萃香の首だけが博麗神社に在ることも、風見幽香が勇儀とほとんど殺し合いに近い決闘をしていることも、上白沢慧音に該当する妖怪が旧都の路地裏で彷徨っているのを見かけたことも――詳しく語っていないだけで、嘘は伝えていない。

 さとりなりの、不自由な友人に対するちょっとした配慮だった。

 赤の他人のことなどどうでもいいが、友人ならば少しくらい気を配るものだ。

 

「貴女の現状について、謎は多いですが……」

 

 さとりは先代が今陥っている状況に対して明確な答えを持っていないが、ある程度の憶測は持っていた。

 先代の事情について知らない紫にはそれこそ思いつきもしなかっただろう。

 この人間は一度輪廻転生をしているのだ。それも、正常なものではない、異世界からの転生という特異なものを。

 おそらく、そこに今回の異常の原因がある。

 そんな不確定要素を含んだ先代の魂を引き抜き、更に不安定な状態にしてしまえば、それこそ何が起こってもおかしくはないはずだ。

 切り離した肉体と魂を再び戻した時、何らかの理由で歯車が噛み合わなかった――そんなイメージだけの漠然とした憶測をさとりは導き出していた。

 この憶測からどうやって考えを発展させればいいかまでは分からないが、しかしそこまで答えを急ぐ必要もないだろう。

 

「まあ、のんびりいきましょう。誰も急かしませんよ」

 

 自分自身と横たわった先代の両方に言い聞かせるように、のんきに呟く。

 急ぐ必要性など感じなかった。

 先代自身に焦りはなく、自分自身にも焦る理由がない。

 

「時間はたっぷりあります。現状に何か変化を与えそうな切欠も、これから先どんどん起こりそうじゃないですか? えーと、次は『東方永夜抄』でしたっけ。……ほほぅ、この異変にも面白そうな物語が隠されているようですね」

 

 さして気にもならない数々の懸念を頭から追い出し、さとりの興味は今口にした内容に移っていった。

 先代の死に嘆き、悲しみ、苦しみ、未だそこから抜け出せない人妖は多く存在するが、それらはさとりにとって他人事以外の何ものでもなかった。

 ここは地底の地霊殿。

 嫌われ者の覚妖怪が住む屋敷。

 好んで近づく者はおらず、これからもきっとそうだろう。

 地上とは違う時間の流れが、ここにはある。

 

「さあ、また話を聞かせてください」

 

 さとりは自分だけが聞くことの出来る声を聞きながら、物言わぬ先代の遺体に微笑みかけた。

 

 

 

 

 

【Ending No.2】




<クリア特典>

主人公の秘密その二。
「主人公の能力は『肖(あやか)る程度の能力』 漫画のキャラに肖ることで、力や技以外にも雰囲気や場面(漫画の中の流れ)さえも再現することが出来る」

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