東方先代録   作:パイマン

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永夜抄編ラスト。


其の二十五「新難題」

 妹紅は何の切欠も無く、眼を覚ました。

 いつも嗅ぐ朝食の美味しそうな匂いや、外で先代や慧音が調理をする物音、あるいは人の気配――それらの何一つも感じることなく、ただ自然と眼を覚ました。

 開いた瞼の先には、薄暗い世界があった。

 朝日は差していない。しかし、夜の闇というほど深い暗がりではない。

 現実感の無い世界。

 

 ――これは、夢なのか?

 

 妹紅は考えた。

 夢なのだろう。そう、納得した。

 何故ならば、起き上がって周囲を見回した妹紅の視界に入ってきたものは、眠りに就く前に見た光景とは似ても似つかないものだったからだ。

 そこは、間違いなく妹紅の家だった。

 ただ、周囲の全てが朽ちかけていた。

 一部が腐り落ちて穴だらけになった壁や天井。

 畳は荒れ果て、玄関近くに置かれた水瓶は割れている。そこら中が埃まみれだ。

 妹紅が上半身を起こした拍子に、掛け布団がボロボロと崩れた。

 その布団の切れ端を摘み上げてみると、手の中で脆くも千切れてしまう。

 十年や二十年程度でなるような風化具合ではない。

 それでいて、妹紅自身の体や服装は真新しいままなのだ。

 家の外が朝なのか夜のままなのか、それさえ分からない。物音はもちろん、動くものの気配すら感じなかった。

 まるで、自分以外に誰もいなくなってしまったかのような世界だ。たった一晩で。

 酷く現実感がない。

 ならば、これは夢だ。

 夢の中で、自分は眼が覚めたのだ。

 妹紅は湧き上がる不安と孤独感の傍らで、理性的な判断を下した。

 

 ――でも、この『夢』が何の根拠も無い空想であるわけではない。

 

 夢であると思っていた世界に小さな違和感を感じ始め、妹紅は自分の手に視線を落とした。

 乾いたように朽ち果てた周囲と、瑞々しいまま生きる自分の肉体。

 滅びゆく世界に取り残されるような感覚を感じた。

 これは、本当に夢のままで終わる光景なのか。

 永遠に生きる蓬莱人が、いずれ時の果てで見ることになる光景なのではないか――。

 妹紅は、今一度周囲を見回してみた。

 眠りに就く前の記憶にある見慣れた自分の家は、内装をそのまま百年以上の時間が磨り潰してしまったかのように朽ちている。

 

 ――これは、本当に夢なのか?

 ――あるいは、ただ記憶が抜け落ちているだけで、本当は既に何百年もの時が経っていて、我に返っただけではないのか?

 

 不意に浮かんだそんな考えさえ、頭の中で現実味を帯びてきていた。

 ただ一つ、確かなことは――これが『夢』であったとしても、いずれ『現実』となる光景だということだ。

 妹紅はしばらくの間、ただぼうっと玄関の戸を眺めていた。

 ボロボロの戸は、それでもしっかりと閉ざされ、隙間から月明かりや朝日が差すこともない。

 あれを開ければ、曖昧な全てがハッキリするだろう。

 

「……うん。そうか」

 

 妹紅は、おもむろに頷いた。

 何かに納得していた。

 それがこの世界に関することか、自分の未来に関することか、あるいは他のことか。

 分からなかったが、少なくとも不安は無かった。

 妹紅は立ち上がった。

 ボロボロの布団が足元で跡形も無く崩れて消え去ったことには、もう気を留めなかった。

 軽く伸びをして、それから毎朝の習慣となった軽い体操をする。

 屈伸などで手足の関節を解した。

 両足を左右に開いて、胸を地面につける股割りもすっかり出来るようになった。

 教えられたことは、ちゃんと体が覚えているのだ。

 妹紅は嬉しくなって、小さく笑った。

 体操を終えると、いつものように外へ出ることにした。

 閉ざされた戸へ歩み寄る。

 

 ――この戸を開いた先に、進むべき道がある。

 

 この曖昧な世界が夢だというのならば、この先には本当の目覚めと現実があるだろう。

 もし、これが現実だというのならば、親しい人達が誰もいなくなった世界が広がっているだろう。

 二つの違いは『いずれ訪れる世界』であるか『既に目の前に在る世界』であるかだけだ。

 その事実を、妹紅はもう恐れなかった。

 妹紅は笑って戸を開いた。

 

 

 

 

 私が見上げた先では魔理沙とチルノが弾幕ごっこを繰り広げていた。

 ここ、永遠亭では異変の解決を経て、多くの人妖が集まっている。

 

 ――何故か? って私に聞くな。もう、流れとしか言えません。

 

 私自身もようやく全ての事態を把握出来た……かな? といった感じなのである。

 今夜……っていうか、もう昨夜か。ちゃんと夜が終わって日が昇ったし。とにかく、いろいろなことが迷いの竹林で起こったのだ。

 妹紅と輝夜の勝負に集中していて忘れていたが、迷いの竹林は後に『永夜異変』と呼ばれる異変の主舞台であり、異変解決に乗り出した霊夢他数名の人妖の戦いの真っ只中だったのだ。

 四つの自機チームが総出であたった異変解決だが、連携の不備を永琳に突かれ、互いに潰し合う状況だったらしい。

 それでも紫の想定ではある程度戦況は進展していたらしいが、そのタイミングで起こったのが、私の『博麗波による月落とし』である。

 それによって、異変のそもそもの原因である偽りの月は消滅。

 皆が真面目にシューティングゲームやっている傍らでバグコードが飛んできたような強制エンディングが始まったわけである。

 ……なんや、このクソゲー!

 いや、やらかしちゃったのは私なんだけどね。

 こうして異変解決。めでたしめでたし、とは――。

 

「母さん、聞いてるの? ちゃんと反省してよ」

 

 いかんわなぁ……。

 

「すまない、霊夢」

「何を謝ってるのか、言ってみて」

「お前の博麗の巫女としての仕事を邪魔してしまった」

「違う。重要なのはそこじゃない」

 

 私は今、永遠亭の中庭に面する縁側に腰を降ろしながら、すぐ隣の霊夢のお説教を聞いていた。

 反対側の隣には慧音が座っている。

 こちらも、私を夜中に連れ出したとして霊夢の説教の相手に含まれていた。

 しかし、娘に心配をさせてしまったとしおらしくなる――それが顔面に表れているかどうかはともかく――私とは違って、慧音はなんか穏やかに微笑んですらいた。

 うーむ、慧音ってば竹林での一件以来雰囲気変わったよね。

 具体的には言い表せないが、私への対応というか視線というか……見守られているような、包容力を感じる。

 

「慧音、何笑ってるのよ?」

「いや、すまない。私も反省している。

 しかし、後悔はしていない。私達の判断と行動は、必要なものだったのだ。先代も同じ気持ちだろう」

「……なんで、あんたが母さんの気持ちを代弁すんのよ」

 

 まるで諭すような慧音の反論に対して、霊夢は拗ねるように小さく吐き捨てるだけだった。

 あらら? 意外とあっさり引き下がるのね。

 納得はしていないようだが、霊夢が私以外の相手にここまで大人しいのは初めてかもしれない。

 誰に対しても遠慮を知らず、平等にズケズケと物を言うので、非を認めながらも反論する慧音にもっと何か言うと思ったのだが……。

 

「まあ、いいわ。結果論だけど、全部上手く納まったわけだし」

 

 霊夢は自分を納得させるように言った。

 

「母さん」

「なんだ?」

「心配したから」

「……すまない」

 

 私は霊夢の本当に言いたいことをようやく理解して、今度こそ心の底から謝罪した。

 すみません。反省します。でも、霊夢に心配されて嬉しい。

 駄目な馬鹿親である。

 

「ところで、異変はもう解決したはずだろう」

 

 話題を切り替え、私は霊夢に確認するように空を見上げた。

 夜の闇が晴れ、世界が急速に正常な時間を取り戻して、今や空には太陽が昇っている。

 幸いなことに、今日は雲ひとつ無い快晴だ。

 いい一日になりそうである。

 しかし、そんな永遠亭の空では魔理沙とチルノの弾幕が激しく交差し合っていた。

 

「何故、魔理沙はチルノと弾幕ごっこをしているんだ?」

 

 私は純粋な疑問をぶつけた。

 言葉の通り、この弾幕ごっこが始まったのは、魔理沙がチルノに勝負を挑んだのが切欠である。

 チルノ自身が大して疑問も持たずに勢いでその勝負を受けたことから、ついつい口を挟めなかったが、異変が終わった後で弾幕ごっこをする理由が分からなかった。

 まあ、弾幕ごっこは本来は遊びのようなものである。

 暇つぶしとか練習の為と言われたら、それまでかもしれない。

 実際、今の状況は誰もが手持ち無沙汰でいる。

 広い永遠亭の中庭で、多くの人間や妖怪が自然とグループを作って、各々好きに過ごしていた。いや、暇を潰していた。

 病弱なパチュリーと、それを世話する咲夜は少し離れた縁側に座っている。

 幽々子は妖夢を従えて、白玉楼以外の見慣れない庭を見て楽しんでいるようだ。

 魔理沙とチルノの弾幕ごっこを眺めているのは、アリスとてゐである。

 何気に初めて見たアリスだ。しかし、初対面なのは私以外の誰もが同じらしく、てゐもアリスも一人で空を見上げており、互いを意識しているようですらない。

 そして、そんな全体の様子をまるで見張るように鈴仙が眺めていた。

 雑多で奇妙な空間である。

 

 ――何故、この場に誰もが留まっているのか?

 

 その理由は、唯一この場を離れて永琳と話しに行ってしまった紫にあった。

 幻想郷の管理者として、何やら重要な話し合いをするらしい。

 その話し合いの結論がどうなるのか――博麗の巫女として霊夢が残ることは当然で、私も気になるから残り、釣られて慧音、チルノ、てゐ……と、なんだかどんどん引き摺られるように全員がこの場に残ったのである。

 あと、重傷だった妹紅が永遠亭に運び込まれたままっていうのも、私を含めた仲間全員が気になっている。

 最初に言ったとおり、この状況は『流れ』としか言いようが無かった。

 そんな状況の中で、いつの間にか魔理沙はチルノと弾幕ごっこを始めたのだ。

 

「……あたしにも、魔理沙の考えは分からないわ」

 

 私の口にした疑問に、霊夢は大分時間を置いてから答えた。

 

「ねえ、母さん。あたし、今回の異変で魔理沙と戦ったのよ」

「ああ、そう聞いている」

「あたしには魔理沙が勝負を仕掛けてきた理由が分からないの。母さんには分かる?」

「ふむ……」

 

 理由も何も、そこに至る過程や状況を聞く限り、私には『青春だなぁ』としか感じようがなかった。

 魔理沙が霊夢に敵意を持っているわけなんて無いし、二人が不仲であるなんて想像も出来ない。

 そして、友情とは穏やかなだけでなく、時としてぶつかり合うこともある激しい感情のことを言うのだ。

 根拠は少年漫画。

 私は本気で魔理沙の考えが分からないらしい霊夢に、なるべく分かりやすく伝えようと考えを巡らせ、やがて一つの名言が頭に浮かんだ。

 

「――友情とは成長の遅い植物である」

「母さん?」

「それが友情という名の花を咲かすまでは、幾度かの試練、困難の打撃を受けて堪えねばならない」

 

 ぶつかり合う友情を描いた漫画を締める名言である。

 真顔で言うには少し恥ずかしい言葉だが……いやっ! 恥ずかしがっちゃいけない! これは素晴らしい言葉なんだ!

 ほら、霊夢なんて凄い真面目な顔して聞いてるし。

 尊敬していいのよ? 私じゃなくて、ゆでたまご先生を。

 

「友情という名の、花……」

「霊夢。お前が魔理沙を友達だと思っているのなら、お前自身が考えて答えを出さなければいけない」

「……難しいわ」

「それでも、私は答えを教えられないし、教えたところで意味の無い答えだ」

 

 私は霊夢の頭を撫でながら、優しく諭した。

 

「……うん、分かった。頑張ってみるわ」

 

 霊夢は躊躇いながらも、素直に頷いてくれた。

 きっと悩んでいるのだろう。その立場上、同年代の友達に恵まれないこの子が、初めて直面した問題なのかもしれない。

 しかし、私は霊夢の悩みを良い機会に恵まれたのだと思っていた。

 ぶつかり合うことで生まれる苦悩と、それを乗り越えた先にある更なる理解。友情。

 いずれも私が若い頃には得られなかったものだ。

 友人である紫との関係がそれに近いかもしれないが、種族的な違いもあってか、互いに深く踏み込むことはなく、対立やいがみ合いによって友情を育んだことはない。

 勇儀とは、最初の激突が激しすぎて、一般的な友情の形成とは違う気がするしね。

 若くて初々しい霊夢と魔理沙の関係が、年長者の視点かから見ていると、非常に微笑ましく、また力強く感じるのだった。

 うーん、本当に青春やね。

 ところで、友人の紫で思い出したが、永琳との話し合いはもうそろそろ終わる頃だろうか?

 あの二人の会話なんて、私みたいな凡人の脳みそでは想像すら出来ないが、きっとなんかすごいレベルの内容なのだろう。

 まあ、紫に任せておけば何も問題ないと分かってるんだけどね。

 きっと、上手い具合に話を纏めてくれるでしょう。

 大丈夫だ、問題ない。

 

 

 

 

 八雲紫と八意永琳。二人の会談はスムーズに進んだ。

 片や『妖怪の賢者』 片や『月の頭脳』と称えられる、それぞれの種族でも代表的な賢者達である。

 ただ知識があるというだけではなく、本当の意味での聡明さを持つ二人だった。

 一つの言葉を交わせば、それで十の意味を悟る。

 今回の異変とその解決に至る経緯、状況、互いの事情を驚くべき早さで互いに理解し終えた時点で、二人の間には相手の実力を評価する奇妙な信頼と、同時に警戒が生まれていた。

 

「――なるほど。此度の異変は、全て『貴女の姫』を想っての行動だったというわけですね」

「ええ、責任は全て私にあるわ。

 彼女には安住の地が必要よ。そして、それにはこの幻想郷が適している。今回の侘びも含めて、代価は全て私が払いましょう」

「やめましょう。貴女ほどの賢者を相手に、そんな低俗な取引は無駄もいいところですわ。

 腹の探り合いはキリがない。何より面倒ね。ただ単純に、お互いのこれからのことについて建設的な話し合いを所望いたします」

「そうね。助かるわ」

 

 文字通り人間離れをした美しさと、隠し切れない知性を身に宿した女達である。

 口から流れ出る言葉は、音色のように美しく、積み重ねた年月の重みを持って耳に残る。

 一般人の第三者がいれば、二人の会話を神々の声のように聞いてただろう。

 感情や我欲といったものを一切排した賢者達の会合は、一つの結論の下に静かに纏まろうとしていた。

 

「詰まるところ、今回の全ての発端は」

「ええ。つまり――『古明地さとり』ということになりますわね」

 

 そういうことになった。

 

「八意永琳、貴女ほどの賢者が此度の急ぎすぎた異変を起こしたのは、先代巫女の唐突な来訪と不可解な言動が不安を煽ったから」

「ええ。そして、その言動の元となった情報源が――」

「古明地さとり」

「そういう話だったわね。少なくとも、先代から聞く限りは」

 

 紫は憂鬱そうにため息を吐いた。

 

「……その反応を見る限り、この妖怪は重く見るべき相手のようね」

「立場だけ見るならば、古明地さとりは私と同格の相手ですわ。私は地上の管理者、彼女は地底の管理者です」

「同格……やはり、軽く見れる相手ではないようね」

「彼女が本当に関わっているのなら、此度の先代の行動もあるいは――」

「誘導、もしくは扇動された可能性もある、と?」

 

 先を読んだ永琳の問い掛けに、紫は答えなかった。

 それは同時に否定もしていないことになる。

 古明地さとりという妖怪の行動とその真意を、測りかねているのだった。

 それを察した永琳もまた事態を深刻に捉え始めていた。

 紫以上に、永琳はさとりという妖怪を測る情報を持っていない。

 そして、自分が実力者であると認めた八雲紫が、こうまで頭を悩ませている相手なのだ。

 得体は知れず、ただ不安と警戒だけが姿も知らぬ古明地さとりに対して募っていった。

 

「――敵なの?」

 

 永琳は自分が答えを急ぎすぎていることを自覚しながら、それでも問わずにはいられなかった。

 

「分かりません」

「その妖怪が、仮に私達月人の情報を全て手に入れているとして、更にそれが月にも流れている可能性はあるかしら?」

「地底の妖怪が月と繋がっていることは、まず在り得ないでしょう。地上との取り決めもありますし、そう簡単に情報が得られるとは考えられない。しかし、『万が一』の可能性も含めた上で、その問いに答えよというのならば――」

「断言は出来ないということね」

「彼女の能力がどれほどのものなのか、私も正確なところは把握していませんわ」

 

 紫は不安を拭い去ることが出来なかった。

 初めてさとりと出会った時の印象のままならば、彼女もここまで警戒心を煽られることなどなかっただろう。

 人にも妖怪にも忌み嫌われる能力を持っている。しかし、それは決して脅威ではない――そう思っていた。

 地底の厄介な妖怪達の管理の為に彼女を利用しようと考えたし、事実そうしていたはずだった。

 しかし、今は違う。

 先代巫女とさとりが接触してから、全ての違和感は始まった。

 その実力において紫が絶大な信頼を寄せる先代巫女から、さとりは驚くほどの短期間で心を開かれているのだ。

 具体的にどんな経緯を経たのか知り得ない点も、紫が不審に思う理由だった。

 最悪の事態として、さとりが何らかの方法で先代を意図的に篭絡してしまったのではないかという予想がいつの間にか浮かんでいた。

 そして、それは今回の異変で永琳から聞き出した情報を元にして、少しずつ現実味を帯び始めている。

 最悪の事態は、更なる最悪への想像に発展していった。

 

「彼女の能力は、ひょっとしたら地底にいながら幻想郷全土に伸びるほど手が長いのかもしれない」

「最悪の考えの一つね。しかし、楽観すべきではない」

 

 二人の賢者の意見は、そこで一致した。

 いずれも絶対に守り抜くべき一線を持つ者同士である。常に最悪に備えなければならない。

 この瞬間、二人にとって『古明地さとり』という妖怪は、最悪の事態として警戒すべき対象となったのだった。

 しばらくの間、二人は黙って自身の思考に没頭していた。

 しかし、ここで会話を終わらせるわけにはいかない。

 古明地さとりに関する話題が予想以上に大きく、重くなってしまったが、それらは単なる可能性と予測の問題でしかないのだ。

 話し合うべきことはまだあった。

 少なくとも、紫にとってはこれからが本題だった。

 

「――ところで、話は変わりますが」

「情報交換は終わりということね。次は交渉かしら?」

「ふふふ、話が早くて助かりますわ」

 

 紫は愉快そうに笑った。

 分かっていたが、八意永琳は聡い相手である。

 もちろん、それは警戒すべき相手であるという意味でもあるが、先程の話題が古明地さとりに関するものだった影響か、不思議と頼もしさも感じてしまっていた。

 少なくとも、永琳は自分と悩みを共有する同格の相手である。

 紫の笑顔に釣られるように苦笑しながら、永琳は話を先読みして続けた。

 

「今回、私が先走って起こした異変が貴女に対する『貸し』であることは理解しているわ。何が望みなの?」

「本当に、話が早い」

 

 紫は、一瞬迷うように目を伏せた。

 しかし、すぐに開き直ったかのように顔を上げた。

 

「貴女には、先代巫女の足を治してもらいます」

 

 その返答に、永琳は僅かに眼を見開いていた。

 意外、といった内心を表していた。

 八雲紫と話をしていて、先代巫女との関係は想像も交えて大体は把握している。この答え自体を予想していなかったわけではない。

 しかし、この返答は予想外であった。

 

「……それは不可能だと話したはずよ」

 

 永琳は先代巫女が永遠亭を訪れた経緯を話す内で、そのこともはっきりと答えていた。

 

「正確には『必要な器具や薬品が幻想郷には無いから、不可能』――」

 

 紫は笑みを変えずに訂正した。

 

「貴女は『技術』に関しては問題として挙げなかった」

「何が言いたいのかしら?」

「質問の仕方を変えましょう――貴女が治療に必要だと思う物を全て用意すれば、先代巫女の足の治療は可能かしら?」

 

 一瞬、永琳の脳裏に様々な考えが過ぎった。

 目の前の妖怪は、この世界の管理者である。

 例えば、外の世界からその技術の一端を持ち込むことも可能だろう。

 しかし、そのような例外的な行為は、言うなれば職権濫用である。

 先代巫女は、その名の通り博麗の巫女という責務から外れた人間である。彼女を必要以上に擁護する意味は無い。

 八雲紫の私的な理由以外は、である。

 もちろん、幻想郷を管理することが職務ではなく彼女個人によるものである以上、守るべき義務や規則などといったものは課せられていないが――。

 

「具体的に説明してもらいましょう」

 

 永琳は紫の真意を図った。

 返答によっては、彼女への評価と信用を幾らか下げることになるだろう。

 

「この幻想郷には、高度な科学や文明が無い代わりに『幻想』が残っていますわ」

 

 紫は、やはり得体の知れない微笑を崩さずに答えた。

 

「外の世界で失われた魔法や錬金術、神秘的な薬効を持つ草や花、肉体を傷つけるだけではない霊的な加護を持つ刃物――」

「確かに使えるかもしれないわね。でも、それらをどうやって集めるというの?」

「協力者を募ります。『先代巫女を助けたい』と、そう呼び掛けて、応える者から手を借りましょう」

「そこまで都合よく集まるものかしら」

「さて、それは呼んでみてのお立会い」

 

 おどけて言ってみせる紫の仕草には、絶対の自信が透けて見えていた。

 それは紫自身の人望なのか、あるいは先代巫女の方なのか。

 僅かな間だけ黙考し、やがて永琳は一つだけ尋ねた。

 

「何故、あの巫女をそこまでして助けようとするの?」

「そうですわね。『私の方』の理由としては、彼女がこの幻想郷の為にしてくれたことへ少しでも報いたいということ」

 

 その深遠な心の内を探る為に、じっと紫の顔を見つめていた永琳は彼女の笑顔が形を変えずに意味を変えたのを察した。

 

「そして、そんな私を含めた多くの人妖の総意によるものですわ」

 

 そう答える紫の笑顔は、純粋に誇らしげなものだった。

 

 

 

 

 永遠亭の一角にある部屋で、妹紅は横になっていた。

 つい先程眼を覚ましたばかりである。

 あの夜の決闘を終えた直後、限界を迎えた妹紅はそのまま気絶してしまったのだ。

 時間の感覚は曖昧だが、外の明るさを見る限り気を失っていた時間は短くはないだろう。

 全身に施された治療の跡と、見慣れない上等な寝具を確認して、自分が永遠亭に助けられたのだと理解した。

 素直に感謝は出来ない。しかし、恩義を感じないほど憎み抜いている相手ではない。

 輝夜との勝負を経て、妹紅の心境は少なからず変化していたのだった。

 意識の覚醒と同時に、徐々にハッキリと感じるようになった全身の疲労と痛み。それを理由にして、妹紅は横になったまま動かなかった。

 実際は、考えていた。

 つい先程まで眠りの中にあって見ていた夢である。

 内容をはっきりとは覚えていない。

 ただ、それを思い出そうとすると胸を締め付けられるような感覚が湧いてきた。

 その感覚は『悲しみ』とも『切なさ』とも表現出来るような気がする。つまり、どちらとも判別出来ない、複雑な感覚だった。

 とても寂しい夢を見ていたようだ。

 早く夢から覚めたいような、逆に覚めずにずっと夢であって欲しいような、そんな内容だった。

 それ以上具体的な内容を思い出すことは出来ないだろうし、思い出しても意味は無いだろうと分かっている。

 それでも、妹紅は夢について没頭した。

 

「おはよう」

 

 鈴の鳴るような美しい声が聞こえ、妹紅は今更ながら枕元に座る人物に気が付いた。

 輝夜だった。

 全身に刻まれた疲労と痛みのせいで、彼女の存在に驚くことも億劫に感じていた妹紅とは違い、こちらは無傷である。服や髪すら整えられていた。

 つい昨夜の出来事でありながら、妹紅と繰り広げた文字通りの死闘の名残りどころか余韻すら感じない。

 あの勝負は自分にとって大きな意味を持つものだったが、目の前の優雅な姫君にとっては違ったのかもしれない。

 そして、これが彼女の永遠の生き方なのだろう。

 妹紅は納得し、小さなため息を吐いた。

 

「……おはよう」

「あら、案外素直ね。私を見て、食って掛かるものかと思ったけれど」

「あんたにぶつけたいものは、あの時に全部出し切ったよ」

「そう、よかったわね」

「ああ、よかったよ」

「嫌味よ」

「分かってる。いい気味だ、負け犬」

 

 ふふん、と笑う妹紅の顔を冷たく見下ろし、輝夜は布団の上に手を乗せて体重を掛けた。

 

「痛だだだだっ!?」

 

 押さえられたのは輝夜に折られた方の腕である。

 妹紅はたまらず悲鳴を上げた。

 

「痛いよ、馬鹿!」

「腕の骨がくっついたか調べたのよ」

 

 それは嘘ではなかったが、その行為に悪意があったことは白々しく隠して言った。

 

「いくら蓬莱人の傷の治りが早いからといって、貴女は満身創痍の状態だったのよ。

 治療した永琳も言っていたけど、完治するまでに時間が掛かるわ。本当なら一月は布団の中。しばらくは痛みや体の不調が続くらしいわよ」

「生きていられるだけ儲けもんだよ」

「それは定命の者が言う言葉よ」

 

 輝夜は咎めるように言った。

 

「一度蘇生すれば、そんな面倒も残らないでしょうに」

 

 輝夜の言葉は、理屈や効率といったもので形作られていた。

 妹紅ほどではないが、あの決闘の最後に少なからず傷を負った輝夜が今は無傷の状態でいるという二人の違いは、そこから生まれている。

 敗者でありながら輝夜は普段の優雅な姿を取り戻し、勝者でありながら妹紅は傷だらけのまま敵の情けを受けて横たわっているのだ。

 しかし、妹紅は小さく首を振った。

 

「……いいんだ。面倒なんて感じちゃいない。この痛みも、傷も、このままでいい」

 

 かつては呪った自分の体に、今は愛おしさを感じているような笑みを浮かべていた。

 輝夜はその笑顔から眼を背けるように、ため息で誤魔化しながら眼を伏せた。

 

「そう。私には、理解出来ないわ」

「そうかい。まあ、別にいいよ。私の生き方だ」

「千年後も、同じように答えられると思う?」

「分からない」

「分かるわ。千年は、人も妖怪も消えてしまうだけの時間だもの」

「そうかもしれない」

「その時になって、心底思い知ったあんたが、私に大口叩いたことを撤回して泣きついてきても、私は許してやらない」

「そうね。じゃあ、その時になるまで、待ってて」

「……いいわ」

「うん……」

 

 そこで会話が途切れた。

 不自然なことではない。元々、親しく話すような間柄ではないのだ。

 しかし、互いに憎み合っているような険悪な仲でもない。

 妹紅にとって、輝夜は複雑な感情を抱く相手であった。

 千年以上前ならば、単なる憎しみの対象だったかもしれない。自分が蓬莱人となる様々な切欠となった人物でもある。理不尽な逆恨みもあった。

 ただ、長い時間の流れが妹紅の心を変え、昨夜の決闘が大きな転機となった。

 理不尽な逆恨みといったが、そう自覚出来るようになったのも心境の変化ゆえにである。

 蓬莱の薬を飲んだ――それが誰のせいでもない、自らの選択だったのだと受け入れるようになったのだ。

 そして、では。

 

 ――輝夜は、自分のことをどう思っているのだろうか?

 

 妹紅は、今更になってそのことが気になりだしていた。

 思えば、輝夜は常に受身の対応をしていた。

 ぶつけられる憎しみや敵意、その結果の殺し合いを、ただ笑いながら受け止めていたのである。

 向けられる嘲笑は、これまで妹紅の怒りを煽るだけだったが、今はその真意が酷く気になっていた。

 輝夜に問い掛けたい。

 自分を嫌っているのか? 面倒に思っているのか? あるいは憐れんでいるのか?

 気になりながらも、実際に問い掛けることが、妹紅には出来なかった。

 

「……永遠亭には、先代巫女達が残っているわ」

 

 唐突にそれを告げ、輝夜は立ち上がった。

 

「いつの間にか所帯が増えているし、正直邪魔なのよね。動けるようになったら、さっさとあれ連れて出ていきなさいよ」

 

 文字通りそう言い捨てて、輝夜は足早に部屋から出ていった。

 残された妹紅は、しばらく閉ざされた襖を眺めていたが、やがて視線を天井に向けて、そっと眼を閉じた。

 少し前まで、眼を覚ました時に迎える朝が不安だった。

 しかし、今は眠ることを怖いとは思わない。

 やがて意識が闇に飲まれ、眠りの先で夢が迎えていた。

 その夢が先程見たものの続きなのかどうかは、まだ分からない。

 

 

 

 

 部屋を出た輝夜は、廊下の途中で永琳に会った。

 妹紅の治療を終えた後、今回起こした異変について幻想郷の管理者である妖怪と話し合いをしていたはずである。

 輝夜はその内容に関しては、永琳に全て丸投げしていた。

 もちろん、この聡明な従者がこの一件を適切に処理してくれるという信頼がある。そして、同時に面倒なことは全て任せてしまおうという気持ちもあった。

 

「そっちの話し合いは無事終わったみたいね」

「ええ」

 

 長年連れ添った以心伝心により、輝夜は何の問題も起こらなかったことを確認した。

 話し合いの詳細を知ろうとは思わない。

 永琳の判断に全幅の信頼を寄せているからだ。

 興味もなかった。

 

「そちらは?」

「妹紅が眼を覚ましたわ」

「そう」

 

 相槌を打ち、永琳は黙って先を促した。

 以心伝心というのならば、永琳は輝夜以上に相手の気持ちを察することが出来る。

 例えそれが意味の無いものであっても、永琳はいつでも輝夜の言葉に耳を傾けてくれた。

 そして、輝夜もまた自らの胸の内を曝け出すのは永琳が相手の時だけであった。

 

「……ねえ、永琳」

「何かしら?」

「私が地上に降りてから世話になったお爺様とお婆様がいたでしょう」

「ええ、いたわね」

「名前が、思い出せないのよ。ねえ、何だっけ……名前」

「讃岐造(さぬきのみやつこ)ではなかったかしら」

「そうよね。お爺様の名前は、それよね。じゃあ、お婆様は?」

「……さあ、分からないわ」

「だって、記録に残っていないものね」

 

 輝夜は自嘲の笑みを浮かべて呟いた。

 麗しい姫の相貌には、酷く似合わない卑屈な表情だった。

 

「覚えてないのよ、私。育ててもらった二人の名前を、忘れてるの。

 お爺様の名前だって、竹取物語っていう書物の中にあったから『思い出した』のよ。そこに無いお婆様の名前なんて、もう一文字も覚えてないってわけ。なのに、感謝の気持ちだけは抱いてるの。

 ねえ、これって酷く滑稽じゃない? 千年以上も前の恩人への気持ちを失くしてないって言えば聞こえはいいけど、肝心の相手の名前すら覚えてないのよ。馬鹿じゃないの?」

「……それは地上の穢れのせいよ。生命だけではなく、記憶もまた時間と共に塗り潰され、失われていくから」

 

 穢れが生き物に寿命を与え、生命を短くした。生死の入れ替わりが激しい世界の影響が、記憶すらも磨耗させていく――それが穢れの無い世界に住んでいた月人の考えだ。

 永琳は冷静にその答えを示したが、当の輝夜はそれを取り合わなかった。

 

「なんだっけ……? 名前、思い出せないの。顔も、もうはっきりと思い出せない。おかしいな……ちょっと前まで普通に思い出せてたはずなのに……でも、ちょっと前っていつだっけ? 本当に、ちゃんと二人の顔を思い浮かべることが出来てたのかな……」

 

 輝夜は美しい髪が根元から千切れそうなほど強く、ガリガリと頭を掻いた。

 無意識な苛立ちを表しているその行動を、永琳がそっと諌める。

 

「姫。心安らかに」

「考えられないでしょ? 大切なことなのに……」

「輝夜」

「思い出せないのよっ!」

 

 錯乱しそうになる輝夜を、永琳は強く抱き締めた。

 自分自身に向けていた苛立ちを代わりにぶつけるように、輝夜は永琳に力の限りしがみ付いた。

 

「……ろくでもないことだけ思い出したわ。

 私は、もう懲りたのよ。大切な人のことを、永遠に覚えてなんていられないって悟った時、懲りたの……」

「ええ、知っているわ」

「ごめんなさい、永琳……」

「謝る必要なんて無いわ」

「私、妹紅のことが羨ましいって、思って……っ」

 

 あとはもう言葉にならなかった。

 腕の中で静かに泣き始めた輝夜の嗚咽を、他の誰にも聞かせないように、永琳は抱く力を強めた。

 

「知っている。だから、謝る必要なんて、無いのよ」

 

 何処までも優しく囁き、そしていつまでも輝夜を抱き締め続けていた。

 彼女が望むだけ――例え永遠にでも、そうしているつもりだった。

 

 

 

 

「お師匠の足が治るの!?」

 

 全員の視線を集め、満を持して語った紫の話に、チルノが一番純粋な反応を返した。

 他の面子も、各々驚きの反応を見せている。

 その中には、先代本人すら含まれていた。

 衝撃を受けていないのは、発言した紫、先代と親交のない永琳と鈴仙、そしてアリスだけである。

 

「……そりゃあ、めでたいけど。どうやって?」

 

 チルノの傍らに立ったてゐが探るように尋ねた。

 その反応を、永琳は表に出さずに意外に感じていた。

 一見して何気ない問い掛けだが、その真意は疑うことを知らず単純に喜ぶチルノを案じてのことである。

 ぬか喜びにならないよう、気を遣っているのだ。

 

「こちらの八意永琳が治療してくれることになりましたわ」

 

 別段断るつもりもなかったが、既に決定事項のように答える紫を永琳は軽く睨み付けた。

 二人の間でどんな取り引きがあったのか知らない者達を代表して、霊夢が口を開く。

 

「そいつって、今回の異変の首謀者じゃなかったの?」

「既に和解したわ。詳細が聞きたければ、後日話してあげる」

「いいわ、面倒臭い。それよりも、信用出来るのかってことよ」

「治療に関しては、師匠が一回断ったって聞いてるしね」

 

 霊夢の疑問から繋ぐように、てゐが以前永遠亭へ案内した時のことを話した。

 当時のことをようやく思い出したチルノが、喜色一面だった表情を曇らせる。

 

「彼女の話では、あの時治療が不可能だと判断したのは、技術的な問題ではなく、治療を行う環境や設備が不足していたからだそうですわ」

「どういう意味だ?」

 

 医療に関しては門外漢の慧音が曖昧に尋ねた。

 

「手術の為に必要な設備、場所、薬品――これらが幻想郷には存在しない。正確には、技術に見合うレベルの物が無い、という話ですわ」

「つまり、それらが在れば先代の足は治せるということね。アテはあるの?」

「それは、貴女方次第ですわ。パチュリー・ノーレッジ」

「……なるほど。わざわざ私達の前でその話を切り出したワケはそういうことね」

 

 パチュリーを含め、察しのいい者は紫の言わんとしていることを理解し始めていた。

 と、いうよりも、分かっていないのはチルノと先代本人だけであった。

 もっとも、先代の方は表情が変わらないので、誰もが察しているものと当たり前のように流しているのだが。

 

「つまり、うちのお師匠様があんたのお師匠様を治してあげるから、その為に協力しろってこと」

「……よくわかんないけどわかった! あたい、協力する! お師匠の足が治るなら、なんでもするよっ!!」

 

 てゐにフォローされたチルノの力強い声が、永遠亭に一際大きく響いた。

 誰もが、その妖精の真っ直ぐな言葉に視線を向ける。

 思慮の浅い発言だと蔑む者は一人もいなかった。

 むしろ、永琳に対して大なり小なり何らかの疑念や警戒を抱いていた者達は、チルノの言葉に心を動かされていた。

 最初に、霊夢が鼻から抜けるような笑みを洩らした。

 

「――手術の為の場所が必要って言ってたけど、あたしの結界が何か役に立つ?」

「無菌室と同じようなものが作れるのならね」

「なにそれ? まあ、よく分かんないけどやれるんじゃない。無理なら、やれるようになればいいし」

 

 霊夢が普段通りのマイペースな返答をすると、他の者が次々と続いた。

 

「手術の過程を説明してもらえれば、ある程度は要望に応えられると思うわ。魔法は万物に通じる技術。こっちには知識の宝庫もあるしね」

「パチュリー様、よろしいのですか?」

「咲夜は協力に反対かしら?」

「いいえ。先代様には借りがございます」

「私も同意見よ。きっと、レミィも反対しないでしょうしね」

「ならば、私も言うことはございません。上手くいけば、きっと妹様も喜ばれるでしょう」

「美鈴もね」

「私は、どちらかというと紫の頼みとして聞き入れましょうかね~」

「ありがとう、幽々子」

「いいのよ。私も五体満足になった先代に興味があるわ。妖夢も構わないわね?」

「主である幽々子様の意向に従うだけです」

「貴女の意見も言っていいのよ? 協力の形としては、貴女が先代の庭師から譲り受けた刀剣の類を提供することになるだろうから」

「あれらが、何か役に立ちますか?」

「確か『持ち手の斬りたい物だけが斬れる短刀』とかがあったわよね。ああいうのは、使えるわ」

「はあ、あんな物が役に立つのなら。……ただ、一つだけ尋ねてもよろしいですか?」

「何かしら?」

「あの偽りの月を落としたのは、先代巫女様なんですよね?」

「ええ。それがどうかしたかしら?」

「……いえ。ただ、知っておきたかっただけです」

「ふむ――」

「ね、ねえ! あたいは何か手伝えることない!?」

「あら、氷精さん。うーん、そうねぇ……そういえば、貴女は風見幽香と親しかったわね」

「うん! 幽香はあたいの友達だよ、いじわるだけど」

「ふふふっ、ならばその友達に助けてくれるよう頼んでもらえないかしら? まあ、彼女のことだから何だかんだ文句を言って力を貸してくれるでしょうけど」

「わかった! 幽香に話してみる!」

「お願いね。きっと、私が頼むよりもずっと素直に応えてくれるわ」

 

 あっという間に話が纏まりつつあった。

 その様を眺めていた永琳は、僅かに眼を見開いている。

 素直に驚いていた。

 永琳自身の策謀とはいえ、一時期は解決すべき異変を前にして、互いの主張や立場の違いから争いを始めた者達である。

 人間と妖怪という種族の違いはもちろん、様々なこだわりや考え方の相違があり、しかもそれを譲らない頑なさは皆一様に強い。

 しかし、今はたった一人の人間の為に全員の意思が一つに纏まろうとしている。

 永琳は、思わず先代を見つめた。

 人妖が話し合う輪の中心に、彼女は立っている。

 初めて会った時から、どうにも量りきれない何かを持っていると感じていたが、こうして見ると、また更に分からなくなる。

 百年も生きていない人の身でありながら、そこに積み重ねられたものが酷く濃密で重厚なのだと永琳は実感した。

 

「……あの妹紅が懐くわけね」

「師匠?」

「なんでもないわ。これから忙しくなりそうよ、うどんげ」

 

 他人事のように、永琳はぼやいた。

 一方、永琳と鈴仙以外にも話の輪から外れた二人がいた。

 魔理沙とアリスである。

 アリスからすれば、先代巫女とは交流どころか面識すらない相手である。

 積極的に関わる義理は無く、水を差す必要性も感じない。

 加えて、未だにパチュリーの真意を察しきれず、余計な摩擦を起こさぬよう一歩退いていた方が良いとも思っている。

 ただ冷静に事の成り行きを眺めるだけであった。

 代わりに、騒ぎの中心を何処か切なげな瞳で見つめる、傍らの魔理沙へ尋ねた。

 

「……アナタは参加しないの?」

「わたしじゃ、きっと力になれないぜ」

「そうね。へっぽこ魔法使いだもの」

 

 今のところ、弾幕を含む直接的な効果の魔法しか使えない魔理沙を揶揄して言った。

 アリス自身が魔理沙に言い聞かせたように、彼女はまだまだ魔法使いとして最初の段階を踏んだ程度のレベルなのだ。

 しかし、普段とは違って、魔理沙はその言葉に食って掛かるような真似はしなかった。

 まるで聞いていないかのように、同じ場所を見つめているだけである。

 それだけで、魔理沙の様子がおかしいことは分かる。

 こんな時の気遣いとして、言葉を掛けるのかそっとしておくのか――アリスは後者であった。優しさよりも冷たさに近かったが。

 

「……『母親』だもんな」

 

 魔理沙の動かない視線の先にいるのは、霊夢だった。

 魔理沙の中に新しく生まれた力と自信を、既に持っていたものだけで無造作に薙ぎ倒して去っていった、昨夜の彼女の姿が脳裏に蘇る。

 歯牙にも掛けられなかった。

 霊夢にとって、自分との戦いの優先順位などその程度のものだったのだと、思い知った。

 誰が悪いわけでもない。

 強いて言うなら、弱い自分が悪い。

 あの時、霊夢にとって自分は敵ではなかったのだ。

 いや、あるいは何者でもなかったのかもしれない。

 何処からとも無く飛んできた石を、軽く避けた程度なのだ。

 石が飛んできた理由などどうでもいい。落ちた石が何処に転がっていったかなど気にはしない。

 そんな霊夢が、視線の先では周りの者達と積極的に言葉を交わしている。

 それが、先代巫女の――母親の為になることだからだ。

 

「お前の心をそこまで動かせる相手なんて、その人くらいしかいないんだよな」

 

 チルノとの弾幕ごっこで、少なからず発散できたはずの複雑な気持ちが、また湧き上がってくる。

 自分が今、『悔しい』と感じているのだと分かった。

 

「わたしは、まだお前にとって『他人』か……」

 

 魔理沙は、知らぬうちに唇を噛み締めていた。

 

 

 

 

 ――『棚から牡丹餅』ってことわざは、こういう状況のことを言うんだろうか?

 

 なんか、私の足治るっぽいよ。

 やったね、先代ちゃん! 出来る修行が増えるよ!

 いや、突然のことで混乱気味なのは分かるが、足が治ると知って次に考えることがそれってどうなの私?

 改めて、自分の思考パターンの少なさに呆れた。

 足に不自由を抱えてから実は結構な時間が経っているが、そんな中でも結局私の根っこの部分は何も変わっていなかったらしい。

 

「準備が出来次第、手術を行うわ。それまで、貴女には入院という形で永遠亭に居てもらうわね」

 

 あれよあれよという間に話が進み、全てが纏まる頃には私は永遠亭の一角らしい部屋を宛がわれていた。

 入院ということは、ここは私の病室にあたるのだろうが、完全に和室なので違和感ありまくりである。

 いや、人里の診療所もこんな感じだけどね。

 香霖堂などからベッドを購入して、現代風の内装にした私の診療所の方が、この幻想郷では珍しいのだ。

 しかし、まさかとは思うが、手術する場所までこんな和室とかじゃないだろうな?

 違和感以前に、衛生面で不安になってしまうんだが……。

 

「入院と言うが、どれくらいかかるんだ?」

「おそらく手術は数日後ね。協力者を今一度集めて、私が手術に必要とする物や、それを各々がどういった形で提供出来るのか、など話し合うわ。そこで手間取らなければ、その分早く終わるわよ」

 

 慧音や霊夢達は、既に永遠亭から出て、それぞれが帰るべき場所へ帰っている。

 っていうか、もう夜だしね。

 後日、また来ることになるようだ。

 私だけが、移動の負担を考えて最初からこの永遠亭に残る形になったのである。

 

「もちろん、その間に退屈はさせないから安心して頂戴。治療をするのなら、万全を期すためにみっちりと検査をさせてもらうわ」

 

 永琳はニヤリ、といった音が聞こえそうな笑みを浮かべて言った。

 やだ……なんか寒気がしたんですけど。

 具体的には貞操の危機っぽいものを感じたぞ。

 女に生まれて以来、初めて感じる類のものだわ。

 二次創作のマッドサイエンティストな永琳のイメージからも来ているのかもしれない。永琳は媚薬とか○○○の生える薬とか作ってるイメージ。

 ……って、こんなこと考えてるなんて、万が一にでも永琳に知られたらぶっ殺されるな。

 

「お手柔らかに頼む」

 

 私は内心の動揺を悟られぬよう、何食わぬ顔で言った。

 永琳も先程の意味ありげな笑顔は、ただ単に悪戯っ気を出しただけのものらしい。

 力を抜くようなため息を吐いて、今度は逆に困ったような表情を浮かべていた。

 

「……結局、貴女が最初に言ったとおりになったわね」

「何がだ?」

「私が医者だ、と。貴女は言ったわ。そう考えて、ここへやって来た。

 そして、今まさにそうなりつつある。貴女という患者を持ち、その治療を行うことになったわ。妙な話ね」

「迷惑だったか?」

 

 考えてみれば、永琳は異変を起こした代償として私を治療するのである。

 本人とっては不本意なものかと思い、私は気まずくなった。

 うむ……冷静に考えてみれば、紫もなんで貴重な永琳への借りを私なんかの為に使うのかね。

 いや、もちろん凄い嬉しいし、ありがたいことなんだけど。

 

「さて、ね。いずれにせよ、不思議なものよ。

 今回に限らず、永遠亭は医療機関としてこの幻想郷に貢献することで居住権を得ることになったわ。まあ、そこまで堅苦しくはないけれど、医療を足がかりにして外と繋がりを得る――」

 

 つまり、原作通りの展開になったということだろう。

 これからは、人里とも交流が始まるのだ。

 これは実用的な面でも非常に嬉しい。医療ってのは、人が生きる上で重要な要素だからね。

 最初にここを訪れた時はどうなるものかと思ったが、納まる所に納まったということかな。

 

「貴女の中では、納まる所に納まった、当然の結果なのかもしれないわね」

 

 私は思わず思考を停止させていた。

 永琳の方へ伺うように視線を向けてみれば、永琳も私の方を探るように見ている。

 探るというより、射抜くような視線だった。

 最初に会った時に向けられた、あの眼である。

 ……もうね、アレじゃね。実は永琳の本当の能力って心を読む程度なんじゃね?

 

「貴女には未来を見通す能力でもあるのかしら?」

 

 それはむしろ貴女です、と私は内心で呟いた。

 

「偶然だ」

「本当に? 在るべき場所に在るべき物が、貴女には分かるんじゃないかしら?」

「……」

「あるいは、正しい結果を導き出す能力とか?」

 

 ――何、その全知全能程度の能力。

 あまりにぶっ飛んだ話に、私は言葉を失っていた。

 やっぱり、天才の思考というものは凡人の私には分からない。

 何故、永琳はそこまで私を過大評価するのだろうか?

 そんな評価は、そっくりそのまま永琳にお渡ししたい。

 私なんか、現在進行形で永琳の言動に玩ばれてる真っ最中なんだから。

 

「何故、そう思う?」

 

 アホな私は、結局そんな身も蓋もない愚直な質問を返した。

 

「……ごめんなさい」

 

 そして、何故か謝る永琳。

 分からん。

 天才の話は言葉が足りなさ過ぎて、分からんって……。

 

「半分は期待だったわ」

 

 眼を伏せたまま、永琳はため息を吐くように話し始めた。

 

「貴女には底の見えない部分がある。

 私が期待したというのは、そういった部分よ。知るはずの無いことを知っている貴女が、私の疑問に答えてくれるかもしれない、という期待」

「……貴女にも分からないことがあるのか?」

「ええ、あるわ」

 

 意外だった。

 しかし、確かに今の永琳の顔には苦悩の色が浮かんでいる。

 先程のやりとりでもそうだが、何でも知っているというのはむしろ永琳の方なんじゃないかと思っていた。

 そんな彼女でも、誰かに教えて欲しいと思うことがあるのだ。

 原作の設定では、嘘か真か億の単位で生き続けている賢者である。

 知識も経験も私に比べれば桁違いであろう彼女が、一体何を悩んでいるというのか――?

 

「月とは違い、この地上は穢れに満ちている」

 

 永琳が言っているのは、月人から見た地上の認識だった。

 

「私が地上を穢れていると思うのは、何もかもが不完全だからよ。

 長い歴史の中で、大昔は完全だった地上の全てが、今や不完全なものばかりになってしまった。生物の寿命も、人の観念も、社会も、月と比べて全てが不完全。

 一貫した正しさは無く、物事は時間と共に容易く形を変え、価値は変動し、かつて意味のあった物がいずれ無意味に成り果てる」

「……」

「完璧なものなど何処にも存在しない」

 

 永琳が疲れきった声でそう言った。

 

「そんな不完全な物事の中から不完全な選択をしたところで、満足のいく答えが得られるはずもないわ。常に後悔が付き纏う」

「……後悔をしているのか?」

「私は地上で生きてきた長い年月の中で、無数の問題に直面し、その都度最適の答えを選んできた。それらの決断全てが正しかったのだという自信がある。でも……」

 

 ――答えを出した後、いつだって後悔してきた。

 

 私には、永琳が噤んだ言葉の続きが分かった。

 これまでの話の中で、永琳の苦悩が漠然とだが見えてきている。

 しかし、具体的な形は未だに分からない。

 彼女は後悔していると言った。

 それは、何に対する後悔なのだろうか?

 私には分からないし、分かったところできっと彼女の期待には応えられないだろう。

 先程も言ったとおり、私は何もかも知っているわけではないし、何もかも正しい事柄を選べるわけではない。

 仮に全てそうだとしても、私の告げる言葉は永琳にとって意味の無いものだろう。

 それは永琳自身も、もうとっくに理解しているはずのことだ。

 それでも、言わずにはいられない――。

 私は胸を締め付けられるような気持ちだった。

 永琳は縋るような瞳で、私を見つめた。

 初めて見る、月の賢者の弱った姿だった。

 

「私と輝夜も、貴女と妹紅のように――」

 

 言いかけて、永琳は途中で口を固く噤んだ。

 それ以上言うことを自分に禁じるような、断ち切るような沈黙だった。

 

「いえ……なんでもないわ」

「そうか」

 

 私のそんな何の捻りもない馬鹿のような相槌で、その話は終わってしまった。

 永琳がおそらく、気の遠くなるような年月の中で抱き続けてきた苦悩や葛藤を、解決することはもちろん助言も、最後まで聞き届けることさえ出来なかった。

 そして、もう二度と彼女は私に語ろうとはしないだろう。

 そんな気がした。

 あの夜、私は輝夜に間違っているのだと否定された。

 今も、心の何処かでそれは正しいのだと思ってしまっている自分がいる。

 あの時言い返したのは、相手の正しさを否定するのではなく、別の正しさを主張して、問題を曖昧にしただけのような気もする。

 そんな埒の明かないことを、心の片隅でずっと悩んでいた。

 しかし、永琳の話を聞いて、私には少しだけ新しいことが見えるようになっていた。

 多分、あの時輝夜は妹紅と同じくらい必死だったのだろう。

 自分の答えに絶対の自信なんてなかったのだろう。

 そして、永琳もきっと同じなのだ。

 生きているのなら、多分皆同じ所で悩むのだ。

 だから、つまり……永遠の命を持つ蓬莱人と言っても、妹紅だけが特別なんだというわけじゃなくて――。

 永琳も輝夜も、生きているんだな。

 その時間があまりに長すぎるから、悩みも大きくなっていくんだ。

 一人では、抱えきれないくらいに。

 

「貴女の足は、治してみせるわ」

「ああ、頼む」

 

 誤魔化すような永琳の言葉だったが、それでも私は信頼を持って頷いていた。

 

 

 

 

 幻想郷の夜が明けなくなった異変、通称『永夜異変』が無事解決されて幾日後――。

 

 人里には、異変の後で少しの変化が訪れていた。

 迷いの竹林の中に『永遠亭』という薬屋が開業したのである。

 薬は、置き薬と買い薬に別れ、いずれも定期的に人里へ、使いの妖怪兎が売りに来る。

 当初は、それらの効能に疑いを抱く者も多かったが、先代巫女のお墨付きがあることを知ると、やがて誰もが信頼を置くようになった。

 実際に、それらの薬は良く効くものと評判が高い。

 当の先代巫女が診療所を営んでいるが、物品である薬にはまた別の利点がある。

 互いの領分を侵すことなく、これらは人里で重宝されていった。

 そして、永遠亭は基本的に薬を提供しているが、直接訪れれば医者代わりとして診察もしてくれるという話も広まっていった。

 もちろん、永遠亭の存在する迷いの竹林が危険であることは周知のことである。

 しかし、それでも薬などでは治しきれない病を抱えた者が、永遠亭の助けを求めて訪れようとする。

 その理由の一つは、あの先代巫女の足を完治させたという実績によるものである。

 また、永遠亭の出現と共に、危険なだけだった迷いの竹林にも変化が起こっていた。

 竹林から永遠亭までの道のりを、案内する者が現れたのである。

 彼女の名前は、藤原妹紅と言った。

 ずっと昔から迷いの竹林に住んでいるという正体不明の履歴と、妖怪など軽く追い払ってしまえる実力を持つ彼女は、上白沢慧音の口利きで人里と繋がりを持つようになっていった。

 急病などで用事がある時、彼女に頼めば、確実かつ安全に永遠亭へと導いてくれる。

 彼女もまた、当初は人々から不審と警戒を抱かれていた。

 それを解消したのは、慧音や先代を始めとする者達の言葉と、何よりも彼女自身の人柄だった。

 病人を確実に永遠亭へ届ける実直な仕事ぶりと、そこに至るまでの道筋で同行者を気遣う優しさが、自然と信頼を勝ち取っていったのだ。

 永遠亭から帰ってきた者達は、病気が治ったこと以外にも、妹紅と接したことを明るく周りに語る。

 道案内の途中、お昼時などに休憩を挟むと、彼女はおにぎりの包みを取り出して、それを同行者に振舞うのだ。

 遠慮をすると、彼女はにっこりと笑って、こう言う。

 

『食え。ご飯はちゃんと食べないといけない……らしいぞ』

 

 藤原妹紅という少女の人柄の良さを表した話である。

 また、道案内の間、彼女は自分自身のことに関しては終始寡黙だが、相手の話はよく聞いてくれるという。特に、家庭の話などは喜んで聞き手に回ってくれるようだ。

 興が乗ると、彼女は身を守る為の護身術や、健康の為の軽い運動などを教えてくれるらしい。

 しかし、それらを何処で身に着けたかまでは教えてくれない。

 藤原妹紅には謎が多い。

 危険な迷いの竹林に住んでいたことに加え、その長い年月に不釣合いな若々しい容姿。永遠亭との関係や、個人の背景。

 答えたくないのであれば、無理に聞き出そうとも思わない――そうするだけの信用が、既に彼女にはある。

 それでも、思わず尋ねてしまった人に対して、彼女は決まってこう答えるのだという。

 

『そうね、私はただの健康マニアの焼き鳥屋さんよ』

 

 手のひらに不思議な力で小さな火を灯して答えるそれは、嘘か真か。

 悪戯っぽく笑う彼女の表情に毒気を抜かれて、誰もがそれ以上は踏み込まない。

 彼女が、何故最近になって人と関わるようになったのかは分からない。

 ただ、彼女は今日も人を案内している。

 きっと、明日も――。




<元ネタ解説>

「友情とは成長の遅い植物である~」

コミック「キン肉マン」最終話より。

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