いつものように練習が始まろうとする中で飛鳥は生徒会メンバーに声を掛けていた。
「またお願いしたい事があるんだが・・・」
「私達にお願い・・・ですか?」
「いやぁ~こんなに積極的になってくれるのは助かるねぇ~」
「そうか、丁度良いな。私達も貴様と西住を呼んで全国大会に向けての会議をするつもりだ」
「それは好都合」
みほが駆け足でやって来ると生徒会メンバーと飛鳥とみほは生徒会室に向かった。
残されたメンバーには柚子から練習メニューと言って渡されたプリントに目を通していた。
「2対2の模擬戦か・・・」
「5チームあるから代わりばんこって言うのが理想的だよね~」
「腕が鳴るではないかっ!」
「砲撃とか移動の練習しかしてなかったからこう言う実戦形式は楽しめそう♪」
「我々のチームワークの見せ所だっ!」
「わたしたちも少しは強くなったんだからっ!」
各チーム初めての練習メニューにテンションが高まっている様子。
だが、ふとAチームとFチームはある事態に気付いたのであった。
「「車長がいない!?!?」」
そう、飛鳥とみほは生徒会室へと行ってしまった為に一番重要となる司令塔が欠けてしまっているのであった。
「フフッ・・・聖グロと雌雄を決した我々なら覇王が降臨せんとも容易く敵を薙ぎ払ってくれようぞ!!」
「・・・・・車長はどうする」
「それならツバサちゃんでいいっしょ?」
「・・・へっ?むりむりむりむりむりですぅー!!!!」
ツバサと沙織の叫び声が思わぬタイミングではもって戦車倉庫内に響いた。
「そんなに嫌がらなくてもいいじゃんか」
「なんで私なんですかぁぁぁぁ・・・・・」
「玲那は車長を出来ないし、戦車動かすのは私以外出来ないし・・・・・」
「じゃあじゃあ!斬子ちゃんが車長やったら・・・・・」
「お主にこの砲弾を連続で入れられるような力はあるか?」
「あ・・・あぁ・・・ない・・・です」
言い包められたツバサはゆっくりと崩れ落ちてしまう。薫が心配そうに近寄るが彼女はバッと立ち上がると駆け足で誰よりも早くチャーフィーの元に飛び出して行った。それを見た3人はクスッと笑いをこぼしてしまっていた。
「つまり、新たに練習試合を組んで欲しい・・・と言うことですわね」
「簡単に言えばそうなります」
生徒会室では飛鳥がホワイトボードを使って現在の大洗、なにが必要なのか、詳しく分析した内容を解りやすく描き出されている。そんな彼女の行動にさすがの桃もなにも言わずに真剣な表情で聞いている。
「練習ばかりではいざ実戦と言った場合において臨機応変に対応するのは難しい」
「そうですわね・・・この前の聖グロ戦ではまともに戦えていたのはⅣ号とチャーフィーだけでしたものね」
「西住はどうだ?」
「私も飛鳥さんと同じ意見です。試合で必要となる瞬時の判断力や粘り強さは練習だけでは身につきません」
「やっぱり実戦の経験がモノを言うって訳だぁ~」
「試合をすれば、自分達の実力や自分達が次にやる課題が見えますから」
真剣な2人の意見を目の当たりにした生徒会メンバーもなにかを考えていたのかこそこそと話し合ったかと思えば、会長は新しく干し芋の入った袋を開けて口を開いた。
「練習試合やってみよっか?」
「あっ、助かります!」
「練習相手はこちらで探すからお前達は練習に励むこと!いいな?」
「桃ちゃんはまず砲撃の命中精度を上げなきゃ」
「うるさーい!!!!」
こちらは2対2の模擬戦が行われている広原。
現在3戦目・・・・・なのだが、
「ツバサちゃん!敵はどっち?」
「く、9時の方角に1輌・・・それで・・・2時の方角に・・・ふぎゃっ!?」
「・・・撃たれてるぞ」
「これでも逃げてるっての!!ってか、砲撃当たってないぞ!」
「もう・・・これ以上・・・装填は・・・無理だってばぁ・・・」
「くっ・・・当たらない」
「もうヤダアアアア!!」
と言う感じでFチームは聖グロ戦での功績が嘘だったように散々な状態になってしまっていた。Aチームはそれ以上に酷い結果だと言うのがすべての模擬戦を終えた上で解ってしまった。
模擬戦の結果が酷過ぎたAチームとFチームは円を描くように集まって反省会らしきモノを執り行っていた。
「西住殿がいないと我々ってこんな感じなんですね・・・」
「聖グロ戦の時は完璧に動けてたはずなんだけどな・・・」
「わたくしまったくアクティブになれませんでした・・・」
「あぁ・・・撃てても・・・気持ち良くない」
「フフフッ・・・あれだけ撃っておいて良く言うわ」
「なによっ!だからイヤだって言ったじゃないっ!」
「そうです!私達はちゃんと断わってますからねっ!」
「まさか、八九式にまでやられるとはな・・・・・」
「もうやだあああああっ!!」
「待って下さい!沙織せんぱ~い!!」
泣きながら走り回る沙織。それを追うツバサ。またその彼女達を追う優花里。
と言った感じの追いかけっこが繰り広げられていた。
「なにをやってるんだ・・・アイツら」
「あはは・・・この成績を見れば解るかも」
「Aチームは全敗。FチームはかろうじてAチームに勝利だって・・・」
「本当に大丈夫なんですの?」
「・・・たぶん・・・大丈夫だと思います」
放課後のせんしゃ倶楽部。
いつものようにアルバイトに勤しむ飛鳥ではあるのだが、今日は珍しいお客が居ることに驚いている。
その客と言うのが・・・生徒会の河嶋桃である。
「桃ちゃんがココに来るなんて驚いたわ」
「桃ちゃん言うな!あ、あれだ!偶然お前が働いているのが見えたから入ってみただけだ!」
「はいはい」
「・・・にしても、色々と揃っているようだな」
「そりゃあ品揃えは1番だと思うよ?アタシが入ってからちょっと独自のルートとかで新商品も入荷させてるしね」
「戦車に関しては頼りになるな貴様は・・・んっ?」
店内を物珍しそうにキョロキョロとしていた桃だが、ある一角にある大きなモノに食い付いた。
「日野本!あれはなんだ?」
「んっ?あぁ~あれは戦車のゲーム。敵戦車を砲撃して撃破しながら進んで行くヤツだよ」
「ほぅ・・・面白そうだな。私もチャレンジしてみても構わないか?」
「どうぞ~」
そう言ってから桃がゲームを開始したのを横目に飛鳥はせっせと商品の補充やら在庫管理の為にパソコン画面を眺めていた。
だが、不意に桃の怒ったように叫ぶ声が聞こえたかと思えば、溜息混じりに頭をくしゃくしゃと掻きながら桃の元に向かった。
「桃ちゃんどったの?」
「リアルならまだ解るが、ゲームでもうまく砲撃が当たらないんだ!!」
「う~ん・・・アタシ見てるから撃ってみ」
「・・・・・うむ」
涙目だった桃はゲームに向き直ってまたゲームを再開するが、飛鳥は桃の砲撃するタイミングを見てぽかんとした表情で何も言わずに見届けていた。
「・・・桃ちゃん」
「な、なんだ?」
「それじゃあ当たらん」
「なにっ!?」
鬼のような形相で振り返る桃には目も向けずに横に立つとゲーム操作を片手で動かしながら桃の方に視線を向けた。
「桃ちゃん・・・照準器の真ん中に敵が見えた瞬間に砲撃してるよね?」
「そ、そうだ!こう言うのは先手必勝だと言うだろう!!」
「まぁ、間違ってはないけど、砲撃した際には反動が大きく出るからそれも計算に入れなきゃいけない」
「・・・・・うぅ」
「それに風、地形によっては・・・」
「日野本・・・」
「な、なんですか・・・?」
ゲーム画面で砲撃をしながら軽く説明していた飛鳥だったが、不意に両肩を掴まれるとちょっと言い過ぎてしまったかと思い目をギュッと瞑った。
「私に砲撃を教えてくれ!」
「アタシに・・・ですか?」
「私達はなんとしても強くならなければならないんだ!!」
「・・・・・やりましょうか」
「本当か!?」
「このままノーコンを貫くのイヤでしょうに」
「余計な事を口にするな!ほら、どうすればいいんだ!!」
「じゃあ・・・まずはココを・・・」
ひょんなきっかけで桃ちゃんの砲撃修行がこのせんしゃ倶楽部で始まったのであった。これは極秘のことらしく誰にも内緒でのことである。当然、会長にも秘密らしい。1時間程度ではあるが実戦はせずゲーム世界を舞台での修行になっている。
「一撃必殺!!」
2対2の模擬戦の最中。Fチームは前々から話していた3パターンの編成をローテーションしている所である。
現在は砲手が飛鳥、通信手が玲那、車長がツバサである。
「さすが覇王・・・1発か2発で確実に屠るとは見事なり」
「しかも、いっつもクールを装ってる飛鳥さんがこんなに叫ぶなんて驚いたなぁ~・・・ふぎゃっ!?」
「お前は黙ってろ」
「先輩!あ、あの・・・指示は遅くなかったでしょうか?」
「初心者にしては良い方だと思うよ。慌ててもちゃんと敵の位置の報告も出来てるし、上出来だよ」
「あ、ありがとうございます!!」
「1発目・・・あれは調整?」
「さすが玲那、良く気付いたね」
「その手も・・・ありか」
「まぁ、1撃で仕留められたらそっちの方が上出来ではあるな」
集中していた飛鳥は息抜きをしようとキューポラから外に出ると横には先程までチームを組んでいたⅣ号戦車が停車している。すると操縦席のハッチが開いたかと思えば、麻子がひょっこりと顔を出して来た。
「見事な行進間射撃だったな」
「そりゃどうも」
「コツでもあるのか?」
「場数を踏めば簡単なもんさ」
「中学時代の経験か」
「そうなるね・・・けど、昔のアタシは・・・・・」
「なにか・・・あったのか?」
「なんでもない。次の試合に行くぞ」
誤魔化すように戦車の中に逃げ出した飛鳥を見送る麻子。気に掛かる麻子もゆっくりとハッチを閉めると両戦車はゆっくりと動き出した。
「終わったぁぁぁぁぁ!!」
「もう終わりか・・・他愛もない」
「・・・・・足が震えてる」
「こ、これは・・・灼眼を連続使用した際に起きる症状だ気にするな!」
「でも、斬子ちゃん!連続で試合しても装填速度落ちないよね」
「それは魔力を筋力に変換しているから我に余裕が出来たまでよ」
「魔法やべぇ~・・・」
練習後談笑するFチームの場に飛鳥はおらず、変わりに飛鳥の周りに人集りが出来ていた。
「先輩!照準を合わせるのにはどうしたらいいんですか?」
「先読み」
「どうしてもカーブが曲がりにくいんですけど・・・」
「後で軽くお手本見せるよ」
「先輩!装填スピードを上げるにはどうしたらいいですか?」
「砲手と息を合わせること」
普段だと雰囲気もプラスして近付きにくいオーラの飛鳥なのだが、聖グロ戦以来頼られる存在となってしまいいつも引っ張りダコ状態である。
「次の対戦校が決まったぞ!!」
戦車倉庫内に響き渡るその声に全員の視線が声をあげた桃に向けられた。
「相手は・・・マジノ女学院だ!!」