そして、試合当日。
大洗女子学園戦車道チームは大洗の地に辿り着いた。
横には自分達の学園艦の何倍もある聖グロリアーナの学園艦も停泊していた。
「でけぇぇぇ!?」
「さすが、名門のお嬢様学校と呼ばれるだけのことはありますね」
「そんな学校と試合するなんて本当に勝ち目があるのかね」
「・・・・・わからん」
「かなりの強豪校だって優花里ちゃんは言ってたんだけど・・・」
「はい!でも、諦めなきゃ勝機は必ず来るって私は思っています!!」
「ツバサみたいにその気持ちがあれば勝てるよ」
「ふ~ん・・・飛鳥もいつもそんな感じなのか?」
「あぁ・・・その気持ちがあるかないかで戦況は大きく変わる事もある」
戦車を操縦しているのは飛鳥に対してキューポラから見える巨大な学園艦を見上げている薫が呟いていた。ツバサはせっせと弾薬などの点検をしており、玲那は慣れない咽喉マイクの調整などを行っていた。
だが、残りの1名は気持ち良さそうに壁にもたれたまま夢の中にいる。
「そろそろそこで寝ている煉獄の魔女をそろそろ起こしといてくれ」
「あはは・・・昨日は緊張して寝れないって斬子さん言ってましたよ」
「眼帯も包帯もしてなかったら普通の女の子だよねぇ~」
「寝込みを襲うような事はするなよ」
「そんな人間の屑がするような事をする訳ないだろう!やるならちゃんと許可を得てからやる!!」
「・・・・・気持ち悪い」
「酷っ!?!?」
などと騒いでいると目を眠たそうに擦りながら斬子が目を覚ました。
「おぉ、目を覚ましたぞ!!」
「ここは・・・?」
「チャーフィーの中だよ~ん♪斬子ちゃんが起きなかったから私が担いで集合場所まで走ったんだから」
「それはありがとうございます・・・・・あっ、な、ない!?」
「もしかして・・・これだよね?」
ツバサが眼帯、包帯、極めつけには真っ赤なカラーコンタクトを手渡すと斬子は慌てたように準備に取り掛かった。
「・・・・・変身」
「昔のアニメにこう言うやつあったような・・・」
「フフフッ・・・煉獄の魔女カリエンテ!ここに降臨!!」
「斬子ちゃん!寝癖酷いことになってるよ」
「えっ!?ツバサちゃん!どこどこ?」
どや顔でいつものようにポーズを決めた斬子だったのだが、後ろ髪が跳ねているのに気付いたツバサが指摘をすると斬子は普通の口調になってしまい2人で修正を始めたのであった。
「ツバサの家に泊めたのは正解だったかな」
「じゃあ私も飛鳥の家に・・・「却下」まだなにも言ってないじゃん!!」
「お前と2人きりなんてシチュエーションを考えただけで寒気がする」
「それかなり酷くない!?」
「飛鳥と・・・・・同感」
「えええええ!?」
精神的大ダメージを受けた薫は涙目になりながらも黄昏るようにキューポラからずっと上体を出して景色を眺めつつ心地よい風を浴びていたのであった。
「桃ちゃん、全員揃ったよ」
「ええい!だから、桃ちゃん言うな!!」
「な、なんだか緊張してきました」
「練習通りにやれば大丈夫だよ」
「・・・・・来たぞ!!」
隊長機であろうチャーチルを先頭に率いて5両のマチルダⅡがこちらと対峙するように迫って来るのが確認出来た。目の前で停車すれば、車長達が横1列に並ぶように両校6名ずつ立ち会う形になった。
「うへぇ~・・・間近で見ると違うなぁ~」
「・・・・・読み通り」
「そうですね!飛鳥先輩の言っていた通りにこちらと同じ数の戦車をぶつけてきましたね」
「かぁ~真面目な学校ですこと」
「フンッ!我が軍を甘く見たことを後悔させねばならぬな」
「いや、私達が返り討ちに遭わないようにしないとなんだけどね」
外野は緊張とワクワクを胸に盛り上がっている様子だ。
「本日は急な申し出にも関わらず試合を受けて頂き感謝する!」
「いえ、構いませんことよ。それにしても・・・個性的な戦車ですわね」
「・・・・・なっ!?」
「良かったらダージリンのお好きなカラーに変えてあげましょうか?」
「結構ですわ・・・飛鳥さん」
「あっ・・・オススメの紅茶を前に聴きそびれてたから教えて欲しいんだけど・・・」
「それでしたら試合が終わりましたらお教えさせて頂きますわ」
飛鳥と向こうの隊長が親しげな雰囲気にみほ以外の大洗のメンバーは鳩が豆鉄砲を受けた表情になり、理由を知りたいとばかりに飛鳥の方に視線が集中すれば飛鳥は面倒臭そうに頭を掻いていた。
「ダージリンとは去年の大会で知り合ったんだ」
「貴様!そう言うことは早目に伝えておけと前に言っただろう!!」
「いや、それは初耳なんだけど・・・」
「うるさーい!!」
「飛鳥さんとは親しい間柄なんですの」
「そうそう、簡単に言うとマブダチってヤツだ」
「ですが、今回の試合では手を抜きませんわ」
「いいよ、逆に手を抜かれたら意味ないから本気でよろしく」
そう言ってお互いに握手を交わすと踵を返して自身の戦車へと返って行き、残されたメンバーも礼をした後に戦車に戻ると両陣営共に最初の位置へと移動を開始し始めた。
「飛鳥・・・何を話してた」
「宣戦布告」
「えええっ!?そ、そんなことして大丈夫なんですか!?」
「さすが我が認めた女だ。聖なる者に邪悪なる刃を突き立てたと言う所か」
「本気の相手じゃなきゃなにも学べないだろう」
「おぉ~恐いねぇ~うちの車長様は~・・・・・」
「笑顔になってるお前が言う事か」
「へへっ・・・バレちまいましたか~♪」
「相手が強ければ・・・強いほど・・・楽しめる」
「今回はサバイバルじゃないんです!みんなと力を合わせての初試合ですね!!」
「我らが一丸となれば、聖なる使い手共など烏合の衆と言う訳だ。」
「だが、油断してると負けるから気を引き締めること」
飛鳥の一言に対して全員の「オォーッ!!」の掛け声が戦車内に響き渡った。
全車両が配置に着いて後は開始の合図を待つばかりだ。
「みほ、ちょっと良い?」
《なんですか?》
「開幕はAチームに付いてく」
《どうかしたんですか?》
「軽く挨拶がしたいだけ」
《は、はぁ・・・》
急な提案にもみほは反対はしないが、飛鳥の意味ありげな発言に疑問符を頭の上に浮かべるが了承すれば今の作戦を全体に指示していた。
開始の合図と同時にAとFチームは偵察に他のチームは軽く進んだ場所で指示があるまで待機と言う形になっている。
「マチルダⅡ5輌、チャーチル1輌、前進中です!」
「さすがの統率力だな乱れもなく前進しているな」
「うん、あれほど隊列を崩さずに進めるなんてスゴい・・・」
「こちらの徹甲弾では正面装甲は抜けません」
「そこは戦術と腕・・・かな?」
「それじゃあちょっくら挨拶でもしに行きますか」
偵察をしていたAとFは他のチームに昨日考えたキルゾーンでの待機を指示。
AとFは相手を誘き寄せる為に砲撃出来る位置へと移動した。
「アタシが撃つよ」
「・・・・・任せる」
「おっ、飛鳥様のお手並み拝見ですな~」
「あまり茶化すな」
「へいへ~い」
「みほ、そっちで先に砲撃を頼む」
《はい、華さん!こちらが先に仕掛けます!!》
「それじゃあご挨拶しますか」
Ⅳ号戦車とチャーフィーは聖グロリアーナを離れた位置から気を引かせる為に砲撃準備に入っていた。
必死に照準を合わせる華に対して飛鳥はじっとしたまま動かずにいた。
次の瞬間Ⅳ号戦車の方から轟音と共に砲撃があったのがFチームも感じ取れた。だが、未だにこちらのチャーフィーから砲撃はない。飛鳥以外のメンバーはその異変に気付いたがそれはすぐに掻き消された。
今度はチャーフィーが発砲。引き金を引いた飛鳥は照準器を覗き込んだままにやっと口元が上がっていた。
華の砲撃が地面に着弾し、その隙を狙うように砲撃したのだが徹甲弾は弾かれてしまった。
「やっぱ抜けないか・・・」
《今は撃破が目的ではないので一旦引きます!》
「この距離じゃ仕方ない・・・アタシ達もⅣ号に続け」
「あいよ!」
Ⅳ号戦車とチャーフィーは1発だけ発砲すると深追いなどはせずに背中を向けて来た道を戻り始めた。
「やはり飛鳥さんは侮れませんわね」
「敵の砲弾は我々の車体を掠めただけの様子です」
「それでは・・・全車輌、目の前に見えるⅣ号とチャーフィーに攻撃開始」
チャーチルの車内で紅茶を嗜んでいたダージリンはカップから微量だが紅茶が溢れた事に眉を潜めていた。だが、スッと紅茶を一口飲むと追撃をするべく2輌の戦車の方へと転進するのであった。
すると逃げる2両に対して聖グロリアーナは全車輌で砲撃を開始した。
「こっちは・・・どうする?」
「反撃はしなくていい」
「このままジグザグ走行しとけばいいのか?」
「それでいいよ。向こうも狙いが定まらなくて無駄弾が増えるはず」
「飛鳥先輩!そんなに身を乗り出してたら危ないですよ!!」
「戦車に当たるより命中率は低い。でも、心配してくれてありがと」
「直撃したとしても邪悪なる覇道の力を持ってすれば、聖なる砲撃など受けた所でかすり傷1つ出来ないのだ!!」
「それなら今、この状況を魔法でどうにかしてくれないか?」
「今は魔力が切れているから期待に答えられぬな」
「煉獄の魔女の名が聞いて呆れるなぁ~」
「むっ!ならば、見せてやる!!我が灼眼の力・・・おおぉぉぉ!?」
張り切って飛鳥と変わるようにキューポラから身を乗り出した斬子が灼眼を出そうと眼帯に手を掛けた瞬間に相手の砲撃が近くに着弾するとその衝撃で斬子は体勢を崩してしまい車内で暴れ回っていた。
《Fチーム!大丈夫!?》
「あっ、沙織先輩!こちらは1名を除いて大丈夫です!!」
《1名を除いてってなにかあったの!?》
「斬子ちゃんが体勢を崩して壁にへばりついちゃって・・・」
《そ、それって大丈夫なの!?》
「えっと・・・あぁ、平気みたいです」
顔が真っ赤になった斬子は今にも泣きそうな表情を浮かべているが必死に我慢しているのかなにも喋らずにいるが歯を食いしばっているのに気付いたメンバーはなにも言わずにいた。
「桃ちゃん、もう少しで待機地点に着くからよろしく」
《だから、桃ちゃん言うな!!》
《後、600mで敵車輌射程内です!!》
「後続もちゃんと付いて来てるな」
《あっ、待ってください!》
《味方を撃ってどうすんのよー!!》
「大丈夫なんでしょうか」
「多分・・・」
前を行くⅣ号が味方に撃たれているのが通信で聞き取れたツバサと飛鳥はお互いに目を合わせれば引きつった笑みを浮かべた。
後続の聖グロリアーナの車輌がキルゾーンに入ったのと同時に砲撃が開始されるもバラバラな砲撃はどれも直撃すら出来ずにただ無駄弾が飛び交うばかりとなってしまっている。
「・・・逆包囲される」
「はぁ・・・アタシがちゃんと練習に付き合っておいた方が良かったか」
「こ、このままでは我々が逆に業火の炎に焼き尽くされてしまうぞ!?」
「ヤバい!?滅茶苦茶撃たれてるよ!?」
「ど、どど、どうしたらいいんですか!?」
「慌てたら判断が鈍るから冷静に」
その言葉にみんなはこくりと頷いた。
玲那はめげずにお返しとばかりに砲撃を返し、斬子も彼女のサポートという形で装填を急いだ。
薫は相手から狙いをつけられないように動いていた。ツバサは沙織と状況交換をしている。
《B,C,Fチーム!私達の後に付いて来て下さい!!移動します》
《わかりました!》
《心得た!》
「了解!」
《もっとこそこそ作戦を開始します!!》