ネコさんチームはみんなとは少し遅れての帰還となった。
途中で履帯が切れてしまい、大会運営の迎えを待とうとも思ったが飛鳥がしれっと直せばまた動き出したので今になってしまった。
飛鳥はいつものようにお気に入りの棒付き飴を頬張っていたが、到着すると背伸びをした後にみんなよりも先に降りた。
すると向こうから凄い勢いでこっちに向かって来る重戦車もとい岬が迫って来たのだ。
「ヒィィィィメェェェェェッ!!!!」
「おわぁぁぁっ!?や、止めろっ!!アタシが死ぬぅぅぅぅっ!!」
いきなり両脇に手を突っ込まれたかと思いきやそのまま持ち上げられるとそのままクルクルと嬉しそうに回る岬。
しかし、宙ぶらりんの飛鳥は引きつった表情で叫ぶ事しか出来ずにいた。
すると合流した三笠が岬の肩に手を置くと我に返ったように飛鳥を解放する。
いきなりの事でぐったりしかける飛鳥ではあったが、不意に三笠に強く抱き締められる。
「よくやったぞ!姫!!ボクは嬉しくて・・・うぅ、嬉しくてだな・・・・・」
「まぁ、これで廃校は免れました!勝ったんですよ、アタシ達・・・」
「あぁ・・・君達のおかげだ・・・礼を言うよ」
「当然の事をしたまでですから」
「日野本ちゃ~ん!!」
「・・・会長っ!!」
涙ぐむ三笠を慰めていたのだが、不意に名前を呼ばれたから振り返ると今度は杏が思いっきり飛びついて来たのだ。
あまりの出来事に一瞬驚いたが、飛鳥は自分からもぎゅっと抱き返した。
「私達の学校・・・護れたよ、日野本ちゃん」
「・・・はい」
「・・・ありがとね」
「いえ、会長の力になれてありがとうございました」
胸元に顔埋めて喋る杏に対して飛鳥は夕暮れ色に染まる空を見ながら礼を言った。
すると残っていた他のメンバーがぞろぞろと飛鳥を囲むように集まって来たのだ。
その瞬間飛鳥には嫌な予感が脳裏に浮かんでいた。
「勝鬨でござる!!」
「「えいっえいっおー!!!!」」
「いや!・・・勝鬨をあげる・・・のはいいけど・・・アタシを・・・いちいち胴上げ・・・するなぁぁぁっ!!」
勝鬨と共に胴上げされる飛鳥は大声で叫ぶ。
しかし、胴上げをするみんなの表情は全員が笑顔で嬉しそうであった。
長い間胴上げをされてふらふらになる飛鳥ではあったが、みんなから離れると相手陣営の方に向かう。
「千智、お疲れ~」
「おいおい・・・どうしてお前がこっちに来ているんだ」
「そんなの気にしなくていいだろ?お前に会いたいのに理由がいるか?」
「千智・・・この人が噂の・・・?」
「噂・・・?千智、変なこと吹き込んでないだろうな」
「あぁ・・・最高の戦友と伝えているよ」
「そりゃあ・・・光栄ですこと」
「優勝おめでとう」
「へへっ・・・ありがとうな!」
2人はがっちりと固い握手を交わすと手を離した後に嬉しそうに今度は拳をあわせ合っていた。
それを見ていた千智のメンバーも迎えに来たネコさんチームもその光景に自然と笑顔が出てしまっていた。
そして・・・表彰式の壇上でなにやら譲り合いが起きていた。
「念願だった優勝だ!ここは会長がど真ん中でバシッと決めた方がいいんじゃないのか?」
「そうです!どうぞ」
「いや、ここは西住ちゃんが決めちゃってよ!隊長なんだからさ」
「で、でも・・・・・」
「それなら日野本さんも一緒に持たれたらよろしいかと」
「それはいいねぇ~海原!2人で決めちゃってよ♪」
「あ、あぅ・・・・・」
「まぁ・・・決める時はビシッと決めますかね!みほ!!」
「・・・・・うん!!」
そんなこんなで中央で2人で優勝旗を持ち上げて表彰式を終える事が出来た。
「終わったな・・・みほ」
「うん・・・みんなで掴んだ勝利です」
「西住みほ流・・・ココに誕生っ!!ってか?」
「あはは・・・そう言うのは遠慮しときます。それにこれは大洗のみんなで勝ち取った戦車道だから」
「同感だ」
ここは飛鳥の働いているせんしゃ倶楽部。
あの優勝の日からは数日が経っており、今日は賑わいをみせていた。
大洗メンバーは全員勢揃いしており、所々には他校の生徒もちらほらと見えている。
本日は飛鳥の独断と偏見で祝勝会を開いていたのだ。
と言うのも店長の粋なはからいで1日貸切状態で店を開けてくれたのである。
会場は盛り上がっており、色々な組み合わせのメンバーが賑わいを見せている。
店の外では依頼していたアンツィオ高校の生徒達が料理を振舞ってくれていた。
招待状は、聖グロ、サンダース、プラウダ、アンツィオ、黒森峰、マジノ、その他と手当たり次第に送り届けた。
大変賑わいをみせている店内でも飛鳥は平然とレジの場所に居座っており、飲み物を片手に記念に店の物を購入していく生徒達の対応をしていた。
「本日はお招き頂き感謝していますわ」
「おっ!ダージリンじゃないか!遠路はるばるご苦労さん!」
「貴女からのお誘いですもの・・・それに私は他にも理由があってココにやって来ましたの」
「へぇ~・・・それってもしかして敵情視察・・・とかか?」
「さぁ・・・それは言えませんわね」
「ダージリン!!」
「あら、カチューシャ・・・ごきげんよう」
「おやおや、初めまして・・・地吹雪のカチューシャ様」
「あっ!アンタはあの時の!!」
「この度はご招待頂きありがとうございます、戦姫(ワルキューレ)」
「だぁ~・・・普通に名前で呼んでくれよ~しかも英語で呼ばれると変な気持ちになるよ、ノンナ」
「ふふっ・・・これは大変失礼しました」
「あら、戦姫(ワルキューレ)って呼び名悪くないんじゃかしら?」
「おいおい、ダージリンまでその名で呼ぶなよ」
「なにを恥じてるのよっ!貴女はこのカチューシャも認める人物なのよっ!戦姫(ワルキューレ)の飛鳥と名乗ることを許すわっ!!」
「そう言う事じゃないんだよっ!」
「飛鳥殿って本当に凄い人ですよねっ!」
「まぁ、アイツは昔からあんな調子だったよ?いろんな人とコミュニケーションをとって仲良くなっていつの間にか友達に・・・肝が据わってると言うかやるヤツなんだよ」
「文殿もそのような感じで飛鳥殿とお友達になられたのですか?」
「あぁ・・・半ば強引にね」
「ヤッホー♪飛鳥」
「いらっしゃい、ケイ」
「今日のこのパーティさいっっこうにエキサイティングしてるわ♪」
「それは開催した身としては嬉しい言葉だねぇ~」
「それに料理も美味しくって本当にたまらないわっ!!」
「いやぁ~そう言ってもらえると作ってる私としては嬉しい言葉だなっ!!」
「おっ!千代美!!」
「アンチョビだっ!ア・ン・チョ・ビ!!ほれ、お前の分を持って来てやったぞ」
「ほぅ~これが噂の鉄板ナポリタンか」
「遠慮なくどんどん食べてくれっ!!」
飛鳥は夢中でナポリタンを食べていたが、他校の隊長陣は警戒した雰囲気ではあった。
滅多にこう言う感じで集まる機会もないのだ仕方ないことだろう。
しかし、この空気を上手い具合で割り込んで来た人物がいた。
「いきなり失礼します!こちらに聖グロリアーナ女学院のダージリンさんとプラウダ高校のカチューシャさんはいらっしゃいますでしょうか!!」
「それならそこの紅茶飲んでるのがダージリンでそこの肩車してもらってるのがカチューシャだよ」
「おぉ、そうでしたか!ご協力感謝します!!西住さんが地下室に来て欲しいとの事ですっ!!」
「地下室・・・かしら?」
「あぁ・・・ここの秘密部屋さ」
「私が先導してご案内しますのでご同行よろしくお願いします!!」
「・・・ごきげんよう」
2人は突然やって来た女性の後に付いて地下室へと降りて行く。
それと同時にアンチョビも料理を作ると言って持ち場に戻るとケイもまだ食い足りないと外へと出て行った。
「さっきの子・・・見ない顔だな」
「知波単学園・・・全国高校生大会の一回戦で私達が破った所の新隊長だ」
「千智か・・・説明ご苦労・・・でも、アタシの記憶にないって事は初対面になるのか」
「ちなみに彼女の名前は・・・西 絹代。かなり真面目な大和撫子だね」
「千智・・・なんでお前そんなに詳しいんだ?」
「試合後に一緒にお茶をご一緒した時にちょっとね」
「そうですか・・・それはそうとまほさんは来てないのか?」
「そうね・・・隊長とアイツは来てないわ」
「・・・あの副隊長と仲悪いのか?」
「仲が悪い?違うな・・・気に食わないだけだ」
苦笑いを浮かべる飛鳥だったが不意に気になるシルエットに気付くと千智を置いて店を出る。
するとそこには無我夢中で料理を食べる女の子達とカンテレを持って佇む女性の姿があった。
「招待状が届いてよかったよ、ミカ」
「風が運んで来てくれたんだよ・・・蝉堂さんをね」
「あっ!ほ、本日はお招き頂きありがとうございます!!」
「そんな堅苦しい挨拶はいいよ♪今日は腹一杯食べて行ってくれ!ミカは流れに身を任せすぎだからな」
「・・・生きるためにはなにかを犠牲にしなくちゃならないんだよ」
「昔から変わってないな・・・」
「君は変わった・・・昔とは違った風を感じるよ」
「へへっ・・・お見通しか」
「風はすべてを教えてくれるからね」
「今日は食べ放題だから持ち帰っても構わないからな?タッパーはこちらで用意してるからいつでも言ってくれ」
「うわぁぁぁっ!!」
「あ、あの人は絶対神様だよっ!ミカ!!」
「いや・・・飛鳥は女神だよ」
店に戻ってミカ達の為にタッパーを用意してあげていると生徒会のメンバーが勢揃いしていた。
「やっほ~日野本ちゃ~ん♪」
「さっきまでなんの話をしていたんだ?」
「一週間後に執り行うと思っている優勝記念エキシビジョンマッチの話し合いだ」
「親善試合みたいなモノですわ」
「うちら大洗と知波単VS聖グロとプラウダの闘いになるねぇ~」
「・・・・・コレって公式戦じゃないよな?」
「うん、両方混合チームになるから正式な形式ではないと思うよ」
「じゃあ・・・・・」
にやっと笑う飛鳥は横目に入ったとある人物を連れて来る。
「アタシはマジノ女学院と組んで第3勢力で参加しますっ!!」
「ふぇっ?」
「えっ?」
「「えええええっ!?!?!?」」
エクレールと桃が同時に声を荒げて驚く中で飛鳥は無邪気な子供のような笑顔を見せていた。
会長もこの件は止めると思ったのだが・・・。
「面白いし、やってみよっか♪」
と言う軽い返事で認可されてしまったのだ。
突然の事であたふたするエクレールを横目に決まった三つ巴の親善試合。
こうして・・・新たな闘いの火蓋が切って落とされたのであった。