「やっとこさ完成ってとこか・・・」
整備が仕上がって現在調整中のポルシェティーガーを目の当たりにして飛鳥はほっこりとした表情で車体に触れていた。
すると下からひょっこりとナカジマが顔を出して来た。
「決勝戦にはちゃんと間に合わせたよ!だから試合では絶対に活躍して見せるから期待しててよ!」
「我が校の主力になる88mmだから頼りにしているよ」
「そうですよね!けど、まだ愚図ったりしちゃうからちゃんと愛情を注いであげないといけないみたいだけどね」
「そこは自動車部にすべて任せるよ。もうその子は君達に託してあるからね」
「あいよ~♪」
満面の笑顔を見せてから作業に戻るナカジマ。
飛鳥も自分の戦車の様子を見に行こうと踵を返したが、いつの間にか背後を取られていたのか長身の女性が立っていた。
「おわぁっ!?」
「あっ・・・お、驚かせてごめんなさい・・・・・ちょっと挨拶をと思って・・・・・」
「挨拶?・・・あぁ、みほが言っていた三式中戦車に乗りたいって言ってた・・・ねこ・・・にゃん?」
「ねこにゃーです!!よろしくお願いしますっ!!」
話題に出ている三式中戦車だが、見つけて来たのはこのねこにゃーらしい。
駐車場に放置されていたのを偶然見つけたらしい。
最近までそう言うのはなかったはずなのに誰かが興味本位に買ったのかもしれないと思っている。
「戦車経験があるってみほから聞いてるけど・・・」
「戦車のオンラインゲームで操縦テクニックについてはバッチリです!!」
「えっと・・・それってWorld of Panzerの事?」
「はいっ!も、もしや・・・日野本さんもやってたり・・・・・」
「暇つぶし程度にやってるよ・・・確か、戦車仮面って名前で」
「おおぉぉぉっ!?あの最強のプレイヤーは日野本さんだったなんて・・・あ、会えて感激ですっ!!」
「あははは・・・・・世の中狭いもんだね」
最初とは雰囲気がガラッと変わってぐいぐいと来るねこにゃーに飛鳥は苦笑いで返していた。
連絡先を交換した事で解放された飛鳥だったが、そんな彼女にある人物が近寄って来た。
「明日の決勝戦に向けての準備はどうです?」
「順調・・・と言えば聞こえはいいですが、戦力差は否めないですね。追加の2輌を合わせても10輌、相手は決勝戦ですので20輌を用意してくると思いますから我が戦力の倍ですね」
「確かに・・・そうですわね」
「でも、その倍の戦力差を覆す事が出来るのがボク達みんなの力なんだろう?姫♪」
飛鳥と花蓮が明日の決勝戦の話をしているのに対して割り込むように三笠は笑顔でやって来た。
その言葉に大きく溜め息をつく飛鳥ではあったが、別に馬鹿にしたような態度ではなかった。
「その通りです。ここまでアタシ達はそれをやって来れたんだからなんとかなっちゃうんです」
「それは・・・勝利の姫君のおかげかな?」
「いや、頼れる隊長さんのおかげじゃないでしょうか?」
「ふふっ・・・そうかもしれないわね」
そう言って3人は熱心になって周りのメンバーと話し合いをしているみほの方に視線を向けたのだ。
決勝戦前日・・・今日は練習も早めに済ませて最終調整に各自作業に取り組んでいた。
皆が愛する母校の為に全員が真剣に取り組んでいた。
すべての作業が終わったメンバーは最後にみほの言葉と共に解散した。
飛鳥も大きく背伸びをし帰ろうとしたのだが、振り返るとあんこうチームと自分のネコさんチームの面々が立ちはだかったのだ。
「覇王よ!今宵は時間を持て余しておろう!!」
「まぁ・・・明日の下準備くらいだ。時間ならあるけど、どうかしたのか?」
「みぽりん家でご飯会やらない?」
「それはいいねっ!!西住さんの部屋に・・・・・うへへへっ」
「やっぱりこの変態だけは連れて行かない方がいいんじゃないか?」
「・・・・・冷泉さんの意見に一票」
「ボコになるまでボコボコにするって言う手もあるな」
「ぎゃあぁぁぁっ!?じょ、冗談だからその拳をお納め下さいっ!!」
「それなら材料とか必要ですね!私が買って来ますっ!!」
「それなら私も同行しますよ!小早川殿」
ワイワイガヤガヤと賑わう光景を見て自然と飛鳥は笑顔になっていた。
そんな自然な笑顔を目撃した面々は少しにやけたように飛鳥に視線を集めていた。
「・・・なんだよ」
「飛鳥の笑顔ってこうやってしっかりと見たの初めてかも・・・」
「いつもクールなイメージですものね」
「ふっふっふっ・・・我々は見慣れておるけどのう」
「はいっ!試合で勝った時はいっつも嬉しそうに笑っていますよ!」
「意外な一面だな」
「・・・そう言う所が良い所でもある」
「・・・・・っ!?」
「あぁっ!?飛鳥殿の顔が真っ赤ですよ!!」
「いっちょ前に照れやがってぇ~可愛いヤツめぇ~♪」
「お前らぁぁぁぁっ!!!!」
茶化された飛鳥は怒鳴ると慌てて逃げ出した全員を追い掛け回した。
そんな光景を今度はみほが見ていて笑顔になっていた。
「蝉堂くん、君は行かなくていいのか?姫達はご飯会とやらを執り行うみたいだぞ?」
「そうです、貴女まで私達に付き合わなくていいんですよ」
ハヤブサさんチームの中でも唯一2年生である文は明日の試合で必要となる必需品を製作していたのだ。
それは飛鳥からのお願いであり、これは文にだけ命じられた事でもあった。
「いえ、いつも前線で頑張っているアイツの為になにか出来る事がすごく嬉しいんです。こうやって戦車道を一緒にやっているだけでも感謝しているんです。だから、私はアイツの為にもこれを完成させたいんです!!」
「・・・・・縁の下の力持ちだな」
「それなら腹が空かないようになにか作ってきてやるよ!こう言う時はかつおおむすびだなっ!!」
「かつおおむすび・・・ですか?」
「”勝つ”おぶしと良い結果を結び付けてくれる縁起物を合わせた代物さ!味は保障するぜ!!」
「決勝戦前の験担ぎですか・・・いいですね」
「それなら調理室で作れるだろう!!魅哉!岬!行くぞぉぉぉ!!」
「「おおぉぉぉっ!!」」
ノリノリで走り出した3人の後姿を見てぽかんとしていた文。
しかし、隣でふふっと小さく笑った京華はチラッと自車であるヘルキャットに目をやった。
「明日は必ず勝ちましょう・・・仲間の為にも・・・・・我が母校の為にも・・・・・」
「・・・・・っ!?は、はい!!」
「ぷっはぁ~!!食った食ったぁぁぁ~♪」
「食べてすぐ寝たら醜い豚になるぞ」
「牛じゃなくて豚なの!?しかも、醜いってかなり酷くない!?」
「そうじゃ!御主は元から豚じゃぞ?」
「この口かカリエンテェェェ!!」
「いひゃいきゃらやめへぇ~!!」
食後くつろぐ為に人数分のコーヒーを入れた飛鳥は一息をつくようにベランダに立っていた。
夜風を浴びながら目の前に広がる景色をコーヒーを飲みながら眺めていた。
「いよいよ・・・明日ですね」
「あぁ・・・因縁の相手との決勝戦だな」
「・・・・・」
「怖いのか?」
「怖くない・・・と言えば、嘘になります。けど、・・・・・」
「・・・けど?」
「今はみんながいるから怖くはないです」
飛鳥とみほはふふっと笑うと夜空に広がる星空を見つめていた。
「やっぱ戦車道はいいな・・・」
「・・・飛鳥さん」
「本当はアタシ黒森峰に行く筈だったんだよ」
「・・・えっ?」
「でも、アタシは断ったんだ」
「・・・・・どうして?」
「この大洗が好きだからすべてを断ったんだ。戦車も・・・仲間もね」
「・・・仲間?」
「強襲戦車競技のパートナーだよ」
「皇さんの事?」
「知ってるのか?」
「名前は口にしてませんでしたけど、飛鳥さんの事だろうなと思う事をいつも誇らしげに話してましたよ」
「あはは・・・アイツめ」
コーヒーを口にしてから少し嬉しそうな顔をする飛鳥。
「本当は一緒に戦車道を歩むつもりだったのに・・・明日は敵同士だ」
「大丈夫ですよ、飛鳥さん!」
「・・・・・みほ」
「私達の戦車道を見せましょう♪全力でぶつかり合いましょう!!」
「なんかみほらしくないな」
「飛鳥さんから色々と学びましたから」
「コイツ・・・言うようになったなっ!!」
みほの頭をくしゃくしゃと撫で回す飛鳥だったが、2人は満面の笑みでやり合っていた。
そんなやり取りを中にいたメンバーは真面目な表情で見つめていた。
「明日はみほにとっても飛鳥にとっても大事な試合なんだね」
「・・・そのようだな」
「母校の為でもあるけど、アイツらの為にもやってやんねぇとな!」
「うむ、良い事を申したな!我も同じ想いじゃ!!」
「お2人の為にも明日の決勝戦は勝ちましょう」
「そうであります!!」
「私達は一丸となって・・・」
「・・・・・勝利を手にする」
ベランダで楽しそうにしている2人を横目に部屋の中にいた8人は強い意思と共にコーヒーの入ったカップを合わせるとこちらもお互いに見合って笑顔になっていた。
そんな各々の思いが交差し合う中で、時間は過ぎ去って行き決戦の日を迎えるのであった。