「本隊が敵を引き連れて逃走中!尚、フラッグ車は見当たらない模様!!」
「みほはなんて?」
「カバさんチームと一緒にフラッグ車を叩きに行くと報告がありました!!」
「・・・・・あんこうに繋いでくれ」
とある場所でじっと待ち続けているネコさんチームはいつものように隠密行動を仕掛けていた。
味方にも場所は伝えておらず、本当に単独行動中である。
しかし、動き出しつつある戦局に飛鳥は腕を組んで悩むとあんこうに通信を繋ぐ。
「飛鳥?アンタ達どこに居るのよ!?もぉ~!!!!」
『極秘任務故に言えないねぇ~・・・それよりも敵フラッグ車を狙いに行くならハヤブサさんチームも連れて行っとけ』
「えっ?どうしてでありますか?」
『あぁ~・・・アタシの勘だよ!素直に聞いとけって』
「わかりました!飛鳥さんを信じてみます!!」
『へへっ・・・じゃあ、こっちのフラッグ車は任せとけ』
「任せとけ!って・・・・・あぁ、もう切っちゃったよ!飛鳥のヤツ!!」
「なにか秘策でもおありなのでしょうか?」
「アイツならやりかねん」
「フラッグ車の護衛は何輌?」
「ウサギさんとカモさんチームの2輌だけです!!」
「敵の数は?」
「5輌!!その中に隊長及び副隊長と思われる人物が確認出来ます!!」
「予想通りだな・・・アタシ達も下山して加勢に入る!!ブレーキは外せ、全踏みで敵に攻撃を仕掛ける」
「激しく揺れるけど、それでもいいんだな?」
「一向に構わない」
「それならいつものショータイムの時間だぁぁぁぁ!!!!」
戦況を確認後、飛鳥は一度髪を掻き上げる仕草をしてみせるといつもとは違った目つきに側に居たカリエンテも一瞬たじろいだ。
しかし、それに触発されてか薫も勢い良く自分の頬を叩いたかと思えば、ギュッとレバーを掴む手に力を入れ大声と共にアクセルを踏み込んだ。
「ボク達はフラッグ車の撃破を命じられた!杏の為に初陣で大金星を狙うぞ!!」
「仲間の合流は待ちますか?」
「いや、ボクらが偵察役となり、後から来る味方に有利に事が進むように先行しよう」
「了解しました!後続のチームにはそう通信しておきます」
「それじゃあ・・・・・くっ!?」
フラッグ車を探し出そうと発進させようとしていたハヤブサさんチームだったが、突如として飛んで来た相手の砲撃に直撃は避けられたものの近くに着弾した為に車体は揺れる。
唯一、顔を出している三笠は索敵を開始すると1輌の戦車がこちらに向かって前進して来ているのがわかった。
「おいおい、もう敵1輌に見つかってるぞ!止まっていたら次の砲撃で沈められる・・・急・速・発進!!」
「御意」
砲塔がこちらに狙いを定めるよりも先に発進させれば、相手の車輌も逃がさない為にかハヤブサさんチームを追っていた。
その敵車輌の中には試合開始前に飛鳥に果たし状を叩きつけていたミレイヤの姿があった。
「ヘルキャットは素早いのと火力が計り知れませんわね。アレをフラッグ車の元に鉢合わせなんてさせたらこちらが不利になるのは明らか・・・すなわち、私の手で早々に撃墜するのが得策ですわ!!」
「おやぁ?敵はボク達がお嫌いみたいだなぁ~・・・・・」
「いっちょ杏の弔い合戦といかねぇかい?」
「ふむ・・・不知火く~ん♪勝算は如何ほどだい?」
「五分だな」
「そうか、そうか・・・・・それなら即時反転!!仕掛けるぞぉぉぉ!!!!」
「「「了解(ヤー)!!」」」
「反転して来た!?くっ・・・舐められたモノね。いいわ、貴女達此処が踏ん張り所ですわよ!!」
向き合ったと同時にお互いの砲塔が火を噴く。
激しいぶつかり合いと砲撃戦が繰り広げられている中で文は、あんこうチームに通信を開いていた。
「こちらハヤブサさんチーム!敵1輌と交戦中!!」
『わかりました!今すぐに援軍に・・・』
「ううん、西住さん達はフラッグ車をお願い!この敵が護衛車輌みたいだからなんとか時間稼ぎ、あわよくば撃墜させとくから気にしないで」
『ですが・・・』
「大丈夫!頼れる先輩方を信頼しなさいってば!!」
『・・・わかりました!ですが、無茶だけは絶対にしないで下さい』
「・・・ありがと♪」
そう言ってゆっくりと通信を切った文は激しく揺れる車内でどこかにしがみつくように縮こまる。
しかし、目は瞑らずに勝敗がつくのをじっと待つのであった。
一方、フラッグ車を護るウサギさん、カモさんチームには激しい砲撃が降り注いでいた。
「このままじゃ持たないよ~」
「どうする?私達の事はいいからアヒルさん護ろう!!」
「そうだね!桂利奈ちゃん、頑張って!!」
「あいあいあい~!!」
「ノンナ!早くやっちゃいなさい!!」
「・・・・・」
アヒルさんの背後を護る為に後ろに回りこんだウサギさんチーム。
しかし、無情にも鋭い一撃は一撃でウサギさんチームのウィークポイントを狙い撃ち、ウサギさんチームはリタイヤしてしまう。
「そ、そど子・・・どうしよう?」
「風紀委員の腕の見せ所よ!!アヒルさんチームを全力で護るのよ!!」
ウサギさんの無念を晴らす為にと今度はカモさんチームが背後を護る形に入った。
しかし、照準はゆっくりとカモさんチームの背後を捉えていた。
狙いを定めるように照準器を覗き込むノンナ。
だが、不意に聞こえた砲撃音と共に近くで聞こえた着弾音にノンナは覗き込むのを止めた。
不意を突く一撃は、見事にプラウダの1輌を仕留めていたのだ。
この状況に1人外に出ていたカチューシャは驚きを隠せずにマイクを口元に当てて叫び出した。
「なによ!?何処から狙われたのよ!!」
「カチューシャ様!左です!!」
「えっ、なに?えええっ!?!?」
言われた通りに左の方に目をやるとそこにはかなり離れた位置で並走しながらこちらに砲塔を向けるチャーフィーの姿があった。
「あんなのさっきまでいなかったじゃない!?しかも、あのスピードで当ててくるなんて・・・・・ノンナレベルの相手が居るって言うの!?!?」
「飛鳥!調子はどう?」
「・・・・・冴えてるよ」
「これが・・・覇王の力!?」
「・・・・・いつもの彼女じゃない」
「はい・・・空気がいつもと違います」
照準器を覗き込む飛鳥の横顔はいつもの飄々とした感じはなく、文字通りの覇王を思わせる程の空気を感じ取れるぐらいの集中力であった。
邪魔をしない為に3人は装填を急ぐ。
薫はと言うと無我夢中で戦車を走らせていた。
止まると言う枷を外して・・・・・。
「ノンナ!まだなの!?」
「次の一撃で必ず仕留めてみせます」
「くっ・・・ノンナ以外はあのすばしっこいネズミをなんとかしなさい!!!!」
「飛鳥さん!敵の砲撃がこちらに集中してます!!」
「撃たせておいたらいい・・・絶対に当たらないから」
「おいおい、そんな理屈どうやって出て来るんだよ」
「信じてるからだ」
「・・・たくっ、こう言う時だけアタシのことを頼るなよなぁぁぁ!!」
砲撃が次々に近くに着弾する中を擦り抜けるように進むネコさんチーム。
それでも砲塔は変わらずに集団の方に向けられていた。
その光景にさすがのカチューシャも恐怖を感じるほどであった。
次の瞬間、チャーフィーから放たれた砲撃はまたプラウダの戦車を貫き、残されたのは3輌。
その状況に晒されたカチューシャは半ば覚悟を決めたようにも見えた。
「ノンナ・・・絶対に決めるのよ」
「なにをするおつもりですか!カチューシャ!!」
「あの戦車に突撃よ!!ノンナの邪魔はさせないんだから!!」
「向こうの隊長車がこちらに接近しようとしています!!」
「そうはさせない」
「こっちも迎撃準備でも・・・おわっ!?!?」
「荒れ狂うブリザード・・・・・か」
こちらの目の前に着弾した砲撃に車体は軽く揺さぶられる。
飛鳥は、JS-2からの砲撃に殺意を感じ、たらりと冷や汗を垂らしていた。
しかし、一瞬でもこちらに注意が向いたのは好都合であった。
一方、敵フラッグ車を見つけたあんこうとカバさんチーム。
しかし、ぐるぐると逃げ回る相手に対して決定打を撃てずにいた。
すると外で激しく撃ち合っていたハヤブサさんチームの車長である三笠の目にも敵フラッグ車が確認出来た。
「むむっ、あれは・・・敵フラッグ車だぞ!!」
「どうする・・・車長殿」
「アレが大将首なんだろう?それならやる事はただひとぉぉぉつ!!」
「御意」
「面舵いっぱぁぁぁい!!目標は、大将首だぁぁぁ!!!!」
高速で切り返すヘルキャットにずっと対峙していたミレイヤは悟った。
敵が最優先すべき敵を見つけたのだと・・・。
「行かせてはなりません!このままだと私達プラウダが敗れる事になってしまいます!!」
敵フラッグ車を追う・・・あんこう&カバさんチーム。
必死に逃げ回る敵フラッグ車。
それを正面から喰らおうと突貫するハヤブサさんチーム。
しかし、それを阻止させようとするミレイヤ車。
かち合った5輌・・・・・時は一瞬であった。
ミレイヤ車が放った砲撃は無防備となったハヤブサさんチームの背後を捉えた。
白旗の上がったハヤブサさんチーム・・・だったのだが、ミレイヤは悔しそうに壁を殴るのだった。
そう・・・遅かったのだ。
白旗を上げるハヤブサさんチームの反対側には・・・同じように白旗を上げるプラウダのフラッグ車が見事に煙を出して動けずにいたのだ。
《試合終了!!勝者!大洗女子学園!!》
「久し振りに・・・・・疲れた」
全員が集まって勝利を分かち合っている中で、飛鳥はチャーフィーの車体の上で寝そべり黄昏るように空を1人で見上げていた。
ふぅーっと白い息を吐いていると不意に足音に気付いて上体を起こすとそこにはフレイヤが立っていた。
「完敗・・・です」
「アタシはなんもしてねぇぞ?」
「わかっているわ・・・貴女だけしか見えていなかった私の完敗なんですの」
「そりゃあ油断大敵だったな」
「・・・・・あのヘルキャットのメンバーにお伝えしておいてくれません?今度は負けません!!・・・・・と」
「・・・・・わかったよ」
「・・・・・それじゃあ」
悔しそうに下唇を噛み締めながらキッと睨みつければ、踵を返してこの場から去って行った。
すると見えなくなったを確認するとくしゃくしゃと髪を掻いてから口を開いた。
「・・・らしいですよ、不知火さん」
「承った」
「それにしても・・・初陣で大金星とはやりますね」
「それは・・・姫のおかげかと」
「あはは・・・基礎を教えただけです。後は、各々の個性が生きた・・・ですかね」
「それでもこうして決勝に駒を進めることが出来た。感謝する」
「決勝・・・か」
「どうかしたのか?」
「いえ、なんでも・・・・・」
決勝の相手・・・黒森峰女学園。
みほが前に戦車道をしていた居場所。
みほの前の仲間が居る居場所。
そして・・・
飛鳥の仲間も居る居場所。