ガールズ&パンツァー 紅蓮の戦車乙女   作:宣伝部長

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戦車、捜索します!

戦車道の授業初日。校庭には戦車道を選択した生徒達が集まっていた。

 

 

 

「思ったより集まりませんでしたね」

「まぁ、なんとかなるでしょ?」

 

 

 

人は居るのだが、全員を合わせて24人。

他の学校などと比べるとかなり少ない人数である。

 

 

 

「いやぁ~・・・まさか3人共戦車道を選んでいたなんて驚いたぜ!!」

「薫が選んだ理由はなんとな~く理解出来るけどね」

「フッ・・・お見通しか」

「お馬鹿だからなんですよね?」

「お~い!!??」

 

 

 

沙織と薫は小学校の頃からの幼馴染らしい。華とも親しい友人らしく軽いジョークが飛び交う程だ。だが、みほは避けるように飛鳥の後ろにずっと隠れてしまっている。噂では、飛鳥と同じようにセクハラ紛いの事を仕出かしてからドン引きされている様子である。

 

 

 

「ツバサはアタシに付き合って戦車道を選択しなくても良かったのに・・・」

「いえ、飛鳥先輩や優花里先輩の話を聞いていたら私もなんだか戦車に興味が湧いたので大丈夫です!!」

 

 

 

薫とは違ってツバサはこの間の映像とこれまでの飛鳥達の話を聞いていた為にか目を輝かせながら犬のようにお尻を振って今か今かと待ての状態で待っていた。

 

 

 

「これより戦車道の授業を開始する!!」

「あの・・・戦車はどこにあるんですか!?」

「う~ん・・・この倉庫の中だよ~」

 

 

 

そう言うと柚子と桃が大きな倉庫の扉を開くと奥の方に1両だけ戦車が見える。だが、その外装はサビや汚れまみれになっており、集まったメンバーからはブーイングにも似た声が飛び交う始末である。

 

 

 

そんな雰囲気の中でみほと飛鳥は戦車に近付いて行った。

 

 

 

 

「Ⅳ号戦車か・・・しかも、装備面を考えるとD型だな」

「装甲も転輪も大丈夫そう・・・これで行けるかも」

 

 

 

2人の言葉にどよめくメンバーだが、あることに気付いた沙織が手を挙げてとある疑問を口にした。

 

 

 

 

「でもでも、1台だけじゃダメなんじゃないの?」

「もしかして・・・この戦車に全員で乗るのか!?」

「薫先輩って噂以上のお馬鹿なんですか?」

「ぐぅおぉぉ!!後輩にまで馬鹿扱いされてしまったぁぁぁ!!!」

「この人数なら5、6両は必要だな」

「んじゃぁ~みんなで戦車探そっか?」

 

 

 

生徒会長が言った素っ気無い言葉に一同が騒然とした。桃が言うには昔この学校で戦車道が廃止になってはいるが、その当時使用していた戦車はどこかにあると豪語するのである。明後日には教官が来ると言うことで今日は戦車探しをすることが決まれば、ぞろぞろと戦車探しの為に各自倉庫を後にした。

 

 

 

 

「みほ!この2人を連れて探しに行って来てくれ」

「飛鳥さんはどうするの?」

「アタシは・・・ちょっとこの子の様子を見てあげないとな」

 

 

 

どこから出て来たのか工具箱を肩に担ぐと飛鳥はⅣ号戦車に飛び乗って少し嬉しげに中を覗き込む。

 

 

 

 

「明日カッコイイ教官が来るみたいだから早く見つけに行こうよ~」

「じゃあ戦車探しにレッツゴー!!」

 

 

 

沙織と薫は2人で手を繋ぎはしゃぐように倉庫を飛び出した。

そんな彼女達の後をみほ、華、ツバサも追うように倉庫を出て行った。

 

 

 

 

「それじゃあ・・・やりますか!」

 

 

 

1人になった途端に制服をバッと投げ捨てるように脱ぎ捨てるとつなぎタイプの迷彩軍服に白のTシャツ、頭にはタオルのバンダナ、手には軍手を装備してからⅣ号戦車の中へと入り込んで作業を開始したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何処にあるって言うのよぉぉぉ!!!」

「う~ん・・・駐車してると思ったのに・・・・・」

「それなら生徒会の人が見つけている筈でしょう」

「そうか!?ツバサちゃんあったま良い!!」

 

 

 

 

一行は戦車と言うワードから車と一緒ではないかと言う考えに辿り着いて駐車場にやって来たのだが、そんなに上手くは行かずに空振りに終わってしまった。

 

 

 

 

「次は裏山に行ってみよう!」

「そうですね、放置されている可能性もありますから」

「私は放置プレイは嫌だ!!」

「誰も薫先輩の性癖になんか興味ありません」

「冷たいっ!?飛鳥と私でこんなにも態度が変わるなんてヒドイ!!」

「本当は喜んでるくせに・・・」

「バレてたか~はっはっは~・・・・・って、みんなそんな目で見ないで!?」

 

 

 

 

一行が裏山へと移動しようとしたが、みほはある視線に気が付いて立ち止まった。

 

 

 

 

「あの!良かったら一緒に探さない?」

「良いんですか!?あ、あの・・・普通2科2年3組の秋山 優花里と言います!えっと・・・不束者ですが、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。五十鈴 華です」

「武部 沙織!!」

「私は瑞島 薫!!」

「あ、あたしは・・・・・」

「存じ上げております!西住 みほ殿ですよね?」

「あっ・・・はい」

 

 

 

優花里は4人に対して嬉しそうに敬礼をして見せた。

 

 

 

 

「あぁ!!優花里先輩もやっぱり戦車道選んでたんですね」

「当然であります!」

「あれ?2人共顔見知りなの?」

「はい!飛鳥先輩と良く戦車のことを楽しそうに語り合っていましたから」

「戦車は自分の命も同然です!!」

 

 

 

ドンと自分の胸を叩いて熱く主張する優花里に周りから拍手が送られた。我に返った優花里は顔を真っ赤にすると俯いてもじもじとしていた。

 

 

 

 

「にしても、飛鳥がスゴい戦車乗りって言うのは知らなかったなぁ~」

「西住先輩って飛鳥先輩の戦車道の時の事を知ってると聞いたんですけど、どんな感じだったんですか?」

「あっ、それは気になる気になる~♪」

 

 

 

みほは顎に手を当てて悩むような素振りを見せていたが、しばらくすると思い出したのか戦車道の時の飛鳥の話を始めた。

 

 

 

「飛鳥さんは砲手か操縦手の2つの役職が得意なの。砲手をさせたら命中率は90%越えだったし、しかも、飛鳥さんは行進間射撃が得意だって・・・」

「あ、あれは・・・自車が移動・振動する為に照準を合わせることが困難で敵車に当てるのなんて不可能に近い筈ですよ!?」

「な、なになに、飛鳥ってそんなに化け物みたいな能力があるって言うの!?」

「戦車の性能って言う理由もなくはないんだけど、彼女の狙撃は次元が違うって噂されてたくらい・・・でも、行進間射撃時の命中率は50%くらいで致命傷になる直撃は少ないみたいなんだけど、それでも履帯を狙って味方の援護としては十分な仕事はしていたみたい」

「飛鳥さんの腕前は本物・・・と言うことですわね」

「それじゃあ・・・操縦してる時もヤバいんじゃないの!?」

 

 

 

 

その問い掛けに対してみほは首を横に振るが、また顎に手を当てて悩む素振りを見せた。

 

 

 

 

「操縦している時の話はそんなに聞かない・・・けど」

「・・・けど?」

「飛鳥さんが操縦している時は大破しているの見たこと無いかも・・・」

「それって・・・戦車の性能じゃないの?」

「ううん、1度だけ交流戦で同じチームになったことがあるんだけど、飛鳥さんは勘が鋭いって言うのかな・・・一瞬の判断がかなり速いんだと思う」

「うへぇ~・・・授業中にいっつも寝てやがる飛鳥とは思えない話だね」

「飛鳥さんの新たな一面を垣間見た感じですわ」

 

 

 

 

飛鳥の事についての話をしているといつの間にか森の中に一行は辿り着いており、地図を取り出せば各々に周辺を探索し始めるのであった。

 

 

 

 

「あっちから花の香りに混じってほんのりと鉄と油の匂いが・・・・・」

「華道やってるとそんなに敏感になるの!?」

「スゴいな・・・ありゃ、犬並の嗅覚ってレベルでしょ」

「では、パンツァー・フォー!!」

「パンツのアホ!?!?」

「えっ!?誰のパンツ!?!?」

「パンツァー・フォー・・・戦車前進って意味なの」

「ありましたよ~!!」

 

 

 

 

ツバサの声のした方に向かうと傾斜に止まっている1両の戦車を確認。

 

 

 

「38T・・・」

「なんかさっきのよりちっちゃい・・・」

「これで38トンもするのか!?」

「いえ、Tって言うのはチェコスロバキア製って意味で重さの単位の事じゃないんですよ!!・・・・・ハッ!?」

「いま・・・生き生きしてたよ」

「ずみませぇん・・・」

「西住せんぱ~い!!下の方にもう1両見つけました!!」

 

 

 

また声の方に視線を向けるとかなりの傾斜の下の方に戦車の上に乗ったツバサが大きく手を振っているのが確認出来た。

 

 

 

「あの子いつの間にあんな場所まで移動したのよ」

「アレは・・・M24チャーフィー軽戦車」

「えっと・・・もっかいどうぞ」

「愛称はアメリカ軍戦車開発のパイオニアであったアドナ・R・チャーフィー・ジュニア将軍にちなみチャーフィーと名付けられています!「バルジの戦い」で初陣を飾った軽戦車の1つなんです!!ですが、それまでのずんぐりしたアメリカ戦車と異なって敵のパンター戦車のようなスマートな形状ゆえに味方から誤射されることも数多くあり、「パンサー・パプス」(仔豹)なんて呼ばれていたんですよ!!!」

「目が炎のように燃えてるような気がするんだけど、私だけかな?」

「熱意はスッゴく伝わるのがわかる」

 

 

 

 

とにもかくにもなんと2両の戦車を見つけることに成功した。一行はこの事を伝えるべく生徒会に一報を入れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日野本!!」

「どうかしたんですか?桃ちゃん」

「桃ちゃんと呼ぶなぁぁぁ!!」

 

 

 

 

ハッチからひょっこりもぐらのように頭だけを出すとしれっと相手の嫌がる名前の呼び方をする。すると案の定鬼のような形相で桃は荒ぶっていた。

 

 

 

 

「まぁいい、戦車が5両見つかった。八九式中戦車甲型、38(t)軽戦車、M3中戦車 リー、Ⅲ号突撃砲F型、M24チャーフィー軽戦車、それから此処にあるIV号戦車D型の6両が我が校の戦力となる」

「見つかっただけでも上々か」

「日野本ちゃ~ん!お客さ~ん!」

 

 

 

 

桃から暖かいタオルを受け取って顔を拭きながら近状報告を聞いているとそこに杏と車椅子を押す柚子がこちらにやって来るのが見えた。車椅子には俯いてもじもじとしている女の子が座っていた。

 

 

 

「この方ですか?」

「そっ、戦車に興味があるんだってさぁ~」

「倉庫の中に戦車があると言ったら人目見てみたいと言われたので連れて来たんです」

 

 

 

すると車椅子の女の子は戦車の前で停止すれば、下の方から上へと舐め回すように戦車に釘付けの様子である。

 

 

「・・・・・大きい」

「もしかして・・・戦車を見るのは初めて?」

「TVで・・・見たことなら・・・ある」

「TVとじゃ全然違うから・・・えっと・・・・・」

「御堂 玲那(みどう れな)・・・2年・・・・・」

「アタシは日野本 飛鳥、よろしく」

 

 

 

オドオドとする玲那に対して握手を求めるように手を差し出せば、戸惑ったように視線を彷徨わせて中々握手出来そうになかったが、ふと目が合った時にはにかむと玲那は恐る恐る手を伸ばし握手を交わすことに成功した。

 

 

 

「これで戦車道に1人増えることになるな」

「・・・私・・・こんなだから・・・戦車には・・・・・」

「大丈夫、通信手なら可能だと思うし、上手く行けば砲手も出来る可能性は十分にあるよ」

「だってさ、どうする?御堂ちゃん」

「・・・・・やりたい・・・です」

 

 

 

自分の体では戦車に乗るなんて叶わない夢だと思っていた。だが、そんな彼女の夢を叶える言葉を聞いた玲那は肩を組んできた杏に震えるような声で意思を示した。そんな彼女に嬉しそうに杏は干し芋を咥えて柚子とハイタッチした。

 

 

 

「会長、ここにいらっしゃったんですのね?」

「海原~ちょっとこっち来てくれ~」

「かしこまりましたわ」

 

 

 

突如として倉庫に姿を現したのはこの場には似つかわないだろう洋風なフリフリの傘を片手に持ち、両手には白色のレースの手袋、髪型は見事な金髪の縦ロールをしており、風貌はまさに英国の淑女をイメージさせるような印象である。

 

 

 

「海原も私達と一緒に戦車道やるからよろしく~」

「生徒会で会計の職務を受け持っています・・・3年の海原 花蓮(うなばら かれん)と申します。戦車道においての金銭面の管理もさせて頂きますのでよろしくお願いしますわ」

「あぁ・・・こちらこそ、よろしく」

 

 

 

 

傘を持ってない方の手でスカートの裾を持ってお辞儀をする彼女に対して飛鳥も軽く会釈をして対応に応じた。これで2人増えて戦車道のメンバーは26人なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、自動車部の協力のおかげで戦車6両が綺麗に倉庫前に並んでいる。メンバーも揃ったのを確認すると生徒会の4人は戦車の前にズラッと並んだ。

 

 

 

 

「どう振り分けますか?」

「見つけた者が見つけた戦車に乗ればいいんじゃない?」

「そんなことでいいんですか!?」

「それなら私達はどちらの戦車に致しますか?」

「38Tは我々が・・・Ⅳ号とチャーフィーはお前達で決めろ」

「こう言う時はじゃんけんで決まりっしょ!」

 

 

 

と言う訳で薫の案で飛鳥とみほがじゃんけんをして勝った飛鳥がチャーフィーを選び、Ⅳ号戦車はみほ達が乗る事なった。

 

 

 

解り易く説明するとこう言う風になる。

 

Aチーム:Ⅳ号戦車D型(西住 みほ、武部 沙織、五十鈴 華、秋山 優花里)

Bチーム:八九式中戦車甲型(磯辺 典子、近藤 妙子、河西 忍、佐々木 あけび)

Cチーム:Ⅲ号突撃砲F型(カエサル 、エルヴィン、左衛門佐、おりょう)

Dチーム:M3中戦車 リー(澤 梓、山郷 あゆみ、丸山 紗希、阪口 桂利奈、宇津木 優季、大野 あや)

Eチーム:38T戦車(角谷 杏、小山 柚子、河嶋 桃、海原 花蓮)

Fチーム:M24チャーフィー軽戦車(日野本 飛鳥、小早川 ツバサ、瑞島 薫、御堂 玲那)

 

と言う感じに編成された。

 

 

 

 

「明日はいよいよ教官がお見えになる。粗相のないように綺麗にするんだぞ!」

 

 

 

 

すると各チームは自分達の戦車へと配置についた。Fチームも自分達の戦車を掃除する為に準備に取り掛かった。

 

 

 

「なんで薫先輩・・・水着なんですか?」

「なんでってこんなおっきな戦車洗うんだから当然じゃん!!」

「薫だけじゃないから何も言えないな・・・中はアタシが1人でやるから外を任せたぞ」

「この掃除王にお任せあれ!!」

「はいはい」

「日野本さん・・・私も・・・・・手伝う」

「う~ん・・・それなら一緒に中で掃除しようか」

「・・・・・うん」

 

 

すると飛鳥は軽々と玲那を背負うとそのまま戦車の車体側面から手際良く登ると2人は戦車の中を残された2人はデッキブラシを手に外面の掃除を開始した。途中、掃除に飽きたと叫んでデッキブラシを振り回す薫の姿が目撃されたが飛鳥、沙織、桃から激しいホースからの水攻めを受け轟沈した模様である。洗車は何事もなく無事に終わり、整備等は自動車部が徹夜で整備をすると言う形で本日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。いつものように飛鳥はせんしゃ倶楽部にてバイト中である。と言ってもあまりお客も訪れないから暇過ぎるのが難点ではあるが・・・。

 

 

 

「いらっしゃいませ・・・って、お前達か」

「飛鳥殿!皆さんを連れて参りました!!」

「本当に働いてた!?」

「アタシが働いてるのが珍しいか?」

「いえ、お好きな事を仕事に出来る事は幸せな事だと思います」

「ありがと、まぁ、好きに見て行ってよ」

 

 

 

 

華と沙織は物珍しそうに棚にある戦車のプラモデルや書籍を手に取りなにやら盛り上がっている。

優花里は食い入るように最新入荷のプラモデルを買おうか悩んでいる様子。

みほは飛鳥がカウンターでなにかを作成しているのに気が付くと興味本位に飛鳥の元に向かった。

 

 

 

「飛鳥さん、なにをしているんですか?」

「アタシとみほ以外は戦車経験ゼロだろ?だから、操縦マニュアルを書いた紙を作ってんだ」

「それはみんな喜んでくれると思います」

「飛鳥って意外な一面多いよね」

「気が利くお方なんですね」

「ただ、戦車を楽しんで欲しいってだけさ」

「その気持ちスッゴくわかります!!」

 

 

 

完成すれば、それを印刷して纏めあげるとなんと1冊の冊子が出来上がった。それにはその場に居た4人も驚きのあまり拍手を自然としていた。

 

 

 

 

「ねぇ!飛鳥もみほの家に一緒に行かない?」

「いいのか?」

「うん、大勢の方が楽しいと思うし・・・」

「それなら早上がりさせてもらってお邪魔するよ」

「お仕事の方はいいんですか?」

「大丈夫、なんとかなるよ」

 

 

 

 

そう言って店の奥に行くと今度は制服姿で帰って来るのと一緒に店長らしき人物が出て来た。駆け寄ってくる飛鳥の背中に向かって「存分に遊んで来いよ!」と一言添えると手を振っていた。飛鳥も振り返って手を振り返すと4人は申し訳なさそうに頭を下げて店を後にするのであった。

 

 

 

 

「散らかってるけど、どうぞ」

「西住さんらしい部屋ですね」

「それにしても飛鳥がそのみほの隣に住んでた方が驚きだよ!」

「いつもツバサに朝早く起こされて登校していたから会ってなかったのかもな」

「ご近所挨拶もしてなかったしね・・・・・」

 

 

 

 

5人はスーパーで買った食材を手にみほの部屋へと上がった。中には包帯を巻いたクマがいくつか飾られているのが特徴的である。全員は荷物を置くとここに来るまでに話し合っていた料理を作る事になった。

 

 

 

 

 

「華はじゃがいもの皮剥いてくれる?」

「あっ、はい」

「私、ご飯炊きます!!」

「じゃあからあげ作るわ」

「なんで飯盒・・・ってか、いつも持ち歩いてんの?」

「はい!いつでも野営出来るように・・・」

 

 

飛鳥と華は台所に優花里は嬉しそうにリュックの中から飯盒を取り出していた。さすがの沙織も飯盒が出て来た事には引き攣った笑みを浮かべていた。

 

 

 

「いたっ!!」

「華、包丁の使い方危なっかしいぞ」

「すみません、花しか切った事なくて・・・」

「血出てるから・・・んっ」

「・・・あ、飛鳥さん」

 

 

 

華の指から血が出ているのに気付くと飛鳥は華の手を取り切ってしまった指を咥えた。その対応に華は頬に手を当てて頬を少し赤らめて見つめていた。リビングではみほが絆創膏を探すのにわたわたとしている。

 

 

 

華をリビングに返すと今度は赤のアンダーリムメガネを掛けた沙織が腕捲りをしていつもとは違う真剣な表情でやって来た。

 

 

 

「飛鳥は手際良いじゃん♪普段料理とかするの?」

「1人暮らしだからこう言う類のことは慣れたな。沙織はどうなんだ?」

「いやぁ~男を落とすには料理かな?って、思っていっつも練習してるんだぁ~♪」

「沙織ならいいお嫁さんになれるかもな」

「もう、飛鳥のバカ!褒めてもなんにも出ないぞ!!」

「・・・・・本気で背中叩くなよ」

 

 

 

 

台所でいちゃつくように料理を作る2人の姿はまさにカップルのように見えたが、3人は敢えてなにも言わずに料理が出来るのを待っていた。

 

 

 

「完成!私特製の肉じゃが!!」

「・・・とアタシが作った唐揚げだ。召し上がれ」

 

「「いただきます!!」」

 

「美味しい~♪」

「どちらの料理もとっても美味しく出来てますよ!!」

「ご飯が進みますね」

「そりゃあ、お粗末様」

「そんなに言われちゃうと照れちゃうなぁ~♪」

 

 

 

 

楽しい時間と言うのはあっという間に過ぎてしまう。夜もすっかり更けてくると3人は食事を済ませると名残惜しそうにみほの部屋を後にしたのであった。残された2人は飛鳥の提案により、飛鳥の部屋にて珈琲を飲みながらくつろいでいた。

 

 

 

「私のあげたボコ置いてくれてるんだぁ~♪」

「みほからのプレゼントだから大事にしてるよ」

「・・・ありがとう」

 

 

カップを両手で持つみほの表情はどことなく元気がないように見えた。だが、一口珈琲を飲むと彼女の表情は和らいでいた。

 

 

 

「私、やっぱり転校して来て良かったって思う」

「黒森峰とはまた違うからね」

「うん・・・それに飛鳥さんにも会えたし・・・」

「あはは・・・そんなに思ってもらえてたなんて嬉しいよ」

「そろそろ寝ないと・・・・・」

「そうだね、おやすみ」

「おやすみなさい!また明日」

 

 

 

そう言ってみほは自分の部屋へと戻っていった。残された飛鳥は大きな欠伸を1つすれば、ベッドにうつ伏せに倒れ込みそのまま夢の中へと沈んでいくのであった。


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