ガールズ&パンツァー 紅蓮の戦車乙女   作:宣伝部長

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あっという間のアンツィオ戦です!!

全国大会第2回戦。

選手達が準備に勤しんでいる時、観客席にはぞろぞろと試合開始を待つお客様が集まってきているのが見えた。

そんな中に妹との約束を守る為に焔と三代子さん・・・そして、日野本姉妹達の母親兼日野本流戦車道家元・・・日野本稔(ひのもと みのり)がやって来ていた。

 

 

 

「うっへぇ~・・・辺り一面が木ばっかな場所じゃん!」

 

「奇襲に充分に気をつければなんとかなりそうだけどねぇ~」

 

「これは派手な乱戦になるかもしれないわね」

 

「にしても、ヘルキャットが今回見れないのは悔やまれるのう」

 

「けど、こんな戦場じゃ自慢の速さも使えないんだからしょうがないじゃないですか」

 

「逆に小回りの利くカルロ・ヴェローチェが居るアンツィオの方が武があるでしょう」

 

 

 

モニターに映し出される試合会場に目が行っていたが、稔はふと周りに見える生徒を確認するとクスッと笑った。

 

 

 

「飛鳥達はどうやら、敵にも好かれるみたいですね」

 

「んっ?聖グロにマジノにサンダース・・・どれも大洗と戦った面々か」

 

「なにか牽きつけられるモノを持っているのかもしれんのう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六輌の戦車がエンジンを始動する。

戦闘開始の合図を待つように緊迫した空気が立ち込めていた。

ただ、1人を除いて・・・・・。

 

 

 

「西住隊長!こ、今回ネコさんチームはどう動いたら良いでしょうか!?」

 

『そうですね、1番の危険ポイントが中央付近の十字路になると思います。ですから、アヒルさんチームと先行をしてもらって偵察をお願いできますか?』

 

「はい!わ、わかりました!!」

 

『そんなに緊張しなくても大丈夫です!リラックスして行きましょう』

 

「わかりました!!」

 

『飛鳥!通信手だからってサボってたらダメだからね!!』

 

「あぁ~・・・全部沙織に任せた」

 

『もぅ・・・ちゃんとしなさいよ!!』

 

「はいは~い」

 

 

 

まだ沙織が騒いでいる途中ではあったが、飛鳥は何事もなかったように通信を切ると今回のエリアの地図を広げ始めた。

そんな彼女を見る他のメンバーは飛鳥に聞こえないようにひそひそ話を始めた。

 

 

 

「マジでアイツ今日通信手なのか?」

 

「・・・はい」

 

「覇王は我らを試そうとしておるのやもしれぬ」

 

「それにしても通信手はないんじゃね?」

 

「飛鳥先輩なりになにか考えがあるんですよ!きっと!!」

 

「それなら良いんだけどな」

 

 

 

4人が密会をしている最中でも飛鳥は馬券を買うおっさんのように耳裏に赤ペンを刺して睨めっこをしている。

そんな風景に4人は苦笑いしか出来なかった。

 

 

だが、飛鳥はある場所に目を付けるとその場所に丸をつけて咽喉マイクに手を当てる。

 

 

 

「全車輌に通達!この地は向こうに有利なのは明らかだ!」

 

『日野本!!それはどう言う・・・・・』

 

「まぁまぁ・・・えぇ~、これより臨時隠密作戦を伝えます」

 

『飛鳥さん、なにか良い案があるんですか?』

 

「忍者のように隠れるだけさ」

 

 

 

その意味ありげな言葉に誰も気付いてはいなかった。

飛鳥の大胆な作戦に・・・・・。

そうこうしている間に試合開始の合図が鳴り響くと作戦指示通りに各戦車は動き出す。

 

 

アンツィオ高校も動き出すがM13/40は動き出さずに停車していた。

それもその筈、操縦手であるラビオリがキューポラの上に立って深呼吸をしているのだから。

 

 

 

「ラビオリ!ドゥーチェがこの前の作戦でどうにか頼むってさ!!」

 

「ふふっ・・・あの方に私のすべてをぶつける時が来た」

 

「んっ?なんか言ったか?」

 

「・・・なんでもない」

 

「そっか!ペパロニの野朗がマカロニ作戦を決行するって言ってたぞ?」

 

「はぁ・・・バレなきゃいいけど・・・・・」

 

 

 

そう言ってM13/40のエンジンを始動させるといつものように森の中に入り込んで行った。

予想ならそろそろ接敵しても良い頃合いなのだが、前線に居るはずのペパロニからの伝令がない。

嫌な予感がしたラビオリはすぐに運転しながら声を荒げる。

 

 

 

「ペパロニから連絡は?」

 

「ま、まだありま・・・今、入りました!!目的地に到着したけど、敵影がないとの事です!!」

 

「マカロニ作戦はちゃんとしてるの?」

 

「はい!!ちゃんとすべてのデコイを置いたとの事です!!」

 

「あのばっかやろぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

報告を聞いたと同時にいきなり大きな声で怒鳴ると周りのメンバーや流石のリコッタも鳩が豆鉄砲を受けたような表情で驚いていた。

すると一気に車輌のスピードが増した事にリコッタは慌てて声を掛ける。

 

 

 

「ラビオリ!この前みたいに援護に徹して・・・・・」

 

「その作戦はもう出来ません!こちらはもう窮地に追い込まれていますから」

 

「どうしてだ?」

 

「デコイは11枚あるんです、それをすべて置いたって言うさっきの報告ならもう向こうに奇襲はバレてます」

 

「確かに・・・でも、敵影が見えないのはどうしてだ」

 

「隠れているんですよ」

 

 

 

 

 

『こちらアヒルさんチーム!敵車輌が私達を探しているみたいです!』

 

『こちらウサギさんチーム!こちらも反対の位置から確認出来てます!!』

 

『すっごい!?飛鳥の思惑通りじゃん!?!?』

 

「あの十字路にあったデコイのおかげでもあるけどな」

 

「危うく騙される所だったもんな?カリエンテ様!」

 

「ゆ、優雅なる幻影は心眼でしか見抜けぬのだ!」

 

 

 

大洗の全車輌は森の中でじっと潜んでいた。

向こうの作戦ミスのおかげもあって事前に話していた隠密作戦を決行中なのである。

念の為に後方からの攻撃に備えてアヒルさんとうさぎさんと後ろに忍ばせておいた。

他の4輌は敵の主力を囲うように左右に2輌ずつ分けての配置になっている。

 

 

優勢になりつつある状況下のはずなのに飛鳥は未だに地図と睨めっこをしている。

試合開始前にチェックした赤丸を用心深く再確認している。

そんな彼女になにやら緊張感を感じるメンバー。

すると飛鳥はそっと咽喉マイクに手を当てる。

 

 

 

「もうすぐ敵フラッグ車が来る・・・だが、油断は禁物だ。向こうも潜んでる可能性がある為に要注意だ」

 

『心得た!!』

 

『あいよ~』

 

『わかりました!!』

 

 

 

警戒を怠らないようにと指示をすると飛鳥は地図を閉じた。

 

 

 

「こっから激戦になる・・・覚悟はいいか?」

 

「えっ?このままのこのことやって来る敵フラッグ車を集中砲火で撃墜させて終わりじゃないのか?」

 

「それが一番良い結果だな。だが、こう言う戦場ではなにが起きるかわかんないのさ」

 

「そ、そう言われるとなんだか心臓がドキドキして来ちゃいますよ」

 

「・・・・・来たぞ」

 

 

 

真剣な表情で語りかけるリーダーの一言に全員がピリピリと感じる雰囲気の中玲那の声に全員が反応をする。

カルロ・ヴェローチェが1輌先行し、その後ろに敵フラッグ車のP40、セモヴェンテと続いている。

警戒していたM13/40の姿はない。

 

 

 

「確実に仕留める為にウィークポイントを狙え」

 

「・・・・・わかった」

 

「飛鳥さん!目の前の敵車輌急停止しました!!」

 

「チッ!!総員衝撃に備えろ!!」

 

「えっ?のわぁぁぁ!?!?」

 

 

 

飛鳥の叫び声と同時に轟音と共に衝撃が車内に走る渡る。

直撃ではなく弾けたのか飛鳥はインカムを強く耳に押し当てると他の車輌の情報を得ていた。

反対側に居たあんこう、カメさんチームの方には先程急停車した敵車輌からの砲撃を受けている模様。

こちら側に居たカバさん、ネコさんチームはどこから撃たれたのか解らない砲撃を受けた。

 

 

 

「ツバサ!2時の方角と11時の方角を至急に確認!」

 

「はい!」

 

「薫!止まってたら撃ち抜かれるぞ?」

 

「わかってるっての!!」

 

「カバさん生きてる?」

 

『この程度かすり傷だ!それより、我等はどうすれば?』

 

「2時の方角に高台を見つけました!そこからM13/40の姿が見えたり隠れたりしてます」

 

「カバさんはアタシ達に着いて来て!!あんこう!!カメさんの防衛任せられる?」

 

『大丈夫!みぽりんがなんとかしてみせるってさ!!』

 

「それは・・・重畳!!フォーメーション・・・神風!!」

 

 

 

車内に響き渡る声に待ってましたとばかりに笑顔になって配置を急いで変わる。

変わる際にハイタッチを交わす薫と飛鳥だったが、何処となくいつもと雰囲気の違う感じに薫は身体を震わせた。

いつもの優しい笑顔ではなく、戦いを楽しむ者の笑顔。

そして、配置が終わったと同時に飛鳥は口を開いた。

 

 

 

「最初からフルスロットルだから付いて来てね」

 

「・・・・・任せて」

 

「覇道を進むのであれば、我等はただ共に歩むのみ!!」

 

「特訓の成果を見せつけましょう!!」

 

「そんじゃま、どうぞ?隊長さん♪」

 

「戦場を制覇する!!パンツァー・フォォォォォ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なかなかやりますわね、あのM13/40」

 

「はい、完全に劣勢状態だったのにあの高台から援護射撃で窮地に一生を救われましたね」

 

「エクレールさんもあの奇襲にやられたのかしら?」

 

「・・・そうです」

 

「それにしても今日は飛鳥が車長じゃないじゃない」

 

「飛鳥はあぁ見えて砲手と操縦手のプロフェッショナルなのデース!!」

 

「・・・うぅ・・・なんでこんなメンバーで観戦をしなくちゃいけないのかしら」

 

 

 

聖グロ、マジノ、サンダースの陣営が何故か集まってスクリーンで繰り広げられている試合に夢中になっていた。

そんな中で弱小とも言えるマジノの隊長エクレールは1人で居ることに副隊長のフォンデュを恨んだと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ココから全力でドゥーチェを援護射撃する!絶対にやらせてはならん!!」

 

「・・・・・違う」

 

「この高低差を上手く利用してハルダウンをしながら確実に敵に砲撃をお見舞いしてやれ!!」

 

「アレが・・・戦姫のはずがない」

 

「ラビオリ!なにをさっきからぶつぶつ言ってるんだ!!」

 

「・・・・・もういい、私があのチャーフィーを落とせばすべてが終わる」

 

「リコッタ!Ⅲ突がこちらに向けて砲撃を・・・キャッ!?」

 

「怯むな!くっ・・・直撃じゃなくてもかなりの衝撃だな。他の車輌はどうだ!」

 

「敵フラッグ車とⅣ号戦車はドゥーチェと交戦中!!カルロ・ヴェローチェが2輌護衛に付いています!!Ⅲ突はカルパッチョのセモヴェンテM41がぶつかり合うように交戦を始めました!!」

 

「んっ?Ⅲ突の近くにはチャーフィーがいなかったか?」

 

「えっ?」

 

「・・・・・っ!?」

 

 

 

ラビオリは急発進させていた。

だが、その判断は正しかった。

後方に聞こえる着弾音にラビオリの身体にぞわっと鳥肌が立った。

それと同時にラビオリは鼓動が早くなるのがわかった。

そう、興奮しているのだ・・・彼女の試合を初めて観た時のように・・・そして、こうして戦える事に。

 

 

 

「キ・・・タ、キタ、キタキタキタァァァァッ!!!!」

 

「ラ、ラビオリ?」

 

「戦姫です・・・あの方が降臨されたのです」

 

「戦姫?」

 

「・・・・・来る」

 

 

 

 

 

「初弾は外れました!!」

 

「・・・今度こそ」

 

「秘奥義・瞬装填舞!!」

 

「掴まれ!お前らぁぁぁ!!敵を撃破しろぉぉぉ!!!」

 

 

 

ラビオリの予想通り・・・戦姫は現れた。

森から躊躇しない感じに前に舞い降りた。

その姿にリコッタは驚くと同時に車輌が動いたことに身構えた。

砲撃音が響くと砲弾はM13/40の車体を掠めた。

 

 

飛鳥は無言で戦車を動かしている。

だが、他の4人の闘志はメラメラと燃え上がっていた。

練習の成果を見せるべきにと一致団結した掛け合いが戦車内を響かせる。

 

 

 

「リコッタ!フラッグ車が裸単機になってしまったと情報が!!」

 

「なっ!?!?ラビオリ!!直ちにドゥーチェの援護に向かう!すぐに目の前のチャーフィーを・・・「無理です」・・・なに!?!?」

 

「状況が変わりました・・・この敵車輌を確実に落とさない限りドゥーチェを救うのも不可能です」

 

「くっ・・・厄介なヤツにマークされたなっ!!」

 

 

 

 

 

「カリエンテ、まだいけそうか?」

 

「覇王に心配されるとは我が至極なり」

 

「沙織!そっちの状況は?」

 

『敵フラッグ車を追い込んだよ!今から援軍が来る前に決着をつけるって!!』

 

「それじゃあ・・・向こうの主戦力であるM13/40はネコさんチームで食い止める」

 

『わかりました!飛鳥さん、無茶はほどほどにして下さいね』

 

「ほいよ」

 

 

 

みほとの通信を終えると飛鳥はパチンッと両頬を叩いた。

その光景にキューポラから顔を出して叫んでいる薫以外がビックリしたような表情をしていた。

だが、大きな深呼吸と共に飛鳥の目は鋭さが増した。

 

 

 

「弐連神風やってみる」

 

「弐連神風・・・ですか?」

 

「・・・・・長時間ドリフトです」

 

「やってみる・・・って、そんなの履帯が耐えられる訳ないっしょ!!」

 

「はいはい、いくよ~」

 

「・・・って、聞く気ないじゃん!!!!」

 

 

 

 

 

「あのスピード・・・リコッタ!相手は側部に回り込んでくる」

 

「本当か!?」

 

「間違いない・・・情報通りなら先回りして迎撃出来るはず」

 

「了解!砲手、指示通りに砲撃用意!!」

 

「(ふふふっ・・・コレで戦姫を倒す事が出来れば、私はあの方に認められるかもしれない・・・いやぁぁぁぁ!!!!もう、照れちゃうじゃない!!!!)」

 

 

 

猛スピードで迫り来るチャーフィーにも恐れずに指示通りに回り込んで来た隙を突く為に車内には緊張感が走る。

するとチャーフィーは予想通りに側面に回り込む体勢に入った。

 

 

 

「相手は右側面に来る!発射準備!!!!」

 

「了解!!」

 

 

 

瞬きも出来ない砲手はいつでも砲撃出来る様にトリガーに指を掛けて待っていた。

ラビオリも側面を晒さないように車体を動かしていたが、嫌な予感が走った。

リコッタは敵戦車が停車するのを待っていた。

だが、側面で止まらずそのままドリフトして背後に向かおうとする敵戦車に声を荒げる。

 

 

 

「ラビオリ!!相手が背後まで回り込んで・・・!!!!!」

 

「・・・・・っ!?!?!?」

 

 

 

リコッタが言い終わるよりも先に轟音と共に車体が大きく揺れるのを感じると全員が急な事に転げ回ってしまう。

そんな中背後からの衝撃にラビオリは何故か恍惚とした表情になっていたのは誰も知らない。

 

 

それと同時に敵フラッグ車の行動不能のアナウンスが全体に響き渡った。

そのアナウンスと同時に飛鳥は集中を解くように大きな背伸びをした。

すると勝利の雄叫びをあげる薫に他のメンバーも勝鬨を挙げる。

そんな中で飛鳥はポケットに忍ばせておいたお気に入りの棒付き飴を頬張るのであった。

 

 


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