「ルノーB1bis、ポルシェティーガー、ヘルキャット」
「いやぁ~・・・中々の代物だねぇ~」
「戦力が増えるならなんでもいいけどな」
戦車倉庫に並ぶ新戦力である3輌を眺めながら会長はにへら~と笑いながら干し芋をほうばっている。
その横では花蓮がファインダーを取り出し戦車の方に歩み寄った。
「こちらのルノーB1bisは風紀委員の方々に搭乗して貰う様に会長が先日勧誘を行って下さいました」
「んっ?戦車経験でもあるのか?」
「ないよ~」
「おいおい、そんなので良いのかよ・・・」
「まぁ、なんとかなるんじゃない?私達だってなんとかなってる訳だしさぁ~」
「戦車に乗ってくれるってだけでも助かるから別に構わないけどな」
「ビシビシしごいちゃっていいからねぇ~♪」
なんの根拠もないのにこんなにドッシリと構えている会長には時々驚かされてしまう。
確か、風紀委員は髪形がおかっぱに統一されている3人組と聞いている。
想像しただけでも飛鳥はクスッと笑ってしまう。
「次はポルシェティーガーですが、こちらは自動車部のメンバーから申し出てくれました」
「コーナリングなら任せてください!」
「ドリフト、ドリフト!!」
「戦車じゃ無理でしょう」
「いや、昔、II号戦車でドリフトしたことあるな」
「ひゅ~やるねぇ~・・・今度、車とか運転してみない?」
「あぁ、時間があればお邪魔するよ」
戦車を車と同等に扱うような自動車部のメンバーの会話には飛鳥も少し驚いていた。
だが、彼女達の話を聞いていて少しやってみようかな?と思ってしまう飛鳥も同類である。
「最後のヘルキャットですが、こちらは会長が推薦されるチームを起用させて頂きます」
「日野本・・・これには事情が・・・・・」
「いいんじゃないっすか」
「飛鳥ちゃん・・・理由とか聞かないの?」
「会長がなにか考えてるってのは解るんだけどさ、もう決めちゃったんならアタシはとやかく文句言わないですよ。こうやって戦車乗れてるのも会長のおかげだしね」
「日野本ちゃん、ありがと」
「どう致しまして」
嬉しそうに笑う会長に対して飛鳥も同じように笑って見せた。
「ですが、直前の戦力だった為に整備も完了していない為に今回のアンツィオ戦には参加できませんわ」
「ルノーB1bisとヘルキャットはなんとか次の試合ではいけそうだけど、ポルシェティーガーは厳しいかも・・・」
「その辺は任せて下さいよ、ちゃんとじっくりと整備して使い物になるように頑張りますから」
「それならアタシもバイトがない日には少しくらい手伝うかな」
会話だけが響く戦車倉庫内に突如として携帯の着信音が鳴り響く。
どうやら飛鳥のモノらしい。
「大事な話の最中だぞ!?マナーモードにしておけ、マナーモードに!!」
「はいは~い」
「会長、新戦力が使えないとなると現在の車輌数でなんとかするしかなさそうですね」
「そうなるねぇ~」
「秋山さんと小早川さんの諜報活動のおかげで切り札がP40と言うのは解りましたが、こちらにはない重戦車・・・太刀打ち出来るかわからないですわね」
「そうだねぇ~」
「私達が苦戦して勝ったマジノに向こうも勝ったんです!我々と同等、いや、それ以上の強敵のはずです!!」
「そりゃあヤバいねぇ~」
「会長!!そんな投げやりな返事はやめて真面目に考えて下さい!!」
「だってさぁ~日野本ちゃ~ん」
名前を呼ばれたのと同時に電話を切ると飛鳥は前髪を弄りながらいやらしい笑みを浮かべていた。
「それならちょっくらせんしゃ倶楽部に行きません?」
放課後、せんしゃ倶楽部に招かれたのは各チームの代表者だけである。
一回来たことのあるみほは驚かなかったが他のメンバーはこう言う店を初めてみるのか騒いでいた。
店番をしている店長の横を擦り抜けると飛鳥はスタスタと地下に続く階段を降り始めた。
「なにやら秘密基地のような感じだな」
「なんだかわくわくしてきますね!」
「飛鳥さん、何処に行くんですか?」
「そりゃあ、ブリーフィングルームだよ」
そう言って大きな二枚扉をゆっくりと押し開けるとそこには大きな一室があった。
真ん中に大きな大円形のテーブルがあり、それを囲むように椅子が並べられている。
奥には巨大な暗幕が掛かっており、映像を映し出す為だろうかちゃんと機器も揃えられている。
「日野本ちゃんやるねぇ~」
「飛鳥先輩が作ったんですか!?」
「店長の趣味だよ。去年はここで戦車道の公式戦の試合映像を見て楽しんでたよ」
「んっ?西住隊長が言うには決勝戦でしかテレビには放送されないはずじゃないか?」
「まぁ、一般的な映像ならそれぐらいしか見れないかもしれないね!」
不意に暗幕の裏から声がすると思えば、額にゴーグルを身につけたポニーテールの女性が腰に手を当てて全員の前に姿を見せた。
「ど、どちら様でしょうか?」
「紹介するよ、蝉堂 文(せんどう あや)フリーの新聞記者」
「ども!パンツァー新聞を出版しちゃってるんで以後、よろしく!!」
「パンツァー新聞って食堂にいつも置いてある小さな新聞じゃないですか!?」
「おっ、御贔屓にどうも~」
「それでぇ~?その蝉堂ちゃんがなにを見せてくれるのさ」
本題にしか興味のない会長はど真ん中の席に陣取ればいつものように干し芋をほうばる形で文に視線を向ける。
機嫌を損なわないように文はすぐさまあるモノを机の上に出した。
それは普通のラジコンヘリにも見える代物だ。
「コイツで上空から撮影したマジノとアンツィオの試合映像を今からお見せします」
「なに!?そんな事が可能なのか!!」
「文は昔からこう言うのが好きなんだよ」
「・・・・・と言うことは飛鳥さんの強襲戦車競技の時からの」
「知り合い・・・いや、戦友だな」
「それじゃあちゃっちゃっと映像見ちゃおっか?」
用意周到な文はすぐに映像を暗幕に映し出した。
上から映している為に戦車の動きがわかりやすく確認出来る。
それには他のメンバーも驚きの声を漏らしながら戦況を話し合っていた。
序盤はアンツィオのカルロ・ヴェローチェが敵陣に入り込んで陣形を掻き乱そうとしているようだが、マジノはそれに釣られる様子はなく迎撃でカルロ・ヴェローチェ2輌を撃破。
それに怯まないアンツィオは続け様に襲撃を仕掛ける。怯まない相手に動揺したのかルノーR35が2輌撃破される。
「ルノーR35を2輌も撃破した戦車は?」
「M13/40です!!」
「どうかしたの?日野本ちゃ~ん」
「さっきからあの戦車だけは突撃はせずに陣地を護り、隙を見つければ攻撃して撃墜させているんです」
話している間にもM13/40は中間地点に留まり、援護射撃をしつつ隙あらば撃破まで持ち込むと言った頭を使った試合を行っていた。
そんな戦法に飛鳥はずっと顎に手を添えたまま映像と睨めっこしていた。
「車長は伊達 龍琥(だて りゅうこ)去年まではヴァイキング水産高校でエースを務めておられた御方ですの。現在はリコッタと呼ばれていらっしゃるそうですわ」
「貴殿はマジノ女学院のエクレール殿ではないか!?」
「奥州筆頭・伊達政宗の末裔か・・・・・左衛門佐が聞いたらどうなるだろうな」
「それとこの方もM13/40には欠かせないキーマンですわ」
一枚の写真を手渡されて全員確認するもその写真に反応するのは飛鳥と意外な文であった。
見た目は目の下に隈が特徴的なミステリアスな少女である。
「この子・・・なにかあるの?日野本ちゃん」
「アタシのファン倶楽部の子」
「「「えええ!?」」」
まさかの一言に聞こえてくる砲撃の音と悲鳴じみた声が見事なハーモニーを奏でたのは驚いた。
コホンッと咳払いすると文が解り易く説明をし始めた。
「中学の時から飛鳥のファン倶楽部ってのがあったんだけど、設立当初からスッゴくアプローチをして来る女の子がこの子でさ、飛鳥の出る試合には絶対この子も見に来てたぐらいの熱狂的なファンなんだ!年も近かったから会話も弾んでいたし、仲は良かったんだけど・・・去年、飛鳥が大洗に進学してからは戦車系大会には一切出てなくてさ。だから、1年間会ってなかっただよねぇ~」
「昔からあの方は飛鳥様に付き纏っていましたしね」
「エクレールさんも知ってるんですか?」
「えぇ・・・薄影 憑莉(うすかげ ひょうり)!!戦姫は乙女の憧れそのモノなのです!!それなのに裏ではあの方と何度も何度も何度も・・・あぁぁ!!お、思い出しただけで胃が・・・・・うぅ・・・・・試合後になって気付いた時には腹立たしかったですわ」
「荒れてるねぇ~・・・」
「ですが、ひとつ気になったことがあるのです。あの戦法は戦姫の戦闘スタイルに似ているんですの」
「ははっ・・・なるほど」
飛鳥だけが納得したように笑う。
他のメンバーはわからない為にチラッと文に視線を集める。
「おほんっ!中学の時の飛鳥の戦法だよ!味方より目立たずに援護だけを意識した戦法・・・だから未だに無敗なんだよアイツは・・・」
「地味な戦法だと最初は姉さんにずっと怒鳴られてたけどな」
「でも、そのおかげで今の飛鳥先輩があるんですよね!!」
「それならこれからもその道を根性で進みましょう!!」
「昔のアタシも良いけど、今はみほの戦車道で戦うのが少し楽しいけどな」
「・・・・・飛鳥さん」
映像はもう終盤に近付いており、双方に砲撃戦が繰り広げられてるように見えた。
だが、その隙を逃さないとばかりにM13/40が森の中を走り抜けている。
「コレにすぐに対応出来ていれば・・・・・」
「味方フラッグ車を囮に使っていますよ!?」
「信頼か・・・はたまた無謀か」
「どちらにせよこの急襲により、私のソミュアS35は撃破されてしまいました」
「こりゃあ、警戒しないとヤバそうだねぇ~・・・」
「警戒を怠ったら・・・アウト」
「次は樹のせいで視界がかなり悪いですからね」
次の試合は森林地帯とも言えるぐらいの樹が多いエリアでの試合である。
「試合の方は応援に駆けつけますわ」
「ありがとうございます!エクレールさん!!」
「私達の分も頑張ってください、大洗のみなさん」
「チームメイトの次はファン倶楽部が相手かよ・・・さてと、試合の日までやることやりますか?」
全員が気合の籠もった声で「オォー!!」と叫び拳を突き上げた。