「ふぅ・・・やっと着いたか」
飛鳥はとある大きな建物の前でニィッと笑って見せた。
そうココは「せんしゃ倶楽部」の本店に位置づけされる戦車好きにはたまらない場所である。
品揃えも豊富で飛鳥がアルバイトしている場所とは桁違いな程に膨大な品揃えを誇っている。
所謂、戦車マニアの聖地でもある。
だが、そんな飛鳥の後ろから白いフリルの付いた傘を悠々と差しながら優雅に歩く少女が横に並んだ。
そっとハンカチを取り出すと額に見える汗を拭えば、身につけていた大きめのサングラスを胸元にぶら下げた。
「ココが噂のせんしゃ倶楽部本店ですか」
「花蓮さんはココに来たことあるんですか?」
「いえ、気になって調べたりはしてましたけど、こうやって自分自身でココに来るのは初めてですわ」
「ココは中学の頃から色々とお世話になった場所・・・ですね。暇があればココにある資料に目を通したり、たまには戦車の整備もお手伝いさせてもらっていましたからね」
「そう、貴女があれほど戦車に詳しい事にこれで納得が出来ますわ」
「まぁ・・・基礎知識だけですよ」
全く動じずに凛として話し掛ける花蓮に対して飛鳥も自然と受け答えを返した。
あまり会話もしたことのない2人ではあったが、自然と打ち解けている気がした。
同行者を募集して一番に来たのが彼女だったので最初は驚きもしたが、ただ単に彼女は戦車のことをもっと知りたいと言うのが移動中の話を交えて解ったのだ。
などと喋っていると不意に横を擦り抜ける様にリュックを背負った3人が姿を現した。
秋山 優花里。
阪口 桂利奈。
小早川 ツバサ。
3人は目的地である聖地を目の前にするとキラキラと目を輝かせていた。
「ひゃっほぅー!最高だぜぇぇぇ!!」
「やっと、着いたぁぁぁぁ!!」
「あいあいあいー!!」
「アレだと遠足に来た子供ってだな・・・」
「ふふっ・・・素直でいいんじゃないかしら?」
「そりゃあ、そうですけどね。じゃあ、ココで立ち往生もなんですから店内に入りましょうか?」
「・・・・・よしなに」
3人がなにやら熱く語り始めていたのだが、飛鳥はなにも言わずに店内へと入った。
すると涼しい空調と共に目の前には戦車パーツ、書籍やプラモデル、ファッション等の商品が所狭しと揃えられていた。
そんな光景に懐かしむ飛鳥ではあったが、花蓮は恍惚した表情で360度ゆっくりと舐め回していた。
そんな彼女を横目に楽しんでいるとふとある人物と目が合ってしまった。
「飛鳥ぁぁぁぁ!!!!」
「あら、お知り合いですの?」
「アレ・・・アタシの姉なんです」
大声を出して手を振ってくる人物に扇子で口元を隠して花蓮が飛鳥に尋ねた。
溜め息混じりにアレ呼ばわりした相手を指差して説明すると紹介された姉・焔は嬉しそうに近寄って来た。
「よう!こんな場所で会うなんて奇遇だな!!」
「戦車乗り同士だからココぐらいしか会う場所ないけどね・・・。それで、焔姉ちゃんはなにをしにココに?」
「掘り出し物がないかなっと、ちょっとした散歩だよ、さ・ん・ぽ!そんなお前達はこんな場所にまで足を運んでなにをしに来たんだい?」
「そりゃあ、戦力強化・・・って、所かな?」
「ほぅ・・・やるじゃん!!」
背中を大きく叩かれた飛鳥は痛がる素振りを見せるもニィッと笑うと勢い良くガツンッと拳を突き合わせた。
そんな光景を見ていた花蓮だったが、不意にある視線に気付く。
そう、その正体は・・・優花里であった。
「あ、あの・・・日野本 焔殿でありますか!?」
「んぁ?そうだけど・・・?」
「おぉぉ!!こんな場所で逢えるなんて光栄です!!」
「優花里先輩、えっと・・・飛鳥先輩のお姉さんってどんなお方なんですか?」
「はい!飛鳥殿のお姉さんにして、大学生大会で数々の賞を手にされている凄腕のお方なんですよ!!」
「あははっ・・・なんだか照れちゃうなぁ~」
などと照れながらもしれっとサインを狭まれると即座に応じる焔。
「おっ、飛鳥ちゃ~ん!」
「あっ、お久し振りです!三代子さん!!」
聴き慣れた声に振り返るとそこにはベレー帽を深く被って不敵に笑う女性が片手を挙げて立っていた。
その人物に飛鳥だけではなく、焔も頭を下げたのに対して他の4人もお辞儀をしていた。
「今回の件、本当にありがとうございます」
「別に構わないよ。向こうの店長からもアルバイトを頑張ってくれているのは聞いてたし、また戦車に乗り始めたんなら餞別がてらにって感じだから気にせず持っていきな」
「飛鳥さん、このお方は?」
「あぁ、自己紹介がまだだったね!私は筧 三代子(かけい みよこ)、ココの店長を任せてもらっている身でコイツらの師匠みたいなもんさ」
そう自己紹介を済ませて名刺を手渡されると花蓮もスッと自分用なのだろうか名刺を渡してから2人は強く握手を交わしていた。
すると反対の手に持っていた黒のバインダーファイルを飛鳥に手渡した。
「そこにある戦車ちゃんが今回の商品さ、どうだい?感想は・・・」
「ハハッ・・・こりゃあ、笑いが止まらないね」
「コレは・・・じゃじゃ馬・・・ですわね」
「お、驚きです・・・この戦車を見れるなんて・・・・・」
なにか意味ありげな三代子の発言に飛鳥はファイルの中身を見た途端に笑い出してしまった。
そんな飛鳥の異変にチームメンバーは気になって覗き込む。
戦車に詳しくないツバサと桂利奈の頭の上には?マークが飛び交う。
だが、花蓮はピクッと眉を動かし、優花里は驚いたように目を見開いていた。
そのファイルに載っていたのは、「M18ヘルキャット」である。
そんな訳で一行は戦車の収納されている格納庫へとやって来た。
優花里は一目散に戦車に駆け寄ると嬉し涙を流したまま頬擦りをしていた。
「三代子さん、本当にいいんですか?」
「地方でホコリを被って眠ってたみたいだから存分に活躍させてやっておくれよ!」
「高速なヒット・エンド・ラン戦法を得意とする戦車・・・火力、速度共に申し分はありませんが装甲面では脆すぎるのが欠点ですわね」
「ですが、これでも世界最速を誇った戦車なんです!」
「そうだねぇ~・・・簡単に言っちまえば、当たらなければどうと言うことはないって訳さ!!」
賑わう大洗のメンバーに対して焔も同じようにM18ヘルキャットを撫でると嬉しそうだった。
「それで、今度の対戦校はどことなんだい?」
「アンツィオ高校であります!」
「そうかい、じゃあアンツィオ戦はソイツの活躍も拝みたいから観戦にでも行こうかねぇ~」
「それならあたいもまた母さんを連れて行くので一緒に見に行きましょう!」
「いやはや、これは頑張らなきゃいけないかな?」
ふとなにか気になったのか桂利奈が手を挙げるとある質問を口にした。
「飛鳥さんのお母さんってなにされてる方なんですか?」
「それは私も気になります!!」
「そうでしたわね。日野本さんが差し支えないのでしたら是非、お聞きしたいですわね」
「う~ん・・・日野本流戦車道の家元」
飛鳥のサラッと出た一言に3人が大声を出して驚いていた。
その言葉に花蓮はなにか思い出したのか扇子を開くと口元を隠し険しい目つきになっていた。
「せ、先輩!前に流派には入ってないって・・・!?」
「だ・か・ら・・・アタシはちゃんと教わらずに自己流でここまで来たんだよ」
「日野本流・・・「皆の力を信じ、後悔せぬよう全力で戦え」」
「へぇ~・・・詳しいだねぇ~、そこの譲ちゃん」
「西住流、島田流の双方に引けをとらない流派と言うのは存じ上げています。苗字が一緒でしたからもしかしたら・・・と思っていましたが、貴女方のお母様のモノでしたか」
「でも、この教えってなんだか今の私達に似てますね!!」
「確かに、西住殿の考えと似ている気がします!」
それを聞いた飛鳥なんだか嬉しそうに笑ってM18ヘルキャットを小突いた。
「それなら次のアンツィオ戦も悔いの残らないようにやらないとねぇ~」
「任せて下さい!!この秋山 優花里、全力で挑んで見せます!!」
「私達も頑張ります!ねっ、桂利奈ちゃん!!」
「あいあいあいー!!!!」
「ふふっ・・・勿論ですわ」
そう意気込む全員は「えいえいおー!!」と大きな声と共に拳を突き上げていた。