単独で森の中をチャーフィーは駆け走る。
車内は無言に包まれていた。
向かっているのはみほが嘘で流した集合場所である128高地。
そこで少しでも数を減らすのが今回の作戦内容である。
目的地付近に到着。
すぐさま薫がキューポラから上体を出して索敵を開始した。
飛鳥は持って来ていたキャラメルを頬張ると大きく伸びをしてみせる。
玲那とカリエンテはお互いに励まし合い。
ツバサはぷるぷると子犬のように震えていた。
「来たよ~・・・シャーマン軍団が!!」
「数は?」
「8輌!」
「やっぱり無線傍受しているのはフラッグ車かぁ~・・・」
このことをツバサはすぐさまメールで拡散すると薫が車内に戻って来た。
「まだこっちが気付いていることには気付いてないみたいじゃん」
「あぁ・・・そいつの慢心のおかげでこちらにもまだチャンスはあるって訳だ」
「愚行は己が刃さえも脆くさせるのう」
「すぐに仕掛ける?」
「いや、正面からやり合ったら確実にこちらが不利」
「・・・・・奇襲、か」
「んっ?ちょっと待ってください」
作戦会議をしている時にツバサにあるメールが届いた。
ツバサは内容を把握するとカッと目を見開き、顔を上げるとすぐに内容を報告する。
「アヒルさんチームが敵フラッグ車を0765地点にて発見されたそうです!!」
「・・・・・お見事」
「私達も合流しますか?」
「しない」
「おいおい、じゃあどうするの?」
「そりゃあ、敵フラッグ車の方に援軍が行かないように足止めしかないだろ?」
飛鳥のいやらしい笑いに4人も釣られて口端を上げて笑って見せた。
各自が持ち場に着くと同時に飛鳥は咽喉マイクに手を当てた。
「みほ、そっちはなんとか出来そうか?」
『飛鳥さん!そちらは大丈夫なんですか!?』
「大丈夫、大丈夫!今からそっちに援軍が回らないようにしといてやるからさ」
『・・・っ!?飛鳥さん!そんな単独で相手出来る数じゃ・・・!?』
「任せとけ~」
『あ、飛鳥さ・・・!?』
みほが言い終わるよりも先に通信を切った。
飛鳥は静かにエンジンを起動させると車内の空気がピリッとするのが感じ取れた。
だが、双眼鏡で先程の敵車輌を確認していた薫が大声をあげた。
「飛鳥!敵が3輌だけ残してフラッグ車の援軍に向かうみたいだぞ」
「5輌か・・・こっちの車輌数と同じか」
「罠ですかね」
「慢心ガールとは違って敵の隊長さんはフェアに戦いたいんじゃないの?」
「それならアタシ達も3輌への奇襲は止めて後を追うぞ!!」
残った敵車輌にバレないように横を通り過ぎると援軍に向かった後を追うように駆け出した。
すると同時にツバサに通信が入った。
「沙織さんから連絡がありました!現在、敵フラッグ車を全車輌で追跡中!!」
「このまま行くとサンドイッチになっちゃうんじゃない?いや、ハンバーガーか?いや、サイズ的には小さいしな・・・」
「フッ・・・ビッグマックだな!!」
「それだ!!」
「アホ言ってると2人共戦車から放り出すぞ」
気付かれないように森の中を走っている最中にも大洗チームは敵フラッグ車との鬼ごっこが起きているようだ。
だが、そんな鬼ごっこを終わらせてしまうような脅威の轟音が突如として戦場に響き渡った。
「今のはデッカイ音なんなんだよ!!」
「・・・・・ファイアフライの17ポンド砲」
「もう追いつきやがったか・・・」
こちらが迂回している分先にシャーマン軍団が大洗を捉えてしまったのだろう。
「ツバサ!現状は?」
「前と後ろから砲撃で挟まれてしまってるそうです!!」
「そうか・・・敵の正確な位置を聞けるか?」
「やってみます!!」
「アタシ達も加勢しないとな」
その間にもファイヤフライの砲撃音がこの車内にも響き渡り、焦りと緊張が包み込んでいた。
ただ、飛鳥だけは口の中でころころと悠長にキャラメルを転がしていた。
表情には余裕な笑みを残して・・・。
「どうする、みぽりん!」
「ウサギさん、アヒルさんは後方をお願いします!カバさんと我々あんこうさんチームは引き続きフラッグ車を狙います!!」
『こちらネコさんチーム、絶体絶命・・・って感じ?』
「あっ!?飛鳥!!生きてたの!?」
『勝手に殺すなよ』
「不利な状況です。ですが、これが唯一のチャンスなんです!諦めたらここで終わってしまうんです!だから、飛鳥さん・・・いや、皆さんの力が必要なんです!!」
「西住殿・・・」
『あっはっはっ!いやぁ~みほの決意を聞いたからアタシから褒美をあげよっかなぁ~』
「そ、それって・・・・・」
『起死回生の一手』
言い終わったと同時に砲弾が放たれるのが通信越しに聞こえるのが伝わった。
ハッとしたように背後から迫って来るシャーマン軍団に目をやると見事に1輌が白旗を上げているのが確認出来た。
それと同時に森の中から飛び出すようにチャーフィーが姿を見せるとシャーマン軍団に背後にピッタリとくっ付いたのだ。
「Shit!チャーフィーがいないと思ったら隠れていたデスかー!?でも、さすが飛鳥デース♪もっと好きになっちゃいそうデース」
『敵は1輌よ、コンビネーションでなんとか出来るかしら?』
「OK!後ろは私達に任せてくだサーイ!!」
不意を突かれた一撃に悔しがるティナではあったが、想い人の活躍に目がハートになりかかっていたがケイの声にハッと我に返るとこちらに近寄って来るチャーフィーの相手をするべくケイとナオミに敵のフラッグ車の追撃に向かってもらい残った3輌でチャーフィー迎撃の為に転進した。
「飛鳥さん!いくらなんでも1輌で3輌を相手にするなんて・・・・・」
『アタシ達のことは気にすんな!お前はフラッグ車を叩く事に集中しろ!!』
「で、でも・・・・・」
『アタシ達が負ける前に決着させればいいだけ・・・そうだろ?』
「その通りです!飛鳥殿の頑張りの為にもこの試合勝ちましょう!」
「・・・・・飛鳥なら心配ないと思うぞ」
『へへっ・・・麻子にそう言われたらやるしかないな』
「飛鳥さん、ご武運をお祈りします」
『華、任せたよ』
それと同時に砲撃音が響いたかと思うとそこから飛鳥の声が聞こえなくなってしまった。
「ネコさんチーム大丈夫・・・だよね」
「西住殿・・・」
「私達は飛鳥さんの為にもこの試合・・・勝たなくちゃならないんです!!」
「はい!」
「・・・・・おぅ」
希望の5輌は必死に敵フラッグ車に喰らい付く。
だが、敵の隊長機とファイヤフライがその5輌を阻止しようと付け狙うのであった。
「3輌接近!!」
「玲那!捉えたら撃つんだ。自分の感覚を信じて自分のタイミングで敵を射抜け」
「・・・・・わかった」
「カリエンテ!装填速度がこの局面で一番の要だ、サボるなよ」
「血肉が滾り踊っている!我が灼炎の息吹(ブレイジングアンゲスト)をとくと御覧いれよう!!」
「ツバサ!2人が吹っ飛ばないようにサポートよろしく!!」
「はい!2人は責任を持って御守りします!!」
「薫!・・・・・あぁ、なんもなかったわ」
「おい!私にだってなんか・・・」
「行くぞ!」
「「「パンツァー・フォー!!!!」」」
3輌が同時に砲撃をお見舞いするも悠々と横を擦り抜けられるとチャーフィーはくるっと転進させると同時に3輌の背後に回りこむ形に持ち込んだ。
それに対して3輌もすぐには反応して転進しようとするが、判断の遅れた1輌の横っ腹に砲弾が見事命中。
だが、チャーフィーは止まる事はせずに不利な状況下でも仲間の援護をしようと味方を追う2輌へと走り出した。
「くぅぅぅぅっ!!私を相手すらしないなんて飛鳥でも許さないデース!!」
自分達など眼中にないような行動に熱くなったティナは残った1輌と一緒にチャーフィーを追う。
そんな光景と目の前で味方に砲撃している2輌を交互に見た後に咽喉マイクに手を当てる。
「このまま突っ込むんだよな」
「そのつもりだが?」
「正気かよ」
「飛鳥さん!アヒルさんチームとウサギさんチームがファイアフライに撃墜された模様です!!」
「こりゃあ・・・尚更注意を引かなきゃな・・・」
「・・・・・覚悟は出来てる」
「もう!どうにでもなれぇぇぇ!!」
薫の叫び声が木霊する中で玲那はある戦車に目掛けて砲撃を仕掛けた。
後ろから迫るグリズリーやシャーマンじゃなく、隊長機を狙うでもなく、・・・・・ファイアフライに。
「・・・・・チッ」
『ナオミ!ココは私が引き受けるわ・・・Ⅳ号が上からフラッグ車を狙うつもりよ』
「・・・Yes,ma'am」
ファイアフライを釣ることは出来ず、逆に隊長機がファイアフライへの進路を塞いで来てしまった。
「ははっ、隊長機が釣れた」
「笑ってる場合じゃないから!」
「ファイアフライがあんこうチームを狙っています!」
「おいおい、後続も追いつきそうだぞ!?」
「なら、こうすればいい」
「ほわっ!?」
いきなりなんの合図もなく急停車をすれば、後続の2輌が両脇を擦り抜けたのだ。
薫の情けない声が車内には聞こえるがそれと同時に放たれた砲弾はシャーマンの後方エンジン部分を貫いていた。
喜ぶのも束の間、こちらにゆっくりと向けられる隊長機の砲塔に飛鳥は反射的に反対方向へと発進させた。
砲撃を見事に回避するが横にピッタリとグリズリーが喰らいついて来る。
「グリズリーがかちこんで来やがった!!」
「めんどくせぇ・・・なっ!」
こちらからもガツンッとぶつけて行くとグリズリーも何度もこちらに体当たりをかましてくる。
だが、薫はもう一方の隊長機に目が行く。
「隊長機の砲撃が来る!!」
「わかってる!」
グリズリーが離れようとするその一瞬に感覚を研ぎ澄ますと予測していた通り離れたと同時に隊長機の砲撃がこちらに飛んで来た。
不意を突く一撃なら直撃を免れない。だが、飛鳥もグリズリーとは反対方向に移動しており、砲弾はなにもいない地面に着弾。
転進して迎えようとしたその瞬間だった。
遠くから聞こえた轟音に飛鳥はハッとした。
「あんこうチームがやられたか!?」
「あ、あんこうチーム・・・行動不能!」
その朗報に唇を噛み締める。
だが・・・・・。
「敵、フラッグ車も行動不能です!!」
《大洗女子学園の勝利!!》
「うおっしゃぁぁぁ!!!!」
全体に響き渡るアナウンスに薫はキューポラから飛び出すと大きな声で勝鬨をあげていた。
車内ではツバサ、玲那、カリエンテと肩を組み合い涙を流すほど喜び合っていた。
そんな雰囲気の中で飛鳥は咽喉マイクに手を当てる。
「勝てたな・・・」
『飛鳥さん!あ、あの・・・』
「やられてないよ。逆に2輌大破させてやったっての」
『ありがとうございます!飛鳥さんのおかげで勝てました』
「いんや、アタシはなにもしてないよ、今回はみほ隊長のおかげですよ」
『んふふ、ありがとうございます』
「ははっ、こちらこそ」
2人は嬉しそうにそう口にするとお互いに通信を切って勝利に盛り上がる仲間の所へ駆け出して行ったのであった。