公式戦第1回戦が始まった。
最初は指示通りに森の中を進むことになった。
右側をウサギさん、左側をアヒルさん、中央をネコさんチームが偵察をしながら慎重に戦車は前進。
後方ではフラッグ車のカメさんを護るようにあんこうとカバさんが陣取っている。
ネコさんチームは停車すると飛鳥が首に掛けてある双眼鏡で周りの索敵を開始した。
戦場の中だと言うのに静かな森の中には小鳥のさえずりが響くように何故か静けさが嫌な違和感を放っていた。
「敵はもう潜んでるんでしょうか?」
「それは考えられるが・・・妙だな」
「なにが?」
「・・・・・静か過ぎる」
この異変に気付いた飛鳥はすぐに咽喉マイクに手を当てると左右に展開しているチームに通信を繋いだ。
「こちらネコさんチーム!状況を頼む」
『こちらアヒルさんチーム!敵影ありません!!』
『こちらウサギさんチーム!シャーマン3輌を発見しました!!これから誘き出して・・・ハッ!?』
「見つかったのか!?」
『いえ、シャーマン6輌に包囲されちゃいました!!』
先制されたことに舌打ちする飛鳥だが、すぐに薫の背中を蹴り飛ばすと悲鳴に似た声と同時に戦車は動き始めた。
「みほ!!」
『はい!ネコさんチームはウサギさんチームの援軍に向かって下さい!私達もすぐに向かいます!!』
「ウサギさんチーム・・・無事でしょうか」
「アイツらだってもう逃げ出さないさ、それに諦めたらそこでおしまいだ・・・って、見えた!!」
全速力で右側へと走りこんでいると目の前に敵戦車に追われるウサギさんチームを捉えた。
すると声に反応するかのようにゆっくりと砲塔も動き出して敵戦車の集団に狙いが定まっていた。
飛鳥が戦車の中を見れば、もう玲那はトリガーに指を掛けて照準器を覗き込んでいた。そう、車長の号令を待っているのだ。
「放てぇぇぇ!!」
号令と共に放たれた砲弾は見事に敵戦車に命中はするが、致命傷にはならずかすり傷程度となった。
だが、目的である注意を逸らさせることには成功したのか3輌はこちらに向かって砲塔を動かし始めたのであった。
ウサギさんチームとは違う方向に逃げようとしていたが、不意に感じ取った感覚に薫の背中を爪先で蹴った。
ブーツの爪先だった為に悲鳴と共に戦車は急停止をしたが、それは功を奏したのか目の前を砲弾が通り過ぎたのだ。
先程の6輌とは違う別の方角から3輌が迫って来るのが見えた。しかも、その先陣にはティナが乗っているであろうグリズリーを確認した。
「Yes!アリサの指示通りに敵を包囲出来たデース!!」
『今日のアリサ冴えてるわね!なんでわかっちゃうのかしら』
『女の勘ですよ』
「oh!さすがデース!頼りになりマース♪」
『ティナ・・・アレが噂の戦姫のリーダーか?』
「そうですヨッ!ナオミ!!」
『・・・・・楽しめそうね』
ナオミの砲撃を感覚だけで避けたと言うことにナオミは通信を切った後に口端を上げて自分が高揚しているのを感じていた。
ガムをくちゃくちゃと少し噛んでいたと思えばまたゆっくりと照準器を睨みこんでいた。
ティナがキューポラから出た時にはチャーフィーはすぐに転進して仲間と合流しようとする後姿だった。
グリズリーは後を追うように速度上げるとティナは持ち場に戻った。砲弾を片手に・・・・・。
「9輌もこの森に投入なんて大胆な作戦だな」
「向こうの方が数は多いですからこう言う作戦で来るのも珍しくないんじゃないですか?」
「おいィ!?さっきから私飛鳥に蹴られまくって背中に痣とか出来るレベルだぞ!!」
「スマン、反射的に」
「反射的に・・・っで、納得出来るかぁ~!!今日勝ったらお前の奢りでスイーツ食べ放題に行くからな!!」
「それくらい奢ってやるよ」
「絶対だかんな!!」
涙目の薫ではあったが、契約が成立したのに対してパァーッと笑顔を取り戻すと飛鳥に人差し指を立ててからまた操縦に専念し始めた。まるで子供を相手しているようだ。
「飛鳥さん!あんこうさんチームが合流して南東に進むようにらしいです」
「アタシ達が先行すると伝えてくれ」
「はい!!」
4輌が合流をしたと同時に道を切り開くようにチャーフィーは速度を上げて先頭を突っ走っていた。
だが、飛鳥は目の前に現れた2輌の敵戦車に驚いていた。
自分達の行動を読んでいるかのような待ち伏せに飛鳥は眉を潜めながらも咽喉マイクに手を当てた。
「敵戦車が2輌回り込んで来てるぞ」
『撃っちゃった方がいいですか?』
『いえ、このまま全力で進んで下さい!敵戦車と混ざってください!!』
『了解!リベロ並のフットワークで行きます!!』
「こちらはちょっかいを掛けるから遠慮なく突っ込め」
『あいあいー!!』
「玲那!撃破しちゃってもいいから・・・発射!!」
「・・・・・了解」
速度が上がって照準が定まりにくい最中でも玲那は目の前の敵戦車に砲撃をお見舞いする。
するとこちらの砲撃に反応するかのように向こうも迎撃するように砲弾を浴びせて来た。
徐々に近付く戦車だったが、ギリギリの所で玲那の撃った砲弾が1輌の履帯を捉えることに成功した。
その隙を見逃さずに4輌は敵戦車の間をすり抜けてピンチを脱することに成功したのであった。
「フフッ・・・我が灼眼を超える程の力を持つ者が相手に居ると見た」
「確かになんか先を見透かされてるって感じだよねぇ~」
「まさか・・・・・」
ついさっきのサンダースの動きに違和感を感じた飛鳥は空を見上げた。
空は綺麗な青空・・・だが、その場所には不釣合いなモノも浮かび上がっているのが見えた。
空を見上げていると不意にズボンを引っ張られるのに対して戦車内を覗くと何故か全員が携帯を取り出して口パクをしていた。
そんな光景に首を傾げる飛鳥だったが、自分の携帯に目をやると不適な笑みを浮かべていた。
『目標はジャンクションに伏せてるわ・・・囮を北上させて本隊はその左右から包囲!!』
『なんでそんなことまでわかっちゃう訳~?』
『女の勘です』
「Oh!アリサスゴいデース!!敵の動きがわかるなんてビックリデースよ!!」
盛り上がるサンダース側ではあったが、ただ1人ナオミだけは先程の攻防を振り返っていた。
そう・・・去り際に見せたチャーフィーの砲撃にである。
普通ならあんな場面で砲撃を撃つのも困難な状況であるにも関わらずチャーフィーの砲手は車輌に直撃させたのだ。
『ティナのおかげで楽しめそうだ』
「Wonderful!もっともっとEnjoyしていくデース!!」
『OK,OK!!そしてこのまま勝利を掴むわよ!!』
「「「Yes,ma'am!!」」」
サンダースの車輌は意気揚々とジャンクションに入り込んで行った。
すると目の前で土煙が見えたのに最前線に居たティナが喜ぶように口笛を鳴らした。
『チャーリー、ドッグはC1024Rに急行!見つけ次第攻撃!!ティナはフォローに入ってあげて』
「アイアイサ~♪」
2輌の後ろを少し離れた位置にてグリズリーはフォローに回っていた。
だが、2輌が目的地の場所に着いた時には敵車輌すら見えずにいたのである。
それにはティナも首を傾げていたが、グリズリーが2輌をフォロー出来る位置に到着した瞬間だった。
悲鳴にも似た声が響いたかと思うと砲撃の嵐が2輌を包み込んだのだ。
突然のことにティナも唖然としていたが、ハッとしたように砲手に援護射撃を命じた。
「アリサ!ドッグチームがやられたデース!!」
『えええっ!?』
『なにっ!?』
『Why!?』
「さすが飛鳥の居るチームデース・・・」
まさかの出来事に驚きを隠せないサンダース陣営。
だが、その裏で大洗陣営はある作戦を決行していたのである。
「まさか本当にみほの読み通りとはな」
「相手の策を逆手に取って倍返し・・・!ってね」
「灼眼の力も備わっておるからこれぐらい造作もない」
さっきの戦闘後に沙織から通信ではなく、全員に対して一斉にメールを送ってきたのだ。
その内容は通信傍受機が打ち上げられていると言う内容であった。
あの時に見えた不釣合いのモノがそうだと思える。
抗議をした方がいいと言う声も出たが、みほはこれを逆手に嘘の情報を通信で流して本当の情報をメールでやり取りする事を決行したのだ。
「・・・6対9」
「まだ劣勢だけど、向こうはまだ気付いてないはずです!!」
「それじゃあ・・・やりますかアレを」
「あっ・・・はい!!」
「サンダースに私達の力見せちゃいますか」
「・・・・・今回は成功させる」
「邪悪なる雲に一筋の光を射し照らさん!!」
飛鳥の一言で全員のやる気が漲って来るのが目に見えてわかった。
飛鳥がオープンフィンガーの黒手袋を装着するとそれと同じお揃いのモノを他の4人も嬉しそうに装着した。
そして、全員が配置に付くと大きな深呼吸の後に飛鳥が大声で号令を出した。
「神風作戦開始!!」