「ねぇ、みぽりん」
「どうしたの?沙織さん」
「いや、なんかツバサちゃんが神風作戦を決行するって」
そんな作戦は聞いた事がない。みほは神風と言う言葉になにか引っ掛かるがそれを察したように麻子が口を開いた。
「神風特別攻撃隊の事じゃないのか?」
「そ、それだったらFチームは捨て身覚悟で突撃するって事じゃないんですか!?」
「えええええ!?みぽりん、早く止めないと!!」
だが、時はもう既に遅かった。
『こちらFチーム!神風作戦開始しま~す♪』
「薫!なに勝手なこと言ってんのよ!さっきみぽりんが言ってた作戦を・・・」
『大丈夫、大丈夫!なんとかなるからさ』
「無理はしないで下さい」
『ありゃ、初めて西住さんと話せたかも・・・』
「あっ・・・その・・・」
『大丈夫だって♪こっちには最強の操縦手がいるからさぁ~』
『薫、お前黙ってないと戦車から追い出すぞ』
「おぉっ!!飛鳥殿が操縦しているのでありますか!?」
『本試合で必要になるかもしれないからな』
「それでは・・・バトンタッチ作戦と神風作戦を同時に行います!!」
みほは作戦を止める訳でもなく、信じているのかそのまま作戦の続行を進めた。味方と交差するタイミングにFチームも神経を集中させていた。
「派手に動き回るから舌噛まない様に」
「サラッと怖いこと言うねぇ~・・・」
「おまけに2輌撃墜する」
「うへぇ~・・・強気ですこと」
「そろそろ交差ポイントに入ります!!」
向こうから味方車輌とそれを追う敵車輌が迫って来ている。それを他のみんなは素通りして追って来た車輌を迎撃する作戦みたいだが、Fチームは敵車輌の正面に突っ込んでいった。対峙した敵車輌はさぞかし度肝を抜かれただろう。
体当たりだろうと思った直後にチャーフィーは砲撃を開始。そして、間髪入れずにもう1発の砲撃音が聞こえた。
チャーフィーがなにかしたのだろうか土煙がゆっくりとなくなるとそこには2輌のR35から白旗をあげさせたチャーフィーがゆっくりとその場から逃げる姿が見えた。
「みぽりん!Fチームが一気に2輌撃破成功だって」
「やりますわね!」
「流石、飛鳥殿です!!」
「なにが起きたかさっぱりわからなかったな」
「・・・はい」
だが、チャーフィーの中ではある事件が起きていた。
「斬子ちゃん大丈夫なの!?」
「うっ・・・だ、大丈夫・・・」
「ツバサ、車長を頼む!薫は操縦を頼む」
「任せとけって!」
「カリエンテ様はそこで休んどけ」
「だ、だが・・・・・」
「無茶させちゃったからな~ゆっくりと休んどいていいよ」
「玲那も休め」
「・・・・・私まで休むなんて」
「心配するな」
先程の作戦時に斬子が吹っ飛んでしまったのだ。ドリフトをするように急旋回をした時に無理をしてでも装填したからかもしれない。そして、照準器を覗き込んだままだった玲那も両脚で踏ん張れなくて軽くだが怪我をしてしまったのだ。
成功してもこうして怪我人を出してしまうならこの作戦の意味がない。そう思っていたが・・・・・。
「初めて・・・成功した」
「努力は無駄にならん!覇道は我らを見捨てぬ!!」
「次回は無傷でな」
怪我人である2人だが、あの一瞬だけでも三位一体になった事に玲那は嬉し涙を流し、斬子はギュッと拳を握り締めて喜びを噛み締めていた。そんな2人を目の当たりにした飛鳥はもっと練習が必要だということが実感できた。
だが、まだ試合が終わった訳ではない。
「味方が乱戦状態!数で押しています!」
「ちょっかいでも出すか」
「ここから撃つのか?味方に当てるなよ!」
「誰に向かって言ってる」
戦車はゆっくりと停車すれば、砲塔がゆっくりと乱戦状態のエリアに狙いを定める。目の前では目まぐるしく敵と味方が撃ち合いを繰り広げている。そんな中飛鳥は自分で装填すれば、躊躇せずにトリガーを引いた。
砲弾は吸い込まれるように敵の履帯に命中。その瞬間を見逃さないように近くにいたEチームが側面装甲をぶち抜くことに成功し、敵車輌からまた白旗をあげることに成功した。
「あの桃ちゃんが砲撃当てたぞ!?」
「やるじゃん、桃ちゃん♪」
「・・・嬉しそうだな」
「いや、別に」
表情に出ていたのか飛鳥は誤魔化すように照準器を覗き込んだ。あのせんしゃ倶楽部での一件以来出来る限り放課後には飛鳥が居る時だけマンツーマンでの秘密訓練は行われていた。桃はあんなに気が強いイメージだが、練習の時は泣くは弱音を吐くはでいつもの雰囲気とは別の人物であった。
だが、彼女は諦めず投げ出さずやって来た。その結果がちゃんと発揮出来たから今頃彼女は泣いてるかもしれないだろう。
一気にこちらが数では圧倒的に有利となり、全車輌で畳み掛けようとしたがマジノの急な煙幕展開によって大洗チームは深追いはせずにやり過ごした。
「みほ、どうする?」
『後を追います!ですが、周囲を警戒しつつ行きましょう!!』
「ここからは警戒を厳重に」
「はい!!」
「この森の中・・・なにか嫌な予感がする」
「同感だな」
視界の悪い森の中を大洗チームは前進している。斥候役として前にいるM3とチャーフィーは必死に敵影を発見しようと試みていた。
すると砲弾が地面に着弾する音が車内に聞き取れた。進行方向前方にソミュアが姿を見せていたがすぐに反転をすると逃げ出してしまった。
「梓!ソミュアを追撃するぞ」
『了解です!』
「・・・罠じゃないか?」
「可能性は高いな」
そう言った矢先。
「覇王!BとCが堕ちた!!」
「Ⅲ突が落とされたか」
「マジノが撃ってきたぞ!!」
『飛鳥さん!次の丘を登った所で二手に分かれます!!』
「それなら2・2に分かれるか?」
『いえ、3・1で行きます!飛鳥さんは2チームの力になって下さい!!』
「OK」
そう言ってⅣ号は右側へ進路を変更した。チャーフィーが左側に進路を変更するとM3と38Tも後ろに着いて来た。
すると敵も車輌を1・2に分けた。こちら側に来たのは、ソミュアS35とルノーB1bisだ。
『日野本ちゃん、ここからどうする?』
「考えてませんよ」
『なっ!?貴様正気か!?!?』
「でも、ここはマジノの庭。逃げ続けるのは避けたい」
『それなら良い作戦を思いつきました!!』
「聞かせてくれ」
梓が考えついた作戦に一同驚きを隠せずにいた。だが、そんな中で滅多に笑わない飛鳥が声を出して笑ったのだ。
それにも一同呆気に取られていたが、急に笑い声が消えると飛鳥がゆっくりと口を開いた。
「本当に覚悟はあるんだな?」
『はい!』
「会長もそれでいいですか?」
『その作戦に賭けるしかないっしょ』
「じゃあ・・・行きますか」
チャーフィーが斜面を下るとそれを追うようにルノーB1bisが後を追ってやって来た。
仲間の2輌から離れるようにチャーフィーは遠ざかって行く。車内では玲那と斬子が元の配置に戻っている。
そして、キューポラから上体を出した飛鳥はソミュアS35から逃げるM3と38Tを見ていた。
「心配か~い?」
「全然」
「それにしても大胆な作戦だねぇ~♪」
「アタシ達だけでコイツを倒してください・・・だからな」
付いてくるルノーB1bisに振り返ると相手の砲撃が丁度飛んで来るタイミングだった。だが、飛鳥は動じることなく目の前の戦車を睨む。
「一瞬でカタをつける」
「・・・・・どうやって?」
「斜面を駆け上がれ」
「全速力!!」「ヴィント・シュトゥース!!」
ノリノリで薫と斬子が叫ぶと一気に加速をし始めたチャーフィーは斜面を駆け上がる。それに続いてルノーB1bisも斜面を駆け上がるがそれは罠だった。チャーフィーが頂上付近に差し掛かった瞬間に飛鳥はなにかを放り投げたのだ。それは一瞬にして煙幕を展開させルノーB1bisは煙の中の駆け上がる。
だが、ルノーB1bisは屈することなく頂上に到達。しかし、煙の晴れた先にはチャーフィーの姿は見当たらない・・・と次の瞬間ルノーB1bisに凄まじい衝撃が走ったのと同時に白旗があがった。
「上手くいったな」
「我らに敵なし!!」
「私ってば飛鳥より上手いんじゃな~い?」
「まぁ、頼りにさせてもらいますよ」
「いしし~♪」
頂上についた途端に煙幕展開と同時に急旋回で敵車輌の左側を狙えるように停車して待ち伏せをしたのだ。
一歩間違えれば、登って来た斜面に真っ逆さまのはずだが、煙の中でも精確に薫は止めた。
自分では理解していないだろうが、かなりの高技術である。
援護に向かおうと戦車を動かしたタイミングでマジノ女学院の全車行動不能のアナウンスが響き渡った。
そう、我々大洗女子学園の初勝利である。
ここは全国大会抽選会会場。
抽選を引くのは隊長のみほがやるのが決まっている為に飛鳥はAチームのメンバーと一緒に居た。
「飛鳥!Fチームのみんなは?」
「休暇を与えた」
「あはは・・・なんだか言い方がおじさんみたいだよ」
「飛鳥殿!一回戦はどこになるんですかね!?」
「聖グロにリベンジしたいけどな」
「飛鳥・・・目がマジなんだけど・・・・・」
などと賑わっていると壇上にみほが出て来た。おどおどとした彼女はゆっくりと箱の中に手を突っ込むと1枚のプレートを出した。
「8番」
「対戦相手は・・・サンダース大付属高校ですわね」
「初戦から強豪か」
「強いの?」
「優勝候補の1つです」
「まぁ・・・やるしかねぇ・・・か?」
飛鳥は席を立ってこの会場を後にしようとしたが、ある人物が目の前に立ちはだかった。
「・・・・・アスカ?」
「げぇ・・・ティナ」
「Oh!マイハニー♪」
ティナと呼ばれた金髪で巨乳美女は急に飛鳥に飛び付くと熱いキスを交わした。それには一緒にいたAチームのメンバーも顔を真っ赤にしてただじっと見守る事しか出来ずにいた。やっと解放された飛鳥はふらつきながらも椅子の背もたれに手を付くとなんとか持ちこたえることに成功していた。
「あ、飛鳥殿・・・大丈夫でありますか?」
「はぁ・・・これくらい慣れてるから」
「えええ!?い、いっつもこ、ここんな激しいキスしてるの!?」
「どうしてお前が慌てるんだ」
「あれ?ティナって・・・もしかして・・・」
「Oh!ワタシのこと知ってるなんて通デスネー♪」
「も、もしかして・・・この人有名人とかなんかなの!?」
「たぶん・・・違うぞ」
沙織はずっとあたふたとしているが麻子と華はティナの顔をじっと見つめていた。
そんな熱い視線にくしゃくしゃと自分の頭を掻くと照れ臭そうに口を開いた。
「そうデース!ワタシは飛鳥のマスターなのデース♪」
「そうなんですか?飛鳥さん」
「ありえん」
「ホワァット!?」
きっぱりと断わられたティナは落ち込むように肩をガクンと落として見せるが、すぐに立ち直って立派な胸を強調するように腕を組むと不適な笑みを浮かべていた。
「そ、それは別に気にしないデース!」
「顔に出るタイプみたいですね」
「・・・かなり引きずってるな」
「コソコソとうるさいデース!一回戦では痛い目に見せてあげるデース!!」
「「一回戦?」」
首を傾げる全員に対してティナはどや顔で胸を張ると置いてあった上着を羽織ると左の襟元にはちゃんとサンダースの校章が付いてあった。
「お前が敵って訳か」
「そうですネ~♪飛鳥とは戦うことなんてなかったから楽しみデース!!」
「そうだな」
「手加減はなしデースよ~」
「加減なんて出来ないから安心しろ」
「それなら良かったデス♪試合の日が楽しみになりましたヨー!!バイバ~イ♪」
ティナは大きく両手を使って手を振ると会場を出て行く仲間を見つけて駆けて行った。
それを見守る5人は去って行くサンダースの背中を見ていた。
「それにしても戦車の保有台数全国1位の強豪校だ。初戦はどんな編成で来るか・・・」
「あら?大洗の皆さん」
「マジノ女学院のエクレールだっけか?」
「戦姫に覚えて頂いてるなんて光栄ですわ」
「あっ!?そうそう、飛鳥ってなんで戦姫って呼ばれてるの?」
「まぁ・・・同じチームに居るのにそんなこともご存知ないのですか?」
エクレールの言い方に少しムッと不機嫌そうな表情を見せる沙織に一回咳払いをするとエクレールは説明を始めた。
「参加した強襲戦車競技では負け無しの強さをお持ちだからこそ戦姫と呼ばれているのですわ」
「やっぱり飛鳥って凄いんだ」
「それでは先程のティナさんはどう言うお方なんですか?」
「まぁ、同じチームメイトだな」
「私は彼女から色々とお伺いしていました」
「だから会った時に戦姫ってワードが出た訳だ」
「それもありますが、私はただ単に貴女の一ファンとして貴女の事を知っておりましたから」
「それは光栄ですこと」
「・・・・・っで、次の試合はどうするんだ?」
目がハートになっているエクレールを気にせず麻子は低い声で問い掛ける。
それにはさすがの飛鳥も腕を組んで悩むしかなかった。
だが、そんな中ある人物の中では名案が思いついていたのであった。