僕と幼馴染と友情物語   作:sata-165

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今回は雄二と翔子のウェディング体験です。



ウェディング体験

雄二Side

 

「では、ウェディング体験の準備がありますので、霧島様はこちらのスタッフについて行っていただけますか?」

 

会場に入ると係員がそう言い、入り口付近にいた30前後の女性スタッフが前に出てきて頭を下げる。随分と礼儀正しいな、見た目はいかにも業界人といった風貌だが

 

「はじめまして。貴女のドレスのコーディネートを担当させて頂きます。一生の思い出になるようなイベントにする為、お手伝いさせてください」

 

そう言ってスタッフは翔子に笑顔を向けた。本物のスタイリストまで用意するとは如月グループはジンクスを作るために随分と力を入れているんだな

 

「ってことは、俺は長い間待たされるのか?」

 

ドレスを着てメイクをするってことは何時間もかかりそうなイメージだが、その間俺はどうすればいいんだ?

 

「ご安心ください。スタッフは熟練のスタッフを用意しておりますので、一時間弱で用意は終わります。坂本様の準備もございますので待ち時間はあまり無いはずです」

 

俺の疑問に係員が答えた。本物の披露宴とかってわけでもないから、ある程度で済ませるのか?まぁ他のアトラクションとかも見て回りてぇからちょうどいいか

 

「では、案内いたしますので私についてきて下さい」

 

俺は係員の案内について行った

 

 

 

 

「花嫁様の準備が整いましたのでステージの方でお待ち下さい」

 

「あぁ、わかった」

 

俺は係員の案内に従ってステージ裏へと向かう。しかし、時間を確認して見たが40分程度で支度はすんだようだ。慣れているとはいえ速いな

 

≪皆様、本日は如月ハイランドのプレオープンイベントにご参加頂き、誠にありがとうございます!≫

 

会場の方から大きなアナウンスが響いてきた。しかし見える範囲だけでもすごいセットだな、天井を覆いそうな量のスポットライトにバルーンや花火、電飾なんかはこの規模の会場に使うものとは思えないほどだ

 

Side out

 

一輝Side

 

≪皆様、本日は如月ハイランドのプレオープンイベントにご参加頂き、誠にありがとうございます!≫

 

オレたちが会場で豪華な料理を食べ終えたあたりで会場にアナウンスが響き渡る

 

≪なんと本日ですが、この会場に結婚を前提としてお付き合いをしている高校生のカップルがいらっしゃっているのです!≫

 

雄二も大変だな。こんな大衆の面前で曝しものにされるなんて、オレたちの席は会場の前側なので会場の全貌は分からないが、入った時の広さからすると数百人は入れそうだ

 

≪そこで当、如月グループはそんなお二人を応援するための催し物として【如月ハイランドウェディング体験】をして頂きます≫

 

『ちょっとおかしくな~い? アタシらも結婚する予定なのに、どうしてそんなコーコーセーだけがトクベツ扱いなワケ~』

 

不愉快な口調の頭が沸いてそうなチャラいカップルが司会者の方へ向かう

 

≪あ、あの、お客様。イベントの最中ですのでどうか――≫

 

『あぁっ?!グダグダとうるせーんだよ! オレたちゃオキャクサマだぞコルァ!』

 

茶髪で顔中にピアスを付けた男が司会者を威嚇する。Barking dogs seldom bite.(吠える犬はめったに噛まない)ってとこか、不愉快だな

 

「なんか見てるだけで気分が悪くなるわね」

 

「あぁいう輩は気にするだけ無駄だぞ」

 

優子も同意見のようだ。まぁ無視するのも難しいが

 

『アタシらも【ウェディング体験】ってヤツ、やってみたいんですけど~?』

 

≪―――わかりました。準備に時間がかかりますので席についてお待ちください≫

 

係員は対応するのが面倒なのか、それとも、イメージを悪くしたくないのかチャラいカップルの言葉に従った。

 

≪それではいよいよ本日のメインイベント、ウェディング体験です! 皆様、まずは新郎の入場を拍手でお迎えください!≫

 

園内全体に響き渡るような拍手が会場から起こり、スモークの中から白いタキシード姿の雄二が現れる

 

≪それでは新郎のプロフィールの紹介を―――――≫

 

ん?そんなことまでやるのか? 随分と本格的だな、と思っていると

 

≪―――省略します≫

 

手抜きだな。ステージ上の雄二もコケかけたぞ

 

『ま、紹介なんていらねぇよな』『興味ナシ~』

 

『ここがオレたちの結婚式に使えるかどうかが問題だからな』『だよね~』

 

最前列、オレたちの隣に座っている連中からそんな声が聞こえた。

オレが横目でその相手を確認して見ると……やっぱり、さっき騒いでいたチンピラか。しかし、最前列に座って大声で会話とか、公共の場でのマナーを知らねぇのか?

雄二も顔をしかめている

 

≪……他のお客様のご迷惑になりますので、大声での私語はご遠慮頂けるようお願いいたします≫

 

司会者から注意の声が入るが

 

『コレ、アタシらのこと言ってんの~?』

『違ぇだろ。オレらはなんたってオキャクサマだぜ?』

『だよね~っ』

『ま、オレたちのことだとしても気にすんなよ。要はオレたちの気分が良いか悪いかってのが問題だろ? な、これ重要じゃない?』

『うんうん! リュータ、イイコト言うね!』

 

調子に乗って下卑た笑い声が一層大きく響き渡る。いくら無視しようとしてもイラッとするな

 

≪―――それでは、いよいよ新婦のご登場です≫

 

心なしか音量の上がったBGMとアナウンスが流れ、同時に会場の電気がすべて消えた。スモークがステージに立ちこめ、否応なしに会場の雰囲気も盛り上がる

 

Side out

 

雄二Side

 

翔子とはかなり昔からの付き合いだが、まさか、こんな事になるとはな。俺が喧嘩に明け暮れていても、不良のレッテルを貼られても変わらずに俺のことを信じていてくれた

そんな翔子のウェディングドレス姿を見れる日が来るなんてな

 

カッ

 

俺が感慨に耽っていると、目が暗がりに慣れるより早くスポットライトが点された

 

≪本日のイベントの主役、霧島翔子さんです!≫

 

アナウンスと同時に更に幾筋ものスポットライトが壇上の一点のみを照らし出す。暗闇から一転して輝きだす壇上で、思わず目を瞑ってしまう

次に目を開けた時に見た光景に俺は目を疑った。……正直、異世界に飛ばされたと言われても信じてしまいそうなほど驚いた

その光景とは、幼いころから知っていて、その成長の過程も知っているような間柄でありながら、決して見た事もないような

…………そんな、幼なじみの花嫁姿だった。顔は確かに俺の知っている人物だが、その纏っている雰囲気が、その表情、しぐさまで俺の知っている翔子ではないように思えた

 

『…………綺麗』

 

会場の誰かから漏れ出たその声は、静まり返った会場で遮るものは無く俺の耳まで届いた。

よほど入念に製作されたのか、純白のドレスは皺一つない。スカートの裾も床に擦らない限界の長さに設定されているのかアイツがステージの中央に来るまで、一度も床に触れる事がなかった

 

「……雄二……」

 

ヴェールの下に素顔を隠し、シルクの衣装に身を包む幼なじみが、どこか不安げにこちらを見上げてくる。胸元に掲げている小さなブーケが所在なげに揺れた。

 

「翔子、か……?」

 

「……うん」

 

頭の中が真っ白になり言わずもがなな質問が口を突いて出た

 

「……どう……? 私、お嫁さんに、見えるかな……?」

 

「――あぁ、大丈夫だ。少なくとも婿には見えない」

 

俺は気恥しさから正直に感想を言う事が出来なかった。翔子は俺の心をお見通しなのかかすかに笑った後に

 

「……嬉しい……」

 

翔子は俯いてブーケに顔を伏せ、そのままかすかに震えだした

 

≪ど、どうしたのでしょうか? 花嫁泣いているように見えますが……?≫

 

言われて気付いた。肩を微かに震わせて泣いていた

 

「お、おい、どうした……?」

 

俺が翔子の様子にどうすればいいかオロオロしていると、静かだった会場もざわめきだす。そんな中、翔子は、小さな、だが、はっきりと聞き取れる声で呟いた

 

「……ずっと……夢だったから……」

 

涙まじりのかすれた声、だが、その涙は悲しみよりも嬉しさから来ているようだ

 

≪夢、ですか?≫

 

「……小さなころからずっと……夢……だった……。私と雄二、二人で結婚式を上げること……。私が雄二のお嫁さんになること……。私ひとりだけじゃ、絶対に叶わない、小さなころからの夢……」

 

口数の少ない翔子が懸命に紡ぐ言葉は、とても重みのある言葉で、俺の心に響く言葉だった

 

「……だから……本当に嬉しい……。他の誰でも無く、雄二と一緒にこうしていられる事が……」

 

会場から鼻の啜る音が聞こえてくる。貰い泣きだろうか? 随分と涙腺のもろい奴もいたもんだ

 

≪どうやら嬉し泣きのようですね。花嫁は随分と一途な方のようですね。さて、花婿は―――≫

 

『あーあ、つまんなーい!』

 

司会が何かを言っている途中で、観客席から大きな声が上がる

 

『マジ、つまんなーい。このイベントぉ~。人のノロケなんてどうでもいいからぁ、早く演出とか見せてくれな~い?』

『だよな~。お前らのことなんてどうでもいいっての』

 

どうやら今回の発言者も最前列のバカだったようだ。会場が静かな分余計に目立つ

 

『ってか、お嫁さんが夢です、って。オマエいくつだよ? なに? キャラ作り? ここのスタッフの脚本? バカみてぇ。ぶっちゃけキモいんだよ!』

『純愛ごっこでもやってんの? そんなもん観る為に貴重な時間割いてるんじゃないんだケドぉ~。あのオンナ、マジでアタマおかしいんじゃない? ギャグにしか思えないんだケドぉ』

『そっか! コレってコントじゃねぇ? あんなキモい夢、ずっと持っているヤツなんていねぇもんな!』

『え~っ!? コレってコントなのぉ? だとしたら、超ウケるんだケドぉ~』

 

ドン  ガシャガシャン

 

口々に文句を言い始める二人組に、ココの評判とか無視して懲らしめてやろうと思った矢先に何かを殴る音と、何かを巻き込む音が聞こえてきたのでそちらを見ると

 

「テメェらには霧島の夢を笑えるほどの夢があるのか? アァン」

 

『『ひ、ひぃぃぃ』』

 

鬼の形相でチンピラを睨む一輝と殴られたチャラ男と、それに巻き込まれたらしきチャラ女がいた

 

会場中がそんな光景に目を奪われている一瞬の間に

 

≪は、花嫁さん? 花嫁さんはどちらに行かれたのですかっ?≫

 

翔子は会場から姿を消していた。ブーケとヴェールを残して

 

「はぁ、やれやれ……」

 

俺はなんとなしにそのヴェールを拾い上げると涙で湿って重くなっていた。……また、仕事が増えたな

 

≪霧島さん? 霧島翔子さーん? みなさま、花嫁を探してください≫

 

スタッフがあわただしく翔子の行方を捜している

 

「さ、坂本雄二さん! 霧島さんを、一緒に探してください!」

 

スタッフの一人がこっちにやってくる。大方、数で探すつもりだろうな

 

「その必要はいらねぇよ。俺一人で十分だ。他の奴は下がらせろ」

 

「え、わ、分かりました」

 

スタッフは俺の言葉に耳を疑ったようだが頷くと他のスタッフに伝えに行った

 

「雄二、オレも手伝うか?」

 

一輝がステージの下から聞いてきた。さっきの騒ぎに紛れたのかチンピラカップルはいなかった。一輝の表情はよく見えないがいまだに怒りは収まっていないようだが……

 

「悪いがここは一人でやらせてくれ。済ませたら連絡はする」

 

「わかった。しくじるなよ!」

 

一輝は頷くと拳を突き出してきた

 

「応!! 任せとけ!!」

 

俺はその拳に拳を合わせて会場を後にした

 




一輝が怒った理由は少しあります。多分1,2話程度で書かれる予定ですが……
雄二・一輝編は1,2話で終わるはずです……

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