祝☆劇場版公開記念! ガルパンにゲート成分を混ぜて『門』の開通を100年以上早めてみた   作:ボストーク

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深夜に失礼しま~す。
眠れないので更新作業に勤しむ作者が通りまーす(^^

今回のエピソード、もしかしたら”一番活躍した娘《メインヒロイン》”はみほじゃなくて杏かもしれませんよ?




第05話 ”もくもく作戦です!”

 

 

 

『ほんじゃあ、中隊全車砲撃よーい。いっくよー……()っ!』

 

【遣イタリカ増強師団】麾下の第6戦車中隊、中隊長の角谷杏中尉の命令と共に、

 

「ファイヤ!」

 

中隊14両の九八式重戦車に搭載された75mm38口径砲が一斉に火を噴く!!

搭載される九四式七十五粍戦車砲の原型となってる九〇式野砲の最大射程は開発当時の日本野砲としては破格の14,000mとされてるが、それは最大射程仰角が取れる(理想放物線を描ける仰角45度が、理論上最大射程が出る)野砲として使った場合だ。

内部の容積の制限でそもそも戦車はそれほど大きな仰角は取れない(最大仰角15度)し、照準機もそのそも弓なりの弾道を描く曲射用でなく直線で狙う直射用だ。

 

『着弾、今』

 

そして放たれた榴弾は約5.000mを飛翔し着弾、その周辺を巻き込むように炸裂する!

 

 

 

***

 

 

 

「おかしいなぁ……」

 

中隊統制射が始まり5射目。九八式の砲弾格納数は78発、そのうち八割がた榴弾だからまだまだ残弾に余裕はあるが、ふとみほは”違和感”を覚えた。

その違和感は漠然としすぎていて、上手く言葉に出来ないが……

 

「みぽりん、どうしたの?」

 

沙織に答える前にみほはキューポラから半身を乗り出し、愛用の双眼鏡で敵情を観察する。

 

「やっぱりだ……」

 

(どうりで敵兵の損耗が少ないと感じたはずだよ)

 

みほは素早く車内に戻ると、

 

「沙織さん、会長に大至急連絡を入れて」

 

「わかった!」

 

雰囲気を察して沙織は疑問を口にするより前に迅速に無線機を操作する。

未だ軍服より女学生の制服が似合いそうな彼女だが、やはり正規軍人ということだろう。

 

「こちら”第1小隊長車(アンコウ01)”。”中隊長車(カメ)”、聴こえますか?」

 

『あいよー、こちら”カメ”。”アンコウ01”どったの?』

 

いつもどおりの呑気な声に、少し焦り気味だった気分が心持静まるのを感じたみほ。

元会長の声にはこんな効果もあるのかと少し感心しながら、

 

「敵の戦術……狙いがわかりました」

 

『ん? どういうこと?』

 

「敵はおそらく【浸透突破戦術】、あるいはその亜種を狙いイタリカに取り付くつもりです……!」

 

 

 

***

 

 

 

【浸透突破戦術】とは?

簡単に言ってしまえば、相手が強固な防衛陣地を設営してたり巨大な火力を有してる場合、従来の集団密集陣形では防衛陣地に梃子摺ってる間に砲撃のいい的にされてしまうので、的を小さく分散させるために大部隊を小部隊に小分けして突破させてしまおうという戦術だった。

前話において”帝国”側の司令官であるヘルムが、

 

「全軍! ”分散合撃”用意っ!!」

 

と叫んでいたことをご記憶だろうか?

彼の叫んだ分散合撃こそが、”帝国”なりの対要塞戦術、初歩的ながら浸透突破戦術の号令だったのだ。

小部隊に分ければただ単に的が小さくなるわけではなく、大人数で押し合いへし合いしながら動くよりも、小部隊の方が遥かに動き易く部隊としての機動力があがる。

 

そのスピードを生かし、敵が対応する前に防御線に接近して食い破ろうという腹積もりなのだろう。

有刺鉄線網や塹壕、機関銃座などの永久陣地を突破してしまえば、基本はオープンエァで作らざるおえない砲兵陣地は脆いものなのだから。

この浸透突破戦術が確立されたのは、地球でも塹壕戦が恒常化した第一次世界大戦の事であり、

 

『驚いたねー。ついこの間まで火縄銃すら持ってなかった連中が、わずか20年で塹壕線や重防御陣地の破り方を考え付いたか』

 

「驚くには値しないですよ。日比谷公園に初めて門が開いたときには、彼らは火薬すら知らなかったのに、今や後装式の大砲や小銃を作ってるんですから。そのうち、九八式の正面装甲を撃ち抜く対戦車砲とかでてきても不思議じゃないです」

 

『やなこと言うなー。ん、上への報告はやっとくから』

 

「お願いします。対応が遅いと思わぬ被害を出しそうですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

************************************

 

 

 

 

 

「閣下、先陣の”鉄の茨”までの距離、2リーグを切りました!」

 

「フハハハッ! ニホンなど恐るに足らぬ!!」

 

この時、”皇帝”直々に今年の農閑期大攻勢の指揮をまかされた”帝国”子爵、ヘルム・フレ・マイオは得意の絶頂にあったという。

それはそうだろう。(犠牲を考えなければだが)、彼の率いる軍団はイタリカが敵の手に陥落して二年……それ以来、初めてその地を踏むことが出来る”帝国”将軍になるのかもしれないのだから。

しかも自分の考えた戦術で、だ。

これで良くも悪くも典型的”帝国”貴族らしいヘルムが増長しないほうが不自然だろう。

 

「しかし閣下、敵がイタリカ周辺に張り巡らせている”鉄の茨”はいかがいたしましょう?」

 

副官らしき初老の貴族が問う。

イタリカの街は要塞化されており、最前線に有刺鉄線の鉄条網があり次に地雷原(無論、進軍路には地雷は埋設されてないが)、更に同じく有刺鉄線の鉄条網があり、その奥に初めて幾重もの塹壕線や土嚢などで固め機関銃や他の短距離火器を備えた前線型永久陣地やトーチカの役割を担う戦車用隠蔽壕で構成される”本当の前線”があった。

いわゆる第一次世界大戦でドクトリン化された、野戦築城の最新トレンドである”柔軟縦深防御”の概念を取り入れた多層構造の防御線であった。

 

彼の配下が取り付こうとしてたのは、その一番手前にある鉄条網である。

 

「案ずるな。我が秘策はあと二つも残っておる」

 

あえて重厚な言い方をしたヘルムは満足げな表情のまま、

 

「各部隊に伝令! 第二の秘策、”煙弾”ならびに”煙玉”を発射せよ!!」

 

 

 

***

 

 

 

「西住隊長! あれは……」

 

優花里の言葉にみほは頷き、

 

「原始的だけど、間違いなく発煙弾だよ」

 

そう、吹き飛ばされるのもかまわずに有刺鉄線鉄条網の手前から革紐式投石器で次々に前方へ投擲されるのはソフトボール大の球体で、導火線が付いてるらしいそれは程なく激しく白煙を噴き上げていた。

例え一つ一つの煙玉の発煙量は少なくともそれが数千人もの投擲ともなれば、濃密な煙幕を張るのは難しくは無い。

しかも空爆や重砲の阻止砲撃から生き残ったらしい敵の野戦砲からも時折、発煙弾が発射されてるようなのだ。

 

『こちら”カメ”。”アンコウ01”、聴こえるー?』

 

「こちら”アンコウ01”。感度良好です」

 

『敵が派手に煙幕まいてるからさー、ちょっと航空隊や火力支援中隊の協力仰ごうかと思ってね。悪いんだけど、わたしが航空と砲撃の統制やってる間、中隊の砲撃指揮頼んでいいかい?』

 

「了解しました。これより”アンコウ01”、”カメ”に代わって中隊統制射撃の指揮を執ります!」

 

『頼んだよー』

 

 

 

「沙織さん、中隊各車への随時連絡お願いします」

 

「了解!」

 

「みほさん、照準は?」

 

冷静に聞いてくる華に、みほは華だけでなく中隊全車に通信を繋げ、

 

「照準、前方のまま。距離1.850m、弾種榴弾! 第一鉄条網前方10~15m近辺を目安に!」

 

「西住隊長、煙幕はどうします? ”出鱈目撃ち(ヒップショット)”になってしまいますが……」

 

沙織が中隊に通信を繋げる中、優花里がそう聞いてくるが、

 

「煙幕を爆風で吹き飛ばします。それに……」

 

彼女は微かな笑みで、

 

「視界は妨げられても、煙じゃ銃弾や砲弾は防げないよ」

 

みほの「ファイヤ!」の号令と同時に煙幕の中に向けて再び14個の砲炎が煌いた!

 

 

 

***

 

 

 

「こちら”戦車第6中隊長車(カメ)”。【九九式襲撃機(キューシュー)】で支援可能な機体あるか。送れ」

 

『こちら”戦車連隊長車(クマモト)。”師団司令部(ホンマル)”に問い合わせてみる。飛べる機体あらばそちらから連絡ある筈だ。送れ』

 

そして戦車の操縦や砲撃はかつて生徒会の仲間であり、今は軍隊的な意味で部下でもある”小山柚子(こやま・ゆず)”や”河嶋桃(かわしま・もも)”に任せ中隊長である杏がしばらく待ってると、

 

『こちら”キツツキ01”。現在、”僚機(キツツキ02)”と一緒に空にあがるところだ。航空無線機(くうでん)に周波数合わせといてくれ。送れ』

 

「了解了解。感謝するわ」

 

どうやら2機は都合が付いたらしい。

この情況では九九式襲撃機はあちこち引っ張りだこだろうから、都合が付いただけでも奇跡的だと杏は思っていた。

次に入ってきたのは、

 

『こちら”火力支援小隊(ガン・プラトーン)”、これより【九七式曲射歩兵砲(キョクホー)】の支援砲撃を開始する。”カメ”、弾着確認頼む。送れ』

 

現在、戦車第6中隊が陣取る防御ポイントには、諸兵科連合(コンバインド・アームズ)の原則に従い歩兵増強中隊が同時配置されている。

簡単に言えば、通常の歩兵中隊に重機関銃や迫撃砲などの高威力小火器を装備した火力支援小隊を加えた部隊だ。

ちなみに九七式曲射歩兵砲とは、歩兵が徒歩で携行できる他国で言うところの軽迫撃砲に該当する。

火力支援小隊は、その軽迫撃砲で砲撃を開始するといっているのだ。

 

「みんな協力的で結構結構。いやー、これもわたしの人望や人徳かねぇ~」

 

冗談めかして言う杏に柚子は苦笑するが、桃は対照的に渋い顔をする。

桃は知っているのだ。この【遣イタリカ増強師団】には、杏本人未公認の非公開ファンクラブが男性将兵(ヤロー)を中心に結成されていることを。

その秘密結社(?)の名は【杏飴(あんずあめ)】、その由来は「(飴だけに)杏たんをペロペロしたいお」という中々破天荒なものだ。

なぜ桃はそんな陸軍の恥部になりかねない組織を知ってるのか? 無論、彼女もその構成員、しかも会員証一桁ナンバーだからに決まってる。

 

人望や人徳よりなにより人気が圧倒的な小悪魔系合法ロリの杏であった。

 

 

 

***

 

 

 

『こちらキツツキ01。カメ、荷物はどこに配達すればいい? 送れ』

 

「座標を今から口頭で説明するよー。送れ」

 

『了解』

 

戦車中隊の75mm38口径長砲の榴弾に加え、二機分隊(ロッテ)を組みながら近接航空支援を敢行する九九式襲撃機が急降下爆撃で落とした計8発の60kg爆弾、更には九七式曲射歩兵砲の81mm迫撃砲弾の釣瓶撃ちが始まる。

 

『中隊全車、砲仰角上げ0.5、右旋回3! 弾種そのまま……ファイヤ!』

 

迫撃砲群(モウター)、弾着修正。左4、上げ1……撃っ!」

 

一撃離脱の空爆はともかく、射線を巧妙にずらしながら弾着を修正するみほと杏。

そのおかげで爆風により急速に煙幕が晴れてくる。

 

「撃ち方やめー」

 

ある程度の視界が回復したとき、杏は射撃中止命令を命令する。

キューポラから上半身を出して私物のカールツァイス社製の双眼鏡を覗き込む杏であるが、そこに見えたのは……

 

「ふーん……中々やるじゃないのさ」

 

なんと大きな”金切り鋏(ワイヤーカッター)”を持ち出して、鉄条網を切り突破口を開こうとしていたのだ。

そう、これが”ヘルムの第三の秘策”であった。

確かに”鉄の茨”が厄介なら、それを選定できる鋏を作ればいいという発想はストレートかもしれないが、そこに行き着き実行できるとは大したものである。

 

 

 

浸透突破戦術に煙幕、そして鉄条網を切り破るワイヤーカッター……ヘルムの三つの秘策のせいで、いよいよ”帝国”の軍勢はいよいよ防衛網を食い破るように見えたが……

 

「しかし、まだまだ詰めが甘いね~」

 

みほの言ったとおり煙幕で砲弾や爆弾は防げない。

本来は弾幕を吹き飛ばすために放たれた各種火力は、煙の晴れた中に折り重なるように倒れた、人間にオークにオーガにゴブリン……種族を問わない夥しい数の死体を遺していた。

 

煙幕を使うということは煙幕に隠れて何かを行なうということであり、ならば見えないだけで煙幕の中に敵はいるということだ。

ならばそれにめがけて撃ち込めば、少なからず敵に当たるのは必然といえた。

だが、

 

「鉄条網を突破することは成功したみたいだけどさ」

 

それは彼らにとり、ひょっとして快挙と呼べるのではないのだろうか?

文字通りに仲間の死体を乗り越え、切り開いた有刺鉄線を潜り抜けてくる敵軍だったが……

 

 

 

”ZvoM!!”

 

「ぎゃっ!」

 

唐突に地面が爆発し、足を千切れさせながら人が吹き飛んだ!

 

「だけど安心したよ。どうやら地雷原対策まではしてなかったみたいだねぇ」

 

杏はニヤリと笑うと通信を中隊全体に繋げ、

 

「中隊全車、近接砲撃戦よーい!」

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。
書いてるうちに秘密結社【杏飴】に入団したくなった作者です(^^

原作の鉄板ネタ”もくもく作戦”を敵に使われてしまったエピソードでしたが、いかがだったでしょうか?

もっとも、みほも杏も容赦なく煙めがけてぶちこんでましたが(笑)
ようやく血と鉄と硝煙の匂いたなびく戦場っぽい情景になってきましたが……戦場音楽が鳴り響く中、敵はどうやら最初の難関を突破したみたいです。
次回は更に血腥くなる予感が……

それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!



設定資料



九六式十五糎半加農砲(カノン砲)
口径:155mm
砲身長:53口径長(8.215mm)

九六式十五糎半榴弾砲(野戦重砲)
口径:155mm
砲身長:24口径長(3.720mm)

九六式二十四糎榴弾砲(重砲)
口径:240mm
砲身長:25口径長(6.000mm)

要塞化したイタリカに配備されていた”重砲”区分の砲。
史実の砲とぱっとした見た目の印象は大きく変わってるようには見えないが……実は大きな違いがある。
まず、1905年以降急接近する状態となったアメリカより品質管理や大量生産技術を国策として導入したため、史実より遥かに部品レベルから均質な出来であり、生産数が稼ぎ易かった模様。無論、大量生産の原理で単価も下がっている。
また見た目からは判別しづらいが、部品構成や形状もより合理的になってるようだ。
加えて品質向上や機械的な無理がかかるところが減少したために、耐久性は上がり逆に故障率は下がっている。
特に史実では命中精度の高さに反して砲身命数の低さが問題となっていたが、それも豊富な金属資源や冶金技術の上昇とあいまって大幅に改善されてるようだ。
もっともこれは重砲に限らず、大日本帝国兵器全般に言えることではあるが。

史実との最大の違いは、やはり使用弾だろう。
例えば史実では九六式十五糎半加農砲は”九六式十五糎加農砲”、九六式十五糎半榴弾砲は”九六式十五糎榴弾砲”であり、使用弾は共に149.1mmだった。
しかし、この世界の大日本帝国は1924年(大正13年)に『日米砲弾/弾薬相互間協定』が締結されたために、それ以降の砲填兵器は銃砲を問わず米軍と共通規格の物が多い。
例えば九六式十五糎半加農砲や九六式十五糎半榴弾砲は米軍の【M1917 155mmカノン砲】や【M1918 155mm榴弾砲】と砲弾を共用化し、同じく九六式二十四糎榴弾砲は【M1918 240mm榴弾砲】と砲弾を共用化している。
そのため、九六式十五糎半加農砲や九六式十五糎半榴弾砲は原型と比べ微妙に砲身長が伸びていて、射程も心持延伸されている。

実際、これらの砲は性能的に安定していたために第二次大戦全期間を通じて大日本帝国の主力重砲の一角を担う存在として随時小改良を加えられながら生産されていくことになる。
例えば、特に軽量な九六式十五糎半加農砲は自走砲(SPH)に転用されたりと別のファミリーとして発展していった。









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