《艦長室》
沖田司令に『メ2号作戦』の説明中だ。司令は受け取った作戦計画書に目を通しながら話を進める。
※計画書は紙である。作成する度に原文データ・メモリは破壊して廃棄している。時代錯誤に感じるが…決まり事である。
「本作戦の最終目標は敵基地の完全破壊であります。しかし、現時点に於いては敵基地の位置は不明。航空隊による索敵で発見出来次第にピンポイントで攻撃を行ないます…ま、簡潔に纏めました」
「ふむ、敵艦隊がどう動くか…だが。そちらの対策はどうなのか?」
「木星での波動砲試射は強烈なデモンストレーションになりました。敵が見逃す筈はありませんから、艦隊行動に影響を与えたと確信しております。ワープテストも充分に行ない、精度も申し分ありません」
「うむ、冥王星宙域へワープアウトと即座に発艦させるのだな。…敵の鼻先へ奇襲か。…迎撃に出てくれば好都合なのだが、指揮官は間抜けでは無かろう」
沖田司令は幾度かの経験から、敵将の器量はある程度掴んでいる様子だ。
「はい…恐らく鉄壁の擬装が施されていることから、敵は『黙り』を極め込む可能性が高いです。作戦の成否は航空隊次第ですが、新見情報長と地形データから推測ポイントを算出済みですので大丈夫です!」
(最候補地点へは山本にヒントを与えて向かわせるからな!)
「よろしい!作戦を承認する!」
※本来は作戦の承認は艦隊司令の権限ではありません。任務の特殊性から、沖田司令は多数の権限委譲を受けている設定です。
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「波動砲を使えば一発で済むじゃないですか!」
戦術科でのブリーフィングで、聞き終わると南部二尉は声を荒げて私に喰いかかる。
「航空隊でちまちまやって犠牲が増えるばかりで非効率的ですよ!もっと合理的にやりましょうよ…」
間髪いれず捲し立てる…
「なんだと⁉」
ちまちまっていうのが気に触った加藤が南部に踏みよる。
「二人ともやめろっ!」
戦術長の古代が間に割って入って制する。
「南部二尉! 本作戦は決定している。戦略兵器である波動砲は作戦計画に基づき運用されるのだ。言っている意味はわかるな? 」
古代は諭すように話した。
「…わかります…失言でした。取り消します」
南部は知能が低い訳ではない。…思考が幼いのだ(笑)
「…(古代も成長したな。少し前なら一緒になって噛みついてくるか、若しくは南部を感情的に罵倒してたかもな? )」
私はなにやら嬉しく思った。
「戦術長! 索敵チームは既に編成済みです。事前に参謀長から話が有りましたので作っておきました」
「流石は渕上さんだ、助かります! ふむ、2機組でのチーム編成ですか…僕は山本と組むんですね」
「戦術長は現場指揮官であることと、機体の特性から考慮しました。僚機は同じゼロで補佐役としての能力も高い山本三尉が適任でしょう?」
「確かに渕上さんの見立てに違いないと思います」
「…それとな、彼女はお前に気があるしな!」
渕上は古代の耳元で小声で囁いた。
「えっ! 気がある??」
古代は一瞬キョトンとして、顔が赤くなった。
「ははは!そっちの意味もあるかもだが、間違いない!あいつには戦術長が憧れの対象なんだよ!幻滅されないよいに頑張ってくださいよ~」
そう言うと古代の肩をポンポンと叩いて去っていった。
「では、我々も行きますか?」
一緒にいた森船務長と新見情報長に目配せして促した。
「古代君…雰囲気が変わりましたよね?」
「そうね、ちょっと大人っぽくなったわね」
森雪に言われ、新見薫も思い当たったらしく相槌をうつ。
「男は女で変わるからな~山本が側にいるだけで違うもんだな!」
「えっ!ちょっとミハル姐さん!! あの二人はいつから……そんな関係」
私の言葉に雪は狼狽している。
「あはっ、ちょっと意地悪だったわ。山本や南部って手の係る部下をもったことで、自ら上官としての振る舞いに気をつけてるんじゃないかな?特に玲ちゃんの古代君を見る目は上官への憧れだけではなさそうだし、もたもたしてると…」
「な、な‥なんですか!まるで私が古代君のこと…」
雪は内心を見透かされて慌てる。
「そうね、立場が人をつくるってね! 部下がついたり、責任ある立場になると人は自ずと成長してゆくのよ。森さんも一尉になって部下もいるとそうじゃない?」
新見に言われ雪は(言われてみると自身にも思い当たった)
「で、なんで『ミハル姐さん』て呼ぶの?ミハルの子分にでもなっちゃった?」
「子分って、そんなんじゃないです。土方宙将の自宅にちょくちょく瓜生さんがみえてて、同じ記憶喪失の私に色々と良くしていただいたんです…」
「そうだったわね…二人とも記憶が無いか……ごめんなさい。忘れてたわ、ミハルの今の性格に違和感なくて…昔は如何にも『良家のお嬢様』だったのにねぇ…」
「薫さん…その話はよせ!(笑)」
『瓜生ミハル』は育ちが良いのだ。『瓜生美晴』と違ってね…
瓜生家は戦国時代からの名家である。幕末には幕府軍であったことから、明治に入り陸軍の長州閥・海軍の薩摩閥から距離を置いていた。昭和以後は海軍~海自で将官を輩出するようになった。
本来は女子が軍人になることはないのだが、一人娘であったことから防衛大学校へ進学する羽目になったらしい。
一応、茶道・華道も嗜みます(笑)
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土星を離れて、ワープ準備に入っている。
このあと、冥王星の鼻先に殴り込みするのだ。
右舷カタパルト下の格納庫に山本を訪ねた。
「山本三尉、古代の女房役しっかりな! 」
「はっ、はい! 任せてください! 」
玲はややはにかみながら応えた。
「‥冥王星でもオーロラは見えるのかな?」
「え? ‥オーロラ? 」
「あ、すまん。不意に昔‥南極大陸で見たオーロラを思い出してな…」
「クスッ 瓜生二佐も案外ロマンチストなんですね。残念ですが、火星と同じく磁気圏がない冥王星ではオーロラは発生しないんです」
「そうなのか? …じゃ、見えたら不自然だなぁ~」
「ガミラスの基地かもしれませんね♪」
「緊張はほぐれたかな? 山本! 必ず還ってこい!」
「はっ!朗報を土産に! 」
程無く出撃待機命令が下り、全乗員はワープに備えて持ち場に着く、私も艦橋へと急ぎ戻った。
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目の前に冥王星が視認できる。
まさに『目と鼻の前』である。
ワープアウトと同時に沖田艦長が矢継ぎ早に命令を下して行く。
「航空隊発艦せよ! 」
「森! 警戒を厳にせよ! 」
「南部は対空戦闘用意のまま維持! 」
「島! 微速前進…」
「新見、冥王星を拡大表示してくれ」
艦橋内上部スクリーンに冥王星が映し出される。
「司令‥冥王星周辺のデブリが気になります。トラップの可能性もあります」
私は今気づいた風に沖田司令へ促した。
(反射衛星砲に撃たれるのは避けたいとこだからな)
「うむ、遊星爆弾の素体なのか?多いな…新見、解析してくれ」
「はい、直ちに解析を始めます。…数が多すぎる」
新見はコンソールの呼び出しボタンを押した。
『はい、桐生です』
解析室に繋がり、桐生准尉が出た。
「桐生准尉、これから冥王星周辺のデブリを調査します。数が多すぎるので、私は北半球をやるから南半球をお願いね」
『了解しました』
「…(頼むよ~多数の反射衛星を見つけてよ)」
「デブリの解析結果出ました!‥こ、これは!?」
「どうした? 新見!」
「巧妙に擬装されていますが、冥王星全周域に人工衛星が配置されています。恐らく、防衛目的の攻撃衛星でないかと? 」
「森! 座標データを元に敵衛星の動きに警戒! 」
「はい!」
とりあえずは『反射衛星砲』からの攻撃を防ぐ手筈は整えた。…あとは航空隊次第だ。
頼むぞ…山本! ついでに古代!