時空のエトランゼ   作:apride

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21世紀半ば、九州坊ノ岬沖にて最新鋭巡洋艦〔やまと〕は対艦ミサイル攻撃を受けた!巡洋艦とはいえ、装甲など無いペラペラの艦体を突き破り爆発したミサイルは運悪く積載燃料・弾薬を誘爆させ大爆発を起こした!
爆風により吹き飛ばされた俺は後ろ向きに宙を飛び海面に叩き付けられた…身体がバラバラになる痛みを感じながら海中へ沈んだ……

筈だった?!

目が覚めてみると、そこは22世紀末の…異世界。
なんと、漫画の世界の中だったのだ!!

しかも、俺は別人の身体の中で目覚めたらしい。
同姓同名の異性『瓜生ミハル』として!


7話 時に西暦2193年

《中央大病院》

 

「退院おめでとうございます! 瓜生さん」

 

「お世話になりました。…色々と」

覚醒し、ICUから一般病棟に移り2週間。元々外傷も少なく、直ぐに退院出来た筈だったのだが…

[記憶喪失]を起こしていたため遅れた。

記憶喪失にも程度の差があり、俺の場合『日常生活に支障をきたす』程度に記憶が失われていた(と、診断された)

 

無理もない、100年以上前の人間なのだからな。

まず、天井の照明に驚いた。照明器具が無く、天井全体が発光していた。周りの医療機器も操作が不明なものばかりだ。

トイレに入ってまた驚き戸惑う! 便器のスタイルは人類の身体が大きく変わらない限り不変なのだろうが、水洗しないでキレイさっぱりウン⚫が消え去るのはびっくり!さらに手を洗うと自動的に水が出た!…一瞬ホッとする(‥しかし、洗剤は?手を拭く紙とかドライヤーは?)

そんなことを考えながら手を洗う…

「なっ!なにぃ!…濡れてない? ‥いや、速乾した!」

 

注意書を見ると【caution! 飲用不可!】

どうやら、消毒・洗浄成分の揮発性薬液らしい。

 

 

自動車が自動運転なのは理解出来る。しかしだ!納得いかないのはタイヤがまだ付いてることだよ…いつになれば浮くの?

(後で知ったのだが、浮上走行技術は確立しているがコスト的に合わないそうだ。高級車向けてとこだ)

 

そんな問題が多々あり、日常生活に必要な知識を学習する時間が掛かったのだ。

 

「だいたいだな!車が浮かないのに、どでかい船が浮いてそのまま宇宙へ飛んで行くなんて100年前には空想の産物でしかなかったんだ!…そか、……ここは空想の世界だったよ」

 

 

 

「‥瓜生? お前大丈夫か?」

 

いかん!つい独り言で叫んでた……

 

「すみません。どうも日常的な常識まで消えてるみたいで……ハハハ」

 

「病院での結果は聞いておる。それで、君の能力を考慮して転属してもらったのだよ。多少不慣れだろうが、ここで励んでくれ!」

 

復帰した先は

【国連宇宙局極東管区統合作戦本部】

既にガミラス戦役は始まっており、直前に火星宙域に於いての作戦が発動していた。【カ号作戦】火星沖会戦である。一昨年の開戦時に大敗北を喫した軍は地球への直接攻撃を火星宙域にて迎え撃つべく艦隊を出撃させていた。

 

「‥駄目だ!!こんな通常の艦隊編成でどうかなるものか!彼我の火力差を認識してないのか?」

 

俺は本作戦要項に目を通しながら叫んでしまった!

興奮すると無意識に心の声がだだ漏れしちまう。

 

「‥何故そう思う?」

上官の武藤一佐は怪訝な面持ちで聞いてきた。

周りにいた佐官の作戦参謀達の目線も突き刺すようだ。

どいつも頭の堅そうな面構えのおっさんばっかだ!

 

「では、ファーストコンタクト時に大敗北を喫したのは何故ですか?」

確認するべく質問してみる。

 

「そ、それは…こちらは友好的接触を期待して赴いたところへいきなり砲火を浴びせてきたのだ!至近距離から一斉攻撃を受けたと報告書にはある‥ぞ?」

 

どうやら[むらさめ]の先制攻撃は記録されてないようだな? ‥恐らくは芹沢軍務局長が揉み消したのだろう。

 

「武藤一佐は信じておられるのですか? 私は話がおかしいと思います!」

「正式な戦果報告書だからな。信じるも信じないもないが? 何がおかしいのだ?」

 

この時代でも悪い体質は変わってない。国連と言ってもやはり、ここは日本の軍部…どうしてか、この国の頭脳は合理的思考が苦手というか…旧態依然と‥ま、今の立場ではどうにもならん。

 

「彼等は何処からやって来たんですかね? 情報はありますか?」

「地球外の異星人の可能性が高いとは情報としてあるが、詳細は不明だ。何しろ最初が軍事衝突で政治的接触が為されていないからな!」

 

「ならば、太陽系すら『大航海』している我らより遥かに進んだテクノロジーを有している筈です。恒星間航海が可能な戦闘艦の能力を想像すれば、まともに艦隊戦を挑むのは自殺行為です!本作戦の再考を具申します!」

 

「瓜生、それは無理だ。約1時間で会敵する距離に迫っている。それに、本作戦の主力は米国艦隊なのだ!ここで観戦しておればよい…今は見ていろ」

 

「……」

 

悔しい…まだ新人の三尉ごときには作戦を指導する権限など皆無。せめて【カ2号作戦】は史実通りに成功することを願う‥‥

 

 

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『カ号作戦』は惨敗に終わった。

 

 

今回はしっかり最初から最後まで観戦したからな…頭の良い参謀達は如何でしたかね?

 

「ぬぅぅ…万全の態勢だった‥筈だ」

「戦艦でも歯が立たないとは…」

「予想を遥かに上回っていたな……」

 

万全じゃなかったから惨敗したんじゃない?

戦艦でも歯が立たないのは予想出来たでしょ?

遥かに上回ったら予想は希望的なものだったんだね…

 

「米国艦隊が壊滅したという事実。次はロシア艦隊の出番ですかね?」

 

俺は武藤一佐に小声で話しかけてみた。

 

「そうなるだろうな。この後にロシア艦隊が敵を殲滅しようものなら?…瓜生、どうなると思う?」

「…米国の面子は丸潰れ。ロシアは国連での影響力を強める。こういう答えで宜しいですか?」

 

「ふん、異星人が攻めてきてるのに‥未だに各国の思惑が足枷となっておる。国連軍とは名ばかりの軍だ」

武藤もまた現状を憂いているひとりだった。

 

「このままだと、次の結果も見えてます。この時代に於いては『圧倒的』なテクノロジー差での戦いは未知の領域となっています。20世紀半ばの東西冷戦以降は多少の差はあれど、同レベルの兵器を用いた戦いしか知らない我々は勝てません!」

 

「瓜生…考えがあるのか?」

 

「肉を斬らせて骨を絶つ」

 

「まさか、お前はロシア艦隊を『囮』に使おうと考えているのか?!」

武藤一佐は俺の言葉に狼狽気味になった?

無理もないのか…21世紀以降、先進国の軍はアウトレンジやロングレンジでの戦闘が常識になって久しい。強大過ぎる敵に捨て身の戦法など理解出来ないのだろう。

 

 

 

「私が考えるには、唯一有効な武器は金剛型戦艦と村雨型巡洋艦が艦首に装備するショックカノンです。囮艦隊に敵の目を惹き付け、側面よりこれらの集中運用と突撃艦艇による肉薄攻撃で『相討ち』を狙う作戦です」

 

「確かにショックカノンならばいけるかもしれん。だが、あれは艦自体を砲とすることで一発必中の兵器だ。発射直後はエネルギー枯渇の恐れもある。非常に運用が難しい為に、実戦では艦長判断が優先する。果して作戦通りに行くか…」

 

 

「では、対案をお持ちの方は居ますかな?」

 

 

結局、誰も対案など無く…無謀と言える作戦ではあるが、次に壊滅的敗北を喫したら後が無くなる現実が迫っていた。

 

「勿論、発案した責任上…本官も同行致します」

「俺もだ!参謀本部から現場に新米参謀だけを行かせられるか? ‥上官の俺が乗らねば格好がつかんよ!」

 

その後、武藤一佐の尽力で参謀本部No.2の伊藤宙将を引っ張り出すことに成功。渋る連合艦隊司令部を納得させた。さらに更迭されて予備役に編入されていた沖田十三提督を艦隊司令にゴリ押しした。

 

 

 

こうして『カ2号作戦』は承認された。

 

 

 

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──────

 

翌2194年

 

 

 

 

《戦艦きりしま艦橋内》

 

現在、火星宙域にあるデブリ帯にて偽装工作の真っ最中である。数百万と云われる多数のデブリが集まる帯域であるのだが、実際には点在するデブリ同士の間隔は非常に広い!比較的密集している場所で艦隊を配置し、船体に偽装処理を施して『デブリ』に見せかけている。

因みにデブリの大半は『カ号作戦で破壊された地球艦の残骸』である。

 

「巧く敵の目を誤魔化せると良いのだが…」

武藤参謀長は不安げだ。

※カ2号作戦発動時点で武藤一佐は宙将補、私は二尉となっていた。

 

「敵の探知能力が未知数ですが、囮役のロシア艦隊に期待しましょう。あれだけの大艦隊なら、こちらに気付いても『伏兵』から叩きには来ないはずです…」

 

とは言え、俺も不安だ。なにしろ『宇宙戦艦ヤマト1話』以前のことを詳しくは知らないからな…

 

 

失敗すれば死ぬのは間違いないだろうが、一度死んだ身だ…成るようにしか為らん!

 

 

「‥‥(しかし、宇宙に出るのは初めてだ。無重力とは身が覚束無いものだな)」

 

ヤマト以前の地球艦は艦内重力制御が皆無なので、艦内は無重力なのだ。浮き上がらないように磁力靴を使用しているので立ってはいるが、身体はふわふわしてる。

一番の問題がトイレだ!排泄物は吸引して浄化タンクに貯めてるのらしい。勿論、戦闘中にトイレに行く暇などない!しかし、無重力空間で撒き散らしては大変だからオムツを履くのだ。

 

22世紀末でも相変わらず宇宙飛行士は『オムツ』を着用するとはね…ウン⚫したくなったらやだなぁ。

 

 

 

 

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「ロシア艦隊が会敵!隊列を替えて接近してきます」

レーダーには予定通りの動きを示す多数のブリップが光る。作戦は順調に推移している…

 

前回の米艦隊惨敗を踏まえ、主力であるロシア艦隊は是が非でも『前回の轍は踏みたくない』事情もあり、寧ろ喜んで『囮役』を引き受けた。更には指揮権をも日本艦隊に託してきた。

嘗ての『三大海軍』の名将を彷彿させる沖田提督に一縷の希望…否、【アドミラル オキタ】に全幅の信頼を寄せてきたのだった!

 

 

「陽電子衝撃砲発射準備」

沖田提督は静かに‥力強く下命した。

 

「陽電子衝撃砲発射準備! 全エネルギーまわせ!」

〔きりしま〕艦長の山南一佐が命令一下!

 

「艦首陽電子衝撃砲へエネルギー充填!」

「敵巡洋艦へ目標設定! 艦首照準同調固定!」

 

「エネルギー充填100%! 発射準備完了!」

 

「撃ちーかた始め!!」

 

艦首の200ミリショックカノンが閃光を放った!

 

ガミラス艦隊の先頭に位置していたメルトリア級巡洋艦は直撃を受けて爆発飛散した。

 

旗艦〔きりしま〕の発射を合図に全艦一斉射撃が開始される。幾重の閃光がガミラス艦隊に突き刺さり、次々と爆沈してゆく艦艇! ガミラス戦役始まって以来の光景が広がっていく。

息つく暇を与えず、〔磯風型〕突撃駆逐艦が肉薄攻撃を加える。予想外の戦況に動揺するガミラス艦隊は接近する小型艦艇に気づくのが遅れて至近距離から空間魚雷をまともに食らう。

至近距離からだと、貧弱な地球製兵器でも装甲を破壊可能であった。

伏兵からの思いがけない攻撃に混乱するガミラス艦隊へさらに主力のロシア艦隊が突入して大混戦となる。

 

既に事態の収拾が覚束無くなったガミラス艦隊は多数の艦艇を失いながら撤退する羽目になった。

 

 

 

 

そして史実通りに多大な犠牲を払いつつもガミラス艦隊を撃退することに成功したのだった!!

 

 




次話は『メ2号作戦編』を投稿致します。

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