《 西暦20XX年 日本 》
2016年安全保障関連法が施行され、日本は周辺海域での軍事プレゼンスを強めていった。四方を海に囲まれた日本にとって、海軍力の整備は不可欠である。敗戦後初となる空母機動部隊を持つにまでなったが、未だ名称は『海上自衛隊』のままであった。
最新鋭巡洋艦〔やまと〕
戦艦が存在意義を失い、其の名を冠する
「・・!・・っ!おいっ!」『ポカッ』
「いてっ」
「さっきから呼んでんだぜ?なにを夢中で読んでるかと思えば漫画かよ?【宇宙戦艦ヤマト2199】か、懐かしいな!ガキの頃テレビで観たな~」
「あぁ、配属が決まった時に親父に会ってきたんだが、そんときに本棚にあったのを1冊だけ借りてきたんだ。両親が離婚してから初めて訪ねたんだが、制服姿に感激してさぁ・・・何か手土産持たそうとすっから… 」
「それでかぁ、今どき紙の本で漫画読む奴は珍しいからな」
「さすがに残りは電子版で全巻購入して読んでるよ」
実は何度も読み返している。子供の頃にテレビ版を観たときは感じなかった思いが湧いてきて、自分なりに頭の中で修正を加えながら読み返しているんだ。
因みに俺はこういった漫画や映画に影響を受けて自衛官になった訳ではなかった。ましてや、国防の使命感に燃えてなんてことも無い(笑)
普通に大学を出ても就職先なんて無い時代だ。安定の公務員は人気殺到で狭き門だし、特別職の国家公務員ではあるが、危険度合いが高まる昨今は比較的入り易くなっていた自衛隊へ進路を向けただけなんだ。ま、そうは言ってもこのご時世・・・防衛大学校の競争率は東大並みの高さになっており、所謂[エリート]なのだ・・・・前大戦直前の日本のように。
「おい、そろそろ甲板に出る時間だぞ!着替えろよ・・」
「えっ!?あちゃー!」
俺は慌ててロッカーから制服と制帽を取り出し着替え始めた」
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「英霊に敬礼!!」
『 ザザッ! 』
号令と共に甲板に整列した将兵が一斉に敬礼する。
九州坊ノ岬沖
戦艦大和が沈んでいる海域だ。1世紀近くを経て新たな〔やまと〕が再び沖縄へと向かう。海に眠る英霊達は何を思うだろうか・・・・
これから向かう沖縄那覇軍港にて空母機動部隊に合流、南シナ海でフィリピン海軍と合同訓練の予定だ。訓練とは名目で、実情は南シナ海域に於ける【パワープロジェクション】示威行動である。
『ヴィーヴィーヴィー!!』
突然の警報に騒然となる!急ぎ艦内へ戻るべく走るが、出入口は小さい・・・通勤ラッシュの如く人が殺到し、なかなか入れない。その時に!!
「あっ!あれはなんだ?」
誰かが西の水平線を指差して叫んだ!
彼方に小さな[光点]のような物体?
それは不意にホップアップし、上空へ急上昇した後真っ直ぐ堕ちてきた・・・
次の瞬間!
衝撃と破壊音が同時に襲いかかった。
吹き飛ばされた俺の目に入ったのは空の青と白い雲、そして紅蓮の炎だった。
背中に衝撃を感じた・・・
沈んで行く・・・・・・
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「・・・!・・っ!」
「・・・・・」
話し声が微かに聞こえてきた。
「(眠ってた?・・・はっ!)」
『パチッ!』
カッと目を開く!が、眩しさに目が眩んだ。
「うっ!くぅぅ」
「あっ! 目を開いた! 意識が戻ったようです!! 」
真横で誰かが叫んだが、聞き覚えの無い声だ。しかも、若い女? 今どきはWAVE(女性自衛官)も多いが、〔やまと〕には1割程度だ。だとしたら、別の艦艇に救助されたか?
「ここは? 」
ゆっくり目を開けて天井を見る。・・・何も無い。
真っ白な壁しか見えない・・と、不意に女の顔が目の前に出た!?
「瓜生さん? わかりますか? 」
「あ、あぁ‥ 病院か? 」
女性の姿が白衣で、側には医療機器らしきものが目に入った。救助されてから時間が経っているのかもしれない。船ではなく建物の中のようだな?
「意識が戻ったそうじゃの? どれどれ・・」
今度は頭の薄いオヤジが覗き込んできた。
「自分の名前はわかるかな? 」
「瓜生美晴」
「うん、大丈夫じゃな」
「ドクター、ここは? 」
「ここは中央大病院じゃよ」
「(自衛隊中央病院・・東京まで運ばれた? )では、あれから何日経っているのですか? 」
やはり、かなり時間が経っているようだ。九州沖から東京まで移動してるとはな。
「約1ヶ月じゃな。酷い爆発事故でお前さんだけが助かったのは奇跡じゃわい! 」
「事故? 何を言ってる? あれは事故なんかじゃない! 明らかに対艦ミサイルの攻撃だった!俺だけが助かったってことは・・・〔やまと〕は?他の皆は死んだか!? 」
興奮して起き上がろうとしたが、身体が思うように動かない!
「いっ、イタタ! 」
「こりゃぁ! まだ動いたらイカン! 記憶に障害が起きとるようじゃな・・暫くは安静にしちょれ! 」
「佐渡先生! 瓜生の意識が戻ったそうですね! 」
また誰か来たな?
「瓜生三尉! 私がわかるか? 」
知らないおっさんが覗き込んできた。
「誰だあんた? 」
「きっ、貴様! 土方提督に対してその態度はなんだ! 」
後ろに居たおっさんが怒鳴った・・・土方提督?
見れば二人とも軍服姿だが、海自のものとはかなり違う・・・なんなんだこいつらは?
「さっき意識が戻ったばかりで、記憶障害を起こしとる。事故をミサイル攻撃と思い込んでおるし、『ヤマト』はどうなった? とか言う始末じゃ」
佐渡医師から状態を聞いた土方は『ヤマト』にピクリと反応した。
「・・『ヤマト』と? 」
「どうかしたかね? 」
「いや、大昔に沈んだ戦艦の名前だったのでな、それでは瓜生をよろしく頼みます」
そういうと二人は退室していった。
「佐渡? ・・先生。今の人は? 」
佐渡に土方と聞いて・・・頭の中で浮かんできたのは・・・(馬鹿らしい)
「土方竜宙将・・お前さんの上官だがね? 」
信じられないことが起きている・・・背筋に寒いものが走った。
毎晩消灯前に読み耽っていた漫画の世界だぜ? とは言っても、なんていうか【実写版】なので違和感は無い。
しかし、本当の恐怖はこの後だった・・・・・・
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《翌朝》
「・・・うん、朝か」
目が覚めてゆっくりと室内を見渡してみる。
「変わってない・・・・か」
景色を見て落胆する・・・ 目が覚めてみたら夢だった! ・・・といった展開は起こらなかった。
「さて、困ったな。まず、状況を把握しないと・・・お、身体が動くぞ! いいぞ~我ながら凄い回復力だな」
恐る恐るベッドから起き上がろうと・・・ん?
違和感があるのだ!
「なんだ? 重いというか・・なっ!! なんじゃこりゃぁぁぁぁ・・・っ!!! 」
俺は驚愕し慄きの雄叫びを上げていた!!
『があぁぁ~ゔぇぇゎよゅろ~♂♀☆§★▼↑』
あまりの出来事に悲鳴をあげるが、声になっていない。
『ドタドタっ! 』
「なんじゃなんじゃぁ!? 」
悲鳴を聞いて佐渡先生と看護師達が血相を変えて駆けつけた。
「瓜生さん! どうしました? あっ! 先生は向こう見ててください! 」
「うえぇぇー胸がぁぁ!! 」
「瓜生さん落ち着いて! 胸が痛むんですか? 」
俺は上半身裸で胸を弄りながら大混乱に陥っていた。
「胸がっ! 乳がある!!! 」
聞いた看護師は目が点状態になり
「良かったですね。ちゃんとついてて♪ 」
そう言ってにこりと笑った。
「良くない!! 乳が付いてちゃ駄目だろっ! 」
俺は血相を変えて涙を流して訴えた!
「ついてないと駄目でしょ? あなたは『女性』なんですから? オッパイ無くさなくて良かったですね♪ 」
「なんじゃい、朝から驚かすんじゃない! まぁだ混乱しとるようじゃな、鎮静剤射っとくぞい」
鎮静剤を射たれたせいか、俺は冷静に思考し始めた。
取り敢えずは自身を確認・・・乳有り! チン⚫無し!
正真正銘の女性体だな・・・しかも、なかなか良い形のお乳だ♪ ・・・はぁ
鏡に映る姿には見覚えは無い。かなり美形でスタイルも良い・・・俺好みの女が鏡の中に居るよ・・・あははは
身分証を見ると「瓜生ミハル」と? 漢字とカタカナの違いはあるが同姓同名だな? 所属が国連宇宙海軍? 三等宙尉? なんとまあ・・・
やっぱり夢なんじゃないかな?
あの時読んでた漫画の世界だぜ?
馬鹿馬鹿しい・・・そんなことあるわけ
『プニッ』
徐に左手で乳房を揉んでみた。
天然モノの弾力が反ってくる。
「さて、これからどうする? まずは下着選びか! ・・・違う! 」
時空を次元を超え・・・性転換までして転生した事実。
受け入れねば成るまい!
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「・・? ・・・! 瓜生さん! 」
「ん? あぁ? 」
「どうしたんですか? ぼうっとしてましたよ? 検査終わりましたよ」
原田看護師が微笑んでいる。
「定期検査は異常無しじゃ! で、やっぱり記憶は戻らんかね? 」
「さっぱりですね。病院で目が覚めてからの記憶はしっかりあるんですがね~アハハ」
佐渡先生には悪いが、記憶喪失を演じるしかない! なんせ、中身は『別人』なのだから・・・
『メ2号作戦立案書』を沖田司令に提出しますか!
「銀河水平~波間を超えて~♪ 」
「ごきげんですね~瓜生二佐。良いことでもあったんですか? 」
後ろからやって来た西条が話しかけてきた。
「あら未来ちゃん。良いことはこれからよ~! ガミラスの奴らの尻に蹴りを入れてやるからね! 」
そう言って西条のお尻をペロッと撫でた!?
「ひゃん!? もう‥瓜生さん! 」
「堅いこと言わない言わない! 女同士じゃん♪ 」
「女同士だけど、何故かドキッとするのよ・・・」
瓜生の後ろ姿を見る未来の目は潤んでいるのだった・・・・