入室すると既に多数の男女が居た。周りを囲むのは政府関係者と警護官で、中心に6人の男女が座っている。
藤堂行政長官
森外務次官
瓜生統合幕僚長
芹沢軍務局長
そして、森雪とユリーシャ・イスカンダルと思わしき若い女性が居るのだが…… 双子の如く同じ顔だ。
二人共アニメやコミックで見た感じの顔に違いはないのだが、そこはやはり【実写版】なんだな! 初めて目にする雪がこれ程に美しい女性だとは……
「…あの、なんですか? 」
双子の片割れが怪訝な顔で聞いてきた。繁々と見ていたのが気になったようだ。目線の動きというのは、本人が考えている以上に相手には気づかれるものなのだ! くれぐれもイヤらしい目付きで女性を見るときはご注意!
「これは‥失礼した。髪が綺麗で見とれていた… 」
「えっ!? ‥そんな。なんだか男の人みたいですね? クスクス 」
いきなり髪を褒められことに照れがあるような雪だが、表情からは満更でもない様子。
ここで重要なことなのだが、彼女達の髪はアニメのような金髪というか、黄色く着色されていたものと全く違うのだ。
―― 雪もユリーシャも茶色に近い黒髪だ ――
名前から連想するロシア系美女… 旧作ヤマトでは森雪もが日本人離れした金髪美女というトンでも設定はここには無かった。読者にはちょっとガッカリか?
この世界に来てから数年、瓜生美晴が違和感なく生活出来ていることの理由がこれだ。このヤマトの世界にはアニメ特有の色使いが無く現実感が強いのだ! 赤髪ならまだしも、青髪や緑髪の人は違和感ありまくりだったろう……。 ひとつ気掛かりはガミラス人の青い肌がどうなるのかだが…
「瓜生三佐、待っておったよ。‥掛けたまえ。全員揃いましたので始めましょう」
藤堂行政長官に促され、手前の空いている席に腰掛ける。同時に周りにいた連中は退室してゆく…
「ユリーシャ殿下。この者が滞在中の警護を致します。この場に居る軍のトップである瓜生統合幕僚長の息女で、文武共に優れた才女です」
「瓜生ミハルです」
紹介され、慌てて立ちあがり挨拶する… 緊張でガチガチだ!
「ユリーシャです。宜しく頼みます」
双子のもう一方の片割れが微笑みながら言葉を掛けてきた… 涼やかな音色の様な美声… これが高貴な女性の生声か!
「はっ! 一命を賭して御守り致す所存であります。 …(やべぇ、漏らしそうだぜ)」
・
・
・
・
・
藤堂長官のところでの話も終わり、特別に設えた貴賓室に移動した。室内には私たち三人だけだ。
「しかし‥ 驚くほどそっくりだな? 見分け方はあるのかな? 」
「瞳の色が違いますよ。私はブラウンですが、殿下はパープルです。あと、髪の色あいが殿下の方が明るいです」
言われて見比べる…
「ふむ、儚げなユリちゃんとお転婆なユキちゃんと云ったところだな! 」
「なっ!? なんで私がお転婆さんなんですか! それにユリーシャ殿下のことをユリちゃんだなんて!」
顔を真っ赤にさせて雪が詰め寄る。
「まあ落ち着けよユキちゃん? 公式の場以外では一般人を装うんだろ? 」
「う‥ そうでした」
「私もユリがいいわ。ね、ユキちゃん? 」
等の本人はユリと呼ばれることがおきに召したようすでニコニコして雪を諭した。
「そうそう! 二人は双子のお嬢様で、俺は付き人兼ボディガード。呼び方は任せるよ」
「みーちゃんと呼ぼうかの? 良いか? 」
「猫みたいでヤダ… ミハルで頼む」
拗ねたふりをしたら、ユリーシャは『わかったぞ!フフン』て素振りで了承した。
「…それにしても、碎けるのが早いですね? 瓜生さん? 」
「堅苦しいのは苦手なんだよ。おたくらのようなお嬢様じゃないしな? 」
思わず本音を滑らせたが……
「瓜生家の御息女がお嬢様でないなんて嫌味ですか? 」
「ミハルが言いたいのは、武門の家柄だから…であろう? イスカンダルではそのような家系は絶えておるが、ガミラスが… いや、少々軽口であるな」
ユリーシャは最後にガミラスが…と関係性を口にして止めた。彼女も少々気が弛んだのかもしれない。
──────────────────
───────────
─────
「ミハル! ミハル! 」
「大声で呼ぶなっ! …で、どうしたのだ? 」
着替え中のユリーシャが呼ぶので覗いてみる。………何をやってる?
「この服はどう着るのじゃ? 」
振り袖を素肌に直に羽織るユリーシャが困惑顔で聞いてくる。下着姿に振り袖とは… そういった趣向のAVかと突っ込みたくなるぞ?
「それはだな…!? そっ、その手毬柄は! …地⚫少女かよっ! 」
何故この着物がある!? 偶然かと思いきや、他にも揃えてある多数の服を見ると… 某アニメのヒロインが着ていた超ミニスカセーラー服などもある。
「ジゴクショジョ?? 」
「ちがーう!! 」
一文字抜けると違う意味に… ま、それはおいといて。某お仕置き系少女漫画ヒロイン風の振り袖を脱がして、肌襦袢を身に付けてやる。長年の瓜生家での経験から、美晴は着物の着付けをマスターしているのだ。
「あれは『上着』みたいなものでな。まずはこれを肌に着るのだ。で、腰紐をこうして… つか、腰ほそっ! 」
くびれが凄いのだ! 出るとこ出てて、このウエストとは… なんとも狂暴なボディである。バスタオルでも挟まないとな(苦笑)
「きゅうぅ、胸が苦しいのじゃ… 」
ユリーシャは初めて着付けを受ける着物の締めつけが少々気になるようだ。胸が腰紐の上に盛り上がっている… 徐に自身の胸元に目を…ちょっとくやしい。
「胸元が少々キツいのは我慢するべし! 着物という衣装は高貴な女性向けであるから… 因みに古来地球では貴婦人は控え目な乳房が理想とされるのだ。オホン」
「ほう、なるほどの! 地球の淑女は我慢強いのだな!
うむ、なかなか肌触りが良いぞ! 」
強ち嘘でもない話をして言いくるめながら着付けを進める。そうこうしている間に着付けが完了し、姿見の前にユリーシャを立たせた。
「これでよしと! 流石に髪は結えないが、成人式みたいな感じで可愛いよ! 」
「……。このような衣装もあるのだな。…初めてじゃ」
ユリーシャは姿見に映る姿を見つめ感慨極まる。
「着物は地球でも高級品で上流階級の婦人しか身に付けない逸品なんだよ… ん? 」
なにやら様子がおかしいことに気付く美晴がユリーシャの顔を覗き見る………と! 頬に一筋の光るモノが流れ落ちた。
「ずっとこうして… ミハルや雪と姉妹同様に暮らせたら…… 一瞬、そんな夢を見てしまった」
鏡に映る自分を見つめユリーシャは呟いた……