「ミハルぅぅ~! 」
「ちょっ! ちょっ! 落ち着いてよっ! 」
岬百合亜(ユリーシャ)はミハルに抱きついて離れてくれない。抱きつかれること自体は然程の問題はないのだが、ここは大浴場である。そこに居たミハルは当然スッポンポンの全裸で、対しての百合亜は艦内服のままだ。全裸の女を服を着た女が抱きしめている姿は異常な光景だ。
興奮状態だったユリーシャを宥めて大浴場から出た。脱衣室で手早く身体を拭き、とにかく下着を身に付ける。
「それにしても… ミハルはすぐに見抜いたな? 雪は訳がわからない様子で狼狽えておったが? 」
ユリーシャも落ち着いた途端に疑問を呈する。百合亜に憑依した状態のユリーシャに一瞬で気付くのは常識的にはあり得ないことだ。
『ユリーシャには話すべきだな… 同様な状態の彼女なら理解できると思うし、協力を得られると助かるぞ! 』
「…(そうね… ) ユリーシャ、 話を聞いて貰えるかしら? 」
「…聞こうではないか」
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「ふむ。……なんとも、難儀なことよのう? ミハルと美晴の二人が同居しておるのか… 」
百合亜(ユリーシャ)は腕組みして瞑目し、軽く唸る…
「そういうことですから、ユリーシャ殿下の知る瓜生ミハルは美晴なのです。しかも男で…… 」
「殿下はよせと言っておる…。 それに、男と申したが… そもそも魂の状態に男も女もないであろう? 」
ユリーシャが言うには、魂に男女の性別は無いというのがイスカンダルの考えらしい。宿る肉体が男か女かで魂が意識しているだけなのだ…… と、言われてみると美晴には思い当たる感があった。
「そうだ! さっき雪が狼狽えてたって言ってたわよね? 雪にどんな話を? 」
「話をするもなにも… 妾が名乗った途端に逃げてしまったのでな… 」
『不味いな… 雪を捕まえないと! 』
その時、艦内放送が流れた!
『――瓜生参謀長――至急―医務室へお越しください――繰り返します… ――瓜生……… 』
「ユリ! 行くわよ! 」
叫ぶと同時にミハルは百合亜の腕を掴み歩み出す。
「いきなり呼び捨てとは… ミハルらしいのぅ」
呼び捨てにされるのも満更でもない様子で引っ張られてゆくユリーシャである…
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「佐渡先生! もしかして‥! やっぱりいた! 」
医務室に入ると、佐渡先生の傍らには怯えた様子の雪が両肩を抱き抱え震えていた。
「飛び込んで来て、お前さんを呼んでくれと言うでな? 」
「ミハル姐さん! ‥ひぃ! 」
困惑顔の佐渡先生の後ろで、ミハルに気付いた雪が呼ぶ… と、ミハルの後ろに百合亜を見て引き攣る。
「雪、落ち着いて。これから事情を説明するわ‥ 」
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「さて… どこから話すとしましょうか? まず、雪はユリーシャのことは… 」
「全く覚えてないわ」
雪によると、ユリーシャとの関わりは土方提督から聞いてはいるが詳細ではないそうだ。行動を供にしていた際に事故に遭い… 雪は軽傷だが記憶を失い。ユリーシャは死亡したと教えられていた。容姿も知らないのだ…
「なるほど‥ね。…(雪には黙っておくべきか)」
「姐さん! 岬さんがユリーシャってのはどういうこと? 」
「そのことだが、先日の敵による精神攻撃によって私が記憶を回復したようにユリーシャの意識も回復したのだ…が、どういうことか自身には宿らずに岬百合亜の身体に憑依する形になったそうだ。恐らくは岬が霊感体質であることが原因で魂を引き寄せたのかもしれん」
「そ、そんなこと… 」
「目の前に居るのが現実であろう? 」
俄には信じられないとの態度の雪に対して、腰両手をあて仁王立ち姿で百合亜(ユリーシャ)は詰め寄る。
「それでだ… そこのカプセルの中にユリーシャがいる。見てみろ… 雪」
ミハルとユリーシャに促されるままにカプセルを恐る恐る覗き込む雪は… 目にした姿に息を呑んだ。
「!? …こ、これは! 」
横たわる女性の姿は雪に瓜二つなのだ! 雪が驚いたのは当然であった。
「そっくりだろう? 私も初めて二人と対面した時は驚いたよ。イスカンダルの皇女様は双子なのかとね…。だが、紹介を聞いて即座に理解した。雪に課せられた役目にね… 」
森雪に課せられた役目… 瓜二つな容姿は偶然では無い。敢えて選抜されたのだ… いや、ここまでそっくりなのは偶然か? 何れにせよ姿形そっくりな人物を傍に置いたのは意図的なのだ。
「ミハル姐さん! 教えて… 何故私がユリーシャの傍に? こんなに似ているなんて… 」
「雪。『影武者』を知っているか? 」
「カゲムシャ? …世界のクロサワかしら? 」
そうくるか! 確か、雪は大学時代に近代日本文学を研究していたそうだ…
「そうだ… なら、影武者の意味はわかるな? 」
「私はユリーシャの…… 影武者? 」
「…… (雪には気の毒だが、役目を遂行してもらう)」
あのときのジレル人が総統府へ報告をしていたならば… そろそろ襲撃がある筈だ。雪には苦労をさせるが、なんとしてもガミラスへ引き渡さないとな… ユリーシャの身代わりとして。
「このことは他言無用だ。誰にも話してはいけないよ? 悪戯に混乱を起こすことは避けたい」
「…はい。確かに信じがたい話… 皆には岬さんが精神状態が不安定だと誤魔化すわ」
「致し方ないの、妾もなるべく大人しくするとしようぞ」
後はザルツ人の潜入部隊が予定通りにやってくれば…
上手く拐わせないとな…
いつの間にかストーリーがずれていることを不安に感じながら、美晴は曖昧になってきた原作知識を思い出すことに注力するのだった。