時空のエトランゼ   作:apride

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回想【其の三】

西暦2193年

この世界で目覚めた翌日の午後

 

 

俺は中央大病院の屋上に来ている。病院の屋上だからなのか、転落防止柵が見上げる高さで囲んでいる。無論、悲観に暮れて飛び降り自殺を計るつもりはない。気晴らしに屋上から外の景色を見たいと言ったら、看護師が快諾してくれたのだ…が、何やらプロテクターのようなものを装着されてしまった。ダンパー・スプリングやモーターが付いてて… 寝たきりの一ヶ月で弱った筋力を補助してくれる。これで自動小銃でも構えてるとSF映画みたいだな?

 

柵越しに眼下の様子を一通り見渡して落胆気味に考え溢す。

 

「……やはり。‥そう‥くる‥かよ」

 

高層建てのビル屋上からは市街地が見渡せる……が。見馴れた景色では無い…

だが、遠くにそびえ立つスカイツリーがかろうじて此の地が【東京】であることを示していた。

 

ここが東京だとすると、21世紀でないだろうことが容易に想像出来る程に未来風景が広がっている。

眼下の道路上を走る自動車が全く別物だ。100年も経過すると大概のコンクリート建造物は更新されてしまう… 都市の景観が一変しているのはそういうことだろう。

 

――この時は少し冷静さを取り戻し、状況を整理しようとしていた――

 

「女の身体… 巨乳で無いのが救いだな。あまりデカイとバランスが… 転ぶかもしれんからな」

徐に自身の胸の膨らみを確かめるが如く乳房を揉む。先っぽが凄く気持ちいい…… あまり弄ると変な声が出そうになり止める。

 

 

「土方に佐渡…… 同姓というだけかもしれないしな! 今、確定しているのは… 赤の他人の女に憑依? そうなったのと、タイムスリップしたかもな? いや、…間違いなく未来に来てるよな…… うん」

 

美晴はやや現実逃避気味に考えたくなったのだ…

まだガミラス戦に関しての情報は耳にしていないのと、今現在の地上は平和そのものなのが…【宇宙戦艦ヤマト】の世界観を否定的に見せている。

 

「落ち着いて考えると… 有り得ないよ。タイムスリップなら未しも、架空の物語世界へ転移するなんてさ! 」

 

そう‥きっとここは未来の日本なんだ。宇宙軍? 未来なら宇宙にまで自衛権が及んでいてもおかしくはないだろう? …多分。

ここは間違いなく未来の日本だし、目に見える景色は異星人の侵略を受けている様子は無い。そもそも、海洋が全て干上がってしまうなんて荒唐無稽にも程がある!

 

「そうだよ… 遊星爆弾で海が干上がり、地表が赤茶けた火星みたいになるなんて馬鹿らしい。昭和のアニメ設定には笑うしかないな! ハハハ! …まてよ? ヤマトの世界は2199年だ。今は何年だ? ガミラスと接触する以前なら辻褄が……合うじゃないか! ん? …な・ん・だ? 」

 

一際大きなジェットエンジンの轟音が後ろから聞えてきて振り返る……

 

 

「………マジ……か‥よ? 」

 

 

西日に照される特徴的な船体は『磯風型突撃駆逐艦』だった。アニメで見知ったそれはカラーリングこそ違えど、明らかに【宇宙戦艦ヤマト】世界を如実に美晴に突き付けた。

 

 

 

「おおぉ!! こんな轟音出すのか? 想像してたイメージと違う…… 案外ボロっちいな? でも、実際に飛んでるのって… やっぱカッコいいなぁ!! 」

 

大気圏内ではジェットエンジンで飛行しているらしき姿は黒煙混じりの推進ガスと相まって、見た目には20世紀のロシア戦闘機のようであり… お世辞にも未来のスーパーテクノロジーの産物という印象は受けない。

 

「やっぱ‥あれか? 原作が20世紀モノだからかな? ハイテクとローテクの折衷品だなぁ~」

 

目を背けたかった筈の事実を目の当たりにしたことを一瞬で忘れ、上空を飛行するメカニカルな宇宙艦に釘付けだ。

なんだかんだで… 美晴も乗り物大好き男子なのだった(笑)

 

 

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病室に戻ると…… 来客の姿が見えた。

佐渡医師の横に立つ体格の良い男は、仕立ての良い軍服から将官であろうか?

 

「…(この女はどういう立場なのだ?)」

土方が見舞いに来たのは上官だからだ。では、この将官は? そんなことを感じながら部屋に入ると同時に男が振り向いた。

 

「ミハル! …良かった」

 

そう叫ぶと男は俺の身体を抱き締めた。

 

「痛っ?! 」

 

余りに強く抱き締められたのと驚きに声が出た。それと、やはり女の身体は造りが華奢なのだ。幸いにして、この身体は元の俺と身長が変わらないからだろう… 目線の高さや手足の長さに順応性がある。しかし、筋肉量や骨は明らかに劣る。

 

「おお、すまない! お前が目を覚ましたと聞いて飛んで来たのだが、立って歩いてる姿を見たら… つい。しかし、良かった。母さんも会いたがっている! さあ、家へ帰ろう! 」

 

父(光政)はニューヨークの国連本部に滞在中に娘の覚醒の報を聞き… 当に飛んで帰ってきたそうだ。

 

「えっ! ……と、お父さん? 」

 

話した内容と、胸の名札『瓜生光政』から咄嗟に口から出た。この男は瓜生ミハルの父だ… しかも、軍の高官に違いない。

 

「お父さん? …懐かしい呼ばれ方だ」

 

一瞬、光政の表情が明るくなったようだった。成人する頃からいつしか『お父様』に呼び方が変わり、光政は内心では寂しく感じていた。

 

「…閣下。ご息女は記憶を失っております」

 

横に居た佐渡医師が沈痛な面持ちで伝えた。

 

「なに!? 記憶が無いのか? では、私のことも判らないのか? 」

 

父は娘を見つめ問う

 

「はい… 全く思い出せないのです」

光政の問いに俺の答えは決まっていた。俺はこの女とは別人だから知る筈も無い。記憶喪失を装う他にない…

 

 

 

 

病院前のエントランスに黒塗りの高級車が横付けされていた。L字を型どった楕円のエンブレムの国産高級車だ… この世界・時代にもレク⚫スは健在だ!

ふと違和感に気づく…

 

「…おや?(確かこのマークは某ハンバーガーチェーンと意匠で被ると嫌い、つい最近に意匠変更されたのに?)」

 

「どうした? 早く乗りなさい」

 

違和感を引摺りながらも、父に促されて後部座席に乗り込んだ。座りながら馴れないスカートの裾を直す… 実家に向かうに際して着替えが渡されたのだが、清楚な白いワンピースは正直なところ気恥ずかしい。長い髪を整え、薄く化粧を施されて、つま先から頭のてっぺんまでお嬢様に仕立てられた姿に……身に起こっている災難を再認識する美晴だった……

 

 

「女の身体というのは… なんとも、儚げなものよのう… はぁ」

 

小声で感嘆を漏らした美晴だが、試練は始まったばかりだ。

 

 

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──────

 

走る自動車の窓から景色を眺めていた美晴は先程の違和感の原因を悟った。広告看板の類が目に入るのだが、その中に幾つかおかしな点に気づく……

 

――美晴の世界で最近になって消滅したメーカー・ブランドが存在している――

 

「…(もしかすると… この世界の基本情報は21世紀初頭の原作時点から更新されていないぞ)」

意味するところ、美晴が持っている【宇宙戦艦ヤマト】の情報はこの時代より100年以上前に書かれたことになるのだが… 途中で新たな情報に基づいた更新・改編などあるのが当然。その形跡が無い……

この世界の時間は美晴が過ごしていた21世紀と繋がっていない! 実際に未来へタイムスリップしたのでなく、未来を舞台とする架空世界へ転移した可能性がある。

 

「…(変わってないなら、俺の情報が使えるかもしれない)」

 

大通りから路地を入り、閑静な高級住宅街へ車は進む。自動で開いた門扉を抜けて入ると……日本庭園?

 

「…(おいおい! ここは偕楽園かよ!)」

 

都内某所に広大な敷地を持つ御屋敷が瓜生ミハルの実家だった!

水戸の偕楽園か金沢の兼六園かといった庭の先に黒光りする瓦屋根の屋敷が見える。

 

「…(悪代官でも出てきそう‥ いや、暴⚫ん坊将軍かな…)爺… とかいたりして♪ 」

 

「ん? 小薗さんもミハルが帰ったら喜ぶだろうな! 」

 

美晴の軽口が聞こえた光政がそれに応えた。

 

「小薗さん? 」

 

「お前が幼少の頃から()と呼んでた執事だ」

 

「爺居るのかよっ!! 」

 

思わず突いて出た声に驚いた光政… 無理も無い、愛娘の口から出たのは聞きなれない乱暴口調だったからだ。

 

「あ‥ やだ、ワタクシとしたことが… ホホホ」

 

「……軍生活の影響は仕方あるまい。少し驚いたぞ」

 

父は軍生活から言葉遣いが荒くなったものと解釈したようだ… 迂闊に地を出さぬよう気を付けていかねば‥記憶喪失でなく、万が一にも別人の疑いが起きないと限らないからな!

 

 

瓜生美晴の【瓜生ミハル】的なる未来世界生活‥否! 『未来空想世界生活』が始まった!

 

 

 

 

 

 


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