夢にしては長過ぎる・・・そして、あまりに苛酷な物語の中心にいる。
国連宇宙軍所属 巡洋艦『くらま』
《艦橋内》
「始まったな・・・」
遥か彼方の冥王星宙域で光が交錯し、その片方付近で眩い光の球が輝く。地球艦が爆沈したのだろう・・・
「奴等、待ち構えていやがった! しかも多勢に無勢。彼我の性能差からして、これでは虐殺ではないか!」
艦長は味方艦隊が一方的にられていることに歯ぎしりして悔しがる。
「沖田提督は必ず作戦を成功させます! 堪えてください艦長」
俺は内心とは裏腹に悲壮な表情で叫んでいた。・・・(そう、メ号作戦は成功する。きりしま以外の艦隊を犠牲にして)
「貴様ら参謀に俺の悔しさはわからん!」
艦長は俺の胸ぐらを金モールの参謀飾緒ごと掴みながら、目許には粒状に光る物を漂わせていた。
「堪えて下さいっ! 本艦は最後まで沈んではいけないのです! 本作戦成功の為、本艦の出番がないことを祈りましょう・・・」
そう言いながら、胸ぐらを掴む腕を握り締めて引寄せ・・
「? ‥うっ!…わかっておる。取り乱してすまなかった」
一瞬で猛っていた男は大人しくなった(笑)
「クスッ、いえ…本作戦の責任は作戦参謀の自分にもありますので…(有能な艦長だが、頭に血が上り易いな)」
元々、本作戦で艦隊と別動予定は無かった。艦隊司令の沖田提督の判断でギリギリに滑り込ませた変更点が本艦を艦隊の遥か後方に配置することだった。
本作戦の成功を確実にする為に・・・
(この艦長を抑えて、なんとしても俺が生還しないとな!)
時に西暦2199
人類は絶滅の危機に瀕していた。
私は国連宇宙軍極東管区統合参謀本部所属
三等宙佐 瓜生ミハル
メ号作戦では艦隊附次席参謀として、旗艦きりしま乗艦を命じられていた。本部の作戦参謀が現地の艦隊と一緒に戦場へ赴くのは異例だ。しかし、旗艦[きりしま]なら生き延びることになると安堵もつかの間・・・
沖田提督の命令で別行動となった〔くらま〕に乗艦することになってしまった・・・
(史実では、交戦開始とほぼ同時に巡洋艦〔くらま〕は命中弾を受けて轟沈する)
(何故、俺がこんなところにいるのか?)
(今更なにを考える?)
(今は成すべきことを成すことに集中しろ!)
自問自答していると、いつの間にか戦闘は終わった。
通信士が旗艦[きりしま]から地球の司令部へ暗号電文を発信したと報告が上がる。
「アマノイワトヒラク…か」
俺は呟いた。
「本作戦は成功したのだな? 瓜生参謀」
「はい」
「そうか、ならば私の仕事は本艦と乗員を無事に地球へ帰還させることだ」
艦長は冷静な面持ちだが、心中は察して余りある。
恐らくは無傷ではないであろう旗艦[きりしま]と二艦のみで地球へ帰還するのだ。無傷の[くらま]を見た人々がどう思うかは想像に難くない・・・
艦長は卑怯者とか腰抜けと陰口を叩かれるかもしれない。
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《三週間後》
火星軌道上に二艦は有った。
[アマテラス]から回収した(積み荷)と供に回収要員を収容した。
(やはり、サーシャは亡くなったか・・・)
本来はこの世界に存在しないはずの俺によって、話の流れが変化しているのだが、あくまでも直接的な干渉を行った場合に限るのだろう。
謂わば、俺はこの世界の〔特異点〕なのだ。
沈む筈だった[くらま]は無傷で残り、乗員も全員生き延びた・・・これは、後の『ヤマト計画』に影響をもたらすはずだ・・・ヤマトクルーの選抜が変化しかねんというのが気掛かりなんだ。
何はともあれ、[きりしま][くらま]両艦が生き残り・・・俺も生き延びた!
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地球に帰還した俺は沖田提督に呼ばれ、中央大病院の診察室に居る。ちょうど処置が終わったところらしく
室内には…
沖田提督
土方提督
佐渡医師
原田看護師
上記4名に俺を含めた5名が居る。
「帰還早々に呼び出してすまんな。用件は特に無かったのだが、あの場には居づらかろうかと思ってな?」
沖田提督はお見通しのようだ。
「ともかく、目的は達成した。ご苦労だった! 瓜生君」
と、その時!
「だめですよ! 診療中です! 」
原田看護師の声
(きたか? 古代進)
「提督にお聴きしたいことがあります! 」
見ると、引き留めようと肩に掴みかかる原田看護師を引き摺りながら若い士官が興奮状態で入ってくる。
「メ号作戦が陽動だというのは本当ですか!?」
提督の前に立ち
「誰も、兄もそれを知らずに死んでいったんですか! 」
《 バキッ! 》
「グハァ! 」
「落ち着きなさいっ! ここは病院だぞ! ‥あっ!? …すまん」
古代は床で伸びていた・・・
平手のつもりが、チョップをお見舞いしてしまった!
「ばっ・・・あ、大丈夫か? おい、しっかりしろ古代? 」
土方提督は怒鳴りつけようとした言葉を呑み込み、床に転がった古代を心配している・・・
「なんじゃ、なんじゃ、騒々しい!? むさ苦しい男が集まるといかんな! 喧嘩なら外へでてくれ! 」
佐渡医師は処置室内であることからか、かなりご立腹だ。
「わたしは女ですぅ! 」
原田看護師はブー垂れる。
「瓜生も女だ」
土方提督が一声
両提督以外の全員が俺を見る!
「えっ!? 綺麗な男の人だと思ってました・・どうして男装してるんですか? 」
原田はびっくりして質問してきた。
「くくくっ! 」
沖田提督は堪えながら笑う。
そう、俺は女性なのだ。
身長172㎝ B85 W60 H88 位のはず?体重は勿論ヒミツ!
因みに〔男装〕はしていない。宇宙から帰還してすぐだから、制服のスカートはパンツなのだ。黒髪ボブで長さはちょいミディだが、職務中には後に纏めてるから短く見えるかな?
「ところで、艦長の谷君を一発で抑えたらしいな? 」
土方提督がやや驚きの表情で聞いてきた。
「興奮して私の胸ぐらを掴んできたので、その腕を掴んで乳を揉ませました。一発で大人しくなりましたよ! あれでダメなら玉を握ってやるつもりでしたよ! アハハ」
実にあっけらかんと答えたが、此れには両提督は言葉を失っていた。
「乳とか玉って! 瓜生さんて見掛けによらず豪快なんですね~!! 」
原田はなにやら羨望の眼差しだ?
「こいつを女だと思わんほうがいい… 見た目は
そう言いながら土方提督はニヤリと笑うが・・・目は鋭い(この人って笑う顔も怖いなぁ)
「おいっ! 古代! しっかりせんか! 」
土方提督は古代の襟首を掴みあげ引っ張ってゆく。
「ちょっとこい。島~オマエもだ! 」
3人は診察室から出ていった。
「私も参謀本部へ戻ります」
「うむ、ご苦労だった」
参謀本部に戻った俺には『召集令状』が届いていた。
勿論、話の流れから【ヤマト計画】への召集だ。
(やはり逃れられんか…)
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《召集令状》
二等宙佐 瓜生ミハル
艦隊参謀長を命ずる
BBY-01宇宙戦艦ヤマト乗艦とする
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という内容が届いている。
「古代と島は二階級特進で一尉なのに、俺は一階級か? 参謀長なら一佐以上の補職じゃんか!」
ブツブツと独り言・・・
「お前は情報部か? ついさっき出された召集で、誰も二階級特進なぞしとらん! ・・・それと「俺」はやめろ。艦内で艦長に次ぐ階級なんだからな! 」
後ろから上官に叱られた。
「それから、こいつに目を通しておくようにな」
分厚い百科事典のような物を受け取った。
【ヤマト計画 参加人員】
なんで紙の乗員名簿なんだ? ま、いいか。
早速だが、気にかかったことがある。
まず、艦長は…と、谷一佐かよ!?
やはり〔くらま〕が生還したからな。
その後は一通り目を通してみたが、随分と変わってる!
それと、古代も島も二尉に戦時特例昇進? ・・・二尉?あれ?
そうだった!!
偽装中のヤマトがガミラス空母の攻撃を受ける前だ!!
暫くして 《警報》
(来たか・・・)
司令部は大騒ぎになっていた。
史実通りにヤマトは空襲を受け、主砲から発射した三式融合弾にてガミラス空母を撃破した。
その際、傍の地下施設に集合していたクルーが犠牲となった・・・
その後、改めて作成された乗員名簿は知っての通りだった。
主要幹部が犠牲となり、古代と島はめでたく二階級特進になっていた。
ちなみに
結局のところ、ヤマトクルーで私以外は代わり映えしなかった。
しかし、私の知る宇宙戦艦ヤマトには〔参謀〕なんて登場しないから・・・全く未知の世界に踏み込むことになるなぁ。自身の行く末だけが全く不明って!・・・それが普通か
ユニフォームが気になるなぁ・・・