時空のエトランゼ   作:apride

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14話 事実と信頼

「牽引ビームが! 」

 

ヤマトを曳航していた牽引ビームが突如切断された!

 

 

「くそっ! やっぱり罠だった! …信じた結果がこれか」

 

島は予想が当り、憎々しく歯ぎしりした。

 

 

「ロケットアンカーをぶちこんでやるっ!! 」

 

 

 

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《応接室》

 

 

その少し前、応接室では…

 

 

 

 

 

私とメルダは向き合ったまま一言も発しない……

 

 

メルダは… 眉間にやや皺をよせている…

 

 

横で見ている平田と山本も注目している…

 

 

 

 

暫しの静寂が…

 

 

 

 

『 ゴクリ 』

 

 

 

 

平田が緊張から唾を飲む音が響いたのを合図にしたかの如く…

 

 

私はメルダに問う

 

 

 

 

「結論は如何に? 」

 

 

 

 

 

 

「…美味しい」

 

 

 

 

「お褒めに与り恐悦至極にございます」

 

 

 

 

 

平田はホッとした顔だ… 抹茶を出せと私に言われ、異星人に抹茶はどうかとドキドキしたようだ。

参考までに、ドラマなどでよく耳にする「結構なお手前… 」とは言わない。

 

「なかなか美味いだろ? メルダの肥えた舌ならお奨めの品だと思ったのだ」

 

「ミハルの言うとおりで確かに美味い! 最初に口にしたアキラを見たときは毒でも入っているかと思ったが? 」

 

いつの間にか互いを名前で呼びあっている…

 

「抹茶って… こんなにエグい味だと知りませんでしたよ」

 

山本は想像とかなりかけ離れていたようだ。

 

「君にはおまけで出しただけだ‥しかもお客様より先に口をつけて文句言うな! ま、しかしだな‥濃茶をよく練り、たっぷり泡立てた裏千家流の茶だから慣れてないとな」

 

 

瓜生家の茶は裏千家で濃茶を『練る』と言うだけにドロリと濃い茶が主である。平田が気を利かせてくれたらしい。

ちなみに平田は表千家で、薄茶が主で茶を『点てる』である。

 

 

「成る程、フワリとした口当りでまろやか…ほんのりと甘くて…それでいて適度に苦味があり絶妙な味わいをもたらす…… これも『茶』なのか!? テロンの食文化は奥が深いようだな」

 

 

抹茶を口にしたメルダが感慨深げに感想を語る…

 

 

「ドロッとしてて、めちゃめちゃ苦いと思うけど… 」

 

山本玲の感想が一般的だろう…

例えるなら、コーヒー牛乳しか飲んだことのない人がエスプレッソをいただくようなものかな?

 

ジャンクフード等に馴れた庶民の口には上流階級が食べる高級食は物足りないと聞く。味覚のベースが違うのだ。例えば中華料理も街の料理店とVIP御用達の高級店ではメニューも味付けも別物だ。

私自身もこの身体に転生した当初は味覚の違いに戸惑った… 数年の軍生活ですっかり馴染んだが。

 

 

「あ、始まりますよ! 」

 

壁のモニターを見た山本が促した。

 

 

ガミラス艦から曳航の牽引ビームが接続される。

 

「いよいよだな… 見せてもらうぞ… テロンの超兵器の威力を! 」

 

 

モニターから音声が流れる

 

『ターゲットスコープオープン! …波動砲発射5秒前! …3…2…1…発射!! 』

 

発射と同時にモニター画面がホワイトアウトする!

 

次に映像が戻ると、行く手には穿孔の先に微かに空間が覗いて見えた!

 

「よし! 開いた! 」

 

 

『 グッ グンッ 』

 

ガミラス艦が加速すると、一瞬遅れてヤマトの船体が牽かれ加速を開始した。

 

 

「やった! 成功ですね! 」

 

「まだだ! …この空間から出るまで油断できぬ」

 

 

山本が喜ぶが、メルダは冷静に見守っている。

 

「…(そろそろかな?)」

 

 

私の予想通り(いや、史実通りと言うか)ガミラス艦から伸びていた牽引ビームが突如消えた!

 

「なんだ? まだ脱出してないぞ!? 」

「どうした!? 」

 

皆が驚いている…

 

「これは… いったい!? 」

 

モニターを見つめ呆然とするメルダ

 

 

「やはり… そういうことだったのね」

 

山本玲は蔑むようにいい放つ

 

「艦長のラング中佐は気骨のある武人だ。これはなにかのアクシデントに違いない! 」

 

そう言うメルダも狼狽の色を隠せない。

 

 

「狼狽えるな! アクシデントは予想の範疇だ…信じたからには一蓮托生だ! 」

 

私は腕組みをして座ったまま二人を叱った。

 

「…すみません」

 

「…ミハル 」

 

 

その直後には牽引ビームが再接続されて曳航が再開した。

 

 

「流石… 落ち着いていらっしゃる」

 

「平田も冷静に見守っていたではないか」

 

「いやぁ、私は言葉を失うほどに落胆してましたよ…ハハ」

 

 

 

無知は恐怖を生む… ただ私は知っていたに過ぎないのだ。この直後に起こるであろう悲劇も…

 

 

 

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「通常空間まであと5分」

 

 

「まもなく抜けます」

 

「牽引ビーム解除されました! 本艦は通常空間にあります」

 

「波動エンジンの正常動作を確認」

 

「11時の方向! ガミラス艦艇多数ワープアウト! 」

 

「やはり罠か! 」

 

 

 

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その頃応接室では

 

「お別れの時間だな… そろそろ帰還命令があるはずだ。短い時間だったが、とても有意義だった… 瓜生二佐、平田一尉、山本三尉 …感謝する」

 

その時…ドアが開き、伊東一尉が入室して私に耳打ちした。

 

「…ガミラス艦隊の待ち伏せに遭いました。現在、戦闘配備中です」

 

「…わかった。下がれ」

 

「はっ、引き続き外で待機します」

 

そう言うと伊東は退室した。

 

 

「ディッツ少尉… すまないが、帰還は暫し延期だ」

 

「… どうしたのだ? 」

 

「…ガミラス艦隊と遭遇した。現在、本艦は戦闘配備中だ」

 

「なんだと? …捜索隊では? 」

 

「…何れにせよ、暫く此処で待機願う」

 

 

重苦しい時間が過ぎてゆき……

 

 

『 プルル プルル 』

 

 

壁の内線から呼出音が鳴る

 

 

「はい …はっ!…瓜生二佐、真田副長から内線です」

 

受けた山本三尉から受話器を受け取る。

 

「瓜生です。……そうですか。…わかりました」

 

真田副長から報告を受けた。内容は抜けたところにガミラス艦隊が現れ、本艦は戦闘を避けた。…EX-178は正面から友軍の砲撃を受け爆沈した。これにより、軍使として滞在中のメルダ少尉は戦時捕虜として保護する予定であるということだ。

 

 

 

「報告があった…本艦は出現したガミラス艦隊との交戦を回避し、現在は周辺宙域に敵影認めず。 尚、ガミラス艦隊からの砲撃によりEX-178は爆沈……以上」

 

「なっ!! そんな…… 」

 

友軍の攻撃で帰る宛を失ったメルダは呆然となった。

 

「それでだ… ディッツ少尉。貴官を戦時捕虜として扱うことになるだろう… 」

 

「捕虜? いきなりそれは酷い扱いじゃないですか! 」

 

山本が捕虜と聞いて反応したが、軍使としての立場は消えたのだ。と、為れば…敵中に居るからには捕虜という立場に成る。

 

「帰る宛がないからには、本艦にて保護することになるが…名目上『捕虜』とするするのが妥当だ」

 

 

「心得ている… 配慮に感謝する」

 

 

「ディッツ少尉はもう暫くこの場でお待ち下さい。山本三尉! …この場を任せる」

 

そう言って私は退室し、艦長室へ向かった。

 

 

 

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《艦長室》

 

 

入室すると沖田司令と真田副長が待っていた。

 

「さて… ディッツ少尉だが、捕虜として留置室に収監するのが妥当と思う」

 

「その処遇で宜しいと思います。尋問を行い、情報を引き出せると良いのですが… 」

 

真田副長はメルダから情報を引き出すことに期待している。

 

「情報か… 恐らく無理でしょうな。碎けた話しも出来たのですが、あくまで日常的な内容に限りました。かなり筋金入りの軍人ですから、機密事項は漏らさんはず… 拷問にでもかけてみますか? 」

 

「いや、参謀長が言うなら…そうなのでしょうな」

 

真田副長も元から情報引き出しは難しいと読んでいる。

 

「今回の措置はあくまで一時的な保護のためだ。折を見てディッツ少尉は解放しようと考えておる。それまでに可能な限り情報提供を持ち掛けてくれ」

 

「司令…本件は私に一任いただけないでしょうか? 」

 

「接触する人間をこれ以上増やすのも避けたいしな。…よかろう、君に任せる」

 

 

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《応接室》

 

「ディッツ少尉待たせた…なっ!?…何をしている? 」

 

室内では玲がメルダに馬乗りになっていた。

 

二人とも髪は乱れ、頬が赤く腫れてる…

 

「……ずいぶん仲の良いことだな(やっぱりそうなるのか)」

 

 

「あ‥こっ、これはその… 」

 

「アキラと親睦を深めていたのだ。…問題ない」

 

「…ま、そういうことにするか。ところで、ディッツ少尉を留置室へ移送する。保安部がお連れするが… 山本三尉も保安部のローテーションに入ってくれとのことだ」

 

「私が保安部に? 」

 

「上官の戦術長の命令書はこれだ。臨時に保安部員としてディッツ少尉に付いてもらう。仕事の内容は警備から身のまわりの世話だ」

 

「パイロットの私が…ですか?? 」

 

「警備上、接触する人間を制限する必要があるからな。山本三尉なら気心も知れて適任と判断した」

 

「ふ、…よろしく頼む」

 

メルダの顔には少しばかりの安堵が表れる。

 

「…了解しました。ま、仕方ないですね」

 

 

 

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《艦橋後部観測室》

 

古代と島が語り合いをしている。…陰には雪が立ち聞きして呟く

 

「……いいわね 男同士って」

 

 

「ほんと いいわね~ 」

 

「きゃっ!? 驚かさないでよ! 」

 

「陰から見守ってばかりじゃ振り向かないわよん。あいつ鈍感だからなぁ… 」

 

「な、なんのことかしらぁ~ 」

 

「榎本さんによると…古代は『女の扱いが下手』だそうだ。それにモタモタしてると他の女の子が狙ってるしな… 雪! あんたから積極的にいかないとダメよ! 」

 

「ミハル姐さん… 」

 

「明日は無いかもしれないからね…… お互い」

 

私はそう言いながら左手に光るリングを見つめる。

 

「芹沢さんからの指輪まだ… うん、頑張ってみようかな! ありがとう姐さん」

 

 

「くどいようだが、古代は鈍感だからな! 何度もおせよ」

 

「ウフフ そうね♪ 」

 

君らにはくっついてもらわないと…ストーリーに悪影響があるかもしれないからな?

 

 

 

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《中央作戦室 控室》

 

中央作戦室の横にある部屋に居る。ここは普段私が詰めていることが多い。長官室を充てられているが、あそこはあくまで『長官室』なのでなにかと使い勝手が悪い。

 

「失礼します」

 

「伊東か… ディッツ少尉の件かな? 」

 

「はい。…気になる話を耳にしたので」

 

「開戦に関する発言だろ? 」

 

私はデスクのモニターから目を逸らさず応えた。

 

「やはり… なんでも地球側の先制攻撃が端初だとか? 」

 

伊東に向き合い… 低く落ち着いた声で応える

 

 

「 事実だ 」

 

 

 

「は? ‥なん で? 奴の言うことが本当だと!? 」

 

伊東の細い糸目が見開いた。

 

「6課の君ならば知っていると思っていたが? 」

 

戦略作戦部6課は藤堂行政長官直轄の部署だ。伊東の身分は沖田司令と私の二人だけが知っている。

※戦略作戦部は私の所属する統合参謀(幕僚監部)本部隷下である。

 

 

「……初耳です。 詳しく教えていただけますか? 」

 

 

「……ということだ。戦端はこちらが開いたが、挑発してきたのはガミラス艦隊だ。度重なる警告を無視して太陽系へ侵入してきたのは紛れもなく領域侵犯行為だ。どちらも都合の悪いことは隠蔽して語らんよ… 」

 

 

「ずっと騙されていた? ……なんてことだっ!! 」

 

伊東は憤るが…

 

「当時の対応が最善だったのかはわからん。しかし、挑発行為にまんまとのせられることになったのは失策だった。 …だから、事実を歪曲して報道したのだ」

 

「異星人の奴等に正義があるなんて…… 」

 

「それは違う。我々がガミラスの侵略を受けているのは事実だ! お互いそれぞれの正義がある…それが戦争だろ? 」

 

「………」

 

「ディッツ少尉にも同じように話したよ。…彼女も君と似たような反応だった。今…彼我は啀み合っているが、睦み合うことの可能性はあると…信じたい」

 

 

「…この話は? 」

 

「…他言無用だ」

 

「承知しました …失礼します」

 

 

伊東は複雑な面持ちで退室した。

 

 

 

「…さて、どうなるやら。伊東には死んでほしくないのだがな…… 」

 

 

 

独りになったところで行程表に目をやる……

 

行く先には………

 

 

 

『 バラン 』

 

 

 

 

 

「…… そろそろ仕掛けてくる頃だな」

 

 

 

 

 

 

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《保安管理室》

 

「あ、参謀長!?‥と、山本三尉」

 

椅子に腰掛けていた星名准尉が気付き立ち上がる。

 

「どれ、古代戦術長はやってるか? 」

 

星名の前にあるモニターにはメルダと向き合う古代が映っていた。

 

「戦術長殿は真面目に尋問してますよ。…成果はあれですがね」

 

振り向くと伊東保安部長が入ってきていた。

 

モニターにはなにやら可笑しいのか、メルダが口を押さえて笑いを堪えている姿が…

 

「やれやれ… にらめっこですか」

 

 

「やはり成果は上がらんな… 予想通りだが、もう暫く続けてもらおう。保安部はサポートよろしくね」

 

「了解しました。 …ここ数日の戦術長とのやり取りをみてましたが、異星人とも… あ、なんでもないです」

 

「… そうか。 では、よろしくね。伊東くん」

 

 

《第一艦橋》

 

「係留中のガミラス機が離艦しました! ファルコン1機が発艦して追ってます! 」

 

「!? (あっ、そうだった)」

 

 

「追撃指示は出てないぞ? 誰だ? 」

 

 

《格納庫》

 

水原整備班長と榎本掌帆長が立ち話しをしている。

 

「貴重な機体を潰しおって… コスモゼロ乗りは潰し屋か? 整備中の機体に気づかんとは基本がなっとらん! 」

古代も初めに整備中のコスモゼロを潰したしな…

 

「まあ、水原さんおさえておさえて… それにしても不幸中の幸いでパイロットは怪我なく帰艦…… 」

 

「男ならぶっ飛ばすとこだ! 」

 

 

「代わりに私がぶっ飛ばしときますよ」

 

二人が振り向く…

 

「あ、まあ… そこまでしなくても」

「うん、本人も充分反省しとるでしょう」

 

このオヤヂ二人… 女の子には甘いんだよなぁ

 

で、やはり… その後、山本は営倉入りで6日間の懲罰を受けた。そして、メルダは解放された。

 

 

 

 

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《左舷側展望室》

 

「……以上が巡洋艦[むらさめ]の開戦の顛末です。これは軍司令部から箝口令が敷かれています」

 

「……父を侮辱して何が面白い」

 

 

「僕は信じないぞ! …絶対にだっ!! 」

 

 

「……(島と山崎さんだな)」

 

 

こっちにやってくる!? 咄嗟に通路の陰に身を潜めやり過ごした。

 

 

飛び出していった島と入れ替りに展望室へ入る。

 

 

「‥!? 参謀長! 今の話を? 」

 

「立ち聞きしてすみません… 」

 

「…いえ、立場上ご存知と思いますが… 開戦時の話を航海長に…… 」

 

山崎は俯き溢すように話す…

 

 

「開戦の発端になった[むらさめ]撃沈事件ですね… 当時の私は任官前でしたので、父から伝え聞いたに過ぎませんが… 事実は政府の公式発表とは逆でありましたね」

 

「やはり… 私は箝口令を破り、島航海長に話してしまいました」

 

「… 話したことを後悔してるのですか? 」

 

「いえ、ずっと心に引っ掛りぱなしだった… 結果はどうあれ話して良かったと思います」

 

 

「残酷でも… それが事実なのです。島なら大丈夫でしょう… 心配いりませんよ 」

 

これで話は繋がって行くはず… 徳川のオヤジさんが激昂してぶっ飛ばすはずだ… 展開上、重要イベントなのかはわからんが(笑)

 

 

 

 

 

 

 

 


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