余計な口出しをしなかったからか? 交渉は滞りなく進み合意に至った。
「… ふむ、波動砲か…成る程な、それならば空間を強引に抉じ開けることも可能かもな?(下手に干渉しない方が正解だったな)」
「あの超兵器ならば、一時的に空間壁を撃ち破ることが出来よう。…すかさず我が艦が牽引して供に脱出する!…という手筈だ」
メルダは自信に満ちた表情でこちらを見据えた。
「信じていいんですか? 罠かも知れないです」
チラリとメルダを見やりながらが山本が古代に耳打ちした。
「…武人の誇りに懸けて嘘偽りは申さん! 端からテロンの戦艦一隻ごときに小細工は必要ないわ! 」
ひそひそ話が気に触ったのか、メルダは椅子にふんぞり腕組みして睨み付けた。
「信じようではないか… 他に手だても無し、このまま共倒れするわけにいかん! そうだろ?…ディッツ少尉? 」
私は椅子から立ちあがり、躊躇気味の二人を一瞥してメルダに向き合った。
「勿論… 万全を期すため、脱出完了まで私がこの艦に残ろう。異存はなかろう? 」
「ご配慮に感謝する ディッツ少尉! 」
「よろしく頼みます! 瓜生
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《会議室》
「波動砲か… 」
「はい、あちらは開口部を形成するため波動砲が… 我々はそのあとの推進にガミラス艦の曳航が必要です。お互いの協力がなければ脱出はあり得ません」
沖田艦長の呟きに、古代戦術長が進言する。
「信じられるか!! 」
怒声を張り上げたのは島航海長
「開戦の非はこちらにあるなんて嘘を言うヤツだぞ! 波動砲を撃たせて、自分たちだけ脱出する魂胆に違いない! 」
「… 瓜生参謀長、どうかね? 」
「ディッツ少尉と話しましたが、彼女はあの艦にとっては重要人物のようです。父は軍の高官だそうで… 脱出するまで本艦に留まるとの提案をもらいました。…私は信じます」
「人質として残ると? 」
「はい…少々高慢な態度ですが、信ずるに値する人物でした。時間がありません、ご決断を! 」
「うむ、よかろう! 本艦はガミラスの提案を受入れ脱出する! 」
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古代と二人で応接室に戻った
「結論がでた! 艦長はそちらの提案を受入れる。貴艦を信じるそうだ」
その言葉を聞いたメルダは表情に喜びがみえた。
私に一瞬目配せをし、やや俯き…小さく溢した
「良かった… これで乗組員は救われる」
我々を見つめ
「 感謝する 」
先程までと違い、柔らかな表情にメルダは替わっていた。…仲間を救う大役に望み、敵の中に独りで張り詰めていたに違いない。
「話は纏まった‥ 古代戦術長は持ち場についてくれ。私と山本三尉はここに残る」
「はっ! 古代戦術長任務につきます! 」
古代戦術長は波動砲発射準備に向かった。
「あのぅ、私は残ってて良いんですか? 」
「山本三尉は引き続き[衛士]として残るように! 」
「はっ! 山本三尉 衛士の任務了解しました! 」
「ディッツ少尉… 脱出するまでの間寛いでもらいましょう。とりあえず、ティータイムにしよう」
ちょうどトレイに紅茶セットをもった平田主計長が入室してきた。
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「良い香りの飲み物だな… テロンも我等と似た食生活のようだ」
ティーカップを持つメルダの姿は育ちの良さが滲み出ている…紛れもない『お嬢様』だな。
「焼きたてのクッキーも合わせてどうぞ」
「平田、その服…どこから持ってきたんだ? 似合い過ぎて言葉がないが…」
「お褒め戴き恐縮にございます‥お嬢様」
やり取りを見ていたメルダが…
「…執事を連れてきてるのか」
平田は赤道祭で用意していたコスプレ衣装を身に纏い、何処かのお屋敷の執事みたいだ…
「ガミラスからのお客様が高貴なお姫様と伺ったので、失礼の無いようにと…変でしたか? 」
情報に尾ヒレが付いているぞ…
『 ん! なっ!? 』
突然、メルダが変な声を挙げて手で口を押さえた!
「どうした!? 何事だ? 」
私達三人は驚き立ちあがり……
メルダは目を見開き、顔は紅潮気味だ
「平田! 何を入れた!! 」
「いえ、そんな‥検疫は異常無しでした! 害は無いはず… 」
すると、漸く治まったのかメルダが口を開いた…
「 美味しい 」
全員…脱力
「驚きましたよ…」
山本が一言‥
「心臓が止まるかと… 」
平田は無理もない…
「ずいぶんとオーバーアクションだが、ガミラス流なのか? 」
私も流石に[やれやれ]という感じで口を開いた。原作にはこの場で飲食することがなかったので、もしやアレルギー反応かとびびった!
「テロン人はこれ程の【甘味】を食しているのか!? 賓客をもてなすにしても驚きだ! 」
「確かに…私もこんなに美味しいクッキーは初めて食べましたけど… 瓜生二佐やディッツ少尉みたいな方なら普通だと思いましたが? 」
山本がショコラクッキーを口にしながら言った。
「お客様用に特別に素材から良い物を使いまして、バターや砂糖も吟味しました…が? 」
「うん、確かに旨いぞ… このマカダミアナッツのクッキー…流石だ平田 」
「恐縮にございます‥お嬢様」
「執事ごっこは…もうやめろ」
ふと、メルダが紅茶セットの砂糖ポットに気づいた。
「この白い粉末はなんだ? 」
「砂糖でございますが? お茶にお好みで溶かして甘みを加える粉末でございます」
恐る恐る…スプーンで一杯
一口飲む……!
「これは…驚きだ」
聞けば、ガミラスには『砂糖』が存在しないのだそうだ。甘味は果物の果汁や樹液からがほとんどで、大量生産はされていない。だから、砂糖のように安価でガツンと甘い調味料には無縁なのだ。
日本人は菓子だけでなく、料理にも砂糖をふんだんに使う民族だ。しかし、欧州圏などでは料理にはあまりつかわず、砂糖は菓子向けだ。そのことからもガミラスに砂糖が存在しなくても食生活に支障はなかろうかと?
「執事殿! 他にもあるのか? この砂糖を使ったお菓子などは…… 」
「ございます! お気に召すかどうか… 」
「かまわぬ! 是非、食して‥いや、拝見してみたい! 」
メルダの目は爛々と輝いている。
目は口ほど物を…言う(笑)
平田がいそいそと次に持ってきたのは…
色とりどりにデコレーションされたショートケーキの数々だった…
「きれい… 」
「食べてしまうの勿体ないんじゃ? 」
「テロンの菓子は…芸術品だ! 素晴らしい! 」
私達が女子会よろしく砂糖談義に勤しむ最中…
外では両艦の乗組員が命を懸けた脱出劇を繰り広げようとしていたのだった……