時空のエトランゼ   作:apride

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回想【其の一】

「カツラギが! …あ、あぁ…なんてことだ!」

 

艦尾から閃光が上がった! 次の瞬間、爆発が起こる。一瞬にして艦首へ向けて誘爆した…

僅か数十秒の出来事であった。

 

 

『ガバッ!…?』

 

「……!? …夢か。毎回同じ光景だな」

 

渕上は一年前の忌まわしい事故を思いだして溜息をもらす……

 

 

 

あれはメ号作戦が始まる数ヶ月前だった…

 

 

国連宇宙海軍は来る反抗作戦へ艦隊防空の要とすべく、空母の配備を急いでいた。他の艦艇と異なり、艦載機収納スペースの問題から機関出力不足が顕著な空母は速度が遅い…そのために配備数が元々少ない上に、ガミラス戦役序盤で全てが戦没していた。ところが、イスカンダルによってもたらされた【波動エンジン】の技術情報は機関の小型・高出力化に希望を与えたのだ。

建造途中でドックで埃を被りつつあった艦に試験的に波動エンジン技術を応用した改修を施し戦列へ加える試みが行われていた。

 

艦艇の性能差とは対照的に、戦闘機は対等‥いや、地球側がやや優勢だった(当事、ガミラスは辺境域へ新鋭機の配備が遅れていた)

 

 

 

「CVS-11宇宙航空母艦〔カツラギ〕戦闘第111飛行隊隊長を命ずる」

 

 

「艦載機ですか? …新鋭機が間に合ったんですね! 」

 

渕上は予てより噂があった新鋭艦載機を思い浮かべた。宇宙海軍の艦載機は既に旧式になっており、ガミラス戦では戦力外だった…

 

「…いや、開発中の艦上戦闘機は翌年になる。地上軍の防空戦闘攻撃機〔ファルコン〕を改修した機体を採用した。翌週に〔カツラギ〕の公試運転が行われるので、君には発着艦試験を頼む」

 

渕上は内心心が踊っていた… 艦載機乗りの渕上は緒戦で母艦を失い、火星基地航空隊に転属…火星基地放棄により、ここ月基地へ配属後はずっと防空戦闘だった。空母搭乗となれば『攻撃』が出きるかも知れないのだ!

 

 

「良い話があったみたいだな? にやけてるぞ♪ 」

 

司令室を出たところで声を掛けられた。

 

「桐生連隊長!? あはは、見られちまいましたね…艦載機乗りに戻されましたよ!来週ここを出ます 」

 

「…そうか、穴ぐらで燻るのも今週いっぱいか! 良かったな! しっかりやりな! 」

 

「はいっ! ありがとうございます! …しかし、我々海軍機部隊が抜けるとムーンベースの防空が手薄になります。…ご苦労をかけることになり申し訳ありません」

 

「心配無用! 空間騎兵隊はそんなにやわじゃねーよ! 君達はしっかりガミラスを叩いてくれ! 健闘を祈る! 」

 

 

桐生一佐とはこの時以来会うことはなかった…

 

ヤマトに乗り込み地球を発つ頃に聞いた話では、月基地は壊滅したらしい…

 

 

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西暦2198年

 

地球周回軌道上

 

公試運転を開始した空母〔カツラギ〕は30Sノットを超えて更に加速し、最大戦速へ到達しかけた…

 

『機関に異常発生! 急速に過熱してます! 』

 

「どうした!? 芹沢艦長! 」

 

『こちら〔カツラギ〕…機関を緊急停止! だめだっ!メルトダウンするっ! 総員たい‥ガガッ‥ガ… 』

 

次元波動理論を参考に既存の核融合エンジンを改良した試作機を搭載しての公試運転であった。一部とはいえ、未知のテクノロジーを応用したことがイレギュラー発生を招いた結果だ。

 

 

「芹沢さんっ!!…そんな……うっ」

 

 

巡洋艦〔オオヨド〕艦橋から惨状を見ていた瓜生ミハルは呆然となった……

 

 

新造空母へ着艦試験のために左舷後方に位置していたコスモファルコン機上にその時、渕上克幸はいた…

前方で航行していた〔カツラギ〕が爆散する光景が見えた……

 

「カツラギが!…あ、あぁ…なんてことだ!」

 

 

 

 

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《事故の一週間前》

 

私は統幕長室の前にいた。

 

「瓜生三佐参りました!」

 

『‥入れ』

 

室内には…瓜生光政統幕長 芹沢軍務局長 もう一人?

 

初めて見る顔だ… 年の頃は30代後半くらい? 背が高い‥180㎝ちょいか? 艦長の制服に一佐の階級章が見える。

 

「ミハル…掛けなさい。娘だ‥達也くん」

 

「はじめまして、芹沢達也です」

 

「瓜生ミハルです… 芹沢軍務局長の… 」

 

「はい、息子です」

 

「… お母様似ですか?」

 

『ブホッ!』

 

横で茶を飲みかけた芹沢局長が吹き出した。

 

 

「あははは、その通りです! ‥いつも言われますよ。親父と全然似てないでしょ? 」

 

父親とは似ずに、柔かな表情の好青年タイプの達也は笑いながら答えた。

 

和みかけた空気を切るように…

 

「お前の婚約者だ…」

 

 

「はい?…え、えっ!?」

 

突然の話に訳がわからない‥戸惑う

 

「いきなりで驚きますよね …実は僕もさっき聞いたばかりでしてね。…でも、この縁談は喜んでお受けします」

 

「瓜生三佐‥あ、いやミハルさん! 私からもお願いする! どうか… 」

 

芹沢局長が鬼瓦のような厳つい顔を赤らめて頭を下げる…

 

「勝手な話は承知の上で頼む! …父の一生のお願いだ! 」

 

父までが…

 

 

「あ、いや… 困ります… (何がなんだかなぁ)」

 

何年も女の身体で過ごしていることで‥自分が女でいることに違和感が無くなりつつある。魂に性別は関係ないのかも…などと

しかしだ、この身は俺のものでない! 勝手に婚約は不味い…よな?

 

 

「二人とも…軍務に就いている以上、次は還ってこないかもと…… この戦局だからな」

 

父がぽつりと溢した…

 

「沖田君の息子さんも亡くなった… うちの息子とて例外は無い… 形だけで良いのだ」

 

芹沢局長の意外な面を見た…

 

 

「…まあ、そういうことですから僕はお受けしました。むしろ瓜生ミハルさんを妻に迎えられるのは願ってもないことですよ! 役得役得♪ 」

 

 

「……(どうしたら…形式的な話なら良いか?)」

 

「無理強いはできん… が、そこを曲げて 形だけで良い…どうか」

 

鬼瓦の目に涙?

 

「…承知致しました。形式的なもので良いのでしたら」

 

俺は熟考したが、瓜生家としても優秀な士官との婚姻は形式的とは言えど代々受け継がれてきたことだ。

 

 

「そうと決まれば早速…ミハルさん行きましょう! 」

 

芹沢達也は俺の手を引き連れ出す…何処へ?

 

「あ、あの何処へ!?」

 

「婚約指輪を作ります!」

 

なんとも行動力抜群な旦那様だ…

 

 

婚約の翌朝…彼は艤装員長を務めていた新鋭空母〔カツラギ〕艦長として出港。その後、公試運転に臨み還らぬ人となった……

 

 

 

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《ヤマト赤道祭》

 

 

「はぁ、気が重いな…… 」

 

通信室の前に順番待ちする南部が溜息交じりで俯いている。

 

「溜息などついてどうした? 恋わずらいかな? 」

 

「参謀長!? …いや、両親と話となると縁談しかないですから…憂鬱で」

 

「縁談? 受けたら良いだけじゃないのか? 君は南部家の嫡男なんだから時期当主としての義務だ! 悩むな! 」

 

「え~! そんな時代錯誤ですよ!! 」

 

南部は不満タラタラの顔だ…

 

「…貴様は勘違いしてる。時代と伴に変化するのは庶民の場合だ。私たちは一般庶民ではなかろう? 特殊な家に生まれたからには責務も伴う… 」

 

「…恵まれた家に生まれたから、義務を果たせと? 」

 

「…そうだ。幸か不幸かはしらんが己の生まれを呪うがいい(笑)」

 

 

不敵な笑みを浮かべるミハルの指にはあの婚約指輪が光っていた…

 

 

 

 

 

 


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