時空のエトランゼ   作:apride

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12話 メルダ・ディッツ少尉【挿絵有】

《応接室》

 

停戦の使者との会談に臨むにあたり…

沖田提督は私と、私が交渉役に指名した古代戦術長と、これまた交渉役の古代が衛士に指名して同席させる山本を従え入室した。

程なく、検疫を終えた使者が入室した。

 

「これがテロンの艦か? …たしか『ヤマト』とかいう?」

 

「そうだ。ヤマト艦長の沖田だ‥停戦の使者を歓迎する」

「銀河方面軍所属メルダ・ディッツ少尉だ」

 

お互い自己紹介をした後、沖田艦長は退室。

私は古代と山本の三名で交渉に臨んだ。

 

「戦術長の古代一尉だ。この会談を一任されている」

 

「…我帝国にもオマエ達のような青き肌を持たぬ者達がいる。併合した星間国家や植民星の劣等人種‥もとい二等ガミラス人達だ」

 

メルダの物言いは…あからさまに上から目線である。

 

 

「…あなたの星では、そういう不遜と高圧で交渉相手に接するものなのか?」

 

古代は表情は穏やかなまま返す。

 

「丸腰の使者に銃を持して相対するのは砲艦外交と同じではないのかな?」

 

「!‥」

 

古代は腰のホルスターに気づき反応する。

 

「まあ、テロン人は宣戦布告も無しに先制攻撃を仕掛けてくる好戦的な種族だからな…」

 

メルダの表情は澄まし顔ではあるが、挑発的でもある。

 

『ガタッ!』

「でたらめを! 戦争を始めたのはそっちでしょう!!」

山本が立ちあがり憤る!

 

やや硬くなった表情でメルダは‥

 

「我家は代々軍の重責を担ってきたのだ‥その名誉に賭けて嘘偽りは無い! 」

 

 

頃合いだ…私は双方を制して割って入った。

 

「これは失礼した! ‥不作法をお詫びする ‥古代戦術長、銃を…」

 

古代に銃を差し出すよう促す…

 

「…はい。 あなたの言うとおりだ、失礼した‥」

 

古代は腰から銃をテーブル上に置いた。

 

「ところで…ディッツ少尉。先程、『砲艦外交』と言われたが…君の家では、他所の家の庭先に銃を構えて訪問することが作法なのかな?」

 

「…なんのことだ?」

 

「8年前… 君の星からの艦隊が我々の星系へ侵入してきたのが始まりだった… 知っているな?」

 

「…我外交使節団の船が攻撃を受けたことで、この戦争が始まった。友好的に臨んだ我外交官へいきなり砲撃してきたのはオマエ達テロン人だ!」

 

「…やれやれ、やはりそういうことか」

 

「なにを?」

 

「伊東保安部長‥入れ! これよりディッツ少尉を私の自室へご案内する」

 

「参謀長!? それはちょっと…」

 

いきなりの展開に古代は狼狽える。

 

「会談の責任者は私だ。私が戻るまで古代と山本はこの場にて待機」

 

二人は無言で頷く…

 

「では、ディッツ少尉‥同行願う」

 

「…有無を言わさぬか、よかろう」

 

メルダもやや困惑気味で従う。

 

 

《瓜生ミハル自室》

 

沖田司令が艦長室を使用しているので、本来は司令長官用の部屋が私に宛がわれている。その為、執務室と居室(寝室にバス・トイレが備え付けてある)の二間作りの贅沢な環境だ。

 

「戦闘艦にしては良い個室だな? 」

 

執務室のソファーに腰掛け、壁に飾られた写真や調度品を興味深げにメルダは呟く。

 

「本来は艦隊司令長官用だからな… 改めてだが、私も代々軍の重責を担ってきた家系だ… 瓜生家の名誉に賭けて嘘偽りは無い…という話を二人きりでする。この部屋はモニターされていないのでな…」

 

「…互いに似た立場ということか。…よかろう」

 

「ところで… お父上は艦隊総司令のガル・ディッツ提督だな?……ここにこう傷のある」

 

私は右目を縦になぞるように斬る仕草をしてみせた。

 

「なっ!!貴様っ!?…何者だ? 」

 

メルダの態度は一変し、私に敵意を向けるとともに恐怖を感じているようだ。

 

「頼みがある」

 

「…なんだと? 」

 

「本艦がイスカンダルまで無事に到達するまでの間、貴官に人質になっていただく」

 

「……テロン人の目的地はイスカンダルか。…そういうことか。自らの星系を出ることも儘ならない未開の種族がこのような戦闘艦を造れるはずがないからな」

 

「推察の通り、我々はイスカンダルからの技術供与により本艦を建造した。そしてこの航海はイスカンダルにて最終的な仕上げを受けるためのものだ。…そして、目的地の隣はガミラス帝星が存在している」

 

「…何故イスカンダルはテロン人にそこまで肩入れするのだ? そもそも、ザルツ人の貴様の目的はなんだ? 」

 

「ザルツ人? 」

 

「貴様はスパイであろう? テロンごときに随分と手の込んだことを… 」

 

 

 

この瞬間‥私は取り返しのつかないミスを犯したことを悟った。

 

 

 

いきなりドアが開く!

 

「参謀長、あなたをスパイ容疑で拘束する! 大人しく従っていただこう」

 

 

振り向くと伊東が銃を構えた部下を従えていた。

抜け目なくモニタリングされていたのだ‥

 

「まて伊東! 」

 

咄嗟に右手を挙げ…

 

『パパパンッ! 』

 

「グァッ!」

 

『ドダァァン! 』

 

至近距離から胸に銃撃を受けた衝撃で弾けるように背中から倒れた私は……心臓と肺が破壊されて血流と呼吸が途絶えた。絶命まで数秒あるだろうか? 血溜りの中で意識が遠のく……

 

 

「何故撃った!! 」

「すっ、すみません! ‥動いたので」

 

「…まぁいいか、この異星人めっ!」

 

伊東は吐き捨てながら、右足で動かなくなった瓜生を踏みつけていた。

 

「隊長! …こっちの異星人も死んでます」

 

瓜生の真後ろに位置していたメルダは頭部に銃撃を受けたため、顔面の半分が吹き飛んで即死だった。床には血混じりの脳が散らばり、原形を留めた眼球が伊東を見つめるように転がっていた……

 

 

 

当然ながら、交渉は決裂…

 

その後、ヤマトとEX178がどうなったのか知るよしもない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『ピピッ ピピッ ピピッ … バチッ!』

 

目覚まし時計のアラームを叩いて止めた。

 

 

「……えっ! ここは? 」

 

 

目を開けると見なれた天井が映る…

 

日付を見る…[2199年3月24日AM5:15]

 

「夢……だった? それにしてはリアルな感触が… 」

 

撃たれた胸に手を当てるが…

着ていたシャツを脱ぎ、鏡の前に立つ……

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「う~ん…異常無しだな? 」

 

隣の執務室を見渡すが、銃撃があった形跡はない。

 

「… (メルダが登場する日の朝だ)」

 

シャワーを浴びて着替え、朝食を摂りに食堂へ向かった。

 

 

「隣よろしいですか? 」

 

見ると岬准尉だった。

 

「どうぞ」

 

「…なにか心配事ですか? 」

 

「ん? 気難しい顔だったかな? 」

 

「はい、とっても。…瓜生二佐って…あ、すみません」

 

百合亜は言いかけてやめた…

 

「構わないよ? 気になることがあるのだろ? 」

 

百合亜は意を決したように‥

 

「私‥霊感があるんです。…瓜生二佐が時々、男の人に見えて…すみません! こんな事言われると気持ち悪いですよね…」

 

「!‥ 私が男に見える!? ……興味深いな。勿論『イケメン』だろう? リチャード・⚫アみたいな ニヤリ 」

 

動揺を隠すべく、私は少し戯けてみせた。

 

「……白い軍服姿の青年士官? そう‥昔の海軍士官です。…リチャード何とかは知りませんが、確かにイケメンです」

 

百合亜は至極真面目に答えた。…話の特徴から、彼女が見ているのは『瓜生美晴三等海尉』だった私だとわかる。…イケメンと判定を下したのは岬百合亜の主観によるもので、決して押しつけではない。しかし…リチャード・⚫アは古る過ぎたよ(笑)

 

「……そうか、全く見当違いでもない話だ。私のご先祖には海自・帝国海軍士官が何人か存在するからな。私に憑いていても不思議ではないよ」

 

「ご先祖様の霊……そうかもしれませんね!?」

 

とりあえずは納得したみたいだ。

 

「あ、霊感ということは… 赤道祭のときに体調崩したよね? ‥もしかして、杉山がきてたのか?」

 

「…はい。ずっと見えてて、地球のご両親と通信のあたりは杉山さんの思念みたいなものが強くて…」

 

「やはりか、難儀なものだな… で、やっぱり死の間際の姿で表れるものか? …血みどろだったり?」

 

「杉山さんは直前の姿でしたね。綺麗な姿でした…」

 

「そうか、流石に木端微塵な状態はないか…」

 

「…そんなグロいのだったら気絶しますよ!! ‥それより、瓜生二佐‥気をつけてくださいね? ご先祖様といえ、必ずしも良い影響ばかりじゃないですから… 」

 

「……肝に銘じとくよ」

 

彼女には【瓜生美晴】が見ている… 私がミハル(女)でないと気づかれないか心配だ…… ばれたら大浴場に入れなくなるじゃん!!

 

 

 

 

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「ワープが中断したぞ!?」

 

 

「……(デジャ・ビュ?)」

 

目の前に拡がる異空間は……確かに『夢』で見た? 既視感というか…

 

「サルガッソーというのは…… 」

 

太田が得意気に語りだした…

 

「これは… まさか… 」

 

もう一度朝からやり直しているような感覚がある……気持ち悪い。……

 

「……!…熱源反応有り! 生きてます! 」

 

「……!‥ 」

 

「… …… 」

 

耳から入る音声は認識するが、内容は…身体が拒絶するかのように聞き取れない………

 

「……… …? …参謀長! 」

 

「は!? はいっ! 」

 

呼掛けに我にかえる…沖田司令に呼ばれていた

 

「交渉役を任せる… 良い機会だろう」

 

「…慎んでお受け致します」

 

 

「先導役は隊長の加藤一尉で良いかと? 」

 

横から古代が同意を求める素振りで話し掛けてきた。

 

「…山本三尉が良いと思う」

 

「あ、言われてみれば… では、山本三尉に先導させます」

 

 

「山本に敵機の先導任務? …悪いが同意しかねる。こいつは危なっかしいから、俺か他の奴が出よう」

 

「何故だ? …加藤らしくないな」

 

「……」

 

「山本三尉…できるな? 」

 

「はいっ! 使者の先導任務お受け致します! 」

 

 

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あれは明生が亡くなる少し前だった

 

『玲 特別だぞ! [零式空間艦上戦闘機] 通称:コスモゼロだ』

 

『キレイ…』

 

 

「…(あの二人は山本兄妹?)」

 

「現時点での……、しかも稼動空母が皆無ですので……瓜生三佐? 」

 

「ん、そうか…やはり新型機の投入は無理か…」

 

「はぁ‥零式の開発は最終段階ですが…量産体勢は年明けからの予定です。ファルコンを艦載機へ改修する案が現実的です」

 

「わかった… 本部へはそう報告しよう。そもそも、空母が無いのだしな……」

 

私は山本兄妹の姿に気をとられて、空技廠担当官の話を聞きそびれた…

 

 

山本明生がこちらに気づいて敬礼した。

 

「彼が零式の開発パイロットの山本二尉です」

 

「あちらの女性は…学生だな? 」

 

「妹であります! 肉親であり、優秀な航空学生ですので特別に許可を頂き見学しております! 」

 

山本明生との出会いだった…

 

 

※この時代でもパイロットの多くは航空学生出身が大半を占める。上級指揮官養成の防大出身者と違い、パイロット専門の所謂【特務士官】である。ほとんどの者は退官までに三佐もしくは二佐で昇進は終わる。機関・整備もこの傾向が強いが、こちらは下士官からの叩き上げになる。士官になる頃には40代というのがザラだ。

 

 

「そうか、君の妹さんなら期待できそうだ! そして‥開発は重要な任務だ! しっかり頼みますね」

 

「はい! ありがとうございます」

 

敬礼する明生の肩越しに、後方で揃って敬礼する玲が見えた…

 

 

 

 

この世界でも私は私の仕事があり、山本明生との接点は僅かなのだ…

 

 

この時が山本明生との最初で最期の出会いだった。

 

 

 

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《第三格納庫》

 

紅いガミラス機が駐機している

 

「紅いからと3倍速いとか……な、訳ではなかろう ウフフ 」

 

「はぁ?」

 

横にいる伊東保安部長は意味不明な私の呟きに苦慮気味だ(笑)

 

キャノピーが開き、コクピットが露出して表れたのは…青い肌のヒト型人類に違いなかった。

立ちあがり、ヘルメットを外した姿は紛れもなく彼女(メルダ)だった。

 

 

「伊東…彼女を待機室へ案内してくれ。粗相の無いように頼む」

 

 

 

さて、今度は(・・)どう対応しますか…

 

夢の続きを始めるとするか!

 


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