戦場のヴァルキュリア~女神の救済~   作:caribou

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お久しぶりです。caribouです。

リマスター版戦場のヴァルキュリアもやっと終章まで辿り着きました。

そして、やはり大佐は救われるべきであると決意を新たにしました。

そんなこんなで、2話です。


第2話

征暦1935年10月7日

 ガリア公国・東ヨーロッパ帝国連合国境 ギルランダイオ要塞近郊

 

 「“最後の炎”……?」

 カールはシュタンケが発した耳慣れない単語を、我知らずおうむ返しにした。その意味は分からないが、カールにはとてつもなく不穏な何かのように感じられる。そんなカールを気にも留めず、シュタンケは言葉を続けた。

 「ヴァルキュリアに関する研究は未だ途上にあり、その能力に関しては解明されていない部分が多くある。しかし、ヨーロッパ各地に点在するヴァルキュリア関連の遺跡や文献の記述を照らし合わせると、そのおおよその力は紐解くことができる」

 シュタンケの爬虫類の如き眼に、初めて怪しい眼光が宿るのをカールは見逃さなかった。

 「蒼い炎を纏い、槍と盾を両の手に、超人的な戦闘能力を発揮する。これが、諸君等が目にしたセルベリア・ブレス大佐の姿だろう。しかし、ヴァルキュリアにはもう一つ、秘められた“力”が存在するのだ」

 シュタンケの言葉を聞き逃すまいと、“ブラウエ・ローゼン”の隊員たちが僅かに身を乗り出す。それは、カールも同じだった。

 「その“力”は、ヴァルキュリアが己の最後を悟り、その命を燃やし尽くした時に発動される、と文献にはある」

 『命を燃やし尽くした』というシュタンケの表現に、カールの背筋に冷たい物が走る

 「それで、その“力”とは……?」

 勿体ぶるようなシュタンケの言葉に耐え切れず、オットーが再び問いかける。シュタンケは鬱陶しげにオットーをジロリと睨むが、構わず続けた。

 「ヴァルキュリアの命の炎が燃え尽きたとき、彼女たちは周りにいる全ての者を、道連れにする」

 シュタンケの言葉にカールは息を飲んだ。周りの隊員たちも動揺を露わにする。

 「つまりは、自爆だ」

 カールの心拍数が一気に跳ね上がる。

 「その威力は、通常のラグナイト爆弾の数千倍に達するという。まさに戦略兵器並みの威力と言われいている」

 「つまり、マクシミリアン殿下の命令とは、そいつをガリア軍主力部隊のど真ん中で発動させて、要塞もろとも吹き飛ばしちまおうってことですか?」

 エーリヒが低く問いかける。平静を装ってはいるが、その表情はまだ引きつっている。

 「その通りだ」

 シュタンケはエーリヒの問いに深く頷いた。

 「待ってください。それでガリア軍の主力を蹴散らしたとしても、もはや我々にはランドグリーズまで侵攻する戦力は残されていません。にも関わらず、その作戦を実行する意味とはなんでありますか?」

 今度は対戦車兵のエルヴィン。

 「マクシミリアン殿下には、ブレス大佐とは別の切り札が、もう一枚あったのだよ」

 シュタンケが口角を吊り上げる。

 「陸上戦艦《マーモット》、我が帝国陸海軍の粋を結集して開発された、侵攻用機動戦略兵器だ」

 「陸上……戦艦……?」

 聞いたこともない兵器の名を、ヘルベルトが戸惑うように呟く。だが、心境は皆同じだった。陸上戦艦などという馬鹿げた単語は、カールも聞いたことが無い。先ほどから、新たな情報ばかりシュタンケが口にするので、処理が追いつかない。

 「要は超大型の戦車と考えてもらっていい」

 “ブラウエ・ローゼン”の動揺を見て取ったシュタンケは捕捉を付け加えるが、その口調はどこか楽しげだ。

 「超大型って、《ゲルビル》以上でありますか?」

 カールは、マクシミリアンが座乗していた大型戦車、《ゲルビル》を引き合いに出してみた。340mm砲を主砲とする《ゲルビル》も、戦車としては破格の大きさだった。

 「その通りだ。詳細なスペックは、情報総局の諜報網をもってしても得られなかったが、《マーモット》を建造していたと見られるドッグのサイズからして、巡洋艦並みの大きさであることは確かだ」

 「巡洋艦って……、そんなもんが陸上を走るのかよ……」

 オットーが引きつった笑みを浮かべる。

 「ともかく、これだけ強力な機動兵器があれば、首都ランドグリーズへの侵攻は容易いだろう。貴官等は、……いや、セルベリア・ブレス大佐はそのための布石だったというわけだ」

 自分たちは元々、捨て駒だった。シュタンケが口にした、内容にカールは言葉を失う。

 「これが、マクシミリアン殿下がブレス大佐を要塞に留め置いた理由だ。ここで正規軍の主力部隊を消し去ることができれば、ランドグリーズへの障壁となるのは首都防衛大隊のみ。だが、我が軍の参謀本部は、このような形でブレス大佐を失うことを良しとしなかった。当然と言えば当然だが、彼女は我が国にとって貴重なヴァルキュリア人だ。その上、軍事的才覚もずば抜けている。そんな彼女をみすみす失うのは、我が軍の損失にしかなりえない」

 セルベリアを軍人として、そしてヴァルキュリアとしてしか見ていないシュタンケの言い分に、カールは異を唱えたかったが、その言葉をなんとか飲み込む。軍隊である以上、軍人を評価する基準が軍事的利用価値に傾倒するのは当然であると、カールも理解はしているのだ。

 「マクシミリアン殿下の首輪が解かれた今、彼女の身柄は中央方面軍で預かろうという訳だ」

 いちいちカールの癇に障る言い方をするシュタンケだが、カールは必至で己の感情を抑え込んだ。セルベリアを救う糸口がやっと見えてきたかもしれないのに、それを自分一人の感情に任せた発言で断ち切ってしまう訳にはいかない。

 「では、もう一つ伺ってもよろしいでしょうか」

 歯ぎしりしたくなる思いを必死で堪えるカールを尻目に、オットーが再びシュタンケに問う。

 「なんだね?」

 「先ほど中佐は、要塞内部への侵入は我が隊のみになると仰られました。ブレス大佐の救出が参謀本部の意向であるなら、もっと大規模な攻勢をかけることも可能なのではないでしょうか」

 オットーの問いは至極もっともだ。参謀本部が命令を下し、帝国軍が要塞奪還のための増援を送り込んでくれさえすれば、作戦が成功する確率はより高くなるはずだ。それなのに、わざわざ一分隊にすぎない自分たちをシュタンケが頼るのは何故なのか。

 「それについては幾つか事情があってね。まず一つは、要塞内部は複雑に入り組んでおり、構造を把握していない大部隊を送り込むよりも、内部を熟知した少数の部隊を送り込んだ方が効率的であること。そして、もう一つは、本国では既にガリアとの停戦の準備が進められている為だ。これ以上、ガリアへ兵力を差し向けるのは得策ではない。加えて、このタイミングで大規模な攻勢をかけたとしたら、後の停戦協定の場で我が国の不利に働く恐れがある」

 停戦―――覚悟はしていたが、いざ言葉で聞かされると、釈然としなかった。この状況での停戦は、帝国の敗北に等しい。この数か月間、セルベリアと戦場を駆けたのは無駄だったのか。そして、死んでいった仲間たちは、無駄死にだったのかという思いが、カールの胸に重く圧し掛かる。

 「安心したまえ、曹長。停戦といっても無条件で引き下がる訳ではない」

 カールの内心を斟酌したシュタンケが、カールの肩に手を乗せる。

 「ガリアには、我が国へのラグナイトの安定した供給を条件に停戦協定を結ぶ運びになっている。そのための『仕掛け』も準備した」

 「仕掛け―――でありますか?」

 「帝国に抗する戦力が残っていては、彼等は協定にサインしないだろう。そのため、やはり正規軍本隊にはギルランダイオと共に消えて貰わねばならない」

 「しかし、参謀本部は大佐の救出を欲していると―――」

 カールの抗議をシュタンケは被せるように遮った。

 「その通りだ。あらゆる事態を想定して、我が情報総局はギルランダイオ要塞に、本国で開発中だった新型爆薬を予め仕掛けておいた。貴官等には、ブレス大佐の救出と、この爆薬の起爆をしてもらいたい」

 ヴァルキュリアの“最後の炎”に、陸上戦艦《マーモット》の存在。さらには、ガリアへの停戦の申し入れと、新型爆弾の開発。カールは、その全ての情報を整理するのに、若干の時間を有した。

 

 




お楽しみいただけましたでしょうか?

今回はひたすらシュタンケに情報を喋ってもらいました。自分で考えておいて、筆者自身、情報がちゃんと繋がってるか不安です。

相変わらず次話投稿には時間がかかると思うので、期待しないでお待ちください。

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