平凡な僕がプロデューサーになりました   作:夜明けの月

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なんとかできた。
それでお楽しみください。


二回目の顔合わせも波乱の幕開けです。

妹により爆弾を投下されて、それにより最後の資料のデータがご臨終したため、泣く泣くやり直した翌日、僕は346プロの敷地内の入り口にいた。

 

何故こんなところに立っているのか不思議に思うだろう。だけど、理由はいたって単純なのだ。

 

「さて、そろそろ時間なんだけど………」

 

そう、今日は顔合わせ最終日である。ようやく初めて任された仕事が終わるのだ。どうしてだろう、やる前から達成感に満ち溢れているんだけど。

 

なんかこう、今の僕ならなんでもできるって気がする。……まあ、気がするだけであって、実際にできるかどうかなんて決まっている。え?どっちかって?勿論できないに決まってるじゃん。

 

そんなことを思っているうちに、約束の時刻である十四時を過ぎた。だが、誰も訪れる気配がしない。

 

あらかじめ、業務用のメールアドレスでメールを送っているはずなのだけど。

 

送信履歴を確認すると、そこにはしっかりと『集合時間は十四時でお願いします』と書いてある。なのに何故だろう。誰一人として来ない。

 

「ま、まあ、遅刻なんて誰にでもあることだよねうん」

 

腕を組んで勝手に自己完結する。失敗しない人間なんてこの世にいないんだから。

 

僕はとりあえず来るまでここで待つことにしよう。

 

 

 

☆♪♡◇

 

 

 

「来ない…………」

 

時刻は現在十五時三十分。一時間半待った結果は、誰一人として来ず。僕は何ですか?虐められてるんですか?新人プロデューサー言うことなんて聞いてられないから無視しようという新手の虐めですか?

 

………泣いていいかな。

 

「346プロまでの行き方も、メールに添付して送ったし、迷子とかの心配は必要ないと思うけど」

 

にしても遅すぎやしないだろうか?というか、顔合わせでうまくいったのが、新田さんとのマンツーマンしかないんだけど……。

 

不安になり、辺りを見回していた時だった。軽快な機械音が、スーツのポケットから鳴り響いた。

 

「メール……?」

 

メールの着信音?一体誰から……?

 

と不思議に思いながら開くと、送り主が『三村かな子』となっていた。この子は今日の顔合わせするうちの一人でもある。

 

メールの文面はこうだった。

 

『プロダクションの前までは来たんですけど、入り口のところに怪しいスーツの男の人がいて通れないんですけど、どうしたらいいでしょうか?』

 

入り口にスーツの怪しい男?そんな奴いるわけない。だってここにいるのは僕だ、け…………。

 

あれ?もしかして、その『怪しいスーツの男』って僕?

 

……まずい、どうにかして怪しいという認識を変えなくては。僕が大学生プロデューサーから怪しいスーツの男へとジョブチェンジしてしまう!

 

と焦りつつ、急いで誤解だとメールの文面を打ち込み、三村さんに返信する。

 

すると、帰ってきたのは返信ではなく、路地裏から聞こえてきた女の子達の驚愕した声だった。ていうかそこにいたのね……。

 

兎にも角にも、顔合わせの始まりだ。今回こそ、問題を極力起こさず、完全無欠に成功させなくては。

 

 

 

☆♪♡◇

 

 

 

場所は変わって事務所内。僕らは備え付けられたソファーに腰をかけていた。

 

「まずは自己紹介を。僕は、皆さんの参加する『シンデレラプロジェクト』のプロデューサーの一人を務めさせていただいている蒼崎弘弥です。先月なったばかりの新人で至らない点もあると思いますが、よろしくお願いします」

 

僕は軽めの自己紹介を済ませる。初対面の人に最初にすることと言ったら、やっぱり自己紹介だろう。多分。

 

「皆さんのことは、このプロジェクトのもう一人のプロデューサーから伺っています。本日はお忙しい中、時間を割いて頂きありがとうございます」

 

僕は堅苦しい挨拶を終え、少しだけ肩に入っている力を抜く。適度な緊張感は大切だが、し過ぎると悪いものでしかない。

 

だが、慣れてきた僕に比べると、目の前の三人は少しばかり緊張しているように見える。

 

緊張しているのは、多田李衣菜さん、諸星きらりさん、三村かな子さんの三人だ。他の三人はというと、

 

「別に忙しくなかったよ〜?今日予定なくて暇だったし」

 

「うん。それに、ここまで来るの楽しかったから、みりあがお礼を言う方だよ!」

 

「確かに、私もそう思う!」

 

そう言って返してくれたのは、赤城みりあさん、城ヶ崎莉嘉さんだ。『城ヶ崎』という名字を見た瞬間、ギョッとしたが、この子は姉とはちょっと違うベクトルの子らしい。なので、まあ安心した。

 

そして、先ほどから何のアクションも見せないのは、

 

「Zzz〜…………」

 

ソファーに寝転がり、寝息を立てる双葉杏さんだった。最初からフリーダムすぎませんかね?僕驚いて二度見しちゃったよ?

 

「あ、杏ちゃん!起きないと、Pちゃんの説明聞けないにぃ〜!」

 

「……んぁ?別にいいよ、面倒くさい」

 

「面倒くさいとか言っちゃダメだよ〜。ほら、まずは座って」

 

「じゃあ、きらりが聞いといてよ。んで、後で伝えて。じゃあおやすみ」

 

諸星さんとの会話を終え、またもや寝息をたて始める双葉さん。どうしてだろう。なぜか、今日も上手くいく気がしない。

 

「と、とりあえず、説明を始めますので……」

 

この後、双葉さんには起きてもらい、説明を聞いてもらった。一人だけに楽させるわけにはいかないからね。

 

 

 

☆♪♡◇

 

 

 

「ーーー以上がプロジェクトの概要になりますが、何か質問などはありますか?」

 

難なく説明を終える。案外こっちは慣れるのが早かったからだと僕は思う。

 

「いえ、問題ありません」

 

「みりあも問題ない!」

 

「私もー!」

 

「質問なんてないよ。まあそっちの方がロックな気がするし」

 

「プロジェクト、楽しそうだにぃ〜」

 

「面倒くさ………」

 

個性豊かなメンバーなことで。返答もバラバラである。このプロジェクトの子達まとめるの大変そうだな〜。ま、それが僕らの仕事なんだけどね。

 

「あ、そうだ!お姉ちゃんに会いたいんだけど、どこにいるか知らない?」

 

城ヶ崎さんがそう言うが、さすがに違う部署の子達のスケジュールまでは把握してはいない。というより、その願いは個人的にも却下したい。

 

城ヶ崎美嘉さんは、別に悪い人ではない。だが、必要以上に僕を弄ってくるのだ。最初に会った時なんて、まるで新しいおもちゃをもらったかのような目をしてたよあの人。

 

そういうわけで、城ヶ崎さんのお願いを聞くことはできない。

 

「すみません、流石に違う部署の人たちのスケジュールまでは把握してませんので」

 

「なんだ〜、残念」

 

「じゃあじゃあ!」

 

僕の言葉に肩を落とす城ヶ崎さん。そのすぐ後に元気良く手を挙げる赤城さん。

 

「このプロジェクトの他の人達と会えますか?」

 

その質問に答えるとすると、答えはYesだ。確か、この時間は基礎トレーニングでレッスン室にいるはずだ。そこに行けば、顔合わせぐらいなら可能だろう。

 

でも何故だろう。今、無性にレッスン室に行きたくない。嫌な予感がする。というより、嫌な予感しかしない。

 

「………………」

 

「……何その『いる場所は知ってるけど、教えたら面倒くさそうだな〜』みたいなこと考えてる顔は?」

 

双葉さん、お願いです。考えてること読まないでください。

 

「顔に出てるから分かりやすい」

 

どうして一言も喋っていないのに会話が成立するのかな?というか、読心術会得してる人多すぎでしょ。何してんの346プロ。

 

兎も角、双葉さんに考えを読まれてしまったため、レッスン室まで案内するしかない。僕はため息を吐き、立ち上がった。

 

「他の皆さんがいる場所まで案内します。付いて来てください」

 

僕が歩き出すと、6人が付いてくる。願うしかあるまい。この後面倒な事が起きないことを。

 

 

 

☆♪♡◇

 

 

 

「失礼します」

 

レッスン室のドアを開けて入る。入ると聞こえてきたのは、トレーナーの青木さんの声ではなく、楽しく談笑する声だった。

 

「あれ、蒼崎君?どうしたの?」

 

新田さんがこちらに気付いたのだろうか。首を傾げながら尋ねてくる。まあ普通に気づくだろうね。

 

「新人君じゃん。どうしてここに?」

 

ピンク色の髪の女性、城ヶ崎美嘉さんがいた。

 

てかどうしてあなたがここにいるんですかね?

 

「お姉ちゃん!」

 

「え、莉嘉!?」

 

城ヶ崎(妹)さんは、城ヶ崎(姉)さんに飛びつく。すると、城ヶ崎(妹)って面倒くさい。この際、城ヶ崎(姉)さんを美嘉さんにしよう。城ヶ崎さんは美嘉さんに頬ずりをし始める。

 

「ちょっと、どうして莉嘉がいるの?説明してくれるかな、蒼崎プロデューサー?」

 

ギロリとこちらを睨む美嘉さん。ちょっと、僕は何もしてませんよ?てか、名前覚えてるんならそっちで呼んでくださいよ。

 

「新規プロジェクトの顔合わせですよ」

 

「……ちょっと莉嘉?どういうこと?」

 

「え、えーと……後で説明するね♪」

 

ペロッと可愛らしく舌を出して可愛げに言う城ヶ崎さんに相反して、美嘉さんは笑顔なのだが、背後に修羅が見える。まあ気のせいだろう。そう思いたい。

 

「莉嘉、帰ったらお話ししようね」

 

「い、いやいいよ。別に話すことなんて「いいね?」………はい」

 

目に涙を浮かべてうつむく城ヶ崎さん。おそらく、美嘉さんに話していなかったのだろう。こればかりは自己責任である。とことん怒られるしかない。

 

「それで、どうしてここに蒼崎君が来るの?今日って確か、顔合わせのはずだったよね?」

 

「うん、そうなんだけど。赤城さんが他のメンバーに会いたいって言うから連れてきたんだ」

 

「へぇ、そうなんだ。それで、その子達って後ろにいる子達のこと?」

 

僕はそう言われて、6人を紹介しようと振り返る。そして言葉を失う。

 

「あんたは、どうして黙ってそういうことするかな?」

 

「うぅ……ごめんなさい……」

 

「あれって城ヶ崎美嘉だよね?あのカリスマギャルでアイドルの。初日から有名人に会えるとか、超ロックじゃない!?」

 

「杏ちゃーん!どこ行ったのー!」

 

「ふふふ、脱出成功。後は、逃げるのみ………」

 

最早混沌、カオスである。どうしたら目を離した一瞬の隙にこうなるのだろう。まとまりがない、とはこういうことなのだろう。

 

とりあえず、まだこの事態飲み込まれていない三村さんと赤城さんに紹介する。

 

「二人とも、紹介します。この5人がプロジェクトの今決まっている残りのメンバーです」

 

僕がそう言うと、先ほどまでへばっていた新田さん以外の四人が立ち上がる。

 

「右から、神崎蘭子さん、アナスタシアさん、前川みくさん、緒方智絵里さん、そして新田美波さんです」

 

「ふふ、新たなる光か……。ともに高みへ行こうではないか。(新しい人ですか。よろしくお願いしますね)」

 

「よろしく、お願いします」

 

「よろしくなのにゃ」

 

「よ、よろしく、お願いします……」

 

「よろしくね、二人とも」

 

「「よろしくお願いします!」」

 

笑顔で話しかける五人に、頭を下げる二人。うん、こういうのが普通の顔合わせだよね。こういうのがしたかったんだよね。

 

「ねえねえ、プロデューサー!」

 

「何ですか赤城さん?」

 

赤城さんが服の裾を引っ張ってくる。何かあるのだろうか?

 

「むぅー、苗字じゃなくて名前で呼んでよー」

 

………は?What?Why?

 

他のこの場にいる6人を見ると、ポカンと口を開けていた。おそらく僕も同じ表情をしてるねこれは。

 

「えっと、それはどうして………?」

 

「ん〜、なんとなく!」

 

いや、そんな元気に言われても。だいたい、僕が女子を名前で呼ぶなんてほとんどない。あったとしても、それは妹や親友だけだ。

 

「でも……」

 

「いいんじゃないかしら」

 

決めかねていると、新田さんが微笑を浮かべて赤城さんの案に賛成する。

 

「え、どうして……」

 

「この際、みんなのことを名前で呼んだら?その方が親密になれると思うの」

 

「い、いやそんな「い、いい案だと思います」緒方さん!?」

 

嘘でしょ!?反対しそうだった緒方さんが、まさか賛成側に回るなんて……。

 

「わ、私はその、もっと仲良くなりたい、です……。その、プロデューサーさんと」

 

健気だ……。だとしても、さすがに名前で呼ぶのは抵抗がーーー。

 

「ならこうしましょうか。アーニャちゃんにした説明を撤回させてもらうわ」

 

説明とは何のことだろうか。この頃忙しすぎてあまり記憶にないのだけど。

 

「蒼崎君が『侍』ってことをね」

 

「分かった、名前で呼ぶからそれはやめて!」

 

新田さんは、小悪魔めいた微笑で僕を見ながら言った。いや、小悪魔じゃない。この子悪魔だ。人の黒歴史になりかけた一件をまだ引きずろうとしている。そしてそれを僕の前でちらつかせる。これで僕が抵抗できるか。否、できるわけがない。

 

「ふふ、それでいいの」

 

「策士にゃ」

 

前川さん、それは策士とは言わないよ。悪魔って言うんだよ。

 

「ミナミは凄いです」

 

凄いんじゃないよ。元はと言えば、僕が黒歴史レベルのことをしたからなんだよ。

 

「あ、悪魔の囁きが……(こ、怖いぃ………)」

 

うん、神崎さん。その反応が一番この中で正しいと思う。味方はこんなに身近なところにいたんだね。

 

「蘭子ちゃん、どうかしたの?」

 

「な、何でもありません!!」

 

だがそれも束の間、一瞬で相手側に回る。僕には味方はいないんだね……。

 

「あ!それと、敬語もいらない〜!」

 

赤城さんが楽しそうに言う。まあそれぐらいならいい。いいのだが、名前で呼ぶというのはやめていただききたい。主に僕の精神などの何かがおかしくなるからね。

 

でも、反論すれば黒歴史が………。

 

悩んだ末、僕が出した結論は、

 

「分かったよみりあちゃん」

 

提案を呑むだった。黒歴史は早めに封印して、記憶の奥底に放り投げておくほうがいい。

 

「うん!」

 

僕が呼ぶと、満開の笑顔で答える赤城さん、もといみりあちゃん。うーん、この笑顔が見られるなら抵抗を捨てた甲斐があったってもんだよ。

 

その笑顔に癒されていると、周りから六人の視線を感じる。恐る恐る見ると、そこには期待するかのような目で見る六人の姿があった。

 

………僕にどうしろと?

 

 

 

この後、他の六人を名前で呼ぶまで開放されなかったのはまた別の話。

 

「そういやみりあちゃんが聞きたかったことって何だったんだろう……?」

 

 

 

☆♪♡◇

 

 

 

蒼崎弘弥P活動記録④

 

今回の顔合わせは、初っ端から波乱の幕開けだった。

時間通りに集まらなかったり、僕が不審者に見られたりと散々だった。

双葉杏。正直言って全くわからない子だが、これからに期待したい。というより仕事する気になって欲しい。

諸星きらり。長身だが、いいキャラをしており、非常に将来が楽しみな子だ。おそらく、彼女がプロジェクトのムードメーカーの一人になるだろう。

多田李衣菜。ロックと言っているが多分にわかだろう。でも、彼女なりに考えていることがあるのだったらそれに賭けてみたいと思う。

城ヶ崎莉嘉。姉にアイドルになることを言っていなかったことを除けば、元気のいい子である。が、姉の美嘉さんのようになって欲しくはないと思う。主に僕のために。

三村かな子。他の人達よりふくよかだが、それも個性だと思う。性格も温厚で、いい子だ。だが、食べ過ぎには注意して欲しいと思う。

赤城みりあ。この子によって確信した。僕は年下に逆らえないらしい。まあそれはいいとして、最年少なりにしっかりしており、あまり心配する必要はなさそうだ。

あと欠員である三人さえ揃えば、このプロジェクトは始動する。それまでに仕事に慣れ、プロデューサーらしくなっておかなくては。

 

 




次回からアニメ1話には入っていければいきたいと思います。

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