平凡な僕がプロデューサーになりました   作:夜明けの月

18 / 19
……………中間試験前日に何やってんだろう僕は。



臆病な少女は少しだけ殻を破り、平凡な青年は疲れ果てるそうです。

ニュージェネ、ラブライカのCDデビューから一週間が経った。

僕はあれからいつも通りに職務を全うしている。といっても資料作りやら入力作業やらのデスクワークだけなんだけどね。正直言ってほとんど何もない感じです。

CDデビューの時は荒れていたはずの未央達もレッスンに励み、それに触発されるかのように他のメンバーも相当努力しているらしい。

 

そして僕が主な主導者となって進めるプロジェクト・エヴォルヴは未だ活動の目処は立っていない。上層の方々が判断するに、まずは個人のレベルアップが必要ということだ。

単純に言うなら、個人スキルを上げるまではデビューなんて出来やしない、ということだろう。

 

「はぁ………」

 

僕はため息をつき眉間を抑える。

少し疲れが溜まってきたかな?と疑問に思うが、首を振ってその考えを振り切る。

 

彼女達は来るべき日のために努力しているのだ。ならば、僕のすべきことは一体なんなのだろうか。

簡単なことだ。彼女達が万全の状態でステージに立てるように心のケアなどをしっかりするなどの裏で支えていくことだ。

 

よし、と僕は意気込み、パソコンに向かう。

本日のお仕事も、いつも通りで何よりだ。

 

 

 

☆♪♡♢

 

 

 

信堂 凪side

 

 

どうも皆様、私は信堂凪と言う者です。私は先日、以前からの夢であったアイドルのオーディションを受け、それになぜか受かりました。

その時の審査員が、私のプロデューサーの蒼崎弘弥さんです。

あの方は私が小心者で臆病であがり症なのに全く臆せず、手を差し伸べてきました。その手をつかんだのは私自身ですが、私はその行動が果たして正しかったかどうか、未だ見当がつきません。

そもそも、私なんかが本当にアイドルなんかにーーーー

 

「おい、信堂!動きが鈍ってきてるぞ!テンポを合わせろ!」

 

「は、はいぃぃ……」

 

よそ事を考えていたら、トレーナーさんに怒られました。

………これからは、考え事する時はTPOをわきまえることにしましょう。

 

 

それから数十分後、レッスンは終了しました。私は床に寝そべって荒い息を吐いていました。

 

「信堂さん、大丈夫……?」

 

突然、目の前に揺れるツインテールと顔が現れました。確か、レッスン前に自己紹介した時に私と同じように上がっていた………そう、

 

「お、緒方……さん……?」

 

「あ、え、うん………、大丈夫?」

 

「あっ、は、はい!これぐらいならぁぁ…………」

 

とりあえず大丈夫だと示そうと勢いよく立ち上がろうとしますが、若いはずなのに足腰にガタがきていて、よろめき、床に顔面ダイブします。

ガンッというなんとも酷い音に相応した痛みが襲ってきます。正直言って泣きたいです。

 

「だ、大丈夫……!?」

 

「はい……平気です」

 

私はなんとカッコ悪いという気持ちと痛みからかくる涙を抑えつつ、とりあえず起き上がります。

ですが、すぐに立てるようになるわけでもなく、立ち上がれずにそのまま座り込んでしまいます。

 

「あはは………、私のことはいいので、緒方さんは着替えに行ってください。私は後で少し回復したら行きますから」

 

「だ、ダメだよ!一人だったらまたさっきみたいに」

 

「そうならないように十分回復してから動きます」

 

「でも、ダメ。だって、信堂さんはもう私たちの仲間なんだよ?仲間なら助け合わないと……って誰かが言ってました」

 

自分の主張なのに他人が言ったことにする小心ぶり、私と何か似ているような気がします。同じ穴の狢とはこういうことを言うのでしょうか。

 

「………では、お言葉に甘えます」

 

私はふぅと息を吐き、私は脱力します。緒方さんは私の隣に座ってきました。

 

「………なんかね、信堂さんを見てると私みたいに思えてきて。つい、助けたくなっちゃったの」

 

「え?」

 

「え、ええっと……だから、ね………私と友達になって欲しいなぁって……」

 

最後の方は小さくて聞き取りづらかったのですが、かろうじて聞こえました。

私の人生の中、「友達になって」など一度たりとも言われたことはありませんでした。

 

 

中学の入学式の日、私は隣に座っていた女の子に話しかけました。なんとか会話は出来て、私は友達だと思ってました。

でも、それは単なる決めつけでした。

後日、私はその子に話しかけました。その子は数人の女の子たちに囲まれて楽しく談笑しているところでした。そのグループの一人が、その子友達?と聞くと、私が話しかけた女の子は、微笑みながらこう言いました。

 

『違う違う。誰がこんな奴の友達になるのよ』

 

それを聞いた途端、私の中で何かが崩れ去りました。今まで抑えていた何かが溢れてきて、それを制御できず呑まれました。

それからは……ご想像通りの生活でした。

 

 

そんなことを思い出しているとふいに頬をツーっと何かが伝っていきます。

 

「し、信堂さん、どうして泣いてるの……?」

 

「えっ!?あ、いえ、なんでもありません、気にしないでください」

 

私は頬を拭い、目元を裾でこすります。

 

「あの……そんなに、嫌だった……?」

 

すると緒方さんが今にも泣き出しそうな表情でこちらを見てきます。

嫌?滅相も無いです。というより話しかけてくれてるだけで土下座して感謝の言葉を連ねることすらしますよ私は。

 

私は、今出来る精一杯の笑顔で緒方さんに告げました。一握りあるかわからない勇気を振り絞って。

 

 

「じゃ、じゃあ……よろしくお願いします、智絵里ちゃん!」

 

 

信堂 凪side out

 

 

 

☆♪♡♢

 

 

 

「…………もう駄目だ、おしまいだ」

 

呆然と天井を眺めながら僕はそう呟いた。

なぜ、そうなっているのか。理由は三つあった。

 

一つ、武内さんが途中乱入してきて「蒼崎さんが担当する企画が来ました。その草案をお願いします」と白紙の企画書を置いて、詳細はなんの説明もなしに出て行ったこと。

 

白紙で説明なしなのはいささかどうかと思ったが、武内さんもどこか急いでいるような感じがあったし、説明ならちひろさんに聞くのでもいいし後で武内さんに聞くのでもいい。というか基本的に後回しにしてもいいのだろう、多分。

 

二つ、いきなりのレッスンへの強制参加決定。

 

どうしてそうなった、と言いたい。だってそうでしょう。

僕ってプロデューサーのはずですよね?なのになんでレッスンするんだろう……。

でも、了承しちゃったしなぁ……。引き下がることはできないな、こればっかりは。

 

そして三つ、デスクワーク途中に妹から「前の貸しの件、今週末デートね」というラブコール。

 

まさかの週末。しかも今週末は何もなくゆっくり眠れると思っていた矢先にこれだ。疲れない訳がない。

しかも金額は全部僕持ちらしい。…………まあいいけどね。

 

そんなこんなで、現在僕のライフは0を通り越してマイナスです。地面を0とするならマントルあたりまで陥没することになります。

 

はぁ、と溜息をつき時刻を確認する。掛け時計に記されていたのは5時半。そこまで遅くないことに驚きつつも机の上を片付けていく。

 

机が綺麗になったところで今日の業務は終わり、と決めて僕は散らかっている机の上を片付けていくのだった。

 

 

 

☆♪♡♢

 

 

 

蒼崎弘弥P一言報告

 

『企画書+謎のレッスン参加通告+デート(妹と)=心の疲労(大)+残り体力0』

 

 

 




……オリジナル話ばっかりで話が進んでません。本当すみません。
とりあえず、オリ話を二話ほど挟みますのでご了承を。


追記
11/2(木)に修正と19話削除しました。
次の予定は変わりなく、オリジナル話を2話挟みます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。