平凡な僕がプロデューサーになりました   作:夜明けの月

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まさか一ヶ月も放置しまうとは……。
すみませんでした。
では、本編どうぞ。


頑張りすぎには注意が必要です。

どうも、女性にはどうも生涯勝てそうにないと自負している蒼崎弘弥です。本当どうしてこうなったんだろうね……。

 

そう思う僕ですが、今は平穏な時を過ごしております。机に向かいながら、気分転換にと思って買った紅茶を飲みつつ過ごす昼下がり。これ以上の平和がないと思う。大学では友人に弄られ、事務所にあの子達がいれば………まあうん、言い方を変えれば賑やかなのだが。

 

僕も少しぐらいは静かに過ごしたい時があるのだ。かといって、仕事が捗っているかというとそういうわけでもなく、

 

「はぁ………全然進まない」

 

ということで、本日一文字たりとも文字を入力しておりません。なぜか今日は頭痛や目眩がして体がだるい。何か温かいものを飲んで少し休憩すればどうにかなると思っていたけど、少しマシになったぐらいだ。

 

今日は家で休めば良かっただろうか?いやでも今は頑張らなくては。

 

先日武内さんから聞いた話によると、美嘉さんから卯月、凛、未央の三人を貸してほしいと言われたらしい。次のライブのバックダンサーとして起用したいらしい。

 

そのため、その三人は美嘉さんと今日もレッスン中である。他のみんなはその見学といったところだ。

 

僕としては、三人に限ったことではないが、他のみんなが頑張っているというのに休むのはどうかと思うわけだが、どうも体が言うことを聞かない。今でも気を抜けば倒れそうなくらいだ。

 

「風邪、だろうな多分……」

 

と呟きながらだるい体を無理やり動かす。今日は今入力している資料が終わったら帰ろう。このままだとみんなに迷惑をかけてしまう可能性がある。

 

そう思った矢先、視界が揺らぐ。ヤバイと思った瞬間には時すでに遅し、机に突っ伏してくれればいいものを体が横に傾き、床に倒れ伏す。

 

頭がボーッとする。今までにないくらいに視界がぼやける。立とうとするが、まあ立てるわけもなく腕を動かすだけでも精一杯である。

 

鞭を打ってきた身体が限界を迎えたのか、僕の意識は自らの意思に関係なく、暗闇へと消えていった。

 

 

 

☆♪♡♢

 

 

 

side 神崎蘭子

 

我はーーーじゃなかった。私は神崎蘭子です。さっきまで卯月ちゃん達のレッスンを見ていましたが、自分が情けなくなって出てきました。

 

卯月ちゃん、凛ちゃん、未央ちゃんの三人は私達より遅く来たのに生き生きしていて、私の遥か先を走っているように思えました。城ヶ崎さんに選ばれなかったみんなも、それを見て自分も頑張ろうとしていて、なんというか置いていかれている気がしました。

 

自分にはあんなことはできない、身の丈に合ってない、などいらない考えが浮かんでくるんです。その度に自信をなくしていって……。

 

「こんな時、プロデューサーさんならなんて言ってくれるかな……」

 

武内さんは頑張りましょうと言いそうだけど、蒼崎さんは……何言ってくれるのかな。

 

あの人は何故か私の中二口調(あの口調)の時の言葉もわかってくれるし、妙に私達を気遣って元気付けてくれる。あの人は何を考えてそうしているのか、いつもそう思うけど口にはできない。

 

そんなことを思っていると、私はいつの間にかプロジェクトルームの前にいた。プロデューサーいるかな……?

 

「し、失礼しまーす………」

 

中はしんと静まり返っており、物音一つしていなかった。蒼崎さんがいる時は微かにパソコンのキーボードを打つ音が聞こえてくるはずなのだけれど、聞こえないということはいないの、かな……?

 

そんなことを思いながら併設されている執務室のドアの前に立つ。いつもは勝手に入るなと言われているけれど、大丈夫、だよね。

 

そーっとドアを開いて中を確かめると誰もいない、けどパソコンの電源は付いているし椅子も倒れている。何があったんだろう……。乱闘、は蒼崎さんの事だからないよね。

 

ふと、荒い息づかいが聞こえてきた。誰もいないはずなのに………もしかしてーーーーーー幽霊っ!?こんな真昼に!?

 

恐る恐る音がする方を見ると、そこにはスーツを着た特に特徴がない人が横たわってーーーーーって、

 

「あ、蒼崎さん!?」

 

そこには苦しそうな表情の蒼崎さんでした。健康的ではなくひどく赤くなった顔、苦しそうにしかめている眉、それを見るだけで蒼崎さんの今の状態が良くない事はわかる。近寄って額を触ると、物凄い熱だった。風邪だということはすぐに分かった。でも、どうしよう。

 

誰かに伝えられたらいいのだけど、携帯はいつもの服に入れたままでジャージのポケットに入れてこなかったし、このまま放っておくのは絶対に良くないし………ああもうどうしたら……!

 

「と、とりあえず寝かせないと……!」

 

私は急いで行動に移した。

 

 

 

side 神崎蘭子 out

 

 

 

☆♪♡♢

 

 

 

後頭部に感じた柔らかい何かによって僕の意識は覚醒した。確か、さっきまで執務室でデスクワークをしていて、そこから……そうだ、倒れたんだった。

 

それにしたって後頭部に柔らかい何かがあるのは間違っているような気がする。あるとしても硬く冷たい床だろう。ならこの感覚はなんなのか、それを確かめるために重く閉じた瞼を開ける。

 

そこに見えたのは、天井と銀髪ツインテールのジャージを着た蘭子だった。

 

「目醒めたか『瞳』の持ち主よ」

 

「らん、こか……?何して…………ッ!」

 

起き上がろうとしたところで凄まじい頭痛が襲う。こんな酷い風邪は初めてだ。それに上半身を起こそうとするけど、それさえも満足にできない。

 

「ね、寝ていろ『瞳』の持ち主よ!まだ時ではないぞ!」

 

「で、も……」

 

「ふっ、私はそんなことには屈しはしない。そんな脆弱な魂はこの身に宿していないっ!」

 

「ん………じゃあ、ごめん」

 

頭痛と同時に襲ってくる気だるさが考えることを放棄させる。どうも脳が全く働かない。そのため、蘭子が言ったことを鵜呑みにしてしまう。

 

「蘭子……どうしてここに?」

 

「ふぇ!?いや、その……」

 

「別に、中二口調じゃなくてもいい、ぞ。それで話されると、多分今じゃ理解できないから」

 

いつもなら分かった蘭子語が分かるのだけれど、この状態ではほとんど理解できない。さっきの言葉で分かったの【『瞳』の持ち主】ぐらいだ。

 

「う………うん………」

 

「で、何が、あった?」

 

僕が聞くと、暗い表情になり目を潤ませる。確か、この時間はレッスンだったような気が。それに、蘭子の服装ジャージだし。

 

これらを視野に入れて考察すると、脳が正常に機能していない僕でもわかる。途中で抜けてきた、それで大方あっているだろう。

 

「………自身が、ないんです」

 

「え……?」

 

「レッスンしてる卯月ちゃん達を見ていると、何も目標がなくて頑張る理由すら見つからない私なんかがいていいのかなって………」

 

ああ、なるほど。そういうことか。あの三人は、先輩アイドルに選出されてその挙句レッスン風景に圧倒され、あんな風になれるか、そして、そんな風に思っている自分が情けなく、同じように並んで立っていていいのか。そう思ってしまったのだろう。

 

「ちょ、プロデューサーさん!?」

 

僕は無理やり起き上がりソファーに座りなおし、蘭子を見る。不安からか目には涙がたまっている。……多分僕を心配しているところもあるかもしれないけど。

 

頭を襲う痛みを振り払い、脳を無理やり働かせて言葉を紡ぐ。

 

「確かに、今は何の目標がなくて頑張る理由がなくて情けなく思う時があるかもしれない。でもね、そう思うのは仕方がないことなんだよ」

 

「仕方が、ない……?」

 

「人は他人を見て自分とどっちが優れているか、なんて勝手に決めつける。まあ例外もいるけどね。まさに今の蘭子の状態さ」

 

僕の言うことに一理あるのか、真剣に聞き入っている蘭子。とりあえず僕はそのまま続ける。

 

「それは少なからず蘭子だけが思っていることじゃない。他の選ばれなかったみんなも思っているよ。『何で自分が選ばれなかったのか、どうしてあの子達なのか』って。僕もその立場なら絶対に思ってるだろうし」

 

「みんな、も?」

 

「そう、みんなも。レッスン室に残っている子達はそれを受け止めた上でレッスン風景を見ている、と僕は思う。というか思いたい。まあ、受け止められないというのが真実なんだけどね。だからといって、焦らなくていいんだ。目標は頑張りながら見つければいい。頑張る理由なんて今はいらない。がむしゃらに頑張ればいいんだ。そうしていれば、見えてくるよ。確証はないけどね」

 

苦笑いしながら言う。蘭子は思うところあったのか、呆気にとられた感じで呆然としている。うーん、そんな表情になること言ったかな?

 

「承諾し……いや、分かりました!とりあえず、頑張ってみます!」

 

「うん。それと、キャラは保った方がいいよ。けど、僕の前では中二キャラじゃなくてもいいからね」

 

「うっ……承諾」

 

って言ったそばから中二キャラに戻ってません?まあこの際そんなことはいいか。そう安堵していると、先ほどまで感じなかった頭痛が一気に襲ってくる。堪えきれずに頭を押さえると心配そうに蘭子が声を上げる。

 

「だ、大丈夫ですか……?」

 

「あ、うん。多分少し横になれば大丈夫、なはず………。だから、今からでも遅くないからレッスンに戻ったら?時間はまだあっただろうし」

 

「………………………………はい」

 

ものすごく間が長いなぁ……。多分僕のことを心配してくれているからなんだろうけど、流石に二十歳になってまで年下に心配されるような男ではない。

 

渋々了承した蘭子は、所々こっちを振り返りながらプロジェクトルームを出て行った。僕は重い足取りで執務室まで毛布(プロダクションに泊まり用)を取りに行き、部屋の中心近くにあるソファーに横たわる。疲労と熱による気だるさが有頂天を迎えたのか、横になった途端すぐさま睡魔が襲ってきた。

 

そのまま僕は、本日二度目になるが意識を手放した。

 

 

 

☆♪♡♢

 

 

 

卯月達はレッスンを終え、プロジェクトルームに戻っているところだった。

 

「蘭子ちゃん、顔怖いよ?」

 

「え……っ!?」

 

各々会話を交わしていたのだが、俯いていた蘭子にみりあが心配そうに見上げる。その言葉を聞いた他のメンバーも蘭子を見る。

 

蘭子は慌てる心を奥に追いやり、平穏を装い決めポーズをとる。

 

「ふっ、そんなことがあるわけにゃいだろう」

 

「………今猫語になったにゃ」

 

「ふぇ!?」

 

「何かあったの?」

 

全員蘭子を心配するが、心配無用といった風に胸を張る。

 

「さ、先程のは我の前世の過ちである。故にこの現世に因果に関係などない!」

 

「う、うん、大丈夫ならいいけど……」

 

「無理はしないでよ?」

 

「う、うむ」

 

そう話しているうちに一行はプロジェクトルームの前まで来ていた。蘭子は、レッスンを抜け出していた時のことを思い出してギョッとするが、それを知らない他のメンバーは何の躊躇いもなくドアを開ける。

 

蘭子はもう起きているだろうかと思うが、部屋の中からは何も聞こえてこなかった。ということはなく、静かな寝息だけが聞こえてきた。

 

「……誰か寝てるのかな?」

 

美波は疑問符を浮かべながら呟く。蘭子は寝かせたはずのソファーを確認するために早足で部屋に入る。

 

ソファーには部屋を出る前みたいに青白くなく、血色のいい顔色をした弘弥が寝ていた。気持ちよさそうに寝息を立てているのを見て、蘭子は安堵のため息を吐く。

 

「ん?プロデューサーさん寝ているんですか?」

 

「わーお、これは気持ちよさそうに寝てるねぇ」

 

「ダー、私も、眠たくなってきました」

 

「なんか安堵のため息ついてたけど、蘭子は何か知ってるの?」

 

勘のいい凛は気付いたのか、何か知っていそうな蘭子に問う。蘭子はレッスンを抜け出した後のことを話した。執務室で弘弥が高熱を出して倒れていたこと、それをソファーに寝かせていたことを。

 

「うぇ〜!?Pチャン風邪ひいてたにょ〜!?」

 

「まあ、二徹三徹を余裕な顔でするような人だからね。仕方ないんじゃない?」

 

きらりのようにとは言わなくても杏以外は驚くが、杏は眠そうな顔で平然に言ってのけた。

 

「に、二徹……?」

 

「二日徹夜のこと。目の下のクマを見る限り、プロデューサーろくに寝てなかったんじゃない?ね、プロデューサー」

 

「…………なんだ、気づいてたのか」

 

弘弥は杏に指摘され、気まずそうに上半身を起こす。蘭子は目を向いて驚き、声を荒げて弘弥に問いかける。

 

「プ、プロ……『瞳』を持ち主、もう平気なのか!?」

 

「まあ、なんとかね。流石に平均睡眠時間減らしすぎたかな……」

 

弘弥はバツが悪そうに頭を掻く。未央は気になったのか、

 

「して、その平均睡眠時間は?」

 

「……………三時間ぐらい?」

 

『さ、三時間!?』

 

弘弥の言葉にその場の全員が声を上げて驚く。社会人の睡眠時間は、通常ならば六〜七時間が妥当だろう。だが、弘弥は学生にもかかわらずその三、四時間も少ないのだ。驚くのも無理はない。

 

「まあ大丈夫だって。さて仕事仕事ーーー」

 

『寝ろっ!!』

 

シンデレラプロジェクトのアイドル達がこれまでにないといった風に声をそろえて叫ぶ。弘弥は聞こえないふりをして執務室へと足を進めるが、凛、アナスタシア、みりあ、李衣菜が制止する。

 

「行かせないよ」

 

「ダー!ムリ、ダメです!」

 

「プロデューサー、休んでなきゃダメだよ!」

 

「流石にそこで無理するってのはあんまりロックじゃないよね」

 

相手が女子なため、無理やり引き剥がすことは憚られ、身動きが取れなくなる弘弥。

 

そんな弘弥に美波とみくは執務室にあった弘弥の荷物を突き出す。

 

「今日は帰って休んでください」

 

「適度な休息も大事にゃ」

 

「えー……」

 

あからさまに嫌な顔をすると、弘弥の前に智絵里が携帯電話の画面を弘弥に見えるように前に差し出す。

 

「えっと……花梨ちゃんに迎え頼んでありますから、大丈夫です、よね」

 

「一番大丈夫じゃない人に連絡しちゃってるじゃないか!ということはすぐに「お兄ちゃん!!」うわぁ……早い事雷光の如きだね………」

 

弘弥の言葉を遮ってプロジェクトルームのドアをバンッと勢いよく開けられる。そこにいるのは茶髪のサイドテールの弘弥の妹、花梨だった。

 

「げっ、花梨!」

 

「げって何よ!迎えに来てあげたんだから」

 

「いやもう熱も下がったし……」

 

「お姉ちゃんとお兄ちゃんも早急に帰ってこいって言ってるの!それに、美那萌(みなも)も泣きじゃくってるんだから早く動く!」

 

「えぇ……」

 

花梨は弘弥の腕を鷲掴み引きずっていく。まだ全快ではないため力が思ったように出ていないのか、なすがままである。

 

「プロデューサーさんには私が伝えておきますから!」

 

「ちゃんと直してくださいね〜」

 

「や、闇に飲まれよ!」

 

アイドル達に見送られながら、弘弥は実の妹に引きずられながらプロジェクトルームを退出した。

 

 

 

この後、帰宅後に花梨によって強制的に(物理的に)眠らされたのは別の話。

 

 

 

☆♪♡♢

 

 

 

蒼崎弘弥P活動報告⑦

 

妹は……強し…………ガクッ

 

 

 

 


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