蒼穹のファフナー~ファフナーに選ばれなかった男の戦い~   作:naomi

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第六十四話「追憶:去る者」

「『L計画』本当に実行するんですね司令」

 

霧島叶は皆城公蔵と面会をしていた。

 

「叶くんか。まだ迎撃体制の整っていない今の竜宮島を敵に見つけられてはいかんのだよ。それを防ぐのに今出来る最も有効な手段として承認した」

 

「このような計画本当に成功するとお思いですか」

 

「…立案者である生駒は自分を含めた全ての作戦参加者が生きて帰れるプランを提唱している。だから私も許可をしたんだ」

 

「その生駒さんも亡くなられたんです。今一度作戦の変更をした方がよろしいのではないですか」

 

「今の我々ではこれが限界なのだ。君にその代替案があるのかね叶くん」

 

「…それは」

 

「そういうことなのだよ。今の我々には『どの地獄へ進むのか』という道しかないのだ」

 

刻一刻と迫るその日を阻止しようと、叶は走り回った。

 

「なぁ真壁さん。あんたからも司令へ提言してくれよ、こんな作戦間違ってるって」

 

「…最終的な決定権は皆城にある。その決定を成功させる為に動くのが今の俺の仕事だ」

 

「遠見先生。どうにかならないかね、『ティターン・モデル』の激しい同化現象に耐えられるパイロットがいないって報告すればこの作戦しなくて済むんじゃないか」

 

「叶さんお気持ちは察しますが、選抜されたパイロットは皆、問題無く『ティターン・モデル』に乗れるパイロット達です。データ上も問題ありません。彼らの無事を祈りましょう…」

 

「そんな…」

 

遠見千鶴と面会を終え部屋を出ると

 

「おばさん具合でも悪いんですか」

 

「僚か…。いや私は元気だぞ、お前は」

 

「最近調子がいいんです。…やっと皆の役に立てるって決まってから」

 

将陵僚は叶の反対する『L計画』に参加するファフナーパイロットであった。

 

「さっき、亮介に会ったんですよ『先にあっちで待ってる』って言ったら『俺もすぐにそっちに行くからな』って」

 

「あのバカ息子は」

 

「なんか安心しました。亮介はこの島に居続けてくれるんだなって。あいつがもしこの世界の真実を知ってたらこの計画に参加することになりそうな気がしてたんで」

 

「…」

 

「俺あいつに凄く感謝してるんです。学校になかなか行けない俺の為にあいつは居場所を作ってくれた」

 

「生徒会長か…いやじゃないのか」

 

「いやではないです。向いてるとも思えませんが、でも生徒会長って肩書きのお陰で俺は皆に存在を認めてもらえているって思うんです。だから今度は俺があいつの居場所を守る番だなって」

 

「行かない選択肢もあるんだぞ」

 

「さっきも言ったでしょ。ようやく皆の役に立てるんです。どんな運命でも俺は行きますよ」

 

「そっか…」

 

「俺としてはもう1人ここに残ってほしいやつがいたんですけどね、結局彼女の意思を変えられませんでした」

 

「…お前らだけにそんな過酷な運命を背負わせわしないさ」

 

「おばさん…」

 

『L計画』発動前日。叶は再び皆城公蔵のもとを訪れた。

 

「計画への参加志願とは、何かあったのかね叶君」

 

「あの子達だけにこんな過酷な運命を背負わせたくないんです。だから私があの子達が生き残る為の精一杯のサポートをします」

 

「君の任務は『フェストゥムの実態解明』だ。わざわざ島を出ることもなかろう」

 

「直接触れ、感じないことにはいつまでもフェストゥムのことはわからないと私は思います。そして解明が進めばすぐにあの子達へ反映することも出来ます」

 

「…いいのかね。君が指摘していた通り。この計画は極めて危険な作戦となる」

 

「構いません。私があの子達を生還させます」

 

参加志願を終えて叶はすぐに椎名家を訪れた。

 

「叶ちゃん。どうしたのこんな時間に」

 

「私、明日行くから。亮介のことよろしく頼みます」

 

「行くってまさか…。そんな、残させた亮介くんはどうするの」

 

「だから頼みに来たの」

 

「計画事態に反対だったお前が急遽参加を決めるとは、何かあったのか叶」

 

「じじい…別になんもないよ。計画実行が決まった以上、私は1人でも多くのやつが生還するために手伝いたいって思っただけだ」

 

「…何に焦っている」

 

「焦る。私が」

 

「そんな綺麗事を並べてまで覆い隠す本音。お前の言葉の節々から滲み出ている」

 

「なんも…ねぇよ。これは私が果たさなきゃならない責任。ただ…それだけだ」

 

「…亮介は預かる」

 

「お父さん」

 

「必ず。連れて帰ってこい」

 

「当然だ。じじい…ありがとうな」

 

『L計画』発動当日。

 

「急な出張って大変だね。母さんしかも1ヶ月は帰って来れないって」

 

「悪いな亮介。恵の両親に困ったことがあったら頼れ、話しはつけてあるから」

 

「わかった。気をつけてな母さん」

 

「あぁ…必ず帰る」

 

「どうしたの母さん」

 

「なんもねーよ。じゃあ行ってくる」

 

『L計画』にて叶は襲撃してきたフェストゥムの残骸から破片を採取し研究、成果をLボートに反映させることを主に、医療、メンタルケア、作戦立案あらゆる作業に従事した。

 

「特に問題無し、お疲れさん。戻っていいぞ」

 

「ありがとうございます。叶さん」

 

「この計画の責任者任されてるお前の方が大変だからな。これくらいなんともないさ早乙女」

 

「私は任務を全う出来ているのでしょうか」

 

「早乙女。お前は十分任務を勤めているぞこの島の命と竜宮島の想いをお前はしっかりと背負ってここまでやれてる。弱気になるな。むしろすまない。若いお前達にこんな過酷な任務を任せてしまって」

 

「叶さん。なにか思い詰めてませんか」

 

「…なんだよ急に」

 

「私の勘違いならいいのですが、その…死に急いでいるように見えるんです」

 

「んなことねーよ。皆を無事に島に返すために私のやることは一杯あるから慌ただしくみえるだけだろ、きっと。問題ないからよ、さぁ戻った戻った。敵は直ぐに学習して私らを襲って来るぞ」

 

「そうですね。失礼しました」

 

作戦が進むにつれ閉鎖されていたLボートのブロックが開放されて行く、計画参加者の旅立ちと共に…

 

「霧島さん。同化現象末期の二人が」

 

急ぎメディカルルームに向かう叶、既に1人は緑色の結晶となりバラバラに砕けていた。

 

「早苗。弟がお前の帰りを待ってるんだろ、逝くな」

 

「霧島さん危険です。離れて」

 

もう1人も叶の叫びも虚しくバラバラに砕けた。

 

「…私は結局。誰も守れないのかよ」

 

重苦しい空気に日々包まれる艦内。残されたパイロット同士が喧嘩をするのを目撃した。

 

「なんでこんなこと書いた。言え」

 

「やめて。もうやめてよ」

 

叶はそれをどうすることも出来ず見守るしか無かった。

 

 

作戦時間のタイムリミットが近づいた頃、Lボート最後のブロックが開放され脱出挺が用意された。

 

(ここまで生き延びた。帰ろう島へ…償いはまた別の機会だ)

 

「フェストゥム襲来」

 

「やはり来たか、これが最後の出撃だ…二人共頼んだ」

 

「はい」

 

(僚…祐未…。死ぬなよ)

 

「よし、彼らが敵を誘導してくれている間に行くぞ」

 

「迎えに来てますかね竜宮島は」

 

「…」

 

「あたりめーだろ、島の人達を信じて私らは進めばいいんだよ」

 

「叶さん。そうだ我々は信じて進もう」

 

「Lボートのフェンリルを確認。2機の『ティターン・モデル』も無事です。」

 

(二人ともよくやった。よくやったぞ)

 

「そんな…バカな」

 

「どうした」

 

「脱出挺の航路にフェストゥムです」

 

「そんなバカな、フェストゥムは海の中では動けないはずだろ」

 

「学習したってことだろ、フェストゥムが」

 

「叶さん…彼らのファフナーは」

 

「後方から接近していますが、間に合いません」

 

(すまない皆。結局私は何の役にも立てなかった。亮介お前は幸せに生きろ)

 

脱出挺はフェストゥムにより破壊され、残ったファフナー2機もフェンリルを使用し結果。誰一人竜宮島に辿り着いた者はいなかった。

 


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